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(回答先: 尖閣で世界の目、例によって冷淡 えっ、「日本は中国と戦争したがっている」って? 投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 20 日 01:13:59)
えっ、「日本は中国と戦争したがっている」って?
中国人は日本の“異常さ”がまだ分かっていない
2012年9月20日(木) 中島 恵
「もしかしたら、また(日中戦争のときと同じように)日本軍が中国を攻めてくるんじゃないか。日本人は、本当は中国と戦争したいと思っているんじゃないか。実は、そう思っている中国人は非常に多いんですよ」
81年前に柳条湖事件が起きた9月18日の前夜、都内の大学院で学ぶ中国人留学生の張成(仮名、24歳)は、切れ長の目をまっすぐ私に向けながら、きわどいことを語り始めた。
この日、北京、上海、広州など全国約100都市で大規模な反日デモが繰り広げられたが、中国人にとって(日本人にとっても)、日常生活には何の影響もないと思われる尖閣諸島が、なぜ、これほどまでにナショナリズムに火をつけるのか、不思議に思う人は少なくないのではないだろうか。
『中国人エリートは日本人をこう見る』(日経プレミアシリーズ)
私は領土問題を巡る「中国VS日本」という国家間の構図だけではどうしても説明しきれない、中国人をこれほどまでにデモや暴動へと突き動かす心理について、これまで私が自著『中国人エリートは日本人をこう見る』の取材を通してつき合ってきた20代のエリート中国人たちに取材し、率直な意見を聞いてみたいと思った。
それは、平和でのんびりとした日本に暮らす日本人の多くが抱いている、「なぜ一部の中国人はあんなにも烈火のごとく怒っているのか?」という、まるで他人事のような素朴な疑問への答えの糸口となるものであろうし、日本人と中国人の温度差を少しでも埋め、相互理解につながるきっかけになるものだと思うからだ。
エリート層は冷静
普段から、ミクシィやフェイスブックを利用して情報収集している張成は、数日前、あることに気がついた。
「デモが暴徒化するにつれ、数日前からネット上では、中国でも日本でも、そうした行動をいさめる動きが自然発生的に湧き上がりましたね。理性的に行動しようとか、暴力反対とか、同じ中国人として情けないだとか。でも、そうした意見をきちんと整理して書き込める人間というのは、ごく限られた人々で、いわゆる中間層以上。知識人がほとんどだったことに、今さらながら気がついたのです」
「今回デモに加わっている人々は、そのネットワークに参加していない階層の人々が中心でした。つまり、いくらSNSにそうした常識的な書き込みをして拡散し、理性の輪を広げよう、よりよい方向に向けようと努力しても、その声を真に届けたい人々は、そうした書き込みや、それに対する大人の反応を目にすることもないのだ、ということがわかり、私は愕然としたのです」
実際、そうした知識階層の輪に入りこめない若者たちは、ネット上の掲示板などにうっぷんをまき散らす。張成が「中国の2ちゃんねる」ともいわれるサイト「天涯」をのぞいてみたところ、日本への憎悪や憎しみが、これでもかというほど書き連ねられていたという。
だが、彼らはそこまでの罵詈雑言を書いておきながら、真に日本人が憎いのかといえば、「そうではないだろう」と張はいう。
というのも、彼らの多くは日本人と会話したこともなければ、日本人と一緒に仕事をしたこともない、もっといえば、生身の日本人を(繁華街で見かけたことくらいはあっても)真近で接したこともない人々だからだ(事実、日本に留学にやってきた中国人の多くが驚きの表情で口にするのは、日本人の優しさや穏やかさである)。
ただ、日頃の生活の不満が限界点にまで達しており、日中戦争の歴史もあることから、「愛国無罪」といえばたいていのことは許されることを知ってこうした破壊行動に出ているのだろう、と張成は分析する。その中には、日本のデモにも見られるような「友だちが参加するから、自分もなんとなく参加した」という人も大勢いることは想像に難くない。
