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自殺未遂50万人の衝撃…私たちの「一言」の功罪 河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学 4人に1人が「過去1年以内
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 9 月 27 日 08:07:38: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

自殺未遂50万人の衝撃…私たちの「一言」の功罪

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学

4人に1人が「過去1年以内に本気で自殺したいと考えた」
2016年9月27日(火)
河合 薫

(写真:Beijing View Stock Photo/アフロ)
 53万5000人―――。

 これは過去1年以内に自殺未遂を経験した人の数である(推計)。

 「自殺未遂者は、自殺者数の10倍程度」というのが、これまでの定説だった。ところが日本財団が行った調査で、20倍近くもいることが明らかになったのである。しかも、そのうち、女性の49%、男性の37.1%が、「4回以上、自殺未遂を経験した」と回答したのだ(「日本財団 自殺意識調査2016(速報)」)。

 このショッキングな結果の内訳を見ると、性別では男性26万4000人、女性27万1000人と若干女性が多く、年代別では20代が最も多くて、次いで30代と若い世代ほど多かった。


(出所:「日本財団 自殺意識調査2016(速報)」)
 さらに、過去1年以内に「本気で自殺したいと考えたことがある」人は25.4%と、4人に1人。そのうちの6.2%は「現在も自殺を考えている」と回答した。

 ……なんとコメントすればいいのだろう。

 死について考えたり、死んでしまいたいという思いが“頭をよぎる”ことは、誰にでもあるだろう。だが、それと具体的な死の手段を考え、“実行する”ことは全く別。たとえそれが、未遂、に終ったとしても、だ。

「自殺(自死)は『追い詰められた末の死』であり、『避けることの出来る死(avoidable death)』。つまり、個人の問題ではなく、社会的な問題である」

 これは世界保健機関(WHO)が、2003年に国際自殺予防学会(IASP)と共同で開催した世界自殺防止会議において出した、メッセージである。

 これを受け自殺率が高かった海外の諸国では様々な自殺対策を講じ、積極的に国家プロジェクトとして取り組んだフィンランドでは、10年間で自殺率を3割減少させた。

 日本でも年間の自殺者数が3万人を超えた「98年ショック」以降、自殺の原因となり得る失業や多重債務などへの対策や自殺防止の啓発が進み、中高年の自殺者は減少した。

 ところが、それに替わるように「若者問題」が浮上。日本の自殺率は先進国で最も高く、米国の約2倍、英国の約3倍で、全世代を通じて1日70人近くが追いつめられた末に亡くなっているのである。

 なぜ、若者たちは、生きる力を失うのか? 日本社会の何が、追いつめるのか?

 
 そこで世界自殺予防デー(9月10日)があった今月最後のコラムは、「避けることの出来る死」について考えてみたい。

自殺未遂者の「5人に1人」が、身近な人を自殺で亡くしている

 冒頭の調査では、追いつめられた人の“心模様”を垣間見ることができる、とても大切な結果も得られているので、そのあたりも含めもう少し詳しく紹介する。


http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/092300070/1-graph1.JPG


【自殺未遂について】
•過去1年以内に自殺未遂を経験した人は推計53万5000人で、20代が最も多い(前出)

※推計方法は調査結果から性別・年齢別自殺未遂率を算出し、平成27年度国勢調査の結果を掛け合わせた。

•81.4%が、2つ以上の理由が重なり自殺未遂に至ったと回答
•全体では「健康問題」「家庭問題」「経済的問題」などが原因の上位
•男性(20〜39歳)では、「離婚」「事業不振」「失恋」「倒産失業」
•女性(20〜39歳)では、「家庭内暴力」「家族の不和」「子育ての悩み」


【自殺念慮について】
•4人に1人(25.4%)が「本気で自殺したいと考えたことがある」とし、そのうちの6.2%は現在も自殺を考えている
•20〜39歳では、3人に1人(34.5%)
•7割以上が「誰にも相談しなかった」

【自殺のリスクを抑える要因は何か?】
•「私は他者の役にたっている」「私は他者から信頼されている」「私は他者から『ありがとう』と感謝されたり、褒められることがある」などの、自己有用感
•「私には問題を解決できる能力がある」という自己効力感
•「家族や恋人が悲しむから」といった感覚

【その他】
・5人に1人が「身近な人を自殺で亡くした」と回答
・そのうち33.9%が自殺念慮を抱き、10.4%が自殺未遂を経験
 さて、これを見てどう思われただろうか?

 私は……、自殺未遂者の数にもショックを受けたが、「5人に1人」もの人が、身近な人を自殺で亡くしているという事実に、正直驚いた。そんなにいるのか、と。

 実は私にも経験がある。父の部下だった方が自殺したのだ。その方は私たち家族が米国滞在中に、何度も遊びに来てくれた方だった。亡くなったとき、私は中学2年生。記憶には曖昧な部分がかなり多い。それでも、お別れに行ったときのとてつもない重たい空気だけは、鮮明に記憶している。

「自分がいなくても」から始まる喪失感

 これまでフィールドインタビューに協力してくれた600人超の中にも、身近な人を自殺で失った方が数人いらっしゃった。その中の1人は「なぜ、自分は部下を救えなかったのか」と、切ないほど自分を責め続けたと明かしてくれた。

 彼の部下は亡くなる直前の飲み会で、「自分がいなくとも、仕事って結構、回るんですよね」とボソッとつぶやいた。

 そのとき彼は、ご自身が課長になり立てで、自分の役割を明確にできず悩んでいたそうだ。そこで、「課長がいなくとも、チームは回る。そういうチームを作ることができれば、リーダーとしては成功なんだろうね」とそのまま自分に置き換え、彼の言葉を否定するような言葉はかけなかった。

