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ロイター記事
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL4N0H12BP20130905
[東京 4日 ロイター] - 本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
田巻 一彦
「空想的」なシナリオと思われてきたフィスカル・ドミナンス(財政による金融政策の従属化)の可能性が、にわかに現実味を帯び始めた。消費増税の先送りの可能性が出ている一方、来年度予算案の概算要求が過去最高の99兆2500億円に膨れ上がり、財政の長期的な信認に黄信号が点灯しつつあるからだ。もし、フィスカル・ドミナンスが現実化すれば、アベノミクスの「1丁目1番地」である日銀の異次元緩和(黒田緩和)も無力化する。安倍晋三首相は、自らが持つ「宝刀」をさびだらけにするリスクについて、強く認識するべきだ。
<法律通りの消費増税、明言しない安倍首相>
2014年4月から消費税率を3%引き上げ、15年10月からさらに2%上げることがすでに法律で決まっているが、政府が開催した集中点検会合では、3%の引き上げ時期の1年延期や1%ずつの小刻みな引き上げなど「修正提案」も主張された。
特に安倍首相のブレーンで内閣官房参与である浜田宏一・イェール大名誉教授と本田悦朗・静岡県立大教授の2人が、既定方針通りの増税に異論を唱え、安倍首相が法律通りの増税を明言しないため、さまざまな憶測が生じつつある。
<過去最大に膨張した来年度予算の概算要求>
一方で、概算要求では成長戦略、防災対策などに関連する「優先課題推進枠」で財務省と農水省以外がほぼ満額を要求したため、3兆5177億円に膨れ上がった。
国債費を除いた政策的経費の要求額は、73兆円9707億円と2013年度予算と比べ、3兆5000億円超も膨張している。
対国内総生産(GDP)比で200%を超す債務残高を抱える国とは思えないほど、政府・与党には「大盤振る舞い」への期待感が漂っている。
<マーケットが注視する財政再建への明確な意思>
もし、歳出の膨張に歯止めがかからないまま、消費増税を先送りするような展開になれば、中期財政計画で明記されている2015年度にプライマリーバランスの赤字を10年度比で半減させる目標の達成は事実上、不可能になるだろう。
財政健全化に対し、明確な意思を持っていないとマーケットからみなされれば、今は0.7%台で推移している長期金利が、不連続に急上昇するリスクが高まる。
<長期金利が制御不能なら、黒田緩和は実行不能に>
中央銀行から長期金利や物価上昇率をコントロールする力が失われ、財政政策の結果による債務状況が大きな影響力を発揮するような事態になれば、財政政策が金融政策を支配するフィスカル・ドミナンスが、現実に姿を現すことになる。
日銀の黒田東彦総裁は5日の会見で、「国債価格が大幅に下落するというようなリスクがどれほどあるかわからないし、それほど大きくないかもしれないが、それが顕現化した場合の対応は非常に難しくなる」と表明。そのことを集中点検会合で述べたことを明らかにした。
対応が難しくなるということは、実効性のある金融政策を実行できなくなるということだ。長期国債を年間で50兆円程度買い増す政策を「黒田緩和」で打ち出しているが、国債の信認が低下して、日銀が買うほどに長期金利が上昇する事態に直面すれば、「黒田緩和」は実行不能になる。
<長期政権志向の前提、財政健全化の優先度引き上げ>
そのことを政府サイドからみれば、アベノミクスの1本目の矢で「1丁目1番地」の政策とみられている大規模な金融緩和というカードが使えなくなるということを意味する。
財政健全化の意思が政府にないとマーケットから認識されれば、長いタイムラグを生じさせることなく、アベノミクスは最大の危機に直面するだろう。
そのことは、安倍政権の推進力の大幅な低下と政権基盤の流動化を意味することになる。安倍首相が小泉内閣を超える長期政権を目指すなら、財政健全化を推し進める熱意は、何よりも重要であるはずだ。
黒田総裁は、財政の信認喪失の打撃の大きさをこの日の会見で何度も強調した。安倍首相は9月日銀短観の結果を確認するだけでなく、財政の信認確保のため、どういう政策を選択するのがベストなのか、黒田総裁と膝づめで話し合ってみてはどうだろうか。
●背景となるニュース
・日銀総裁会見詳報7 財政ファイナンスしているわけではない
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