私もこの取材で、なんとかデモ参加者を見つけて、デモに参加する動機を聞いてみたいと思ったのだが、中国人の知り合いがかなり多いと思われる私(つまり外国人)でも、接点のある中国人とその友人たちは、ひとりもデモに参加していなかった。この事実だけとっても、同じ中国人とはいえ、出身地や学歴、経歴によって形成されるネットワークや人脈はほぼ同じサークルの中で決められており、彼らの間には、決して交わることのない大きな隔たりがあることがわかる。
逆転できない社会構造が鬱憤をためる
人口13億4000万人の中国で、若者の中心となる80年代と90年代生まれは3億8000万人〜9000万人といわれる。中国はすべての国民が農業戸籍と非農業戸籍に分けられているが、不満を持ちやすい人の多くは農業戸籍を持つ人々だ。
中国の大学入試制度では、大都市の戸籍を持つ学生が優遇され、農業戸籍の学生の合格点は都市の学生よりも高く設定されているという矛盾がある。就職にしても同様で、たとえば北京の企業は北京出身者を求める傾向が強く、日本の何倍もコネが重んじられる。地方出身者で、かつコネがなければ、より激しい競争に巻き込まれ、厳しい人生を覚悟しなければならない。中国人の人生に「一発逆転」はほとんどないのだ。
こうした「自分自身の努力だけではどうしようもできない」構造的不平等が若者の強い不公平感と無力感につながっており、その気持ちをどこにも発散させることができないまま、日々を鬱々と過ごしている。
「デモに参加している人の多くは、自分たちが焼き討ちにした日本企業が中国法人で、破壊したあと、同じ中国人の従業員が困るだろうということもあまり理解できていないんだと思います。いや、ひょっとすると、日系企業に定職を得ている中国人のことがうらやましいから、わかっていて、あえて破壊しているとも考えられる。日本車を叩き壊したというけれど、自動車を持っていること自体が憎いのです。だからあの破壊行為は、映像でしか見たことがない日本に対する怒りというより、富を持つすべての人への怒りともいえますね。急速に経済発展した中国社会が生んだひずみでしょう」
こう語るのは、滞日4年になる呉政(仮名、29歳)だ。呉と中華料理店で議論しているとき、偶然にも日本の自民党の次期総裁立候補者の顔ぶれが出揃い、店内に設置されたテレビに映し出されていたのだが、呉はその画面を指さしながら「あ、でも日本だって官二代(親の七光りで成功する二世)ばかりですね。中国と同じですね」といって大笑いした。
呉も、張と同じく中国のエリートといえる存在であり、何事にも先入観を持たずに話ができる人物だ。そんな彼もお酒が進み、舌鋒鋭くなってきたところで、冒頭の張成と同じようなことを語り出した。
「多くの中国人は強い被害者意識を持っていると思います。それはかつて日中戦争で日本にひどく痛めつけられたという被害者意識であり、そうした意識は戦後70年近く経っても、まだ中国人の心の奥底から抜けていません。そう思い続けるのは教育のせいもあるかもしれない」
日本ともう1回戦争して、今度こそ勝ちたい
「でも、たとえそうであったとしても、そうした敏感な中国人の心に日本人は少しも気づこうともしない。中国人の中には、日本人ともう1回戦争してみたい。そして、今度こそ勝ちたいという潜在意識を持っている人がいるのも事実です」
日本人にとっては耳を疑うような、信じられないような話だが、こうした話は以前も断片的に複数の中国人から聞いたことがある。張もある屋台の店主が「今日釣魚島を盗られたということは、明日は海南島を盗られるかもしれないということだ。そして、あさっては私が住むこの家も日本に盗られるかもしれないんだぞ。うかうかしてはおれん」と口から泡を飛ばして話していたのを見たと話していた。
日本でも「1日でも早く国有化しないと中国に沖縄県も乗っ取られる。日本の森林も土地も、何から何まですべて中国人に買われてしまう」と危機感を感じている人が一部にいるのと、似たような構図なのかもしれない。
以前にも日本に長期滞在したことがあり、日本人の性格をよく知っている張から見れば、こうした屋台の店主の意見は「日本に対する大いなる誤解だ」とすぐにわかる。
