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女性活用が進むほど離婚が増える 本当は恐ろしい「女性が輝く社会」のスローガン
2015年3月6日(金) 武田 安恵
「すべての女性が輝く社会に」をスローガンに、安倍政権が強力に推進している女性活用。政権発足から2年余りが経つが、企業の間でもようやく対策に本腰を入れ始めてきた気がする。
しかし私はこの「女性が輝く」という言葉が嫌いだ。30歳の時に第1子を出産し、2歳の子供を育てながら記者を続けている私の生活の実態は「輝く」という言葉からほど遠いからである。テレビで安倍晋三首相が演説をしているたびに思う。「安倍さん、あなたは何を分かってこんな偉そうな事おっしゃっているのですか」と。
もう一度「女性が輝く社会」とやらの中身を整理しよう。内閣府のウェブサイトを見ると色々項目が並んでいるが、簡単に言うとこの政策は2本立てである。
1つは「女性でも出世できる」というインセンティブの付与である。能力ある女性を「女性だから」という理由で管理職に登用しなかったり、重要な仕事から外すことは、表立っては言われなかったが、どの企業でも少なからずあったことだった。この「暗黙のルール」を無くし、女性の活躍機会を拡大すれば、女性もモチベーションが上がり、働き続けようと思う、というロジックである。
2つ目は「女性が働く上での障害」の排除である。女性がキャリアを継続する上でネックになっているのが家庭との両立だ。そこで保育園など子供を安心して預けられる環境を整備すると共に、フレックスタイムの導入や在宅勤務といった「柔軟な働き方」を用意する。そうすれば女性も家庭と仕事の両立に前向きになり、女性の社会進出が進むという見立てである。
仕事の楽しさに目覚め、結婚しない
だが誤解を恐れず言おう。女性活用が進めば進むほど日本の少子化に拍車がかかり、離婚率が高まると。
この論拠は以下の通りである。企業が女性活用に熱心になり、管理職、果ては役員になる「ロールモデル」が増えれば増えるほど、女性は仕事の楽しさややりがいを覚え、結婚・出産から遠のくのではないだろうか。結果、ますます少子化が進む。
私自身も経験がある。24歳で大学院を卒業して会社に入り、仕事を一通り覚えたのが5年後くらい。ここで結婚して、子供を産んだ。産休に入る前、1年とはいえ会社から離れるのがとても名残惜しかったのを覚えている。
かつては女性にとって当たり前だった「結婚、出産」は、今や選択肢の1つ、すなわち「ワン・オブ・ゼム」になりつつある。結婚してもすぐ子供を作らないカップルも増えた。多様な選択肢を許容する社会的素地があるだけに、仕事に打ち込み子供を作らない、あるいは作ったとしても晩産化で1人しか産まない、ということが増えるのではないだろうか。
「もうこんな生活続けられないよ!」今から約2週間前のある朝、私は初めて夫に雑巾を投げつけた。大学教員の夫と私はお互いの仕事の都合を見ながら子供の保育園のお迎えを分担している。この日は夫の当番日だったが、6時には間に合わないため7時までの延長保育を申請しなければならない日だった。
恥ずかしながら雑巾を投げつけたワケ
夫は約1カ月前に「メール」で、自分の当面の予定を一覧にして私に送っていたが、私は忙しくてそれを見落としていた。そのため、延長保育の申請をし忘れてしまったのだ。夫はそんな私に対し「前に送ったんだけど」と不満そうに文句を言った。
その瞬間、私の中で何かがぷつりと切れたのである。正直、私と夫の家事・育児の分担は公平ではない。夫は一切料理をしない。私の仕事が遅くなり、夫に子供を迎えにいってもらう日も、食事はすべて作っておいておく。掃除もしない。やるのはごみ出しと皿洗いを時間のある時にするくらいである。
人にはそれぞれ得意、不得意があるので別にそれでも構わなかった。週に何日か夜、子守をしてくれれば私は遅くまで仕事ができるからだ。しかし、2月は夫の仕事も忙しく、ほとんど私は毎日5時過ぎに会社を出て保育園に子供を迎えに行っていた。そして、子供が寝た後に家で仕事をしたり、帰ってきた夫と交代でまた会社に行っていたりしていたのだ。寝不足でとても疲れていたのである。
これらの不満蓄積が夫に雑巾を投げつける結果となったわけだ。犬も食わない夫婦喧嘩だが、共働き夫婦の方なら共感してくれるのではないだろうか。
企業で女性活用が進み、いくら昇進のチャンスが生まれたとしても、家庭内の性的役割分担はそう簡単には変わらない。そのことが女性を苦しめているといっても過言ではないだろう。女性は男性に協力を求めるも、家事労働を大して大きな仕事と思っていない男性は、女性にいかに負担がかかっているか気づいていない。