「なぜ、あのとき『たとえ仕事は回っても、キミがいなくなったら僕は困る』と言ってあげられなかったのか」

 「自殺の原因は仕事にある」と多くの人が考えていたので、彼は余計に自分を責めた。部下が亡くなったあと、1年も2年も自分を責め続けた。

 そして、たまたま「ストレスで成長しよう!」という私の講座のタイトルを見て(社会人向けの講座を当時持っていました)、「自分を追い詰めるばかりではなく、成長につなげたい」と考え、講座に参加し、フィールドインタビューにも協力してくれたのだ。

「自分のことを永遠に許せないかもしれません。でも、彼の死を忘れようとしていた自分とは別れられそうです」

 男性は部下のことを吐露し、私にこう言った。

 自分がいなくても――。

 そんな思いに駆られることは、誰にでもある。少なくとも私にはあった。「自分が消えた世界」を何度か想像した。

 いつ、どこで、を具体的に思い出すことはできないし、きっかけがなんだったのかも定かではない。たわいもないことがきっかけだった気もするし、自分では精一杯がんばっているのに認めてもらえなかった時だったような気もする。他者に執拗に否定されたり、バカにされたことがきっかけだったようにも思う。

人間は、たった一言で「自分の存在価値」を見出せる

 「有意味感(sense of meaningfulness)」――。

 これは人間の生きる力である、Sense of Coherence(=SOC)のエンジンになる感覚で、半歩でも一歩でも前に進もうという、モチベーション要因となる感覚を示した概念である。

 「意味がある」という感覚は、自分が携わっている仕事などに向けられることもあれば、自分の存在意義そのものに向けられることもある。

 有意味感が高いと、「ストレスや困難は自分への挑戦で、これらに立ち向かっていくのに意味がある」と考え、前向きに対処できる。どんな困難であろうとも、どうにかして前に進んでいこうと生きる力が引き出される。

 一方、有意味感が持てないと、生きる力が萎える。自暴自棄になり、ストレスの雨に対峙する傘をさそうという気力もなくなり、ひたすら雨に濡れ続けてしまうのだ。

 人間というのは、実に厄介な動物で、
「他人の評価なんか気にするな」と思う一方で、「他人に認めて欲しい」と願う。
「放っておいて欲しい」と思う一方で、「自分の存在に気付いてほしい」と願う。 他者の存在を「めんどくさい」と思う一方で、他者に頼られるとうれしくなる。

 私たちは他者のまなざしを通してでしか、「自分」に確信が持てない。いや、正確に言うと「できない」わけではなく苦手。自分と向き合うことを、何よりも恐れる人間は、「あなたがそこにいるってこと、ちゃんと分かっていますよ」というメッセージを感じたくて、生きているのだ。

 逆説的に言えば、「あなたは大切だ」「あなたがそこにいることは、ちゃんと分かっていますよ」という価値あるメッセージを他者から繰り返し受けることが、生きる力をもたらす。たった一言、「ありがとう」と感謝されたり、「がんばってるね」と認めてもらえるだけで、「自分の存在価値(意味)」を見い出すことができ、有意味感が高まっていくのである。

私たちは価値あるメッセージの送り手になれているか?

 1986年から国家レベルで自殺対策に取り組んだフィンランドでは、自殺に至った要因の徹底的な分析と、数年にも渡る遺族の聞き取り調査を行い、自殺予防の全国的な戦略を立てた。自らも自死遺族であった社会保健省の大臣の強力なリーダーシップのもと、「必要な人」に届く政策が進められ、20年間で自殺死亡率を30%減少させることに成功している。

 自殺への偏見、自殺未遂者への適切なケア、うつ病に関する知識などの正しい普及、著名人によるうつ病の公表など、国家プロジェクトとして取り組んだことで、国民の意識も高まった。

 自殺関連の報道についても徹底されていて、具体的な内容は報道されない場合がほとんどで、著名人が亡くなった場合も、具体的な死因や自死の場所や方法が報じられることは極めて少ない。

 日本では「98年ショック」以降、「社会的な問題として取り組む必要がある」と認識されるようになり、さまざまな対策が講じられてきた。

 2006年には「自殺対策基本法」が制定され、日本の自殺者は6年連続で減少し、2015年は2万5000人を下回っている。

 この春からは基本法が改正され、都道府県が策定していた基本計画の作成を市町村にも義務付けたり、自殺未遂者を支援する拠点病院も置かれるなど、更なる取り組みも進められている。

 だが、いまだに多くの人たちが、今、この時間も追いつめられている。

 「離婚」「事業不振」「失恋」「倒産失業」「家庭内暴力」「家族の不和」「子育ての悩み」――。20代、30代が自殺未遂に至った原因には、人間関係に関するものも多く含まれている。

 マイナス評価がはびこり、時間的余裕も精神的余裕もない現代社会が、その温かい瞬間を奪い、自身も他者に無関心になったり、SNSで攻撃したりと、無用な刃を向ける存在になっていないだろうか?

 件の調査では、「自己有用感(=有意味感)」が自殺リスクを抑え、「自分の死を悲しむ人がいる」という確信が、暗闇に差し込む一筋の光になることが示されていたけど、私たちは価値あるメッセージの送り手になれているだろうか?

 余裕のあるときだけでもいい。「あなたは大切な人です」という気持ちを、声にしてください。


このコラムについて

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/092300070  

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