だが、日中国交正常化から40年という月日が経ち、これだけ多くの要人や留学生、経済人が行き来してもなお、お互いに誤解し、猜疑心を持ち、こんなにも心が通じ合っていなかったのだろうかと思うと、私は暗澹たる気持ちになった。そして、戦争で攻めた側の人間はその事実を忘れても、攻められ傷つけられた側の人間は、そう簡単には忘れないのだという、至極当たり前のことを改めて痛感した。
私は日中を行き来する張に「一般の中国人が、日本について最も誤解していると思うことは何だと思うか?」と問いかけてみた。すると、「日本の『異常さ』を理解していないこと……ですかね」という奇妙な答えが返ってきた。
その真意はこうだ。普通の国家ならば、常に国益を主張し、経済発展すれば世界での発言力も増し、自らの国に対して自信を深めていくものだが、日本人はここまで経済発展し、優秀な民族であるにも関わらず、日本人であるということに、なかなか自信を持てないでいる。そして、とことん平和を愛している国でもある」という。
まさしく、その通りだと思った。だが、ここまで鋭く日本を見る張のようなエリートが大勢いるわけではなく、日本をよく知らない中国人は「中国は日本から再び侵略されるのではないか」とうたぐり、「もし日本人がもう一度戦争をするというならば受けて立つ」とさえ真剣に思っている。
「これだけは書いてほしい」
そこまで日本を意識するのは「中国人が唯一、引け目を感じている国が日本であるから」だという。戦争で中国人に大打撃を与えておきながら、こんなにも小さな国・日本は文化大革命で大混乱に陥った中国のすぐ隣にいてコツコツと働き、はるかに速いスピードで経済発展を果たし、GDPで世界第二位の座に40年間も君臨した。それが中国人のコンプレックスとなっているというのだ。
しばし黙りこくった私に対して、張は、珍しく少しだけ強い口調で「中島さん、これだけは書いていただけませんか?」といって、ある情報番組のコメンテーターの話を持ち出した。
尖閣問題を取り上げたあるテレビ番組の中で、「日系企業が危険にさらされている。なぜ中国政府はすみやかに対応できなかったのか」という話題の流れで、ある日本人コメンテーター(タレントではなく社会的地位の高い人)の口から信じがたい発言を聞いたのだという。
「中東の『アラブの春』のときはフェイスブックを一時遮断したでしょ。今回、中国政府はなんで中国の微博(中国版ツイッター)を遮断しなかったんでしょうね?(遮断すれば、日系企業が攻撃されなくて済んだかもしれないのに)」
この言葉を聞いて、どこがおかしいのか、と思う日本人もいるかもしれない。
張に解説してもらった。
「中国国民はデモという手段ではあったけれど、自分の心にある怒りや不満、どうにも押さえられない気持ちをあそこで表現したんです。そうした下層の若者たちの苦悩の気持ちの一端は、ぜひ日本人にわかってほしい」
「そして、このコメンテーターに代表されるような人々は、自分たちに無害な遠くで発生している(アラブの春のときのような)民族の感情には「民主化」の観点から、武力で鎮圧する側の政府を批判した。しかし、今回の反日デモのように、民衆の怒りの矛先が自分たち(中国の日系企業)に向くとわかったら、今度は抑え込まない中国政府を批判するのか。ウイグル、チベットの運動も一部は暴徒化や略奪があったが、そのときは鎮圧した中国政府を批判した。(西側民主主義国家にとっての是である形式の)民主化に向かっていってほしいはずの中国に対して、脳天気にインターネットを遮断すればいいじゃないか、とまでいい放ったのです。これはあまりにも中国人を見下した、自分たちにとって都合のよいダブルスタンダードとはいえないでしょうか」
中国はもがき苦しんでいる国だ
張の言葉を通して、中国人の日本に対する静かな怒りが伝わってくるような気がした。
「今回の問題で、日本人は、自分たちは当然買うべきものを買っただけで、何も悪いことはしていないと思っているかもしれません。でも、あの時点での購入は、あまりにも中国人の心理が読めなさすぎたといわざるを得ない。そして、ここまで中国人を怒らせた。日本人は中国人の気持ちが理解できないと思っているかもしれないが、中国人も日本人の気持ちが理解できないのです」
