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オウム、911、そして領土問題 この国はまた同じ過ちを繰り返すのか
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投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 24 日 02:35:43: cT5Wxjlo3Xe3.
 

【第59回】 2012年10月24日 森 達也 [テレビディレクター、映画監督、作家]
オウム、911、そして領土問題
この国はまた同じ過ちを繰り返すのか

事件や事故は必ず風化する

 大きな事件や事故があってしばらくが過ぎた頃、風化させてはならないとのフレーズをよく耳にする。気持ちはよくわかる。でもそれは無理だ。あらゆることは風化する。それは当たり前のこと。ものは壊れるし人は死ぬ。事件や事故の直後には決して消えないと思われた悲しみや怒りは、年月の経過とともに薄くなる。人はそのようにできている。

 もしも忘却という機能がなければ、人は正常な意識状態を保てなくなるはずだ。悲嘆や苦痛、屈辱や憎悪などがいつまでも乾かないままに堆積し続けるならば、人の意識の床はその重さに耐えられない。おそらくは数年(数ヵ月かもしれない)で底が抜ける。つまり壊れる。

 だから風化は仕方がない。しなければ困る。

 問題はどのように風化させるかであり、どのように残す(記憶)するかだ。例えばオウム。地下鉄サリン事件からはもう17年が過ぎた。事件翌年に生まれた長男はすでに高校生だ。これほどの時間が過ぎている。ならば風化することは当然だ。

 でもこのままの形で風化すべきではない。なぜなら彼らがサリンを撒いた(不特定多数を殺傷しようとした)理由を、この社会はまだ解明できていない。つまり動機がわからない。しかも解明できていないとの意識を、ほとんどの人は持っていない。彼らが狂暴で凶悪だからとか、麻原から洗脳やマインドコントロールされていたからなどの浅いレトリックによって、何となく納得したような気分になっている。

 確かに実行犯たちが「麻原から指示を受けたからサリンを撒いた」ことは明らかだ。でもならばなぜ、麻原がそのように指示を下したのか、何を狙い何を目的にしていたのか、その理由や背景がわからない。こうして地上に降りてきた人の先祖は、群れて生活することを選択したことで、自分のテリトリーと群れのテリトリーを、ほぼ同一視するようになった。だからこそ土地をめぐっての争いが、個VS個から群れVS群れになった。さらに発明した武器や火薬を使うことで、より大規模に相手を殲滅できるようになった。つまり戦争だ。野生の生きものはそこまでしない。群れと群れが争うことはほとんどないし(チンパンジーなど霊長類には一部例外はあるが)、そもそも火薬や道具は使わない。相手を残らず殲滅することなどありえない。

 だからこそ不安や恐怖は事件後も燻り続け、善悪二元化を進行させながら管理統制社会を現出し、厳罰化を加速させた。不安や恐怖は集団化を促進し、高揚した自衛意識は異物排除や仮想敵への攻撃を整合化する。

 だから僕はオウムにこだわり続ける。オウムそのものに意味があるからではない。彼らは触媒でしかない。それによって社会が変質したからだ。そして今も変質し続けているからだ。

 麻原法廷を典型に、やるべきことを社会はやっていない。それでは教訓どころか副作用しか残らない。こんなふうに引きずり続けるのなら、跡形もなく風化して一切を記憶から消してしまったほうがよほどいい。風化の仕方を間違えている。そうした事例は他にもある。

今年の9月11日は静かに過ぎた

 今年の9月11日は静かに過ぎた。いつのまにか終わっていたという人も少なくないはずだ。でも数年前までのこの日は、駅や空港には何となくぴりぴりと緊迫した雰囲気があったし、警察官や警備員などの数も、日ごろより多く配置されていたはずだ。新聞やテレビなどのメディアでも、「今日で同時多発テロから○年」みたいなフレーズが並び、ほとんどの人は「そうか。あれから○年が過ぎたのか」などと感慨に耽っていたはずだ。

