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「反日デモ」か「内乱」か
広東省で先鋭化した暴徒の実態
2012年9月18日(火) 熊野 信一郎(香港支局)
その姿はもはや「反日デモ」とは呼べない何かであった。
16日の中国広東省、深セン市。市中心部を東西に走る大通りの深南中路に集まった群衆の一部が、建物の壁を棒のようなもので壊し始めた。
ターゲットは、欧州の高級ブランド時計の店舗。そこだけ見れば、高額品を狙う略奪犯の犯行現場のようだ。ただその店舗が入居するのは「西武百貨店」。一見すると日本のデパートであるが、実は運営するのは香港資本。ここにはさらにジャスコの店舗もあるために「日本の象徴」としてデモ隊の目標地点となったようだ。しかし、これらの店舗が入居する商業施設は、中国政府系の大手金融グループのCITIC(中国中信集団)が運営している。
群衆はそんなこともお構いなしに行為をエスカレートさせる。この商業施設が雇っているらしきガードマンが止めに入るが、多勢に無勢。群衆の圧力には耐え切れるわけもなく、「これならやっても大丈夫」と確信した多くのデモ参加者が、せきを切ったようにして破壊活動に加わる。
共産党の支部に迫るデモ隊
前日の15日、青島や上海、北京、蘇州など90近い都市で反日デモがあり、一部では商店や工場などの破壊、略奪、放火などにエスカレートした。
そのためか、この日の深センでは治安当局が過激な行動を抑制する姿勢を明確にした。駅や繁華街に多数の公安、武装警察などを配置し、デモ隊の集合地点に近い地下鉄駅を封鎖、地下鉄を通過させるという手の込みようだった。
しかしコントロールは失敗した。暴徒化した一部の参加者が、警棒で殴られ、蹴られ、連行され始める。現地の報道では、100人以上が公安当局に拘束された模様だ。しかしそれが結果的に火に油を注ぐ結果となった。
拘束者の釈放を求めたデモが向かった先は、市内にある共産党深セン市委員会の本部。「釈放せよ」のシュプレヒコールで、本部入り口の守りを固める警察に圧力をかける群衆。そこに、ついに催涙弾が投入された。前日の各地のデモでは見られなかった強硬姿勢である。
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うデモ参加者。しかしそれにも怯まない一部の連中は、飛んできた催涙弾を拾い、治安部隊へと投げ返す。怒りの矛先は警察に向かい、車両が破壊され、ひっくり返される。そこには既に「日本」も「保釣」も関係ない。
深センには領事館などの日本の在外公館はない。日本企業の工場も数多くあるが、デモ隊がすぐに移動できるほどの距離にはほとんどない。統制と明確な攻撃目標を失った反日デモが、一歩間違えれば「反政府デモ」へと転化する。中国政府が最も恐れるリスクを垣間見た。
本当の中国リスク
パナソニックの工場が破壊され操業が停止に追い込まれるなど、既に日系企業の中国ビジネスには大きな影響が出始めている。今後のすう勢次第だが、少なくとも新規投資や事業拡大、各種イベントなどは凍結や中止に追い込まれるだろう。
日本企業にとって目先のリスクはもちろん、現地の拠点が無差別攻撃の対象になり、日本ブランドが消費者に露骨に避けられることだ。ただ今回、各地で先鋭化した反日デモが映したのは、中国の民衆のフラストレーションが臨界点近くまで溜まっており、そのパワーを政府がコントロールすることが難しくなっている現状だった。日本バッシングがある程度落ち着く日が到来するとしても、それこそが本質的な「中国リスク」として残り続けるだろう。
今日。満州事変の発端となった柳条湖事件が起こった9月18日。反日活動は1つのピークを迎える。
熊野 信一郎(くまの・しんいちろう)
日経ビジネス香港支局特派員。日経BP社入社後、日経ビジネス編集部に所属。製造業や流通業を担当後、2007年に香港支局に異動。現在は主に中国や東南アジアの経済や企業の動き、並びに各地の料理やアルコール類の評価、さらに広島東洋カープの戦力・試合分析などを担当する。
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/research/20120913/236752/?ST=print
尖閣に押し寄せる中国漁船への対抗策は?
