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THE PAGE 2/6(月) 13:40配信
水槽を泳ぐアリゲーター・ガー(著者提供)
関東地域の重要な水源となっている多摩川。山梨県から東京都、神奈川県へと流れ、東京湾へとつながる一級河川です。長大な河川としては珍しく、自然護岸も多く残っており、その河川敷は古くから人々の憩いの場として利用されてきました。
【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い
もともと自然豊かだったこの川も、かつては高度経済成長時代の環境破壊と人口密集にともない、汚染が進行し、水道水に使えないほど水質が悪化したこともありました。1980年代以降、下水道や浄化槽の整備など生活排水の管理が進められたことにより、水質が改善されてきており、最近では、江戸時代から「多摩川鮎」「江戸前鮎」と愛好された鮎が多摩川に戻ってきたと話題になりました。
ところが、水質がよくなって、増えたのは鮎だけではありませんでした。様々な外来魚の定着も進み、これまでに200種以上もの外来魚が多摩川で捕獲されています。(解説:国立研究開発法人国立環境研究所・五箇公一)
アリゲーター・ガー、ピラニアなども棲息 外来種の宝庫と化す多摩川
水槽を泳ぐアリゲーター・ガー(著者提供)
外来生物の宝庫、多摩川
その中身をみてみると、グッピーやエンゼルフィッシュといった小型の魚から、ピラニア、アロワナ、アリゲーター・ガーなど、水族館でしか見たことのないような大型の熱帯魚まで含まれます。
2014年には、多摩川河川敷で体長1メートルのニシキヘビが捕獲され、ニュースにもなりました。その他、カミツキガメやワニガメなどの外来カメ類も多数捕獲されています。
ある意味、生物多様性の高さはアマゾン川にも匹敵するのではないのかと、「タマゾン川」と揶揄されるほど、多摩川は外来生物の宝庫となってしまっています。これらの外来生物のほとんどが、ペットとして販売されている種であり、飼いきれなくなった飼い主たちが放棄した個体が野生化したものとされます。一部の種は定着を果たし、繁殖もしていると考えられます。
しかし、熱帯魚がどうやって冬季の冷たい河川中で生き延びることができるのでしょうか? その理由には、私たちのライフスタイルの変化が大きく関わっています。電気給湯器・ガス給湯機の普及とともに、私たちは日常的に大量の温水を使用し、排出するようになりました。その結果、多摩川の水温が上昇し、冬でも熱帯魚が生きられる水域が出来てしまったのです。皮肉なことに水質が改善され、鮎など在来の魚が増えたことも、巨大な肉食魚類たちにとっては、餌資源に困らない条件のひとつとなっていると思われます。
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こうしたペット生物は、販売されるときはほとんどが小さな幼魚・稚魚で、最初は小さな水槽で飼育することもできるのですが、成長するにつれ、場所をとるようになり、さらに餌代もバカにならなくなってきます。最初はそんなに大きくなるとは知らずに購入した人たちが、物理的・経済的理由で手放してしまうというのが、多くの放逐のケースと考えられます。
今後こうした問題を避けるためには、まず飼育者自身が外来動物を飼育する前に、その動物がどれだけ大きく成長するのか、またどれくらい長く生きるのか、といった生物学的な情報を十分に収集した上で、本当に最後まで面倒を見れるのかを判断することが大切だといえるでしょう。
アリゲーター・ガー、ピラニアなども棲息 外来種の宝庫と化す多摩川
佐賀の水路兼ため池にアリゲーター・ガーと思われる魚影が出現(著者提供)
佐賀のため池、名古屋城のお堀にも野生化したアリゲーター・ガーが発見される
ところで、多摩川でも発見されているアリゲーター・ガーといわれる魚は、ここ最近、日本各地の沼やため池、河川でも野生化が数多く報告されています。筆者自身も、トンボの調査で佐賀平野を訪れたとき、クリークと言われる水路兼ため池にガーと思われる魚影が悠々と泳いでいくのを見つけて驚いたことがあります。
アリゲーター・ガーはアメリカ南部から中米にかけて生息する肉食性の淡水魚で、成長すると2メートルを超える世界最大級の淡水魚とされます。巨大な口に鋭い牙がびっしりと生えており、ワニと見まがうその頭部からこの名前がついています。そのエキセントリックな姿形からペットとして人気があり、飼育者も増えたと思われます。しかし、2メートルにも成長するこの大型魚を死ぬまで飼育できる施設を一般家庭が持つことには相当無理があります。
アリゲーター・ガー、ピラニアなども棲息 外来種の宝庫と化す多摩川
佐賀のアリゲーター・ガーと思われる魚影(著者提供)
特に話題になっているのが名古屋城のお堀に定着しているアリゲーター・ガーです。今から8年前にその姿が確認されて以降、毎年成長を続け、今では1.3メートルの大物になってしまいました。お堀のような閉じた環境で、よくそんなに大きくなるものだと思われる方もいるかも知れませんが、お堀の中にはアメリカザリガニやウシガエル、コイ等の外来種が大量に繁殖しており、餌には困らないようです。いわば、外来種の生態系が出来上がっているのです。
名古屋市としてもいつまでも巨大な外来魚を放置する訳にもいかず、定置網や刺し網を仕掛ける等して捕獲作戦を展開してきましたが、いずれも失敗に終わっています。ならば、釣り上げようと地元の釣りの名士たちが名乗りを上げているそうですが、実は条例でお堀での釣りは禁止されており、このケースについても市の許可が降りないのだそうです。
いっそ水をぬけば、外来種の一掃ができるのですが、名古屋城は国の特別史跡に指定されており、保護を任されている市としては石垣が崩れる恐れがあるとして、水抜きも許可は難しいとのこと。本種は2018年4月から環境省・外来生物法の「特定外来生物」として正式に規制対象となる予定となっており、駆除が義務づけられる名古屋市としては本当に頭の痛い問題となっています。
そんな人間たちの憂鬱をよそに悠々とお堀を泳ぐ巨大ガーは、さながら現代の古城の主といったところでしょうか。
【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い(国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)
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