 去年はテロから10年ということで、メディアでも911がらみの番組や記事は散見した。実は僕自身も、NHKの番組の企画でニューヨークに行き、グラウンドゼロを訪ねながら歴史学者のジョン・ダワーや映画監督のモーガン・スバーロックなどと対談したりした。でも今年は静かに過ぎた。メディアの関連記事や番組を目にすることもほとんどない。

 もう一度書くけれど、風化は当たり前だし仕方がない。問題はどのように風化するかだ。言い換えれば、事件や事故をどのように解釈したかだ。なぜならそれが歴史になる。

 だから思いだす。11年前を。そして考える。記憶の仕方を。

 その瞬間に何をしていたか? とは、テロ発生からしばらくのあいだ、よく訊ねられたり訊ねたりしていた質問だ。

 日本は夜だった。僕は家にいた。テレビのニュースを見ていた。突然ニューヨークに映像が切り替わった。真っ青な空と一条の黒煙が立ち上る高層ビル。アナウンサーの表情が険しい。でもこの時点ではまだ、何が起きているかよくわからない。どうやら高層ビルにジェット旅客機が激突したらしいとわかってから十数分後、2機目の旅客機が激突した。

 ただしこの時点でもまだ、これがテロだと明確に認識できた人は(僕も含めて)少なかったと思う。その認識はないけれど、絶対にありえない事態が今、目の前で起きていることだけはわかる。不安だった。怖かった。アメリカには、「一度飛行機が落ちた場所にはもう飛行機は落ちない」という諺があるらしい。大好きな映画『ガープの世界』で、主人公のガープが家を買うときに妻に言う台詞だ。たった十数分のタイムラグで同じ場所(正確にはツインタワービルの北棟と南棟)に旅客機が激突するなど、偶然ではありえない。でもそれが現実に起きている。それもまさしく今この瞬間。事態は現在進行形だ。何かが起きている。とても禍々しい何かが始まっている。

 このときの映像はリアルタイムで、世界中のテレビ受像機に配信された。パソコン画面で見た人も大勢いた。決して起きてはいけないことが目の前で起きている。世界中の人がそんな感覚を共有した。そして2機目の飛行機が激突してから約1時間後、世界貿易センタービルは、まだビルに内にいた多くの人とともに、あっけなく崩壊した。そしてその映像もまた、世界中の人が共有した。おそらくは多くの英語圏の人は画面を眺めながら、オーマイゴッド! と言ったはずだ。

アルカイダはビルの崩壊を予想していたのだろうか

 ずっと思っていることだけど、これほどまで徹底したビルの崩壊を、テロを主導したとされるビンラディンとアルカイダ幹部たちは、果たして予想していたのだろうか。世界中の人々が目の前の光景に呆然としたように、彼らもまた、アフガンかパキスタンの山中にあったアジトでCNNなどを眺めながら、言葉を失うほどに驚愕したのではないだろうか。

 これほどあっさりとビルが崩壊した理由は、ジェット燃料の火災によって生じた高温と、ビルの構造に原因があるらしい。メカニズムとしては相当に緻密で、さらにはいくつもの偶然が重なった現象だ。普通はここまでの破壊を予想できない。だからこそ事件の後に、事件はアメリカ政府の謀略だなどの陰謀史観がはびこった。

 もちろんアルカイダがビルの構造を熟知して衝突後の現象を予測していた可能性も、絶対になかったとは断言できない。可能性はある。でも彼らの情報収集能力などを考慮すれば、その可能性はとても小さかったはずだ。

 ならばアフガニスタンかパキスタンの山中のアジトでテレビ画面を見つめながら、ビルが崩落し始めたその瞬間にビンラディンや幹部たちは、オーマイゴッド! と叫んだかもしれない。

