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朝日新聞デジタルより
http://www.asahi.com/health/news/TKY201210130153.htmll
「世界初」とされたiPS細胞(人工多能性幹細胞)による臨床応用のニュースは、一転して誤報とわかった。読売新聞や共同通信などのメディアは、なぜ研究者の説明をうのみにしたのか。各社は取材過程の検証を始めている。
「肩書は(中略)ハーバード大に確認していれば、否定されていただろう」
13日付朝刊に検証記事を掲載した読売新聞は、iPS細胞を使った手術をしたと主張する日本人研究者、森口尚史(ひさし)氏(48)の「客員講師」という肩書について、大学側に確認しないまま記事にしたことなど経緯を説明。「振り返れば、取材の過程で何度か、森口氏の虚偽に気づく機会はあった」などとした。
1ページ全面を使った検証記事によると、読売新聞の記者に対し、森口氏から取材の働きかけがあったのは9月19日。その後、論文草稿や細胞移植手術の動画などが電子メールで送られてきたという。記者は今月4日、東大医学部付属病院で6時間ほど取材したが、当時は「特に疑わしい点はなかった」としている。
検証記事は、(1)前提となる動物実験の論文が確認できない(2)倫理委員会で承認された確証がない――といった点を重ねて取材していれば、「誤報は避けられただろう」と指摘している。
読売の報道を追いかけた共同通信も検証記事を配信。配信を受けた東京新聞や中日新聞、西日本新聞、京都新聞、神戸新聞などもこの記事や「おわび」を掲載した。検証記事によると、共同通信は読売が報道した11日早朝から取材を始め、米国滞在中の森口氏から話を聞き、同日午前9時半に夕刊用に記事を配信した。「通信社として速報を重視するあまり、専門知識が必要とされる科学分野での確認がしっかりできないまま報じてしまった」という。
日本テレビは13日昼のニュースで、森口氏の論文の共同執筆者全員が「直接的な関与を否定した」と報じたうえで、アナウンサーが「一昨日の放送の中で、森口氏の言い分を断定的に報じましたが、ハーバード大学や病院への裏付けが不十分で不適切でした。おわびします」と述べた。
森口氏については、今回に加え過去にも「ハーバード大研究員」などの肩書で各紙に報じられてきた。
毎日新聞は13日付朝刊で、過去に掲載した森口氏の研究に関する記事5本を「今後検証する」との見解を示した。
同紙は2009年7月から12年8月の間に「肝がん細胞からiPS細胞」「卵巣凍結でがん治療後妊娠」などの5本の記事を掲載。「2本は専門家による審査を経た学術誌に掲載されたほか、3本は国際会議で発表したか発表されることが確実だと判断し紹介した」と説明している。
日本経済新聞によると、10年6月2日付の日経産業新聞が「ハーバード大研究員らC型肝炎治療 副作用少なく iPS細胞活用」と題した記事を掲載していた。同社広報グループは13日付朝刊で「森口氏に関する過去の記事を洗い出し、信頼性や信ぴょう性について調査を始めました」とするコメントを掲載した。
◇
《大石泰彦・青山学院大教授(メディア倫理)の話》 最先端の科学研究の報道には、本当に実現可能なのか、どのような問題が生じるかなど多面的な取材が求められる。研究者の肩書はもちろん、学会での評価を確認するのは当たり前のことだ。読売新聞の報道は非常に詰めが甘く、後追いした報道機関も慎重さが足りなかった。
記者は科学者と同じ知識をもつ必要はないが、信頼できるアドバイザー的な科学者のネットワークを通じ、真偽や評価を確認しないといけない。科学報道について、各報道機関が取材方法や人材育成のあり方を見直す時期にきているのではないか。
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