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中国の仕掛ける心理戦にどう備えるか
■1.中国の仕掛ける「心理戦」
尖閣諸島をめぐる日中間の緊張で、最近、一部識者から「日中両国で島の帰属や共同開発など、平和的に話し合ってはどうか」という主張が聞こえてくる。平和と友好を重んずる日本人には、いかにも心地よく聞こえる主張である。これに関して、元公安調査庁第2部長の菅沼光弘氏はこう指摘する。
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中国側が仕掛けた『情報戦』『心理戦』の一環だろう。日本固有の領土なのに、どうして中国と交渉のテーブルに着く必要があるのか。動じてはならない。毅然として『尖閣は絶対に守る』と言っていればいい。[1]
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沖縄・南西諸島地域の領空を守る航空自衛隊南西航空混成団司令を務めた佐藤守・元空将もこう語る。
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中国の代弁者に聞こえる。2008年に中国人民解放軍の幹部と議論した際、まったく同じことを言っていた。中国の軍事的脅威より、こうした謀略工作が心配だ。民主的手段で尖閣が侵攻されたら、自衛隊にも米軍にも手出しができない。[1]
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中国の侵略は、武力侵攻のはるか以前から、謀略工作による「情報戦」「心理戦」として始まっている。そして、それに負けてしまえば、いつのまにか尖閣諸島は共同管理となり、はては取り上げられてしまうという恐れもある。
■2.「精神−心がくじけたときに、腕力があったとて何の役に立つでしょうか」
心理戦への備えを強く説いているのが、スイス政府が全家庭に配布した『民間防衛』である。同書はスイスが他国からの侵略を受けた際に、国民としてどう行動すべきかを詳細に説いた本である。消火・救援活動のみならず、核・生物・化学兵器からの身の守り方、さらには占領された後のレジスタンス活動まで説いている。
その中でも、心理戦の重要性について「まえがき」でこう説いている。
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一方、戦争は武器だけで行われるものではなくなりました。戦争は心理的なものになりました。作戦実施のずっと以前から行われる陰険で周到な宣伝は、国民の抵抗意思をくじくことができます。
精神−心がくじけたときに、腕力があったとて何の役に立つでしょうか。反対に、全国民が、決意を固めた指導者のまわりに団結したとき、だれが彼らを屈服させることができましょうか。[2,p6]
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相手の抵抗意思を砕き、戦わずして屈服させるのが、心理戦の宣伝工作なのである。
■3.「みずからを守った小国は、その国家的存在を保つ事ができたのである」
「全国民が、決意を固めた指導者のまわりに団結したとき、だれが彼らを屈服させることができましょうか」という一節は、スイスの第2次大戦中の苦闘を知れば、単なる「精神主義」ではないことが分かる。
当時、ドイツがフランスを降伏させ、イタリアもドイツ側に立つと、スイスは枢軸国に囲まれた。ドイツ国内では、一気にスイスを占領して、イタリアとの通商路を確保すべきだ、という声が強まった。
それに対して、スイスはドイツ軍が侵攻したら、イタリアとの間のトンネルや鉄道線路を爆破して、通商路そのものを破壊すると宣言した。ドイツはそういう事態よりは、スイスの中立を尊重して、イタリアとの通商路を確保している方が得だと考えて、スイス侵攻を諦めた。
こうしてスイスは中立を維持できたのだが、それができたのも、当時国民の間にわき上がっていた「同じ民族のドイツ側に立つべし」「バスに乗り遅れるな」という日和見主義を、ギザン将軍のもとで排除し、国民の意思統一を図ったからである。[a]
『民間防衛』では、さらにドイツとソ連の狭間でフィンランドが独立を求めて苦闘した例[2,p233,b]を挙げ、「みずからを守った小国は、その国家的存在を保つ事ができたのである」と主張している。
■4.「美しい仮面をかぶった誘惑のことば」