共働きは、男性の理解なしには成立しない。企業でいくら「女の解放」が進んだとしても、家庭内のパワーバランスが変わらなければ何も変わらないのである。双方のキャリアを大事にしたい男女が結婚した場合、衝突が起こるのは容易に想像がつく。当然「あんたがいなくたって子供くらい育てられるわよ!」と離婚するケースも増えるのではないだろうか。誤解を解くためにいうと、我が家の場合はその後、夫婦間でよく話し合い、仲直りしたため離婚の危機には至っていない。共働き夫婦は、片働き夫婦よりも密にコミュニケーションを取らないとすれ違いが起こりやすい。お互いの長期的なキャリアについてもよく話し合い、妥協できる点、できない点についてクリアにしておくべきである。さもないと「こんなはずではなかった」と、いうことになる。
「M字カーブ」は解消されるが・・・
私は「女性の輝く社会」とやらが間違った方向に進むことを危惧している。日本は今、世界に類を見ない少子高齢化社会を迎えようとしている。1995年以降下降の一途を辿る15〜64歳の生産年齢人口を補う対策は急務だ。
女性活用もこの対策の一部といっても過言ではない。「女性が輝く社会」とは聞こえはいいが、本音を言えば女性が働かないと日本の労働力が持たないから女性を引っ張り出しているだけ、とも言える。
「M字カーブ」と俗に言う、結婚後家庭に入り仕事から離れる30〜40代の女性を労働力として充当すれば労働力不足は補えるという発想だ。
たしかに20年くらいはこの方法でも良いのかもしれない。しかし、長い目で見ると女性の社会進出やキャリア志向は日本人の人口を増やそうとする政策に対してはある部分、マイナスに作用する可能性をはらんでいる。そのことに気づいている人は、どれくらいいるだろうか。
「女性の輝く社会」がやっていることは、「子供を産みなさい、でも働き続けなさい」と政策が事実上要求しているのと同じことである。保育所の整備や子供手当てといった支援、そして昇進面で不利にならない配慮があったとしても、これほど欲張りで酷な政策が他にあるだろうか。「産めよ育てよ」だけでなく「産めよ育てよ、働けよ」ですか!? 私が「女性が輝く社会」に対して嫌悪感を抱くのはこういう理由によるものである。
「産めよ育てよ、働けよ」を超えるには
では、女性活用と少子化対策を両立させる手立てはあるのだろうか。私は若いうちに「ハッピーな就労体験」と「子供とのふれあい」を体験させることが「女性が輝く社会」よりも、必要なのではないかと思っている。
子育てをしながら仕事をするのは大変だ。でも、なぜ私はそれを続けているのか。自分でも辛い時よく考える。答えは簡単だ。「仕事が楽しい」からである。
私も若いうちから、記者としていろいろな仕事をやらせてもらいながら、取材先に迷惑をかけたり、失敗もたくさんしたけれど、若いうちに「仕事のやりがい」を経験することができたことが、仕事をやめない動機になっていると思う。だから私は言いたい。「若いうちに仕事の喜びを知った女性は、必ず職場に戻ってくる」と。逆に、いくら育児支援制度が整備されている職場で働いたとしても、やりがいがなければ続かないだろう。制度にぶら下がる「お荷物社員」の増産化にもなりかねない。
そしてもう1つの提言「子供とのふれ合い」であるが、これは私が大学生時代、空手教室のコーチをしていたことから思ったことである。
大学生から結婚するまで、私は実家近くの空手道場のコーチをしていた。毎日の稽古の指導以外にも、小学校1年生の鼻水をふくことから、中学校1年生の稽古後の喧嘩の仲裁まで、実に様々なことを経験したが、このことは私の「子供観」に大きく影響を与えている。子供のもつ無限の可能性、そして大人以上に実は気を使っていたりすることなど、実際に接さないと分からないことがたくさんあった。特に、試合の時の頑張りようは、どんな映画を見るよりも感動する。
若い頃に、このような体験をした人は必ず子供を産み、育てたいと思うのではないだろうか。私は多くの大人が考える子育てのイメージを変えることができれば、もう少し少子化に歯止めがかかると思う。この考え方は、楽観的すぎるだろうか。
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20150304/278246/?ST=print
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