魚釣島がカギを握る米国の核戦略
2012年9月18日(火) 森 永輔
台風16号が尖閣諸島を過ぎ去った。1931年に満州事変が起きた今日、9月18日、大量の中国漁船が尖閣諸島に押し寄せる可能性がある。その一部が魚釣島に上陸する事態も起こりうる。川村純彦・元海将補に今後の見通しを聞いた。同氏は著書『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力』の中で、中国の漁船や海軍がどのような行動を取るか、シミュレーションをしている。(聞き手は森 永輔=日経ビジネス副編集長)
問:9月18日は、満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた日です。この日を期して、1000隻の中国漁船が尖閣諸島に向けて出港したとの情報があります。台風16号も同諸島を通り過ぎました。これから同諸島周辺の海でどんなことが起こりうるでしょうか?
川村:まず、中国人民解放軍の海軍がすぐに乗り出してくる可能性は小さいと思います。上陸部隊が海から急襲する、特殊部隊が潜水艦から潜行上陸する、空挺団が空から侵入する、といった事態は考えづらいでしょう。中国は今、平和台頭国家のイメージを構築することに一生懸命です。これらの軍事行動を起こすと、日米安保条約の第5条を発動させる要因にもなります。
漁民の一部が魚釣島に上陸する事態も
最も起こりうるのは、大量に押し寄せる中国漁船の一部が日本の領海に進入。そのまた一部が魚釣島に上陸するケースでしょう。
1000隻の漁船が一気に魚釣島への上陸を目指すのは考えづらい。尖閣諸島周辺の海域は非常に波が荒いので、たくさんの船が一時に集まることは難しいのです。しかし、中国漁船の一部は領海への侵入を試みるでしょう。日本に対するデモンストレーションです。
問:海上保安庁は、中国漁船による領海侵犯を防ぐことはできないのでしょうか?
川村:難しいでしょう。
海上保安庁にできるのは次のことです。「ここは日本の領海である」と中国漁船に対して警告すること。警告を無視する場合には、出入国管理及び難民認定法違反の容疑で臨検すること。同容疑で逮捕すること。つまり警察権の行使だけです。
日本は、領海内において無害通航以外の行為をした船に対して、どのような措置を取るか、法律を作っていません。なので、海上保安庁は、領海侵犯した船に対して威嚇するなど、強制力を伴う措置は取れないのです。
さらに、領海への侵入を試みる漁船のすべてを入管法違反で逮捕し、証拠を集め、立件することも難しいでしょう。1隻、1隻について、これらの措置を取らなければなりません。そのためには、巡視船の数が全然、足りません。海保の第11管区(本部:沖縄)が配置している巡視艇は約20隻です。他の管区から応援を回しても足りない。
問:そうすると、かなり多くの中国漁民が魚釣島に上陸する可能性があるのでしょうか?
川村:そうとは限りません。魚釣島はその地形上、多くの人が一気に上陸するのは難しいのです。魚釣島の沿岸の多くは岩場です。ここから上陸するには、船を傷つける覚悟が必要です。200〜300メートルほどある砂浜は、上陸することはできても、出港するのが難しい。小さな港が1つだけあります。ここは狭いので、1〜2隻が停泊すればいっぱいになってしまいます。
問:先の国会で海上保安庁法の改正が成立しました。これにより、海上保安庁の担当者が離島の陸上で警察権を行使できるようになりました。これは役に立つでしょうか。
川村:将来は役に立つと思います。しかし、今回は石垣島などの警察官が対処することになるでしょう。海上保安庁の人は陸上での任務にまだ慣れていないですから。
上陸した漁民が長く居座ることは考えにくい
問:海上保安庁の巡視船の不足を補うため、政府が海上自衛隊に対して海上警備行動を発令する可能性はあるでしょうか(注:海上警備行動は、海上保安庁の力が及ばない事態において、自衛隊が行う警察活動のこと。軍事行動とは異なる)。
川村:あり得なくはないでしょう。しかし、政府は慎重な姿勢を取ると思います。海上自衛隊が出動すれば人民解放軍も出てきます。いくら警察行動と言っても、中国から見れば、軍隊が出動してくるわけですから。
問:中国は1995年に、ベトナムが領有を主張していたミスチーフ環礁を占拠しました。最初は偽装漁民が上陸。その後、軍事施設を建設しています。今回も、1000隻の漁船の中に、偽装漁民が混じっていることはないのでしょうか? 川村さんはご著書「尖閣を獲りに来る中国海軍の実力」の中で、こうした事態を想定されています。
川村:それは十分に考えられます。
ただし、中国がこれを実行するには大きな問題があります。補給路が維持できないのです。ですから、人民解放軍の実力を分かっている人なら、そんな危険は冒さないと思います。
問:補給路ですか?
