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「虐待許しますか? カネ払いますか?」 介護現場にうごめく感情の“不協和” 過酷な職場、低賃金、家族からのクレーム――
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投稿者 rei 日時 2015 年 4 月 21 日 20:24:44: tW6yLih8JvEfw
 

 
「虐待許しますか? カネ払いますか?」 介護現場にうごめく感情の“不協和”

過酷な職場、低賃金、家族からのクレーム――。介護員のメンタルは限界に

2015年4月21日(火)  河合 薫

 先日、東京MXテレビの朝の情報番組『モーニングCROSS(モーニングクロス)』に出演したときのこと。番組内で流された“ナマの声”がとてつもなく重たいもので、多くの方たちに知ってもらうべき、と考えたので、今回は、これらの発言をもとにアレコレ考えようと思う。

2回目の介護報酬引き下げを実施

 「日本全体が高齢化になってきちゃっているので、報酬が下がるのは仕方がないかなぁって思うところはちょっとあります」

 「株価が2万円になって賃金も上がって大企業はいいのかもしれないけど、残りの小さい事業所は苦労している部分がたくさんある」

 「事業が回っていかないと、職場の人間には給料が発生しません。でも、事業所がなくなることで一番困るのは、サービスを受けたい利用者の方たちだと思うんです」

 「介護報酬ができたときは、もうちょっといい金額が出ていたのに、徐々に下がってきていて、減る一方なのかなぁ〜って」

 「介護職が虐待するっていうニュース……あってはならないことだし、絶対あっちゃいけないんだけど……分からなくない瞬間っていうのがある……かなぁって。誰にでも、実はそういう事件を起こしてしまう立場にあるんだなぁって……常に思う」

 「介護を必要とされている方の年齢が変わってきている。年代が下がってくると、お金は出してる、だからこれくらいのサービスはしてもらって当たり前って感じがあって。ご家族からも、『どうしてできないの?』というような要望が強い感じはある」

 「介護系と保育系の資格を統合していこうという話があるが、今まで持っている人はどうなるのかなぁとか、資格が取りづらくなるのかなぁとか、移行期にはドタバタするんじゃないでしょうか」

 さて、“ナマの声”の主たちは?
 はい、そうです。すべて介護の現場の方たちの声であります。

 ご存じの通り、この4月から介護報酬が2.27%引き下げられた。これは2006年の2.4%の引き下げから2回目のこと。前回の引き下げで労働力不足に拍車がかかったにもかかわらず、再び引き下げを決めたのは狂気の沙汰としか言いようがない。

 介護施設の人権費率は約6割、訪問系介護は7割と大きいため、報酬引き下げはダイレクトに労働力不足に影響を及ぼす。政府は、介護労働者の賃金を月額1万2000円引き上げるとしているが、労働者にちゃんと支払われているかを確かめる手段もなければ、毎月の賃金が上がる代わりにボーナスや手当が減らされて実年収が下がる可能性は高い。

 またもや、アリバイ作りか?
 「僕たちちゃ〜んと賃金上げてねって言ったじゃん。後は現場でよろしくね!」と。
 ついそんな意地悪も言いたくなる。

 いずれにせよ、番組のスタジオで彼らの“ナマの声”を聞いたとき、「なんてすごい人たちなんだろ」と素直に思った。

 政府の方針、社会から向けられるまなざし。そのすべてを、現場の人たちはしっかりと受け止めていた。
 「賃金をもっと上げるべき!」というポジティブな声も、「虐待なんて許せない!」と批判的なまなざしも、そのすべてを現場の人たちは、実に謙虚に、冷静に、そして、倫理的に受け止めていることに、「なんてオトナなんだ」と感動してしまったのだ。

 だが、その一方で、画面に映し出された表情、言葉と言葉の間からは、
 「もっと賃金上げてよ!」
 「介護報酬が下げられると、しわ寄せが現場にくるんだからやめてよ!」
 「虐待したくなる気持ちだって、少しだけ分かってよ!」
 といった葛藤と混乱でグチャグチャになった悲鳴が聞こえてきて……

