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「ティッピング・ポイント」という言葉がある。「(重大な変化が起きる)転換点」を意味する。人類の経済活動から排出される温室効果ガスによって引き起こされる地球全体の平均気温の上昇を、産業革命前(人為的な温暖化が起きる前)と比べて2度未満に抑えるという目標が、これまでは世界で合意されてきた。それ以上の気温上昇になると、極めて深刻な問題が生じると予測されたからだ。2度が「ティッピング・ポイント」だったのである。
しかし、2度未満に抑えるという目標は、実現できそうにないという見通しが優勢になってきた。国際機関による複数の報告書にも、地球全体の平均気温の上昇が2度以上となることを前提に、その対応策を講じるべきとする内容のものが目立つようになっている。
世界銀行が発表した「Turn Down the Heat 2013」と題する報告書では、気候変動がアフリカ・サブサハラ地域、東南アジア地域、南アジア地域で、どのような悪影響を及ぼすことになるかを詳細に予測・分析している。
具体的には、現時点の0.8度上昇の水準から、2度、4度に各々上昇した時に、農業生産、水資源の確保、沿岸漁業、海岸線の保全などといった領域で、どのような現象が生じるかが丁寧に描写されている。日本企業にとっても結び付きの強い東南アジア地域については、夏期の熱波の深刻化、マニラ、ジャカルタ、ホーチミンシティ、バンコクなどで50センチメートルを超える海面上昇、台風の巨大化などが懸念されるという。
国連環境計画は「GEO―5 for Business」と呼ぶ報告書を公表。建設、化学、電力、鉱山、金融、食品、医療、情報通信、観光、運輸という10の業種について、地球環境問題の趨勢がどのような脅威と事業機会をもたらすかを記述している。例えば、食品業界では、農産品や畜産品の入手、品質維持が困難となり、価格高騰が深刻化することや、水資源の確保が困難になる懸念を分析している。
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18日に英国の有名科学誌に掲載された論文では、海沿いの世界の大都市136について分析。洪水防止策を大幅に強化しない限り、洪水による年間被害総額が2050年までに1兆ドルに達する恐れがあると警告し、話題となっている。
地球全体の平均気温の上昇が2度以上となることを前提とした対策としては、6月に米ニューヨーク市が公表した「より強靭で、回復能力を有するニューヨークを作る」とする438ページにも及ぶ包括計画が世界的に注目を集めている。
12年10月に街を襲ったハリケーン・サンディの甚大な被害が計画づくりの直接の引き金になったとはいえ、温室効果ガスの排出を原因とする気候変動の影響を加味したうえでの計画だ。実はニューヨークでは08年の段階で、気候変動に適応できるよう対策を講じるべきだとする提言が、有識者等から既になされていたという事実もある。
日本国内では、農業分野で高温などに耐える品種改良の取り組みが打ち出される程度で、包括的な計画立案に至った自治体はない。政府は国としての備えを15年夏にも公表し、都道府県ごとの影響も示す予定だと伝えられる。だが、本来なら「国土強靱化推進」の政策にも、首都直下型地震や南海トラフ地震といった大規模な自然災害に加え、気候変動への適応の視点がより明確に盛り込まれるべきだろう。
この夏、熱中症で病院に運ばれた人は全国で4万人を超え、気象庁の観測地点927のうち、およそ1割の地点で史上最高気温を更新したという。不安をかき立てるべきではないとの意見もあろうが、「ティッピング・ポイント」を超えた世界を、しっかりと直視しておくことは決して無駄ではない。
[日経産業新聞2013年8月23日付]
避けられない「気温2度上昇」の巨大リスク 洪水や台風など :日本経済新聞
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「ティッピング・ポイント(tipping point)」とは、少しずつの変化が急激な変化に変わってしまう転換点を指す用語である。気候変動についても、あるレベルを超えると、気候システムにしばしば不可逆性を伴うような大規模な変化が生じる可能性があることが指摘されている。ティッピング・ポイントを超えて温暖化が進行すると、あたかも揺れるカヌーが転覆したかのように元には戻らない劇的な変化が起きる。5℃を超える気温上昇、1m近い海面上昇など、数千年単位で続く地球環境の激変がもたらされることになる。
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