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進学格差、是正へ前進  給付型奨学金 17年度から
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投稿者 あっしら 日時 2017 年 1 月 29 日 02:41:44: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 


進学格差、是正へ前進
給付型奨学金 17年度から 小林雅之 東京大学教授

 公的な給付型奨学金制度の創設が決まり、2017年度から一部が先行実施される。制度創設に関わった小林雅之東京大学教授に寄稿してもらった。

 奨学金制度が大きな変革期を迎えている。

 政府は2016年末に返済不要の公的な給付型奨学金制度の創設を閣議決定した。対象は住民税非課税世帯の1学年2万人で、進学先や下宿の有無に応じて月額2万〜4万円を給付する。一部は17年度に先行実施するが、本格実施は18年度以降で約217億円の予算規模となる見込みだ。

 新制度には給付額や給付対象が少なすぎるという批判もある。しかし、主要国で公的な給付型奨学金がないのは日本とアイスランドだけという現状を考えると、物足りなさは残るものの極めて大きな前進といえる。

 さらに、18年度から日本学生支援機構(JASSO)が所得に応じた返還額(最低月額2千円)となる「所得連動返還型無利子奨学金」を導入する。約48万人が対象になるので、将来の返済に対する学生の不安はかなり軽減されるであろう。

 なぜ今、奨学金の制度改革なのだろうか。

 日本の公的な奨学金制度は1943年の大日本育英会創設に始まる。以来、日本育英会、日本学生支援機構と名称は変わっても、ほとんど大きな制度改革はなかった。
□ □ □
 しかし、この間、奨学金制度を巡る社会経済的状況は大きく変化した。

 第1は高等教育のマス化である。創設当時の大学進学率は1桁で大学生はエリートだった。それが現在は50%を超え、高等専門学校や専門学校を合わせると高等教育進学率は8割近い。

 こうした変化にもかかわらず、奨学金は一貫して貸与型で受給基準はほとんど変わらず、単に量的拡大をしてきただけであった。99年に約10万人だった大学第2種奨学生(有利子奨学金)は、14年には約70万人に拡大した。

このため、奨学金は経済的困窮かつ業績優秀な者に教育機会を提供するという役割だけでなく、中低所得層の教育費負担軽減という役割が大きくなっている。

 第2は格差の拡大である。近年、経済的な格差の拡大が深刻な社会問題となり、それが進学格差につながっている。私たちの調査(12年)では年収400万円未満の低所得層の大学進学率は約28%にとどまるのに対し、年収1050万円以上の高所得層では約63%と2倍以上の格差がある。

 意欲も学力もある者が進学できないのは、本人にとって損失だが、社会にとっても損失だ。教育機会の格差や経済格差を是正し、貧困の連鎖を断ち切るためにも、奨学金とりわけ給付型奨学金が必要なのである。

 第3は労働市場の変化である。かつて大卒労働市場は終身雇用制度で奨学金返還はそれほど困難ではなかった。だが、現在は大卒者の3人に1人が3年以内に離職、あるいは非正規雇用という不安定な雇用状況にある。奨学金返還が困難になり滞納者が増えている。

 このように従来のJASSO奨学金は基本的にエリート時代の育英主義のままであり、高等教育のマス段階への対応が不可避だったのである。

 ただ、公的な学生への経済的支援、とりわけ給付型奨学金の創設には、批判や反対論も根強い。筆者のみるところ、異なる評価の背景には教育、特に高等教育に対する考え方の相違がある。
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 一つは、高等教育のコストは誰が負担すべきかという考え方の相違である。日本では教育は親や家族の責任という考え方が極めて強い。これが教育費は家計で負担すべきだという負担観に結びつき、そのコインの裏側として高等教育費の公的負担が少ない。経済協力開発機構(OECD)によれば日本の高等教育費の家計負担はチリに次いで重い。対極にあるのが、教育は社会的に重要であり社会が支えるべきだという公的負担論である。

 もう一つは、教育を投資とみるか、消費あるいは福祉とみるかという相違である。後者の立場に立てば、給付型奨学金は低所得層対策であり、所得の再分配政策である。一方、教育を投資としてみると、所得と学力の相関が極めて高いために、低所得層の教育の効果は薄く、給付型奨学金はばらまきで無駄という意見につながりかねない。

 こうした批判や反対論に対して、これまで政府も大学も学費・授業料の減免や奨学金の経済効果、休学・中退防止効果を必ずしも明確に把握してこなかった。政府や大学は奨学金が持つ社会的・経済的効果を明らかにする必要がある。

 奨学金を巡る議論は、学生支援という観点だけではなく、授業料減免や大学への補助のあり方の検討につながる。国立大学では運営費交付金が減少する一方で、授業料減免制度が04年度の約175億円から16年度には310億円へと大幅に拡充されたことはあまり知られていない。これは給付型奨学金とは別個の政策として進められてきた。

 そろそろ私立大学への国庫助成を含め、高等教育の公的負担のあり方を総合的に検証する時期に来ているのではないだろうか。機関補助と個人補助との組み合わせや、教育と研究の費用負担など高等教育財政のあり方の包括的な検討である。これは究極的には高等教育費の公的負担と私的負担のあり方を問う、つまり高等教育のコストを誰がどのように負担するかという議論にもつながる。

 2月からの次期中央教育審議会では高等教育のグランドデザインを検討する。高等教育費負担のあり方について議論が進むことを期待したい。

[日経新聞1月23日朝刊P.22]


 

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