「中国国内には、日本人には想像もできないほどさまざまな問題が山積しています。中国は一見、膨張して大国化したかのように見えますが、建国からの歴史も浅く、未熟な点も多い。中国政府も人民も苦しみもがいている最中なのです。どうか、そのことをわかってください」
中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト。1967年、山梨県都留市生まれ。1990年、日刊工業新聞社に入社。国際部でアジア、中国担当。トウ小平氏の娘、呉儀・元副総理などにインタビュー。退職後、香港中文大学に留学。1996年より、中国、台湾、香港、東南アジアのビジネス事情、社会事情などを執筆している。主な著作に『中国人エリートは日本人をこう見る』(日経プレミアシリーズ)。
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20120919/237016/?ST=print
尖閣で世界の目、例によって冷淡
情報発信で中国を巻き返すことが急務に
2012年9月20日(木) 谷口 智彦
日系の店舗や自動車などを破壊し、略奪の限りを尽くす中国の反日デモの映像が世界中のメディアに流れている。巧妙に自分たちの主張を浸透させ、影響力を拡張させようとしていく中国。中国国民のあまりの激しい反応に、国際世論も、こうした事態をどう理解すればいいのか戸惑っている。国際社会に対して、日本はどう説明責任を果たしていくべきか――。尖閣問題で海外メディアからの取材対応に追われている元外務省外務副報道官、慶応義塾大学特別招聘教授の谷口智彦氏が、海外の反応や日本のあるべき対応を斬る。
ここのところ、反日デモ関連で英BBC・TV、ラジオやカタールのアルジャジーラの英語放送から、取材を受けています。彼らはまず、日本政府が尖閣諸島を「買った」という行為の意味それ自体が良く理解できなかったようです。政府が個人所有者から島を買うというのは、国内的な所有権の移転に過ぎないわけで、国が買った後も現状に変化はないわけです。
なぜ、この時期にわざわざそんなことを…
けれど、なぜこの時期にわざわざそんなことをやったのか、という疑問が海外の人にはある。それは中国に対する挑戦ではないかという見方になるわけです。要するに「事の発端をつくった、引き金を引いたのはどちらなのか」に関する理解の混乱がある。でも、こういう問題の立て方自体がヘンでしょう。事の本質というかリアリティというか、なんかはき違えているからこういう問いになる。
事の本質というのは、たとえになりますけどこんな感じかなと思うんです。英仏海峡に、ガーンジー島、ジャージー島という島があります。英国領、というか、正確には英王室領です。適用される法体系が別立てで、実態としては準タックス・ヘイブン扱い。ともかく、地理的にはフランスに近いのに、「イギリスのもの」ということで今日に至っています。だって、もしも攻撃されたら、英軍が出動するでしょうしね。
でそのジャージー島なんかを、尖閣だったとしてみますか。それで、大陸欧州の、ウラル山脈以西が、フランスもドイツもない、まるごと巨大な1つの国で(中国というのは実際それくらいでかい)、しかも長い歴史を通じていっぺんも民主主義をやったことがない国で、ろくすっぽ基本的人権も保障していない国だったとします。
そしてあるとき、その国が英国に向かって「ジャージー、ガーンジーは古来オレたちのものだったのだ。返せ」と怒り出して、バーバリー・コートの店かなんか叩き潰したうえ、しかも増強おさおさ怠りない海軍のダンビラまでちらつかしてやってきたとしたら…。
英国人はさぞかし憤り、かつ、威圧されたと感じるのではないですか。日本がいま尖閣について感じている中国の脅威とは、ちょうどそんな感じだと思うのです。東シナ海と南シナ海は石油が通る大事な通路だから、戦略上、英仏海峡なんかと比べ物にならないくらい重要でもあるというのに、まずこの、極東のわれわれ、島国が感じている中国の脅威そのものが、欧州などには絶対に伝わらないと思っていて間違いありません。