川村:そうです。中国の対潜水艦哨戒能力は日米に比べてまだかなり低い状態です。日本や米国の潜水艦の位置を捕捉することができない。つまり、日本や米国の潜水艦が中国の補給船を撃つことができるのです。
ただし、中国内の強硬派が突き上げて、軍事のプロの意見を聞かないケースはあり得るでしょう。これは怖いことです。
問:魚釣島を占拠できないとすると、中国は次にどんな手を打ってくるでしょう。
川村:「中国が尖閣諸島を実効支配している」と世界に訴えるための材料を徐々に積み上げていくでしょう。例えば、中国漁民が上陸を目指す頻度が増す。さらに中国公船が日本領海に侵入する事態も増えると思います。9月14日に6隻の中国公船が尖閣諸島周辺の領海内を行き来しました。中国にとっては、あのような動きが“中国公船が中国の領海をパトロールしている”ことの実績になるわけです。
米国は、尖閣諸島が持つ米国にとっての価値を理解して
問:尖閣諸島周辺における中国の力が大きくなると、米国にとっても不都合だと思います。米国の姿勢をどう思われますか? 2010年に尖閣諸島沖で、海上保安庁の巡視船と中国漁船の衝突事件が起きた時、クリントン国務長官は「尖閣諸島は日米安全保障条約の適用対象」との立場を明確にしました。しかし、その一方で、米国政府は従来から、尖閣諸島の領有権は「日中の2国間問題」として引いた立場を取っています。
川村:米国は、尖閣諸島が持つ米国とっての重要性を十分に理解していないのでしょう。尖閣諸島の問題は、米国自身の安全保障の問題でもあるのです。中国が南シナ海を“聖域化”する取り組みのポイントになるからです。
中国は南シナ海に、およそ20隻の核ミサイル搭載潜水艦を配備しています。海中を移動し、その位置を捕捉しにくい核ミサイルは、米国にとって大きな脅威となります。これらの潜水艦が現在装備しているSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の射程距離は7400キロメートル程度で、米本土には届きません。アラスカ、ハワイまでといったところ。しかし、中国はこの射程を伸ばす研究を続けています。将来は、米本土まで届くようになるでしょう。こうした状況を作るため、南シナ海を革新的利益と位置づけて力を広げようとしているのです。
中国が南シナ海を自由にする、つまり“聖域化”するためのカギになるのが台湾です。もし米国が台湾に軍隊を派遣したら、中国による南シナ海のコントロールを邪魔することができます。中国が台湾にこだわるのは、台湾そのものに対するこだわりとともに、南シナ海のコントロールとも関係があるのです。
そして、尖閣諸島は、中国が台湾を押える時に重要な役割を果たします。仮に中国が尖閣諸島を実効支配すれば、平時であっても、周辺200カイリから外国船を追い払うことが可能になります。台湾と尖閣諸島は地理的にすぐ近くです。
問:200カイリというのは、排他的経済水域のことですね。同水域において、外国船は公海と同様に航行の自由を持つのではないでしょうか?
川村:本来はそうです。しかし、中国は排他的経済水域の意味を独自に解釈しています。中国が自国の排他的経済水域内と主張する南シナ海の海域において、外国船を寄せ付けないようにしたりしています。尖閣諸島周辺を南シナ海と同様に扱うことで、平時であっても外国船を近づけさせない、という体制を築くことができうるのです。
問:中国から見て尖閣諸島は、太平洋への出口である宮古海峡(注:沖縄本島と宮古島の間の海峡)ののど元に当たります。ここを押えることは、宮古海峡の航行を確保する上でも重要になりますね。中国の潜水艦が宮古海峡を抜け西太平洋に出れば、米国本土が中国のSLBMの射程距離に入ります。この意味でも尖閣諸島は重要ですよね。
川村:その通りです。米国の安全保障に対して尖閣諸島が持つ意義を、米国にもっと理解してほしいと思います。日本の国会議員でも分かっていない人が多いですね。
川村 純彦(かわむら・すみひこ)川村純彦研究所代表。1936年生まれ。1960年に防衛大学を卒業、海上自衛隊に入隊。対潜哨戒機のパイロット、在米日本大使館駐在武官、航空群指令、統幕学校副校長などを歴任。退官後、岡崎久彦研究所で副理事長、日本戦略研究フォーラムで監事を務める。
森 永輔(もり・えいすけ)
日経ビジネス副編集長。
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日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
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