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「認知症は作られる!?」 介護離職の複雑すぎるリアル
究極のワークライフバランスに取り組む時期が来た
2015年2月24日(火) 河合 薫
知人が会社を辞めることになった。理由は、介護だ。
「半年前にはこんなことになるなんて、これっぽっちも考えてなかった。半年どころか、3カ月前もです。親の変化は、ある日突然くると同級生から聞いてましたが、自分が当事者にならないと、この大変さって分かりませんね」
“変化”が起きたのは、半年前のある晩のこと。
昼間は元気だった父親が「頭が痛い」と、いつもより早くベッドに入った。
翌日、病院に行くと脳梗塞を起こしていることが判明。ひと月の入院を強いられ、退院したときには介護が必要な状況で、その後は日を追って年老いていったそうだ。
「このままでは、母もおかしくなる」――。そこで退職を決めたのだと言う。
実は、この半年間で、私の周りで立て続けに“親の変化”が起こっている。おそらくそういう年回りなのだと思う。80歳前後になった両親、特に父親に変化が起こり、
「お互い、大変だな」
「うん」
何度、こんな会話を繰り返しただろう。
そう。実はうちの父にも、“変化”が起きた。
その一週間前まで、連日ゴルフに行き、「やれ、大学の同窓会だ!」「それ、幼稚園の同窓会だ!(はい、間違いなく幼稚園です)」とバリバリ元気で、「そんなに鍛えて誰に見せるわけ?」と笑ってしまうほど、腹筋・背筋・腕立て伏せをやっていた父に、“変化”が起きた。
ある日、突然の出来事だった。
入院とともに体力は著しく低下した。それでも退院後は、鍛えていただけあって肉体的には、驚異的な回復力をみせている。だが、精神面はダメだ。まるで坂道を転げ落ちるように入院中に“変化”し、どうにか瀬戸際で食い止めてはいるものの、一歩進んで三歩くらい下がる。
「良かった、もう大丈夫!」と安堵する日と、「嗚呼、どうしたらいいんだろう」と途方に暮れる日が入り乱れ、「親の変化と向き合うのは、物理的にも精神的にも容易じゃない」と、心底思う。
「追い込まれるから必死にやるんでしょうに……」――。以前、私が介護問題について書いたコラムに、こんなコメントをくださった方がいたが、その言葉の重さをつくづく感じている。
人は実に勝手で、愚かで、ちょっと悲しい存在で、どんなに「介護、介護、介護問題をどうにかしなきゃ!」と問題提起しても、当事者にならない限り、所詮他人事。そのときがきて初めて、出口の見えない孤独な回廊に足がすくむ。
今や、5人に1人が隠れ介護
「隠れ介護 1300万人の激震」――。衝撃的な見出しが日経ビジネスの表紙を飾ったのは、昨年の9月。就業者6357万人(総務省統計局の労働力調査)の実に5人に1人が、隠れ介護と報じられた。
※「働く人の5人に1人(=1300万人)が隠れ介護」という数字は、東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部の渥美由喜・研究部長兼主席コンサルタントの協力を得て試算されたものである。政府の公式統計(就業構造基本調査)では、約290万人となっているが、多くの専門家が、政府の調査は過小評価だと指摘している。
記事の内容は「明日は我が身か」と思わせる深刻なものだった。しかしながら、前述の彼も、友人たちも、そして私も、自分自身が「隠れ介護」予備軍であるというホンキの危機感を、これっぽっちも持てていなかったのである。
それほどまでに、“親の変化”は突然で、ひとつの変化がさまざまな変化をもたらし、“プレ介護”状態に疲弊し、翻弄される。
そうなのだ。リアル介護の前のプレ介護状態があるだなんて、親の変化に直面するまで考えたことも、イメージしたことも、全くなかった。ひょっとすると、このプレ介護で離職する人も少なくないのでは? と思ったりもする。
そこで今回は、「親の変化と仕事」について取り上げます。“ある日突然”向き合うことになった、当事者たちのナマの声が、やがて来る大介護時代に備えるために重要だと信じて……。
