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陰山英男さん〜「デジタル学習」「貧困」そして、将来進むべき道:子どもたちは、これからどうすべきか
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投稿者 rei 日時 2015 年 6 月 29 日 12:34:44: tW6yLih8JvEfw
 

未来授業〜明日の日本人たちへ

陰山英男さん〜「デジタル学習」「貧困」そして、将来進むべき道:子どもたちは、これからどうすべきか

2015年06月26日
 今回の講師は、立命館大学教授で立命館小学校校長顧問の陰山英男さん。百ます計算をはじめ、「読み書き計算」の徹底した反復学習と生活習慣を改善し、子どもたちの学力を驚異的に向上させたことで知られています。その指導法「陰山メソッド」は、教育者、保護者から注目を集め、「徹底反復シリーズ」は大ベストセラーに。

 そんな陰山さんの目に、現在の子どもたち、そして教育のあり方はどう映っているのでしょうか?

浸透するデジタル学習の可能性


 「デジタル学習」が浸透してきましたが、実をいうと子どもたちはすでに、ニンテンドーDS、タブレット端末、スマートフォンなどのデジタル機器に慣れています。たとえば福島の山奥の学校へ視察に行ったとき、私が教えようとしていたことを子どもがすでに知っていたので驚いたことがあります。理由を聞いてみたところ、返ってきたのは「陰山先生が来るというので、YouTubeで予習してきました」という答えでした。

 その半年後くらいに石垣島へ行ったときも、音楽の先生から似たような話をお聞きしました。新しい曲を教えようというとき、ちょっと気の利いた子どもだと、教える前から歌える状態になってきているのだそうです。なぜなら、やはりYouTubeで予習しているから。

 つまり、一部ではあるとはいえ、子どもたちのなかではもう、デジタル学習は特別なものではなくなっているのです。ただし、それを学校でやろうとする際には「著作権問題」という障壁があります。たとえば室町時代の勉強をすることになれば、やはり金閣寺の写真を子どもたちに見せたい。でも、教材として学校教師が見せようとすると、そこには著作権が絡んでくるのです。

 紙ベースでつくられている現在の教科書も同じです。教科書はものすごくお金をかけてつくられているので、著作権の塊みたいなもの。ですから、教科書をもとにして参考書や問題集をつくるとしても著作権の問題が絡んできて、非常にハードルが高いのです。

 そんな事情があるので、デジタル機器を使った教育は今後、理想通りには進まない気がします。無限大の可能性を持つ一方、システムや法律の問題についてのいろいろなハードルがあるからです。問題をクリアするためにはたくさんのお金がかかりますし、保護者の負担も軽いものではありません。そういう意味でも、費用対効果の問題があって進みにくいわけです。

 そんななか、私はニンテンドーDSで漢字や百ます計算のコンテンツをつくっているのですが、他方には、学校で1年かけて教わる漢字を2〜3時間のうちに覚えてしまうような子どもが出てきているのも現実です。要は基本的な条件が整えば、ある段階で状況が一気にブレイクし、当たり前になっていくのだということ。だからこそ、ブレイクする瞬間が少しでも早く来るように、私もいろいろな側面からバックアップしているのです。

 デジタルの世界では、インターネットを通じて世界中のありとあらゆる情報にアクセスできます。そうなってくると、子どもたちの「学びたい」という意欲が強ければ強いほど、どんどん先へ先へと勉強することができるようになるわけです。

 教育ウェブサイトの「カーンアカデミー」が世界的に有名になっていますが、そこではアメリカの高校までのカリキュラムがインターネット上で公開されています。つまり英語さえわかったら、高校までのアメリカの学習が体験できてしまう。そうなってくると、「学校」「学級」「学年」などの概念が消えていく。これからはさらに、そういうふうになっていくのではないかと思っています。

 特に、この10年間の変化は顕著です。たとえば立命館小学校には、カバンのなかに大学生が使う数学の本を入れている子どもがいます。そういう子どもたちが学びたいと思ったら、どこまでも進んでいけるという時代がそこまで来ている。むしろ、「子どもは子ども、大人は大人」という枠組みにこだわっていると、私たち自身が取り残されていくのではないでしょうか。楽しみでもあり、怖くもあるという、ちょっと近未来的な感覚です。