 ……まあこれはシニカルすぎるジョークだけど、でも事態の予想もしなかった進展に、彼らが(世界中の人々と同様に)呆然とした可能性は、とても高いと僕は思っている。

 同時多発テロによって2973人の命を奪われたアメリカは、その後にアフガニスタンとイラクに対して報復攻撃を実行し、タリバンには致命的な打撃を与え、圧倒的な軍事力でフセイン政権を壊滅し、昨年5月にはパキスタンでビンラディンを殺害した。求心力を失ったイラクでは今もテロが相次ぎ、多くの市民が殺戮され続けている。

 結果としてアフガニスタンとイラクで死んだ民間人の数は、数十万人規模といわれている。そもそもイラク戦争で死んだ米兵の数は3000人を超えており、同時多発テロの犠牲者数よりも多いのだ。ならば何のための報復なのか。大義はあったのか。テレビを媒介にして世界中に同時多発テロの衝撃が感染したように、憎悪や報復はさらなる憎悪と報復へと連鎖し、アラブの反米感情が激化すると同時にイスラムやテロへの不安と恐怖も増大した。

 だからこそ911後の世界は、テロ対策と称して管理統制化が進み、セキュリティチェックはどこの国でも過剰になり、善悪二分化を背景にした厳罰化が大きな潮流となった。

 つまり地下鉄サリン事件以後の日本で起きたことが、6年の時差を置いてから世界中に現れた。

アメリカのイラク侵攻を支持した日本がやったこと

 アメリカのイラク侵攻の際には、国連や世界の多くの国は時期尚早であるとして、これに強く反対した。なぜならアメリカが主張するイラクの大量破壊兵器保有の存在については、この時点でまだ、国連の査察は続いていた。確かにイラクは協力的ではなかったが、決して反抗的でもなかった。査察を受け入れることは表明していた。

 だからこの時点でアメリカが単独主義を強行しようとしても、本当に単独であるのなら、強引な侵攻まではできなかったはずだ。フランスやドイツ、ロシア、中国などは、最後まで強硬に反対を表明し続けた。でも結果としてアメリカは国連の承認を得ないまま、イラクへの侵攻を開始した。

 なぜなら単独ではなかったからだ。

 アメリカを支持した国もあった。ただしその数は、すべての国連加盟国のうち10ヵ国だ。僅かではあるけれど、少なくともアメリカは単独ではないとの根拠を与え、その大義を補強した。10ヵ国のうち特に強くアメリカ支持を表明したのは、イラクとは長く敵対関係にあったイスラエル、イギリスとオーストラリア、そして日本だ。

 中でも日本の働きは目覚ましかった。河辺一郎が書いた『日本の外交は国民に何を隠しているのか』(集英社新書)によれば、当時の小泉政権は戦争への支持を表明するだけではなく、安保理非常任理事国だったチリやアンゴラなどいくつかの国に対して、ODA援助を対価にアメリカ支持に同意するように圧力までかけている(結果的には拒絶されているが)。ほとんど剛田武(ジャイアン)と骨川スネ夫の関係だ。

 戦争終結後にブッシュ政権は大量破壊兵器がなかったことを認め、またその後のアメリカのメディアによって、大量破壊兵器がないことを政権は知っていたことも明らかになった。映画『グリーンゾーン』や『フェアゲーム』は、まさしくブッシュ政権による国民への背信行為を問題提起した作品だ。

 ここで少しだけ話は逸れるけれど、こうした反体制的な作品がハリウッドの娯楽映画として当たり前のように制作されることに、アメリカの凄味と本質がある。

 短絡的で手前勝手で自己陶酔的などうしようもない国だけど、復元力は確かにある。それを支えるのは徹底した情報公開と、権力を監視するジャーナリズムへの国民の信頼だ。

 イラク戦争終結後、アメリカを支持した国の多くも過ちを認め、イギリスのブレア政権やオーストラリアのハワード政権は国民の支持を失い、ブレアに至っては退陣してから3年後の2011年に、イラク戦争参戦に関する独立調査委員会の公聴会で証人喚問されて、自らの判断の過ちを認めている。つまり国レベルで過ちを、しっかりと検証しようとしている。どのように風化すべきかを考えている。

