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仙台市マンション被害の「重い現実」――「倒壊0棟」から「全壊100棟」へと評価が大逆転 (日経BP)
http://www.asyura2.com/12/test25/msg/823.html
投稿者 梵天 日時 2012 年 5 月 16 日 17:15:04: 5Wg35UoGiwUNk
 

http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20120110/295713/

仙台市マンション被害の「重い現実」――「倒壊0棟」から「全壊100棟」へと評価が大逆転 (日経BP)

建築&住宅ジャーナリスト 細野透 2012年 1月12日


伝わりにくかった「真実」
 
 東日本大震災による仙台市のマンション被害は、当初は「倒壊0棟」と認識されていた。しかし、最近では一転して、「全壊100棟」と認識されるようになってきた。

 これは、被災当初の「倒壊0棟」という数字が、間違っていたためなのだろうか。いや、「倒壊0棟」という数字と、「全壊100棟」という数字は、ともに正しい。なんともヤヤコシイ、複雑で深刻な事態に陥ったのである。

 現状を正しく把握するために、これまでの主な経緯を振り返る。

【第1段階─「マンションは地震に強かった」】

 2011年4月21日、社団法人・高層住宅管理業協会は、東北6県で会員社が受託するマンション1642棟の被災状況を発表。「大破0棟、中破26棟、小破283棟、軽微1024棟、被害なし309棟」とした。また、大破よりひどい「倒壊」も0棟だった。

 「倒壊0棟、大破0棟」という数字を見て、不動産業界を中心に安心感が広がり、「マンションは地震に強かった」とする「誤ったイメージ」が広がった。ここまでが、いわば第1段階になる。

【第2段階─「キラーパルスが弱かっただけ」】

 被災直後の大混乱が少し落ち着き、事態を客観的に眺められる時期になったころ、ようやく注目されるようになったのが、東京大学地震研究所の古村孝志教授、および筑波大学の境有紀教授などが発表した「キラーパルス(破壊的強震動)の実態」である。

 古村教授や境教授は、東日本大震災で発生した地震動を分析すると、建物に最悪の被害をもたらす周期1〜2秒の「キラーパルス」が、阪神大震災の2〜5割にとどまったと説明した。そのため、「マグニチュード9、震度7」の巨大な地震であった割には、全壊した建物は少なかったのである。

 この事実をいち早く伝えたのは、専門紙「住宅新報」2011年5月17日号に掲載された「“マンションが地震に強かった”は誤解」と題する筆者による解説記事である。この記事によって、「マンションは地震に強かった」わけではなくて、「キラーパルスが弱かっただけ」という実態が、ようやく広く認識されるに至った。ここまでが第2段階になる。

【第3段階─「マンションは地震に弱かった」】

 これに対して2011年9月13日、NHKテレビ「けさのクローズアップ」は「被災マンション、進まない復興」の中で、「仙台市ではマンション100棟以上が全壊と認定された」と報道。地方紙や全国紙にも「全壊認定100棟」とする記事を見かけるようになった。

 NHKや各紙が「全壊100棟」と報じたのは、仙台市が被災者生活再建支援法に基づいて発行する、マンションの「罹災証明書」の数を根拠にしたものだ。

 2011年10月28日に発行された日本マンション学会誌『マンション学』(第40号)は、「全壊」に苦しむ仙台市のマンション実例を数多く掲載。「マンションは地震に弱い」、「マンションは怖い」という心理的不安が生まれているとする、切実な声を紹介した。


「建築学会の基準」と「内閣府の基準」とのかい離
 
 この3段階を経て、仙台市のマンションは「倒壊0棟」でありながら、「全壊100棟」でもあるという、深刻で奇妙な状態に陥った。考えるまでもなく、「倒壊0棟」という言葉の持つイメージと、「全壊100棟」という言葉のイメージは、天と地ほどに異なる。なぜ、こんな結果になったのだろう。