では、早速冒頭の介護離職した男性の話をお聞きください。
「会社には、親のことは話してません。なんでなんだろう……。周りに心配をかけたくないとか、自分の評価に影響するんじゃないかとか、あれこれ理由はつけられますけど、ただ単に言いたくなかったんだと思います。自分の職業観とかも関係してるんじゃないかな。自分が仕事にあれこれ言い訳を作りたくなかったって感じなんでしょうね。まぁ、ただのプライドかもしれませんけど(苦笑)」
「介護で会社を辞める人って、理由は一つじゃないと思いますよ。結局、『今は両立は難しい』という言葉に、さまざまな問題が含まれている。実家と会社の往復など物理的な問題もあるけど、精神的な問題も同じくらい大きい。私の場合、自分の仕事のパフォーマンスが低下しているのがストレスでしたね。いやいや、別に上司から指摘されたとか、ポカしたとかじゃないですよ(笑)。自分がそう感じたんです」
後悔はしたくなかった
「親のことがあるまでは、変な話、いつも頭のどこかに、仕事のことがあった。ところが、父が倒れてから、これでもか!っていうくらい両親のことが、頭から離れない。会社で仕事に没頭しているとき以外は、ほとんどの時間が両親のことで頭が埋め尽くされる。『こんなんで大丈夫か?』と自分が不安になった。つまり、自分が自分の仕事ぶりに納得できなくなった」
「しかも、父親のことがあってから、母親も急速に衰えました。これは想定外の出来事でした。でも、よくよく考えれば、当たり前なんですよね。母親も70代後半ですから、環境の変化は大きなストレスです。私は今まで親が老いているという事実にすら、ちゃんと向き合えていなかったのでしょう。なので、自分が後悔しないようにしようって思ったんです。そのためには、会社は続けられなかった。金銭的な問題もあるので両立できればよかったんでしょうけどね。やっぱり、後悔したくなかった。ええ、後悔したくなかったんです」
父親のこと、自分のこと、そして、母親のこと。父の病気をきっかけにさまざまな変化が起きた。
「『今は両立は難しい』という言葉に、さまざまな問題が含まれている」という彼の言葉には、言葉以上の重さが秘められていたのである。
私には……彼の気持ちが痛いほど分かった。だって、私自身がそうだから。誰もがいずれは死ぬわけだし、親のためにできることなんて、実際にはそんなにないのかもしれない。親のためにやっていることが、ホントに親のためになっているかさえ定かではない。それでも、何かをせずにはいられない。後悔したくない。
こんな気持ちが、親との関係の中で出てくるだなんて、3カ月前には私は想像したこともなかった。ホント人間って勝手だなぁってつくづく思う。「親はいつかいなくなる」という現実を突きつけられてはじめて、「どうにかしなきゃ!」と必死に親のことを考える。それまでは近くに住んでいても、実家に帰るのは年末くらい。親に会うのだって、年に2、3回一緒に買い物に行くくらいで、勝手放題していたにもかかわらず、だ。
だが、そんな個人的な事情とは関係なく、日常は流れていく。親のことで頭が埋め尽くされるあまり、ふと気付くと、仕事をこなしているだけになっている自分がいて、それに罪悪感を抱く。
「ちゃんと仕事しなきゃ」「ちゃんと責任果たさなきゃ」「そんなんじゃダメ。しっかりしろよ!」と、自分を必死に鼓舞するしかないのである。
制度もITツールも、使えるものはすべて使う
介護離職というと、介護制度とか親の介護をどうサポートするか? という話にいきがちなのだが、もっともっと広く捉えたほうがいい。「究極のワークライフバランス」とでもいうのだろうか。仕事と家庭の両立。「家族の価値」「幸せとは何か?」「何が人生で大切なのか?」を根本的に問い、それが実践できる仕組みを考える。
だって男性であれ、女性であれ、管理職であれ、ヒラ社員であれ、大切な子供がいて、大切なパートナーがいて、大切な両親がいるわけで。その大切な家族との関わりと大切な仕事を両立できる制度があれば、育児問題も、介護問題もかなり解決できるんじゃないだろうか。