 その声なき声こそが、介護現場のホントの問題なのだ、と。改めて、問題の根深さを痛感させられたのである。

「食事」「排泄」「入浴」援助だけでは足りない

 21世紀は「ケア産業の時代」と言われ、かつては、家族に埋め込まれていた機能が、ヒューマンサービスとして外部から提供されるようになった。

 特に介護サービスでは、「3大介助」といわれる「食事」「排泄」「入浴」を超え、サービスを受ける人の「well-being(健康で幸福な状態)」という普遍的なニーズの充足にまでサービス領域は拡大した。

 その大きなきっかけとなったのが、平成15年度(2003年度)介護報酬の見直し案。「個々の利用者のニーズに対応した、満足度の高いサービスが提供されるよう、サービスの質の向上に重点を置いた」改革である。
 具体的には、訪問介護を家事援助から生活援助と改め、自立支援や在宅生活支援の観点を重視。認知症の症状を軽減するケアを、積極的に導入するようになった。
 つまり、介護を要する高齢者の人格や心理も理解する必要が出てきてしまったのだ。

 これって……、めちゃくちゃ大変なこと。自分の親のケアでさえ苦労するというのに、どうしろというのだ。私自身、父に“変化”があってから、父親という、80年以上人生を歩んできた“人生の先輩”との向き合い方の難しさを痛感している。よほどの専門的な教育と経験なくして、生活を支援することなどできやしない。

 介護や保育などのヒューマンサービスワーカーたちは、究極の感情労働者(emotional labor)だ。
 感情労働については、このコラムでも何度か取り上げたことがあるが、かつて肉体労働者が、自分の手足を機械の一部として働いたように、感情労働者は自分の感情を自分から分離し、感情それ自体をサービスにする。そのためとんでもなくストレスがかかる。

 気難しい上司が、全く面白くないジョークを言った場面を想像してほしい。大抵の場合、部下たちは、作り笑いをして面白がるフリをする。ところが上司は、微妙な顔。そこで部下たちは、「これでもか!」と必死で持ち上げ、転がし、「では、私も一句」と川柳を読み上げたりと、上司が心地良い気分になるように演技する。

 この演技こそが感情労働である。感情労働者は、常にサービスを受ける人が心地良い時間を過ごせるよう、いかなる状況になっても、自分の感情をコントロールし、冷静に対処しなければならない。

 また、同じ感情労働者でも、客室乗務員に代表されるサービス業者が、顧客との短期的で一時的な関係性で成立しているの対し、介護や保育などのケア現場の感情労働者は、顧客(=ケアを受ける人)と長期的・継続的な関係を持たなければならない。同時に、高齢者を持ち上げたり動かしたりと、肉体労働も伴う。

 心も身体も酷使される状況下で感情をコントロールするには、特殊な訓練や専門的な知識の習得が必要不可欠。

 だが、現状は個人のスキルに委ねられ、隠れた自発的な行為と見なされ、金銭などの経済的報酬も、他者からの尊敬や感謝などの心理的報酬もない。正当な評価が行われているとは言えない状況で、現場の人たちはとてつもなく高い要求を突きつけられているのである。

「高齢者を思う気持ち」 に甘えている

 介護に関わるほんとんどの人たちは、おじいちゃんやおばあちゃんたちの笑顔や笑い声にやりがいを感じている。そして、その人たちに笑顔を届けるには、ケアを提供する人、その家族、さらには、一緒に働く同僚や上司との“いいつながり”が大きな支えとなる。
 だが、いいつながりを構築する時間的余裕もなければ、精神的余裕もない。
 サービス領域の境界線がますます曖昧になり、とっくに踏ん張りが利かないくらい職場環境は悪化しているのに、彼、彼女たちの高齢者を思う気持ちに、私たちは甘えている。うん、甘えているのだ。

 ちなみに、福祉施設の介護員の月給は、常勤で21万9700円、訪問介護員(ホームヘルパー)は22万700円で、全産業平均の32万9600円より約11万円も低い(2014年度)。介護計画を作るケアマネジャーも26万2900円と全産業平均を下回る。

 そもそも人間は、「そうすべきである」「そうしなければならない」という感情規制に基づいて社会生活を営んでいるわけだが、感情労働者たちのそれはヘビー級に強い。特に、日本人は、ニーズに「+α(プラスアルファ)」を加えた、極めて複雑な感情規制に拘束されがちである。
 いわゆる「オ・モ・テ・ナ・シ」だ。