 実は、高層住宅管理業協会の調査は、「日本建築学会の被災度判定基準」に従ったものである。一方、仙台市が罹災証明書を交付するための調査は、「内閣府が定める災害に係る住家の被害認定基準」に従っている。

 そして、2つの基準には大きな「乖離(かいり)」がある。

 その乖離について研究した主な論文が2種類ある。まず、宮腰淳一、林庸裕、福和伸夫「建物被害データに基づく各種の被災度指標の対応関係の分析」が示す、「木造建物の被害」に関するかい離結果である(表は「資料4」p30から抽出)。

図1


 驚くべきことに、建築学会の判定基準が「小破、中破、大破、倒壊」とした建物が、罹災証明書の認定基準では「全壊」と認定され得るのである。また、「無被害、被害軽微、小破」でも、「半壊」と認定され得る。

 次に、高井伸雄、岡田成幸「地震被害調査のための鉄筋コンクリート造建物の破壊パターン分類」が示す、「鉄筋コンクリート造建物の被害」に関するかい離結果である(表は「資料13」p73から抽出)。

図2


 この論文によると、建築学会の判定基準が「中破、大破、倒壊」とした建物が、罹災証明書の認定基準では「全壊」と認定され得る。

 話が複雑になるので詳細は省略するが、「鉄筋コンクリート造マンション」の場合には、2種類の研究結果のうち、前者(宮腰淳一、林庸裕、福和伸夫)の方が良く当てはまるケースが多いようである。

 これは、同じ鉄筋コンクリート造であっても、オフィス、商業ビル、学校などと比較して、マンションには細かな造作(ディテール)が必要になる部分が多いため、と推測される。

建築学会「判定基準」の詳細
 
 建築学会の判定基準は次のようになっている。

 (1)倒壊──少なくとも、倒壊した部分は、解体して建て直す必要がある。
 (2)大破──解体、または大規模な補強工事を必要とする。
 (3)中破──部分的な補強工事、または補修工事を必要とする。
 (4)小破──構造体を補強する必要はないが、非構造体の補修は必要とする。
 (5)軽微──仕上げ材の補修を必要とする。
 (6)無被害──若干のひび割れがあっても、補修は必要としない。


 これだけでは分かりにくいので、もう少し詳しい資料も紹介する。(「資料1」p6を抽出)

図3

罹災証明書「認定基準」の詳細
 
 これに対して、罹災証明書の認定基準は以下の通りである。

 (1)全壊──住家がその居住のための基本的機能を喪失したもの。すなわち、住家全部が倒壊したり、損壊が甚だしいため、補修しても元通りに再使用することが困難なもの。

 具体的には、住家の損壊が延床面積の70%以上、または住家を構成する主要な要素の損害割合が50%以上に達したもの。

 (2)半壊──住家が居住に必要な基本的機能の一部を喪失したもの。すなわち、住家の損壊が甚だしいが、補修すれば元通りに再使用できる程度のもの。

 具体的には、損壊部分がその住家の延床面積の20%以上70%未満、または主要な構成要素の損害割合が20%以上50%未満のもの。

 (3)大規模半壊──半壊の内、損壊部分がその住家の延床面積の50%以上70%未満、または主要な構成要素の損害割合が40%以上50%未満のもの。

 そして、ほとんど知られていないのが、被災後に行われる調査が、おおむね5種類もあることだ。(「資料9」p7から抽出)

図4

玄関のドアが開かなくなったとき
 
 建築学会の判定基準と、罹災証明書の認定基準は、なぜ大きく食い違うのか。

 理解しなければならないのは、建築学会の判定基準は、主に「建築の構造体(柱、梁、壁)の損傷」と「人間の死傷」の関係に注目していることだ。換言すれば、建築基準法が求める「大地震により建物が倒壊して、人間を死傷させてはならない」とする耐震基準に基づいている。

 これに対して、罹災証明書の認定基準は、主に「被災後の生活をどう建て直すか」という、被災者の生活実感に基づいている。このように、2つの基準は、目指す方向が違っているのである。

