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第2部 元海上自衛隊指揮官×東京新聞論説委員 プロは知っている 自衛隊のほうが中国海軍より強い 川村純彦×半田滋
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33852
2012年10月22日(月)週刊現代 :現代ビジネス
中国よ、日本が勝つ
■原潜持ってても怖くない
半田 昨年7月1日に中国大使館で共産党創立90周年記念日のレセプションが行われた際、お土産に'09年10月に行われた建国60周年の軍事パレードの模様を、日本語のナレーション付きで収めたDVDが配られたそうです。
それを見た幹部自衛官によると、パレードそのものは統制が取れていて練度も高いとの感想を持ったが、上空を飛ぶ飛行機が一様に古かったというのです。自衛隊のF−15戦闘機は「第四世代機」に分類されますが、DVDに登場する中国の戦闘機はいずれも第三世代機で、飛び方も不安定だった、とのことです。
川村 中国軍の戦力は不透明な部分が多いですが、海自出身の私から見ると、やはり中国はまだ「近代戦を戦えるレベルにはない」ですね。特に、「対潜水艦能力」、つまり敵潜水艦を発見する能力が低く、これは致命的な欠陥です。
30年前の冷戦下で、私は対潜哨戒機のパイロットとして旧ソ連の潜水艦を追跡する任務に就いていましたが、当時はほぼすべての潜水艦を探知できていました。哨戒機は「ソノブイ」という水中の音を拾うマイクロフォン付きのブイを搭載していて、これを目標近くの海面に撒いて相手の動きを探知できる。
しかし中国には、対潜水艦戦の主役となる大型の対潜哨戒機がわずか4機しかないうえ、これまでソノブイを使った訓練をした形跡も見られない。
要は、我々が30年前に行ってきたことさえできていないということです。
半田 艦船もひどいものです。'07年に中国の「深圳」というミサイル駆逐艦が晴海埠頭に寄港したので、自衛官と一緒に見学に行ったのですが、対空ミサイルはフランス製のコピー、短魚雷はアメリカ製のコピーという具合に、いかにも中国らしく、コピー品の寄せ集めでした。対空機関砲も4門あったがすべて手動。自衛隊は20mmのファランクスという全自動、アメリカは「ゴールキーパー」という、30mmの強力な全自動対空機関砲を持っている。そういう最新鋭の装備と比べると、中国のそれは「なんちゃって機関砲」と言ってもいいのではないでしょうか。
川村 艦船と言えば、かつてウクライナから購入した空母「遼寧」(旧名ワリャーグ)が最近、中国海軍に引き渡されました。式典に胡錦濤主席や温家宝首相も出席するほど中国は空母に力を入れているようですが、はっきり言ってこの空母は艦載機を飛ばすことさえ、ままならないでしょう。
米国の空母には、艦載機を加速させるカタパルトという射出機が備えられています。これがあるからこそ、100m足らずの滑走距離で甲板から航空機は飛び立つことができるのですが、遼寧にはその装置がない。
遼寧の場合、300mの飛行甲板の前方をスキー板のように反らせた「スキージャンプ方式」です。少しでも飛行機が上向きに発射できるような設計ですが、これでは燃料や弾薬を満載した30t近い艦載機を、離陸に必要な時速250km以上に加速させることは不可能で、この方式での発艦はまず不可能です。
半田 肝心の艦載機の開発も遅れていますね。中国はロシアのSu(スホイ)−33という機体を元にJ−15という艦載機を作ろうとしています。ウクライナからSu−33の試作機であるT10K−3を入手し、分解してコピーしようとしていますが、エンジンの仕組みがわからない。そこで中国は本物のSu−33を買おうとしたところ、勝手にコピーしようとする姿勢に激怒したロシアが戦闘機を売ってくれないため、開発が足踏み状態になっています。
川村 中国には攻撃型原潜が6隻ありますが、いずれも航行中に発生する雑音が大きいので、すぐに発見されてしまう。艦船の機能も満足ではなく、さらに潜水艦を探知できる能力もない。仮に中国の艦隊が日本に侵攻してきたとしても、日本には22隻の潜水艦がありますから、中国軍に対処することはそう難しいことではないはずです。
半田 そうした戦力的な差は、当然中国も把握しているでしょう。そのうえで、なぜ中国があれほど尖閣を欲しがるのかを理解するには、中国の真の狙いを知っておく必要があります。
一般的には、中国は尖閣付近の海底資源の確保を狙っていると言われますが、それだけではない。
川村 その通りです。中国の本当の狙いは「核抑止力を米国並みに高める」こと。それを達成するために、尖閣が必要なのです。
順を追って説明します。中国はかねてから台湾を支援してきた米国に対抗できる軍事力を持とうとしていましたが、果たせずにいます。そんな中、'96年に中国の面子を潰される決定的な事件が起きます。
半田 いわゆる「台湾海峡危機」ですね。'96年3月に行われた台湾総統選挙において、独立を訴える李登輝総統の再選が有力視された際、これを嫌った中国が軍事演習と称して台湾沖にミサイルを撃ち込んできた。
あわせて中国人民解放軍の熊光楷・副総参謀長は「台湾問題に米国が介入するなら中国は西海岸に核ミサイルを撃つ」と脅しました。
ところが、これに対して米国が2隻の空母やイージス艦を周辺海域に派遣したところ、中国は台湾に手出しできなくなった。
川村 中国はアメリカの核抑止力に完全に屈したわけです。このときもしも米中全面戦争となっていれば、最終的に核攻撃能力が上回る米国に中国は破れていたのは自明ですから。