でも日本では、誰も過ちを認めない

 でも日本では、そんな動きはまったくない。当時の政権は言うに及ばず、アメリカ支持を主張していた識者や評論家やジャーナリスト、そして多くのメディアも、自らの過ちを自己検証するどころか認めてすらいないし、責任を追及されてもいない。

 何度でも書くけれど、この戦争によって数十万人が死んだ。もしも日本があれほど強い支持を表明しなければ、スネ夫のように根回しをしていなければ、事態は違う展開を迎えていた可能性があるのだ。ならばその責任は大きい。

 アメリカは危機に対して一丸となる。なぜなら多民族多言語多宗教な国民で成り立っているから、自分たちが本質的にユナイテッド(統合)されないことを、意識下では知っている。だからこそ一つになろうと必死になる。統合のシンボルである国旗や国歌にすがる。世界一傲慢なフレーズ「ゴッド・ブレス・アメリカ」を事あるごとに口走る。

 ただし多民族多言語多宗教であるからこそ、一時は一色に染まっても長続きしない。さらに徹底した情報公開とジャーナリズムが事実を明らかにする。開戦前にブッシュ政権を支持したほとんどのアメリカ国内メディアは自らの過ちを認め(FOXテレビジョンのように例外はあるけれど)、自己検証の過程を公開した。必ず復元力が働く。自らを規制しない。徹底して多様なのだ。イラク戦争やアメリカ建国の歴史を他の惑星への侵略として痛烈に暗喩した『アバター』は、前述の極右メディアであるFOXテレビジョンと同じグループの20世紀フォックスの配給だ。

 日本は違う。少なくとも多民族多言語多宗教ではない。でも(あるいはだからこそ)集団への帰属性が高い。同調圧力が強い。自己規制が強い。集団で動こうとする。だから暴走しやすい。一極集中に付和雷同。しかも検証しない。だから反省もしない。なぜこうなったかを考察しないから、復元力が機能しない。行ったら行きっぱなしなのだ。

 特にオウムと3.11を経過したこの国は、まるで9.11直後のアメリカのように、国全体で一つにまとまろうとしている。結集しようとしている。

 こうして風化が進む。後遺症ばかりを残しながら。

 そんなときに領土問題が勃発した。危機を訴える政治家やメディアに煽られながら、やらなければやられるとの自衛意識ばかりが高揚する。ならば攻撃は正義となる。些細なことがきっかけとなって、気がつけば後に引けない事態になっている。

 だから祈る。最悪の事態が起きませんように。僕も含めて多くの人が、事態や経験を重ねながら、少しずつでも賢くなっていますように。
http://diamond.jp/articles/print/26758  

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コメント
 
01. 2012年10月24日 02:57:17 : yy7D5jhcis
これほどあっさりとビルが崩壊した理由は、ジェット燃料の火災によって生じた高温と、ビルの構造に原因があるらしい。メカニズムとしては相当に緻密で、さらにはいくつもの偶然が重なった現象だ。普通はここまでの破壊を予想できない。だからこそ事件の後に、事件はアメリカ政府の謀略だなどの陰謀史観がはびこった。
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あのさあ、ビルを完璧に跡形なく崩壊させるためにはとてつもない専門能力がなきゃできんのよ。制御解体屋が高い料金を請求できるのも、こんなことが偶然には絶対起きないからだ。偶然起こったとしたら数十億分の1もないだろうね。悪いけど。すれにビルの新オーナーは数週間前にテロリズム保険に加入していたのだろいう。古典的な保険金詐欺に見えるよねえ。それで保険会社が四の五の言わずに保険金を払ったというんだから、絶句!とてつもない権力が背後にいることだけは確かだけどね。

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