 2つの基準の「判定、認定」結果が大きく異なるのは、例えば玄関ドアの被害である。

 鉄筋コンクリート造のマンションで住戸の玄関に金属製のドアを取り付けるとき、おおむね、次のような方法で行う。

 (1)まずコンクリートの壁に穴を開け、その穴にドアの枠を固定する。
 (2)さらに、その枠とコンクリートの間にモルタルを充てんして、ドアの枠とコンクリート壁を一体化する。
 (3)通常、ドアと枠の間には、3ミリ程度の隙間がある。

 大地震でコンクリート壁が変形すると、ドアの枠も一緒に変形する。そして、枠の変形が3ミリを超えると、ドアは開かなくなる。

 このとき、ドアの枠が3ミリ以上変形しても、建築学会の基準によると、判定は、せいぜい「軽微、小破」どまりである。しかし、ドアが開閉できなければ住民は生活できないため、罹災証明書の基準では「住家が居住に必要な基本的機能の一部を喪失したもの」として、少なくとも「半壊」と認定されることになる。

阪神・淡路大震災の真実
 
 覚えている人がいるかもしれないが、阪神・淡路大震災では次のような事実があった。

【マンションの被害(東京カンテイ調査)】

 (1)大破──83棟(そのうち新耐震物件10棟)
 (2)中破──108棟(新耐震物件41棟)
 (3)小破──353棟(新耐震物件173棟)
 (4)軽微──1988棟(新耐震物件1棟)
 (5)無被害──2729棟


【被害後の対応(東京カンテイ調査)】

 (1)大破83棟──64棟を建て替え(そのうち新耐震物件5棟)
 (2)中破108棟──31棟を建て替え(新耐震物件6棟)
 (3)小破353棟──14棟を建て替え(新耐震物件2棟)
 (4)軽微1988棟──6棟を建て替え(新耐震物件1棟)


 阪神大震災の後に、大破したマンションが建て替えられたのはまだしも、中破、小破、軽微にとどまったケースでも建て替えが発生したことに注目しなければならない。

これは、建築学会の判定基準では「小破や軽微」であっても、マンション居住者の生活実感から見ると「居住のための基本的機能を喪失した状態」だったからである。

 罹災証明書の認定基準は、このような生活実感に対応したものになっているため、東日本大震災では「倒壊0棟」という評価が、一転して「全壊100棟」へと変わってしまったのである。

 (なお、東京カンテイ調査のうち、「大破」は、建築学会判定基準の「倒壊」と「大破」を含んだものになっている)。

東日本全体では「全壊200棟」「半壊1000棟」か

 
 被災当初、高層住宅管理業協会の「倒壊0棟」とするデータが伝えられたため、「マンションは地震に強い」とするイメージが広まった。

 しかし、実際には、仙台市において「全壊100棟」と認定された。評価が逆転したからには、「マンションは地震に弱かった」という現実に、正面から向き合わなければならない。

 その手始めに、高層住宅管理業協会による調査結果を精査することにしよう。同協会は、2011年4月21日に東北6県にあるマンションの被災状況を公表したのに続いて、2011年9月21日には関東7都県の被災状況を発表した。

図5

 日本マンション学会誌『マンション学』(第40号)によると、「仙台市内のマンションで、半壊以上の認定を受けたのは、正式には公表されていないが400棟以上に及んでいるともいわれている」(56ページ)。すると、仙台市内では、「全壊100棟」「半壊300棟」ということになる。

 この数字から類推すると、東北および関東のマンション全体では、少なめに見ても、「全壊200棟」「半壊1000棟」に達している可能性もある。

 特に注目したいのは、高層住宅管理業協会の被害集計で、新耐震物件が、中破44棟のうち34棟(77%)、小破1184棟のうち941棟(79%)を占めていたことである。すなわち、多くの新耐震物件が、罹災証明書の認定基準によれば、「全壊」「半壊」と認定され得るのである。