このような「国民の抵抗意思」を、「作戦実施のずっと以前から行われる陰険で周到な宣伝」で挫(くじく)くことが心理宣伝なのだが、それを『民間防衛』は次のように説明する。
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軍事作戦を開始するずっと前の平和な時代から、敵は、あらゆる手段を使ってわれわれの抵抗力を弱める努力をするだろう。
敵の使う手段としては、陰険巧妙な宣伝でわれわれの心の中に疑惑を植えつける、われわれの分裂をはかる、彼らのイデオロギーでわれわれのこころをとらえようとする、などがある。新聞、ラジオ、テレビはわれわれの強固な志操を崩すことができる。[2,p145]
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その例として、スローガン、ポスターの形で、以下を挙げている。
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敵はわれわれの抵抗意思を挫こうとする
そして美しい仮面をかぶった誘惑のことばを並べる:
「核武装反対
それはスイスにふさわしくない。」
「軍事費削減のためのイニシャティブを
これらに要する巨額の金を、すべてわれわれは、
大衆のための家を建てるために、各人に休暇を与えるために、
未亡人、孤児および不具舎の年金を上げるために、
労働時間を減らすために、税金を安くするために、
使わなければならない。
よりよき未来に賛成!」
「平和のためのキリスト教者たちの大会
汝 殺すなかれ
婦人たちは、とりわけ、戦争に反対する運動を
行わなければならない。」[2,p234]
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■5.「ダブル・スタンダード(二重基準)」
わが国でも、そっくりの心理宣伝が行われてきた。たとえば、「核兵器反対」「戦争反対」、最近では「原発反対」。もちろん、純粋な思想信条としてこれらを主張している人々がほとんどであろう。しかし、その人々の純粋な心情を利用して、わが国の抵抗力、抵抗意思を弱めようとするのが心理宣伝なのである。
純粋な思想信条か、心理宣伝かを見分ける簡単な方法がある。それは「ダブル・スタンダード(二重基準)」になっていないか、とチェックすることである。
たとえば、「核兵器反対」を唱える活動家たちは、アメリカの核兵器だけでなく、ソ連や中国の核兵器にも反対していただろうか。広島の原水禁大会で、「アメリカの核兵器だけでなく、ソ連の核兵器にも反対する必要がある」と述べた学生が、壇上から引きずり下ろされたという事例がある。
同様に「ベトナム戦争反対」とデモをしていた人々は、中国によるベトナム侵攻や、ソ連によるアフガン侵攻にもデモをしただろうか。
最近では「原発反対」のデモが話題になったが、わが国と同様に地震の多い、しかもわが国ほどの安全技術を持たない中国で原発の大建設が行われている事に、反対しているだろうか。
「核兵器反対」「戦争反対」「原発反対」などを、人類普遍の理想として主張するなら、それはすべての国々に公平に向けられなければならない。それがわが国や、同盟国アメリカにのみ向けられ、敵対陣営に向けられていない場合は、わが国の抵抗力、抵抗意思を弱めるための心理宣伝だと考えてよい。
■6.「各人の判断力と完全な責任感を養う」
しかし、このような心理宣伝に対抗するために、政府が言論統制したりしてはならない、と『民間防衛』はたしなめる。思想言論の自由を守ることは、スイスや我が国のような自由主義社会の本質だからだ。
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わが国家は、自由とキリスト教の上に立っている。この両者は、ともに、イデオロギーでもなく、教条的体系でもない。われわれは、入り乱れる精神的闘争の中にあって、われわれの、最上の価値を持つ財産を、見失ってはならない。
したがって、スイスで言う心理的国土防衛とは、教条的訓練ではなく、各人の判断力と完全な責任感を養うことである。[2,p163]
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スイスにとっての「自由」の価値を、同書の「訳者あとがき」では次のように解説している。
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スイスは守るべき価値として、物質的な財産はもちろんのことだが、より基本的には「自由」を根幹とする社会体制を重視している。