子どもの貧困

 子どもの貧困が叫ばれ、数値的なものもいろいろ出てきています。ただ、私自身は、経済的な貧困についてはあまり心配していません。というのも、昔を振り返れば、たとえば野口英世など、貧しいところから立派になった人はたくさんいるわけです。歴史上の偉人を例に出さなくても、「中卒で社長さんになりました」「大金持ちになりました」という人も多い。それに現代では、数多くの福祉的な補助金もあります。

 ただし、ひとつ不安なのは愛情の問題です。貧困から這い上がったこれまでの人々は、たとえ経済的に貧しかったとしても、愛情豊かに育てられていた。そして、夜はきちんと寝ていた。ところが、いまの子どもたちには、大人のゆとりのなさが影響している。子どもへの虐待や、満足な食事や睡眠を与えられないというような、命の根本に関わる貧しさが忍び寄ってきている。それは子どもの貧困というよりも、大人たちの哲学の貧困、人間関係の貧困、睡眠時間の貧困です。そういう、子どもたちが伸びていくための土台の段階で貧しくなっている気がするのです。

 そして、児童相談所も手一杯です。ひとりの相談員が何十件もの案件を抱えているので、とてもじゃないけれど各家庭を回りきれないというのが実態なのです。しかし、「子宝」ということばがあるとおり、やはり社会として「子どもたちは未来の宝だ」ときちんと捉えなおすべき。そこがいま、いちばん求められているような気がします。

 特に子どもたちの睡眠について、日本は世界最悪です。十数年前から、世界中の子どもたちが何時に寝るのかを調べている国際的な学会があり、日本の代表団の人たちがそこに日本のデータを持って行ったところ、突き返されたのだそうです。「ありえない」「こんなに短い睡眠時間で子どもが育つはずがないだろう」「あの賢明で子ども思いの日本人が、子どもをこんな睡眠の状態に置いているはずがない。持って帰ってくれ」というのがその理由だったそうです。

 しかし「調べてみると、どうやら本当らしい」ということで、海外から調査団の方が来られました。その結果、子どもたちが居酒屋で大人と一緒にいるとか、深夜のコンビニに乳幼児を連れたお母さんが来ているような光景を見て、非常に驚いたそうです。

 いまは「早寝、早起き、朝ごはん」が国民的な合い言葉といえるほどに拡がり、状況は改善しています。けれども、世界最悪という汚名はまだ晴らされていません。ですからそういう意味では、子どもたちの睡眠は絶対的な課題になっていると思います。

 私自身は、どうあっても子どもたちの生活習慣が正されていかなければいけないと思っています。文部科学省の調査にも、朝ごはんと学力の関係や、睡眠時間と学力の関係などもはっきりとデータに出てきています。やはりきちんと睡眠をとらせてあげないと、本当に子どもたちの未来が大変なことになると思います。


子どもとSNS


 全国学力テストが行われる際、いつも一緒に生活アンケートをとっています。そのなかで去年いちばん注目されたのは、スマートフォンを使う時間と学力との相関関係でした。端的にいえば、スマートフォンを使えば使うほど、成績は極端に落ちます。全学年を通して、見事にそのデータが出ている。ですから、いかにその悪影響を断つのかは重要な問題です。

 でも私自身は、スマートフォンを使うこと自体が悪いとは思っていません。要は使い方の問題だからです。自分自身にとってSNSがどういう意味を持つのかを、子どもたちはきちんと知らないままでいる。その結果、「友だちと仲よくしましょう」「良好な人間関係を保ちましょう」ということが、いつしか「メールが来たらすぐ返信しましょう」というようなことに転化してしまっている。

 でも、自分たちが幸せになり、よりよい未来を作り上げていくためには、「スマートフォンやSNSなどを自分がどうすべきなのか」ということを、家庭でも学校でもしっかり考える時間をつくることがいまこそ望まれているはずです。