 おそらく、この事実に気づかないで、最寄りの市町村に「罹災証明」の申請をしていないマンション管理組合もあったと思われる。ちなみに、仙台市の場合には、罹災証明の申請窓口は昨年12月28日に終了した。

被災状況報告書の詳細
 
 高層住宅管理業協会の被災状況報告書(2011年9月21日)はこう綴る。

 (1)建物本体または住戸が被災し一時的に使用不能になったものは11棟。
 (2)集会所、立体駐車場、自走式駐車場等建屋が傾いたり破損したりして、一時的に使用不能となったものは27棟。
 (3)タワー式駐車場や機械式駐車場等の機が損壊して、使用不能になったものは87棟。
 (4)マンション敷地内のライフラインが地盤沈下等の原因で損壊し、復旧等の為の工事を要したものは797棟。
 (5)受水槽・高置水槽の被害は33棟に“発生”。そのうち、24棟で水槽本体の破損または傾きがあり、補修で対処できたのは19棟、システムを変更したもの は5棟だった。復旧には1か月以上要したケースもある。(仙台市周辺106棟のみのサンプル調査)
 (6)エレベーターは 、設置していた102棟全てで停止した。復旧は当日復旧が3件、2日〜3日が大半で、1棟はロープ交換のため1週間かかった。(仙台市周辺106棟のみのサンプル調査)


マンション学会誌特集号の「悲痛な叫び」
 
 日本マンション学会誌『マンション学』(第40号、2011年10月28日発行)は、丸々1冊「東日本大震災の復興を考える」特集号だった。

 その中で、宮城県マンション管理士会会長の萩原孝次氏による「宮城県におけるマンション被災」が悲痛である。

 「東日本大震災の被害で特徴的なのは、亀裂やクラックなどというレベルを超えた、外壁のせん断破壊(崩落)の多数発生である。マンション管理センター通信2011年5月号に掲載された、ある建築専門家の言によれば、『雑壁とエキスパンションジョイントは、壊れても良いところが壊れた』とのことであるが、はたして本当にそうなのか」

 「外壁のせん断破壊(崩落)は、それ自身でコンクリート塊の落下を伴い、開口部の損壊(玄関や窓サッシの開閉不能)が発生し避難できなくなる。これにより、住家の機能喪失となり、心理的不安と相まって、避難者が続出することになる。復旧工事計画にもよるが、おそらく1年間は当該住戸に戻れないであろう」

 上記の2項目は、建築学会の判定基準が、マンション居住者の立場から見ると、ある意味で「現実離れ」しているため、居住者が悩まざるを得ないことを訴えている、と受け取れる。

築2年なのに補修費用が1戸当たり200万円
 
 萩原氏の指摘はさらに続く。

 「こうした被災は、たとえば、仙台市泉区のPマンション(築2年、50戸)では、補修費用は約1億円、1戸当たり200万円であり、これには専有部分の補修費用は含まれていない。この多額の補修費用の負担と、罹災証明での『全壊』認定は、当然のことながらマンションの資産価値に大きな影響を及ぼすものである」

 「これまで一部の建築専門家は、住宅機能を担っている非耐力壁を『雑壁』と称してきたが、柱と梁さえ問題なければ、補修費用負担と資産価値はどうでもよいということにはならないであろう。区分所有者がマンションに期待しているのは、地震に強く、安全・安心で快適な都市住宅であり、適正な資産価値である。それらを失わせる被災は深刻なものと考えざるを得ない」

 わずか築2年のマンションで、1戸当たりの補修費用が、共用部分だけで200万円である。また、「全壊認定」により、マンションの資産価値は大きく低下する。

 このように、被災から1年も経っていないのに、マンションに対する評価は、「地震に強い」→「キラーパルスが弱かっただけ」→「地震に弱い」「怖い」と一変した。厳しい現実を直視し、的確に対応していく必要がある。


 

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