ここで「自由」は自分達のよりよき社会を築いていくことができるための不可欠な要素として捉えられている。スイス人がスイスの社会を愛し、それぞれの時代の要求に応じ社会の改善に努めるためには自由な発言が許され、いかなる意見も抑圧されず、自由に政党が結成され、そして自由に政治活動が認められなければならないということである。[2,p317]
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自由は我が国の政治的伝統でもある。中世近世において、世界で欧州と日本においてのみ近代文明が生じたのは、両地域に自由の伝統があったからである。[c]
したがって敵対国からの心理戦を仕掛けられても、政府が言論統制を行っては、我が国の貴重な社会伝統を毀損することになる。
アメリカの核には反対するが、中ソの核にはダンマリという、政治宣伝に対しても、あくまで自由な国民として、一人ひとりがそのダブル・スタンダードを見破り、批判の声を上げなければならない。こうした事ができるよう「各人の判断力と完全な責任感を養う」事が心理戦に対する民間防衛なのである。
■7.心理宣伝の手口を知る
『民間防衛』では、さまざまな種類の心理宣伝を挙げている。その手口を知ることは、心理戦に備える第一歩である。それぞれの手口を、最近の中国の例とともに紹介しよう。
・自国の力を強大だと信じさせ、とうてい敵わないと抵抗を諦めさせる。
「中国経済は日本を抜いた。やがてアメリカも追い抜く」「中国海軍に初の空母配備」「中国漁船1000隻が尖閣へ」
・その逆バージョンで、日本の弱さを強調する。
「中国での暴動で、日本企業はひとたまりもない」 「米軍は尖閣を守らない」「レアアースの輸入が止められたら」
・日本政府と国民を離間させる(あるいは、敵対的な政権が誕生しないようにする)
「お腹痛くなっちゃって政権を投げ出した安倍晋三」
・日本の歴史をねじ曲げ、国民が愛国心を持たないようにさせる。 「南京大虐殺30万」「日本の中国侵略の犠牲者3千万人」
このような心理宣伝の一つひとつに対して、国民一人ひとりが事実を知り、自らの頭で考え、心理宣伝を行う識者やマスコミを論破していく事が、自由主義社会における民間防衛である。
迂遠なようだが、そのような自立した国民によって支えられた国の方が、全体主義で国民を隷従させる大国より強いという事例が、スイスやフィンランド、そして日清・日露戦争でのわが国によって示されている。
■8.「あらゆる危険に備える平和愛好国と、いかなる危険にも目もくれない平和愛好国!」
心理戦に関してだけでも、これだけの事を述べた本をスイス政府は全家庭に配っているのである。心理戦に関しては政府も国民も無知なわが国とはまったく違う。
スイスも日本も半世紀以上も戦争をしていない平和愛好国であるが、この両国を比較して、『民間防衛』の訳者後書きでは次のように述べている。
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しかし、一方の国では平時から、戦時に備えて2年間分位の食料、燃料等必要物資を貯え、24時間以内に最新鋭の武器を備えた約50万人の兵力の動員が可能という体制で平和と民主主義を守り、他方の国では、軍事力を持つことは民主主義に反するというような議論が堂々となされているのは、まことに奇妙といわざるをえない。
あらゆる危険に備える平和愛好国と、いかなる危険にも目もくれない平和愛好国![1,p319]
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スイスが周囲をドイツ、フランス、イタリアなど、同質の近代的民主主義国家群に囲まれているのに対し、日本が中国、北朝鮮、韓国、ロシアと異質な前近代的国家群に囲まれていることを考えれば、両国の違いは、さらに際立ってくる。
わが国の独立と自由を守るためには、まずは国民一人ひとりが心理宣伝に惑わされない自立した思想と精神を育てるという民間防衛から始めるべきだろう。
(文責:伊勢雅臣)
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(私のコメント)
スイスの原発に対する厳しい安全対策にも見られように、日本とは雲泥の差である。地震、津波大国の日本でこの安全対策、国防意識の薄弱さ。島国の国民性と言って諦めてはいられない。知識人は黙っていないで有効打を放って国民の意識を正しく目覚めさせて欲しい。
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