ここらが分からないから、質問者は得てして、「日本だって悪いんじゃない?」という、まるで喧嘩両成敗みたいな前提でこちらに問いをぶつけてきます。しばらくすると、「歴史の清算が済んでいないからだろう」という、お門違いもはなはだしい問いを持ち出してきたりする。
地域のリアリティや、そこで中国がどんなふうに海洋へ拡張しようとしてきたか、知っていてくれと彼らに言ったって、ないものねだりです。それにテレビとなるとほんの数語、10秒くらいしか与えられないし。短い時間で、そこらをわからせるような物の言い方を工夫しないといけません。
わたしは、東シナ海で起きていることは、南シナ海で起きたことと切り離せない。日本政府がどう中国の圧力に立ち向かうかは、ベトナム、フィリピン、インドネシアが多大の注意を払って見ているだろう、というような言い方で、そこを直感してもらえるように努めました。
南シナ海で起きたことというのは、今年の前半の大問題でした。とくにフィリピンと中国の間で。中国から遠く離れ、フィリピンにはまるで目と鼻みたいな場所の環礁を中国は例によって自分のものだと言い出して、一時は弾の打ち合いになるかとまで思われた。
アジア諸国は中国を「危険な存在」と警戒
遡れば数年前からこういうことがベトナムなどとの間でも起きていて、それら諸国は中国を力で押し出して来る危険な存在と見ています。狙いはというと、広い西太平洋に進入禁止のフェンスを張り巡らせて、東と南両シナ海をLake Beijing、つまり中国のお池にしてしまおうということですから。
今年はその狙いがはっきり形を見せ始め、インドネシア、フィリピン、ベトナムを大いに警戒させた年でもあったのです。北京にしてみれば、南シナ海で自分より弱小の国に強く出ておいて、東シナ海だと日本の海上保安庁も海上自衛隊も、それから米軍さんも怖いから強く出られませんでしたというのではカッコウがつかない。そんなメンツも今回は働いたかもしれませんね。
でもそういう立体的な把握ができている人は非常に少ない。だいたい外国メディアはこう聞いてきますよ。「人も住めない、そんな小さな島をめぐって、なぜいつまでもいがみ合うのだ」と。
人が住んで経済活動ができれば守るに値し、そうでなければ忘れろと言うことなんでしょうか。地政学のチの字もわかっていない。さっきの例で言うと、これがもし英仏海峡の島をめぐる巨大大陸独裁国と英国との対決だったとしたらというような、想像力を働かせようともしない。わたしなんかが何回英BBCやアルジャジーラ・イングリッシュのカメラの前に出たってそれでどうなるもんでもないけれど、無言で済ますわけにはいかないと思って、こういうときは出て出て出まくることにしています。
それはともかく、ざくっと言うと、米ワシントンの国防総省筋は、海へ、海へと押し出して来る中国の拡張主義と、米軍艦船などの進入を阻止しようとする中国軍の狙いをよくわかっているので、日本とこういった点で認識・波長のズレが比較的ありません。海軍はとくに。
でもそれが、外交当局、国務省となるともう怪しい。中国を第一に考えたがる人たちが確実にいますから。いままでヒラリー・クリントンさんが国務長官で、日本の立場と東シナ海の戦略的重要性をしっかり理解してくれていたけれど、オバマ続投の場合、ヒラリー後継と目されるジョン・ケリー民主党上院議員、スーザン・ライス米国国連大使のどちらになるにせよ、とくに初期に、ヒラリーさんと同じような認識は望めません。
この人たち、わたしはChina Firsterと呼んでいます。何かというと中国とディールをつけるのを優先したがる中国第一主義者たち。でかい中国と話をつければ、なんか自分もでかくなったと錯覚する人がいるらしい。「キッシンジャー病」って言ってもいい。ニクソン大統領の補佐官として、毛沢東や周恩来というときの中国指導者と話をつけた超大物ですよ。中国と何かやって、大物になりたいんですね。そういう性向の人は、国務省とその周辺にいます。
中国はあらゆるシンクタンク関係者と話をしている
同じワシントンでも、一般のシンクタンクや議会スタッフたちになると、東シナ海ってどこだったっけ、という連中がいたって驚いちゃいけない、いや、ほんとに。そのくらいの理解度です。ところがそんな人たちにも、中国は実にマメに、しっかり話をしているらしいということが今回わかった。