具体的に言えば、フレックス制や時短勤務など。出産であれ、育児であれ、親やパートナーが病気のときであれ、介護であれ、理由はなんであれ使える制度。そして、テレビ電話、メールやチャット、VPN環境などのITツールを有効に使って、どこででも働ける働き方。今ある制度、今あるツールを使う。それだけでいい。
実際、私はフリーランスだったことでかなり助かっている。が、その一方で、親のことで脳内が埋め尽くされるようになり、将来の仕事への不安は高まった。一つひとつの目の前の仕事が、次の仕事の“営業”でもあるので、「このままじゃ、やばい。ちゃんとしなきゃ。踏ん張らなきゃ」と、今まで感じたことのない危機感を感じている。
まぁ、私の場合は、そういう働き方を自分で選んでいるのでそれこそ自己責任でどうにかしなきゃなのだが、企業は、介護しながら働いている管理職、子供を持つ女性たち、育児をする男性たちなど、すべて「使える人を使わない」限り朽ちる。「使える人は使え」だなんて、かなり失礼な表現だが、労働人口は確実に減る。企業の救世主は女性だけじゃないはずだし、“今いる人”をどう生かすか? という目線が極めて重要なのだ。
介護制度の取得率はわずか3.2%!
「でも、それよりまずは、介護休暇制度をどうにかすべきでしょ?」
この意見には、先日リリースされた調査結果が参考になりそうなので紹介する。
労働政策研究・研修機構(JILPT)が、昨年秋、同居および別居の家族・親族を介護している男女、20〜59歳の2000名を対象にアンケート調査を行ったところ、以下のことがわかった(「仕事と介護の両立に関する調査」結果速報)。
・介護開始時、「勤務先に介護休業制度がある」場合、また「実際に介護休業を取得した経験がある」場合は、離転職割合が低い。
・介護休業中の所得保障について、「所得保障なし」の場合は、転職割合が高くなる。だが、「全額保障」 と「一部保障」では、離転職割合にほとんど差がない。
・「勤務先に介護休業制度がある」場合、短時間勤務制度の有無による離転職割合の差はない。だが、残業や休日労働を免除する制度(所定外労働免除制度)がある場合は、離転職割合が低くなる。
以上を分かりやすくまとめると、
「いざというときには、ちゃんと“使える”介護休業制度があり、“一部”でもいいから所得保障してくれ、“残業”を免除してくれる会社では、介護離職する人の割合が低い」というわけだ。
「いざというときに使える」という状態が具体的にどういうことなのか? それについては、本報告書を見た上で吟味する必要があるのだが(今回のは速報値)、2012年の介護制度の取得率は、わずか3.2%。15年前から制度は存在しているにも、かかわらずだ。
隠れ介護が1300万人もいるという現実。親の変化に疲弊する“隠れ介護予備軍”の存在。その多くが40代以上で、管理職クラスの課長以上が半数を占める…。そんな現実がありながら、わずか3.2%しか介護休暇制度を取得していない状況は、制度そのものに問題があると言わざるを得ない。
ちなみに、前述の男性の会社には“一応”介護休暇制度はあったそうだ。だが、これまで使った人はゼロ。
「使った人もいない。しかも、要介護じゃない母の問題もあったので、ホントに使っていいのか?って気持ちにはなりましたよね」。こう語っていた。
つまり、介護問題をピンポイントで考えるのではなく、出産・育児・思春期になった子供、親の変化などなど、仕事と家庭の両立という、究極のワークライフバランスに取り組む時期に来ているのだと思う。たとえ遠回りで、難しい問題であっても、「家族の価値」を根本的に考えた制度を作る必要があり、それで企業の未来が決まるといっても過言じゃない。
元気だった親が認知症になるワケ
最後に、親の変化に直面して、私が感じているいちばんの問題を書く。「プレ介護」すなわち、要介護状態を作らないことの重要性だ。あくまでもこれは私の個人的な意見なので、それを踏まえたうえで聞いてほしい。