 だが、誰もがそうであるように、分かっちゃいるけど……、という状況に直面する。「抱くべき感情」と「抱いた感情」のズレが操作できず、感情の不協和に陥り、燃え尽きたり、罪の意識にさいなまれたり、本当の自分が分からなくなったりと、極度なストレス豪雨でびしょ濡れになる。本来、感情の不協和の解消には、上司や同僚とのサポーティブ(協力的)な職場環境や、ケアを受ける家族との“いい関係”が役立つのだが、それすら期待できない状況になっているのが、今の介護現場だ。

介護員の3割が、「バーンアウト」

 世間では、「介護職の離職=賃金の低さ」という公式で理解されているが、実際には燃え尽き、メンタルが低下した結果、離職している人たちの方が多い。燃え尽き症候群。「バーンアウト」だ。

 バーンアウトは、「長時間にわたって人に援助する過程で、心的エネルギーが絶えず過度に要求された結果、極度の心身の疲労と感情の枯渇を示す症候群」で、介護職に携わる3割以上もの人が、この状態にあると言われている。

 私が大学院生のときに、先輩の院生が行った調査で、「上司との関係性が感情の不協和解消 → いいサービスの提供 → 家族からの感謝」、というポジティブな循環がある職場で働く介護職の人たちの職務満足感は高く、自分の仕事に“誇り”を持っていることが確かめられていた。
 だが今は、
 「過酷な労働環境 → 上司・部下の関係悪化 → サービスの質の低下 → 家族からのクレーム」、という180度逆のネガティブな循環にある。

 奇しくも、
 「介護職が虐待するっていうニュース……あってはならないことだし、絶対あっちゃいけないんだけど……分からなくない瞬間っていうのがある」
 とコメントした方がいたが、これがホンネ。

 「燃え尽きますか? それとも虐待しますか?」――。そんな悪魔のささやきと必死で戦っているのだ。

1500施設で高齢者虐待の疑い

 「高齢者虐待の疑い1500施設」という見出しが、朝日新聞の1面に大きく踊ったのは、つい先日のこと。

 NPO法人・全国抑制廃止研究会の調査によると、回答のあった8988施設のうち、461施設が過去3年間に「虐待があった」、1049施設が「あったと思う」と答えた。

 国が把握している虐待件数は221件(2013年度)で、調査を行ったNPOは「虐待の多くが行政に届けられず、見えない状態ある」と指摘。また、実際に虐待があった施設の人たちには、1カ月に夜勤15日、280時間の勤務時間が強いられていた。
 「虐待は絶対に正当化されないが、過酷な労働が職員から気持ちの余裕を奪い、一線を踏み越えた言動につながっている」と話す介護職の男性も紹介され、彼は「いつか自分も加害者になるのでは」という怖さから会社を辞めたそうだ。

 高齢者を虐待したくて、介護職に就く人はいない。もちろん中には、人を人と思わない不届きモノもいるかもしれない。でも、件の介護士さんが打ち明けた通り、「誰にでも、実はそういう事件を起こしてしまう立場にある」ほど、みんな疲弊しきっているのである。

 つまり……、アレだ。
 もし、質の高いサービスを望むなら、もっともっと介護保険料を国民が負担すべきで、
 それができないのであれば、サービスの質を下げるしかない。
 食事、排泄、入浴のニーズに対応するためだけのサービスと割り切り、現状の劣悪な環境を変える。当然、残業はゼロ。1人でも離職者を減らし、1人でも多くの人たちが介護士さんを目指し、1人でも多くの高齢者がケアを受けられ、1人でも多くの家族が自分の仕事と両立できるようにした方がいい。

 介護現場は、頑張りすぎた。頑張らないことから、議論し直す。崩壊するよりその方がまし。

 だって、このまま質を求め続ければ、介護業界は破綻する。
 これ以上の甘えは、暴力と同じ。崩壊も、虐待も、破綻もイヤ。このままじゃ誰1人、幸せにならないと思う。

このコラムについて
河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学

上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20150417/280090/  

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コメント
 
01. 2015年4月25日 11:57:22 : ukK8lDLQtk
子供にかける金と同じ程度の金を介護にかければよいのだがな。

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