ワシントンというところは、政策のアイデアを貨幣のようにして、そのやり取りでなりわいを成り立たせているようなところがあります。だから、シンクタンクと名のつく組織は、何十とあります。
最近「ウチにも中国外交官が来た」という、あるシンクタンクのアジア研究部長によると、中国はその何十とあるシンクタンクをひとつひとつ、細大漏らさず回って、「例のフィリピンとの問題ですね、あれは、フィリピンが仕掛けてきたものなんです。ウチ(中国)は受身の被害者なんです」といった話を「しつこいくらい」、飽きずに説いては帰り、また現れては繰り返すのだと、それに比べれば「日本の外交は淡泊だね」と言うんです。
「中国外交官は、決して好かれちゃいないよ。でもあの連中の、執拗さときたら、見上げたもの」だという賞賛にすらなっています。
事実はというと、フィリピンが出したフネは「軍艦」、中国が出したフネは「巡視艇」。だからフィリピンが挑発したんだと中国人は言うのですが(わたしと怒鳴り合いみたいになったアルジャジーラ・イングリッシュの討論番組に出た北京の学者が、そういう主張をしていた)、大きさや艦齢がそもそも全然違う。フィリピンのフネは「ボート」、中国のは新鋭「ウォーシップ」と呼んでよかったくらいのものだったことが知られています。
しかし、そこらの事情に通じていない人なら、だまされるかもしれない。中国の外交官たちは、40人にあって10人でも考えを動かせればいいという、一種の歩留まり思想で情報工作をしているのかもしれませんね。
国際社会ではプラスにならない謙譲の美徳
日本は、照れとか恥じらいとか、そこまで図々しくは到底できないとか、謙譲の美徳みたいなものが、やはりあるんですかね。あくどさ、あざとさといったものは、概して日本の外交官の特徴とはいえないでしょう。
かと言って、わたしは中国の真似なんかしょせん苦手なのだからあまりやらなくていいと思います。それよりもっと大事な役目を果たせる人がいる。総理大臣ですよ。尖閣で中国と一触即発だというと、世界のメディアがいっせいに日本に向きますよね。
面白い、いい話で目を向けてくれたのではないけど、視線をやおら、こっちへ寄越してくれた事実に変わりはありません。つまり、ふだんなら日本の総理が何を言おうが言うまいが、決して電波に乗せようとしない英BBCや米CNNが、もしかしたら報道してくれるかもしれないわけです。
ピンチこそチャンス。PR・広報に長ける人たちは、古来そう思ってやってきただろうと思います。もしも野田佳彦総理が、中国でパナソニックの工場が見るも無残な姿になった映像と一緒に現れて、「このような行為を、中国人のうちの心ある人たちは、悔い、遺憾と思っているであろう。12億の民を率いる責任の重みを常日頃感じる立場の指導者たちも、遺憾としているに違いあるまい。両国間には意見の差があり、ときに争いがあるし、未来永劫なくならない。
かといってその怒りをこのような形でぶつけるべきでない」とまず言っておいて、「しかし、わたしが思い出す、日本で懸命に働くあの人、この人、あの若者、この若者――中国から来た誰彼に、罪はない。長いそろばんを弾けば、日本に来た中国人が、日本の弁護人になってくれることこそ日本の国益にかなう。ここはひとつ日本の国民の皆様には、そういう、長期的視野に立った冷静、沈着な行動をとってほしい。とって下さるものと信じている」くらいなことを、言えないもんでしょうか。
言い方も思想ももっと深くできるでしょうけど、例えばこんな話をしたら、少しは「へえ、良いこと言うじゃないか、日本の総理は」と思ってくれませんかねえ。もし思ってくれたら、わたしは日本全体の株を大きく上げると思う。
危機こそは、指導者を「政治屋」から「ステーツマン」に変える機会なのですからね。もし総理にこうした、委曲を尽くしたコトバの力があったとしたらと思わざるを得ないですね。
そして、あ、いま、こういうことを言う時だ、という、天啓を感じる直観力というのかな、それがまずなければなりませんね。野田総理は、わたしは今回、好機を逃したと思います。