 「LINEはずし」が問題になっていますが、LINEからはずされても気にしすぎないようにしましょう。「はずされてはいけない」という思い込みが、いじめの材料になってしまっている。昔は、外での人間関係が悪くても、家に帰ればゼロになれました。いじめっ子が家にまで来るわけではありませんから。ところがデジタルは、家のなかまで忍び込んできてしまう。ここが問題で、LINEはずしがどうということよりも、家庭にそういう人間関係が入り込んできて、睡眠時間を削っていること、そして心の癒やしとか、疲れをとる時間が失われてしまっていること、ここが本当の問題なのです。

 仲間はずれにされても立派な大人になっている人もたくさんいます。いじめは最終的に、暴力だったり、あるいは金品を脅し取られたりして深刻になっていくわけです。私はむしろ、LINEはずしによって、本当に自分のすべてを奪われるように思ってしまうという精神構造そのものを打ち破る必要があると思っています。

 おそらくいま、人類は初めての時代を迎えています。昔は新しい機器が出てきたとき、大人が使い方を知っていて、子どもたちはそれを教えてもらっていました。しかし、たとえば、昔はかまどを使って炊いていたご飯も、電気炊飯器でできますから、「おばあちゃんの知恵」の価値がなくなり、「若嫁さんの電気炊飯器の使い方」みたいなものになってきた。要するに、知識が家庭内でパワーシフトを起こしているのです。

 そしてスマートフォンになると、子どもの方が使い方を知っているわけです。すると、子どもの方が強いということになり、大人たちは変化についていけていない。私たち大人が、「これをどのように活用し、どのようにすれば自分をよい方向に導いていけるか」ということを自分の問題として考えない限り、子どもたちに負けてしまいます。ですから、泥くさい考えではありますが、「人間として生きる知恵のようなもの」を取り戻すいい機会のような気がします。

将来どう生きていくべきか

 昔からいわれていることですが、学校の先生は実社会を知らないまま、学校を出たらまた学校に入っていきます。ですから、トータルとして一般の社会がどう動いているのかを知らないのです。

 学校は、よくも悪くも特殊な世界です。学校のなかでは善悪のけじめや、基本的な生活習慣など、人間としての基本的な部分をきちんと学習し、そうして一つひとつのことを積み上げていくわけですが、一方で実社会はダイナミックに動いています。ですから、どうしても教員と実社会の流れの間にはズレができてきてしまう。しかも、閉ざされているにもかかわらず、日本全国に先生は100万人くらいいる。

 だから、若い先生もベテランの先生も、一般社会の方々との価値観の調整が必要だと思います。教職員や学校の価値観が悪いという意味ではなく、交流をしなければいけないということ。だから私は、基本的に「民間人校長」には賛成なのです。もちろんトラブルが出てきている部分は修正すべきですが、学校が自然に社会に溶け込むように、先生も自ら調整すべきだと思うからです。

 私はROJE(日本教育再興連盟)という教育NPOをやっており、関東と関西から集まった200名近い学生たちに、東日本大震災で被災した子どもたちの支援を手伝ってもらっています。福島でがんばっている子どもたちとゲームをしたり、あるいは学習支援をしたりしているわけです。そして、夏休みには子どもたちに東京まで来てもらって、いまの日本社会がどのようにダイナミックに動いているのかを見てもらっています。

 そうしたなか、「自分たちが将来どのように生きていくべきなのか」ということを考えてもらい、学生たちにどういう支援ができるのか、また、学生自身がどういう生き方をするべきなのかを考える場としているわけです。それは、学校の先生方が、困っている子どもたちに思いを馳せ、適切に支援していくことのトレーニングとしても意味があるのです。

 参加している若者は学校現場に入る人たちばかりではなく、教材会社に行ったり、文部科学省に入省していったり、もちろん教師になる人もいます。彼らは大学時代に同じ釜の飯を食って、同じプロジェクトをやってきたわけですから、5〜10年後、いよいよ最前線に立ちはじめたころには、学校現場の先生が「文部科学省はいまどうなってるんだ?」ということを電話一本で知ることができるようになるわけです。

 私自身がこのプロジェクトを立ち上げたのも、鈴木寛さんという民主党で文部副大臣をやっていた方とつながり合えたことがベースになっています。だから、「おそらくいまの若者たちがやっていることが、5〜10年後にかたちになり、いろんな意味で日本のジャンプアップにつながるんじゃないか」ということが実感できる。だから、それを楽しみにし続けています。


