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(書評)桜井淳(著)『新幹線が危ない!』(健友社・1993年)
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5つ星のうち 5.0
福島第一原発事故後の今、この本は読み直されるべきである。, 2014/10/1
新幹線が開業してから、50年が経った。この間、本書で検証された様な深刻な事故は有ったものの、私がこの書評を書いて居る今日まで、新幹線の事故で死亡した乗客は一人も居ない。先ずは、この事を喜び、旧国鉄とJRの関係者たちが払って来た努力に敬意を表したい。
しかし、である。これは、「幸運」によって達成された「安全」であった可能性が相当に有る。例へば、新幹線の安全審査の在り方には、次の様な問題点が有る事を本書の著者桜井淳氏は指摘して居る。
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新幹線のように国民の大多数が利用し、しかも大惨事を引き起こす可能性を秘めた巨大技術システムに対しては、原発設置の安全審査同様、中立的な研究機関の専門家からなる安全審査機構を設け、そこで技術の信頼性およびシステムの安全性を厳密に審査しなければならないはずである。ところが新幹線の運転条件の変更などに対しては、手続き上許認可方式になっているが、実質的にはJR各社が提出した技術資料を運輸省鉄道局の数人の新幹線担当者が追認するだけで認可されている。
「のぞみ」の場合、JP東海が運輸省に最終的な技術資料を提出したのは、営業運転開始(一昨年(1992)3月14日)のわずか約1カ月前であった。
(本書44ページより)
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こうした安全審査の問題などを読んで行くと、桜井氏が指摘する様に、新幹線が抱える問題と原発が抱える問題点が酷似して居る事に驚かされる。そこには、巨大技術に共通する問題点が多々含まれて居る。そして、同時に、第二次世界大戦で日本が負けた理由を考えて行くと露呈して来る近代日本の社会システムの特質が垣間見えて来る様である。(特に、現場を無視して、専門知識の無い文科系エリートが余りに権限を持って居る日本の意思決定システムが、原発の場合と同様、新幹線の安全性にも影を落として居る様に思はれる。)
桜井氏は、例へば、次の様な問題点を指摘し、新幹線がはらむ大事故の可能性を警告する。
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日本の新幹線の設計条件では、車両の金属疲労や亀裂などの発生はあらかじめ想定されているが、脱線・転覆などはいっさい想定されていない。新幹線の高速化にともない脱線の確率は高くなる。たとえ発生確率は低くても、一度事故が起これば多数の人命に影響をおよぼすような技術に対しては、できるだけ現実的な安全対策を施しておくべきである。
新幹線が通常の平地を走行中に脱線転覆すれば、乗客の半数の約六百人は死亡する。トンネル内を走行中に脱線・転覆すれば、乗客のダメージは平地でのそれの数倍にもおよび、助かる者はほとんどいないであろう。新幹線の車体は、特に屋根の部分が弱い。脱線・転覆した場合、屋根の部分は一瞬にしてはぎ取られ、乗客は外部に放り出されて構造物に激突したり、外部の構造材が入り込み乗客は串刺しにされる。新幹線の車両の構造設計においては、脱線・転覆を想定し、それでも乗客へのダメージが緩和されるような安全対策を十分に施しておくべきである。
(本書・227ページより)
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桜井氏は、特に、JRが強引に推し進めた「のぞみ」の開業の問題点を取り上げ、批判する。桜井氏に依れば、「のぞみ」の営業運転開始は、航空機との競争を意識して、JR十分な実験、研究を経ずに強行された物だと言ふ。そう批判する桜井氏の元に、JR内部から、膨大な科学的データをはじめとする内部資料が、JR関係者たちから提供され、本書が書かれた事は、桜井氏のそうした批判の正しさを裏付ける事実だと言って良いだろう。
幸い、桜井氏が本書で懸念を語った様な新幹線の大事故は、この本が書かれて21年が経った今現在、起きて居ないが、それは、「幸運」にる部分が大きい事を私たちは認識するべきである。
福島第一原発事故(2011年3月11日)後の今、この本を読むと、あの原発事故も突然起きた物ではなく、日本社会の在り方が招いた、「起こるべくして起こった事故」であった事が痛感される。「日本の技術は世界一」と言ふ様な安易なテクノ・ショービニズムは、原発についても新幹線についても繰り返し語られて来たが、そうした愚かな確信が、巨大技術を論じる上で、いかに危険な事かを本書は教えてくれる。
(西岡昌紀・内科医/新幹線開業から50年目の日(2014年10月1日(水))に)
http://blog.livedoor.jp/nishiokamasanori/archives/7554563.html
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