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出口治明の提言:日本の優先順位
【第133回】 2015年1月7日 出口治明 [ライフネット生命保険(株)代表取締役会長兼CEO]
過疎の村を訪ねれば、為すべきことがよく分かる
昨年の末、美杉小学校から講演に呼ばれて、生まれ故郷の三重県美杉村(現津市美杉町)へ里帰りをしてきた。なお、僕が生まれたのは正確には多気(たげ)村であって、その後多気村を含む7つの村が合併して美杉村になったのである。生まれた頃の多気村の人口は約3000人、美杉村全体では2万人近い人口を擁していた。
それが今では全体で5000人を割っているという。生まれた頃は多気小学校だけでも児童数が450人を数えていたのに、7村の小学校を統合して1つになった美杉小学校の本年の卒業生は18人、新入生はたったの4人に過ぎないという。それでも、美しい木造の校舎で、先生方は懸命の努力をされていて、本当に頭が下がった。過疎の進み方のあまりのスピードに度肝を抜かれてしまった。
車で村に入ると、一面の電気柵が目に入る。人々が柵の中で細々と田畑を耕して生活を営んでいる。村の主人は鹿。次いでイノシシとサル。これは、ひょっとしたらわが国の地方の未来の姿ではないのか、ふっとそんな気がした。過疎の村を訪れることはわが国の未来への旅なのだ。
山林、田が適正に
管理されているのはわずか20%
地元で「T-age」(2014.11.16)という発行されたばかりの地域マガジンをいただいた。発行元は「多気の郷元気づくり協議会」である。そこに載せられたデータをちょっと眺めてみよう。
まず多気地区の住民の年齢。()内は津市全体である。
71才以上人口は津市全体の3倍近く、それに対して15才以下の子供の人口は1/3にも満たない。しかも、この過酷な高齢化の中で一人暮らしの世帯数が28%を占めているのである。
山林と田について尋ねると、約20%の世帯が「適正に管理している」と答えているのに対して、山林では40%、田では24%が「管理できていない」「管理できなくなってきた」と回答しており、それぞれその内の約80%が条件次第では誰かに管理を任せたいと答えている。
外出時の交通手段については、「自分が運転できるが先行きが不安 59%」、「家族が運転できるが先行きが不安 12%」、「現在すでに交通手段がなく困っている 8%」、「市営バスを利用しているが使いづらい 6%」と続き、「将来にわたって不安はない」とする回答は、わずか9%にとどまっている。
また、家の使い勝手については「生活しやすい」が50%を占めてはいるものの、「だんだん生活しにくくなってきた」が35%、「生活しにくい」が7%、「生活しにくくなってきている家族がいる」5%となっている。生活しにくい要因は、段差、暑さ寒さ、老朽化がトップ3であって、昔の構造のままの家屋が老朽化していく姿が浮かび上がる。
以上のような過疎の村の現状を虚心坦懐に眺めれば、少子高齢化が進むわが国の将来をにらんだ政策として、何を為すべきかは誰の目にも明らかではないか。
山林・田の「地上げ」と
コレクティブハウスへの集約を
山林や田は手入れをしなければ荒廃が進む。適正な管理ができていない世帯の方が多く、かつそのうちの80%が誰かに適切に管理してほしいと望んでいるのなら、行政が為すべきことは明らかで、山林や田を「活用」したい個人や企業を全国(全世界でもいい。吉田松陰が「幽囚録」で、夷人を日本に取り込むことによる知の獲得と人口の増大という一挙両得を語っていたことを忘れるべきではない)から探してきて、管理を委ねることではないか。行政が山林や田を一括してまとめて交渉すれば、単位面積も大きくなるので、農林業に興味を持つ個人や企業も参画しやすくなる。平たく言えば、良質な「地上げ」を行えばいいのだ。
次に、交通手段の劣化が明らかであり、家の使い勝手も少しずつ悪くなっていく、しかも一人暮らしの世帯が約3割を占めているというのであれば、前にも当欄で述べたように、コレクティブハウスを作って住民を集約化することがベストの政策である。公共住宅でもいいし民間に補助金を出してもいい。空き家800万戸の時代に一戸建て住宅やマンションを新たに創るという選択肢はないだろう。人を一ヵ所に集める最適な方法は、楽しく快適な寝ぐらをまず整備して、そこに若干のインセンティブを働かせて人を集約するのが一番効率的であろう。
そして、コレクティブハウスやコレクティブタウン(スーパーや病院、学校などを集約)の間をコミュニティバスがぐるぐる回るように全体を設計すればいいと考える。その場合老朽化した個人の家屋はどうするのか。これ以上空き家を増やしていいはずがない。これも行政が一括して借り上げ、山林や田の「地上げ」とセットで、場合によっては更地にして販売もしくは現状のまま賃貸するなどすればいいと考える。そのようなことを実行すると、山林や田が乱れる、あるいはきれいな河川が守れなくなるなどと考える向きは、ネガティブリストを前もって作っておいて(例えばごみ処理場はつくらせないなど)それを借主もしくは買主に遵守させればいい。
最後に獣害については、人と動物の双方に優しい対策を進めるべきである。猟銃を撃つ人も激減している。過疎の村を訪ねれば、少子高齢化に対応してこれから為すべきことがよく見えてくるのである。
(文中、意見に係る部分は、筆者の個人的見解である)
http://diamond.jp/articles/-/64590
2015年1月6日 橘玲
なぜ日本にはまっとうなリベラル政党がないのか?