(FM TOKYO「未来授業」2015年5月11日(月)〜5月14日(木)放送より)

https://www.blwisdom.com/linkbusiness/linktime/future/item/10158-153.html?mid=w515h90500000492638
(2015年6月26日公開)  

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コメント
 
1. 2015年8月15日 23:44:24 : nJF6kGWndY
タイラー・コーエン 「学級規模はそれほど重要ではない」(2003年9月19日)
2015年8月5日 by hicksian leave a comment
●Tyler Cowen, “Class size doesn’t matter much”(Marginal Revolution, September 19, 2003)
________________________________________
学級規模(1クラスあたりの生徒の数)を縮小しても(クラスの少人数化を推し進めても)生徒の成績は大して改善されない。つい最近の(2003年に実施された)OECD(経済協力開発機構)の研究でそのような結論が導き出されている(教育問題を専門とするブロガーのジョアン・ジェイコブズ(Joanne Jacobs)1もこの研究についてコメントを加えている)。学級規模は生徒の成績に影響を及ぼす要因としてはそれほど重要なものではないという結果はこれまでにも得られている2が(この点についてはこちらのサーベイ(doc)とこちらのノートも参照されたい3)、ダグラス・ウィルムス(J. Douglas Willms)(pdf)が率いる今回のOECDの国際比較調査はそのような過去の研究結果を裏付ける格好となったわけだ。もし仮にアメリカで学級規模の縮小が推し進められることになれば教師の質の悪化という「意図せざる結果」がそれに伴うことだろう4。〔というのも、学級規模が縮小すればそれに伴って必要となる教師の数が増えることになるが、必要な教師の数が増えるにつれて(新たに採用される)教師の質も徐々に低下する可能性があるからである〕。
どうにかして生徒の成績を高めたい(教育の質を高めたい)。そう考えるのであれば、学級規模を縮小することよりも大きな効果を秘めている以下のような方法を試してみた方がいいだろう。
・・・教師と生徒との関係改善を図る(よりよい人間関係の構築を図る)、読み書きの専門家(literacy specialist)を学校に雇い入れる、文字を読む能力がなかなか身につかないでいる(学習障害の傾向のある)小学2年生以下の児童に対して早めに特別な支援を行う、学級経営(classroom management)の充実を図るために教師にそのための術を教え込む、家庭での本の読み聞かせを推奨する、幼児教育プログラムの充実を図る
ジェイコブズが語るところによると、学級規模の縮小によって最大の恩恵を被る可能性があるのは幼稚園児や小学校に入学したばかりの1年生(その中でも様々な面で不利な立場に置かれている児童)ではなかろうかということだ。
1. 訳注;該当エントリーはリンク切れ。その代わりに「学級規模」(class size)というタグがついている一連の記事に飛ぶように訳者の側でリンクを張り替えてある。 [↩]
2. 訳注;ナショナル・ポスト紙(カナダの新聞)の“Class size overrated, research suggests”(by Heather Sokoloff, September 18, 2003)というタイトルの記事にリンクが張られているが、こちらもまたリンク切れ。その代わりにこの記事を全文引用しているブログエントリーにリンクを張り替えてある。 [↩]
3. 訳注;学級規模の縮小が生徒の成績に及ぼす影響について検証した先行研究のサーベイとしては次の記事も参照されたい。 ●畠山勝太, “「35人学級見直し議論」を大人の茶番ですませてはいけない”(synodos, 2014年11月11日) また、学級規模の縮小が生徒の成績に及ぼす影響を日本のデータを用いて実証的に検証した試みとしては次の記事で紹介されている研究を参照されたい。 ●赤林英夫, “少人数学級政策の教育効果の不都合な真実”(synodos, 2015年2月4日) [↩]
4. 訳注;学級規模が縮小しても生徒の成績が大して改善されないのは(学級規模の縮小に伴って)教師の質が悪化する可能性があるからだ、ということをこの一文でおそらく言いたいのだろう。 [↩]
http://econ101.jp/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%B3-%E3%80%8C%E5%AD%A6%E7%B4%9A%E8%A6%8F%E6%A8%A1%E3%81%AF%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%BB%E3%81%A9%E9%87%8D%E8%A6%81%E3%81%A7/ 

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