総理の発言が大事だということは否定しませんが、日本の声はいつでもどうしてもか細いです。「あざとさ」などあまりない。しかし「世界はわたしをわかってくれない」と国民が思い続けるというのは、精神状態として決して健康とは言えませんから、なんとかなるものならしないといけないと思います。
ただ、米国という世界政治の中心国の世論をどう動かすかと考えたとき、物量で日本はちょっとかなわないくらい差をつけられてしまいました。
まず移民の数が違う。中国系米国人、韓国系米国人の数は、いわゆる日系人よりはるかに多いですね。中国系の中には、政府で要職につく、大手テレビでキャスターになる、一流大学で教授になるという人が続々出てきています。
ワイシャツをクリーニングに出すと「独島はわが領土」
しかし中国系米国人には、国籍を米国にしても、北京との関係が続いている人がいるらしく、今回もその様子を窺えましたが、北京の命令一下、米国諸都市でも反日デモを打てる組織力と機動力をも維持しているようです。
これなど日本には真似できないし、民主主義国としては真似しようもない。それから韓国系移民に少なくないランドリー経営者たちは、ワイシャツを預かったとすると、洗ってアイロンをかけたシャツに薄紙をかけて渡すその薄紙に、「独島はわが領土」とか、そういうスローガンを地図入りで刷り込んだりするんです。こんなこともできないです。
ただ、日本もそう捨てたもんではありません。BBCが例年実施する調査によると、「世界に対してポジティブな貢献をした国」として、日本はいつも上位から外れたことがありません。昨年などは、地震、津波などのあとの静かな耐え方がよほど印象を残したせいではないかと思いますが、堂々の1位になりました。
日本の築いた評判は、立派なものです。それがまず1つ。
2つ目は、仲間作りをすればいい。豪州だしインドだし、シンガポールやインドネシアです。価値観、利害を共にする海洋国家同士、助け合いの関係を結んでおけば、日本はそれだけ気が楽になる。思いつめないで済む。実は自民党政権時代に始まったインドや豪州との関係深耕策は、民主党にかわっても勢いを失いませんでした。米国一国とつながっているだけだと、過度な依存心や過度の反発を招きやすいので、豪州やインドと力を合わせることはそのためにも重要だと思います。
海外で通用するスポークスパーソンを見つけよう
にもかかわらず、ここからは悲観的になりますが、この種の紛争で、一種のレフェリー、ジャッジになるのは、いわゆる国際世論です。そして、国際世論といったって、要するにそれは英語世論です。つまり、ロンドンであり、ワシントン、ニューヨークです。
ここで、日本人のコメンテーターがよりどりみどり、昨日はあの人を使ったから、今日はこの人にしてみようというような状態になってくれたら、どんなにかいいでしょう。
それと、なぜだか日本の女性は中国でも衰えない人気があるといいますから(韓国でもそうらしい)、わたくしとしては(すみません、昔ふうで)いわゆる才色兼備、ハーバードだかオックスフォードだかで博士号をもっていて、政府の要職にも就いたことがあって、いまはワシントン、あるいはロンドンのシンクタンクでアジア部長をしている、といったふうな女の方が、テレビ画面のあちらこちらに1人と言わず何人も、たくさん出てきては美しい声と発音の英語でよどみなく日本の立場を、それも適度な自己抑制とユーモアを湛えながら説明してくれたらさぞかし良かろうに、と思うのです。とりあえず1人でもいいから見つけて、見つけたら「使い倒し」たらどうでしょうか。
(構成:広野彩子)
谷口 智彦(たにぐち・ともひこ)
慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授。明治大学国際日本学部客員教授。1957年生まれ。2005〜08年、外務省外務副報道官、広報文化交流部参事官として外国メディア対応など手がける。先立つ20年間、「日経ビジネス」記者、編集委員。ロンドン外国プレス協会会長、米ブルッキングズ研究所CNAPS招聘給費研究員、上海国際問題研究所客座研究員、米プリンストン大学フルブライト客員研究員など歴任。近著に『金が通貨になる』(幻冬舎)がある。(写真:都築 雅人)
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