よく「高齢者は入院するとボケる」というが、私の友人の父親も似たような状況になり、病院から「認知症かもしれない」と言われ、病気は治ったにも関わらず、認知症での介護が必要になった。
私の父にもやはり“変化”が起きた。最初の入院で、父とコミュニケーションをとるのが少しだけ難しくなった。
「パパ!」と耳元で話しかけてからじゃないと、会話をしない。話していても、「分からない」と、考えるのをやめることが増えた。入院するまでは好奇心旺盛で、私の仕事にもいろいろと言ってきたのに、元気なときとは180度異なる精神状態に、父は陥ってしまったのだ。父がお世話になっている医師は、とても良心的で、「病院という環境はよくない」と外出や外泊を積極的に許可し、薬も出来る限り減らし、大きな声でゆっくり何度も何度も病状やら今後のことを父に話してくれた。それでも、父はちょっとだけ変わってしまったのだ。
幸い、なんとか今は元に戻りつつあるのだが、「今後入院することになったら……」と考えるだけで恐い。
だがよくよく考えてみれば、高齢者じゃなくても、身体が悪くなり、一日中ベッドに寝て、美味しくない食事を食べていれば精神的ダメージは受けるはずだ。
「○○さん、具合どうですか〜?」
「○○さん、体温はかりましたか〜?」
「○○さん、血圧はかりますよ〜」
「○○さん、お通じはありましたか〜?」
と連日、看護師の方から問いかけられ、「はい」「大丈夫です」「ありました」なんて言葉しか発していなきゃ、気分だって落ち込んでいく。
ただ、高齢者のほうが、高齢であるがゆえに体力低下が顕著で、高齢であるがゆえに物忘れが激しくなり、高齢であるがゆえに物事への興味が失われやすい。喪失感もある。
なのに、「認知症」「老人ウツ」「一過性痴呆症」など、高齢者であるがゆえの病気がつけられ、その途端、病人扱いされ、老人扱いされ、薬が処方され、引き続き入院させられ……。
そうやってホントに介護や見守りが必要な状態になっていくんじゃないかと。そうやって、元気だった親たちが、いわゆる「認知症」になっていくんじゃないか、と。そう思うようになったのである。
フランスに駐在していた知人が、「フランスの病院の食事はとにかくウマい!」と話してくれたことがある。日本の病院の食事は、身体にいいものを提供するので、味は二の次、いや、三の次くらいで、あまり美味しくない。
だが、フランスでは「食事の美味しさ」を大切にする文化を背景に、「美味しい物を食べた方が、元気になる」という考え方が、病院にまで普及しているのだという。
「美味しい!」「 面白い!」「 楽しい!」「 うれしい!」という感情を、もっと大切にした病院。病気というマイナスの力に遭遇したとき、プラスの力である「元気になる力」を増やす医療。これこそ難しい、夢物語かもしれないけれども、病院、地域や企業など社会全体で「病院で過ごす時間のQOL(quality of life)」を向上させれば、介護状態を作らないで済むんじゃないか、と。とまぁ、あれこれ、考えるわけです。
河合薫のセミナーを今年も開催します! 3月10日(火)開催
“1+1=3”のチームを作るリーダー術
〜部下の強みを引き出し、競争力ある組織に変える
正社員、非正規、時短勤務、役職定年を迎えた社員など、さまざまな属性の“部下”たちを率いるリーダーには苦労が絶えません。
どうしたら、チーム力を高められるのか?
どうしたら、部下の強みを引き出せるのか?
打たれ弱い、あきらめが早い、すぐにくよくよする――。
そんな若い社員たちのやる気を高めるにはどうしたらいいのか?
その答えを、河合氏の連載のテーマでもあり、組織の永遠の課題でもある上司と部下の関係を軸に、健康社会学者でもある河合氏が独自の視点でお伝えします。
このコラムについて
河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20150220/277769/?ST=print
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