そしてこの屈辱的な事件の反省から、中国は核抑止力を高めようとするのですが、とりわけ重要視されたのが潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)でした。
核戦力としては大陸間弾道ミサイル(ICBM)や、航空機に核弾頭を積んで爆撃する方法がありますが、これらは相手にたやすく察知されるため、発射前に撃破されてしまう。しかし潜水艦なら深海に潜航するため簡単には発見されないので確実に報復できる。
この考えは旧ソ連と同じです。旧ソ連はオホーツク海に敵対兵力を寄せ付けない聖域とするため、海域の防護を強化し、核ミサイル潜水艦を配備した。これにより、旧ソ連は冷戦崩壊までアメリカと同等の核抑止力を保つことができた。そして中国が聖域としたいのが、南シナ海なのです。
■軍はダメだが宣伝はうまい
半田 中国が南シナ海を「核心的利益」、つまり最も重要な地であると宣言し、同海域にある南沙諸島や西沙諸島を巡って、フィリピンやベトナムと衝突を繰り返すのも、南シナ海を聖域化しようという強い意志があるからですね。
川村 そして聖域化を完成するためには、武力を用いてでも、南シナ海の北方に位置する台湾を中国に統一しなければならないわけですが、ここで障害となるのが米国の存在です。中国が武力で台湾を統一しようとすれば、米国が介入する。では、介入を阻止するためにどうすればいいか考えてみると、米国艦隊の進攻を阻止するには東シナ海を中国のコントロール下に置けばいいという結論に達します。
そこで重要なことは、東シナ海で中国にとって唯一の足がかりとなるのが尖閣諸島だということです。もし、中国が尖閣を奪取すれば、周囲200海里を自国のEEZ(排他的経済水域)に設定し、範囲内に他国の航空機や艦船を寄せ付けなくするでしょう。また、太平洋への出口も獲得できます。つまり尖閣−台湾−南シナ海を巡る中国の一連の行動は、「確実な核抑止力を持つ」という一点に集約されるのです。
半田 その目標のために、海軍力強化に努めてきた結果、中国海軍は兵力約26万人、艦艇数約950隻、戦闘機約350機と、数字の上では米国に次いで世界第2位を誇るに至りました。
前述のとおり、まだ「近代戦」を戦えるレベルにはないですが、この成長には驚くべきものがあります。
川村 私も現状では日本の方が戦力的に優位に立っていると分析しています。ましてや日米安保条約が発動されると想定すれば、その差は歴然となります。たとえばアメリカがマラッカ海峡で対中封鎖をすれば、それだけで中国のシーレーンは大打撃を受け、経済は大混乱に陥るでしょう。
ただ、だからといって中国を侮るのは早計、とも言っておかなければならない。中国は毎年、国防費を前年比2ケタの伸び率で増やしていますから、このままでは遠からず深刻な脅威となるのは間違いありません。
半田 看過できないのは、中国軍がサイバー部隊の能力を高めていることです。
米セキュリティーソフト会社のマカフィーは昨年、過去5年にわたり米政府や国連など72の国や組織に対して行われたサイバー攻撃の背後には「国家」の存在があるとのレポートを発表しました。名指しこそしていませんが、中国のことを指しているのは明らかです。
また、中国の「三戦」も注視すべきでしょうね。
川村 宣伝活動などを通じて自国を優位に見せる「輿論戦」、威嚇することで相手国の国民を萎縮させる「心理戦」、さらに自国の法律を盾に第三国に干渉させない「法律戦」の総称ですね。
半田 アメリカの新聞に「尖閣は中国の領土」などと意見広告を出すことが輿論戦、周辺海域に「海監」や「漁政」といった公船を展開して主権を主張するのが心理戦に当てはまる。そして、これらの行動は中国の国内法に則っていると主張することで法律戦も展開している。
一方の日本側は「粛々と実効支配する」と語るばかりで、何もしていません。
川村 例えば北方領土周辺に日本の船が無断で入れば、ロシアは銃撃することも辞さない。これは、国連海洋法条約の第25条の「沿岸国は、無害でない航行を防止するため、自国の領海内において、必要な措置を取ることができる」という規定に基づき、自国法を整備しているからです。ところが日本では何ら法整備がされておらず、事実上、野放しになっている。「領海に侵入した船にはこう対処する」という明確な法整備を急ぐべきです。
半田 中国では来月、習近平体制が発足しますが、こと尖閣については絶対に諦めないでしょうね。
川村 悲観的にみれば30年、50年というスパンで問題が長引く恐れもあります。
半田 事態を打開するには日本の政治家が中国との強固なパイプを作る必要がありますが、残念ながら民主党政権はこれに失敗した。次の政権が再びこれに失敗するようなら、日中関係は絶望的です。防衛力と同時に、外交力も強化しなければならない、非常に困難な状況にあるということを、認識しなければなりません。
かわむら・すみひこ/'36年、鹿児島県生まれ。'60年に海上自衛隊に入隊し、第5、第4航空群司令などを歴任。退官後はNPO法人岡崎久彦研究所の副理事長などを務める。近著に『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』(小学館)
はんだ・しげる/'55年、栃木県生まれ。下野新聞社を経て'91年中日新聞社に入社。'92年より防衛庁取材を担当。現在東京新聞論説兼編集委員。著書に『ドキュメント 防衛融解』(旬報社)、『「戦地」派遣』(岩波新書)など
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