[橘玲の日々刻々]
安倍政権の特徴は好き嫌いがはっきり分かれることでしょう。「保守」「愛国」というイデオロギーを前面に押し出しているからで、自民党の福田政権や麻生政権、民主党の野田政権のような“無味無臭”とはかなり異なります。
欧米諸国もそうですが、イデオロギー対立が激しくなるのは、政党が政策で差をつけるのが難しくなったからです。消費税増税も、TPPへの参加も、原発再稼働も、安倍政権の進める政策の多くは民主党政権が決めたことです。日本は1000兆円を超える巨額な借金(これは歴代の自民党政権がつくったものです)によって政策の選択肢がほとんどなくなっているので、誰がやっても同じようなことにしかできないのです。
今回の衆院選で野党は「アベノミクスの失敗」を攻撃しましたが、「2年で2%のインフレにして強い日本経済を“取り戻す”」のが公約だとすると、その結果が明らかになるのは来年で、「失敗する前に選挙をやってしまう」自民党の作戦勝ちになるのは当然です。あとは集団的自衛権や憲法改正で安倍政権の「本性」と暴くしかありませんが、これは有権者の関心が高くなくほとんど効果がありませんでした。
日本はアメリカやイギリスのような二大政党制を目指して小選挙区制を導入しましたが、このままでは当分、政権交代は起こりそうもありません。いちばんの原因は民主党の失敗ですが、それに変わる野党が出てこないことも事実です。なぜ日本では「健全な二大政党」にならないのでしょうか。
共産主義の実験が壮大な失敗に終わったいま、社会の構成原理は自己決定権を持つ市民による「民主政」「法治」「自由な市場」しかなくなりました(中国ですら理念的にはこれに反対していません)。これを「歴史の終わり」と呼ぶかどうかは別として、政治の世界から大きな対立はなくなり、残っているのは「(ささやかな)伝統」を大事にするか、「(ささやかな)理想」を目指すかの違いです。これが「保守」と「リベラル」の対立ですが、日本の場合、自民党のなかにこの両派が混在し、野党においては、いまだに「革命」を綱領に掲げる政党がリベラル勢力の代表のように振る舞っている、という異常な状況が続いています。
その責任は、保守的な自由主義者を「オールドリベラル」と骨董品のように扱い、揶揄中傷してきた「進歩的」なメディアや知識人にあります。彼らは「マルクス」「革命」「共産主義」という言葉に過剰な憧れを持ち、ソ連や中国、北朝鮮の評価を一貫して間違え、北朝鮮の拉致問題を無視し、従軍慰安婦をめぐる誤報を放置してきました。こうした知的退廃の結果、いまでは「保守派は正しくリベラルは間違っている」という話になってしまったのです。
いま日本に必要とされているのは、進歩的なリベラルではなく、まっとうなリベラルです。保守派の正論に対抗するには、集団的自衛権を認め、自衛隊を軍(国家の暴力装置)として憲法に明記したうえで、法による徹底した管理(シビリアンコントロール)を行なうことや、「日本的雇用」という差別制度を改め、同一労働同一賃金や定年制廃止を法定化するなど、「世界標準」の政策を掲げるリベラル政党が出てこなくてはなりません。
「一強多弱」になるのは、弱い側に問題があるからです。選挙結果が気に入らないからといって、駄々っ子のような大人気ない態度はいい加減にやめた方がいいでしょう。
『週刊プレイボーイ』2014年12月24日発売号に掲載
<執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(以上ダイヤモンド社)などがある。
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