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JK産業にみる貧困問題。の巻  雨宮処凛
http://www.asyura2.com/12/social9/msg/503.html
投稿者 ダイナモ 日時 2014 年 8 月 20 日 23:36:32: mY9T/8MdR98ug
 

 90年代の「女子高生ブーム」を覚えているだろうか。

 ブルセラという言葉がメディアを賑わし、援助交際という名の売春行為が社会問題化した頃。さまざまな識者がさまざまな言葉で彼女たちを分析し、しかし当時20代だった私はなんだかそれらの言葉が上滑りしているように感じ、そうして気がつけば、ブームは過ぎていた。いろんな言葉が飛び交ったものの、終わってみればなんだったのかよくわからない「女子高生ブーム」。ただ、多くの欲望が白日の下に剥き出しにされたような印象は強烈に覚えている。

 そんな「ブーム」から十数年。現在、女子高生は「JK」という記号でやはり欲望の対象となっている。

 「JKリフレ」「JKお散歩」という言葉を見聞きしたことはあるはずだ。JKリフレとは、女子高生によるリフレクソロジー=個室でのマッサージ。JKお散歩とは、女子高生とのデート。

 そんな「JK産業」で働く少女たちの実態を描いた『女子高生の裏社会 「関係性の貧困」に生きる少女たち』(仁藤夢乃 光文社新書)を読んだ。

 本書によると、JKリフレが目立ち始めたのは2012年春頃。秋葉原を中心に池袋、渋谷、新宿、吉祥寺などに店舗が増え、2013年の時点で都内のJKリフレ店は約80店舗、JKお散歩は秋葉原だけで96店舗にのぼるという。が、こういったJK産業、合法なのだろうか? 以下、本書からの引用である。


 警視庁はリフレの取り締まりを強化したが、添い寝やマッサージだけで風営法違反に問うことはできなかった。そのため、18歳未満の少年少女を福祉に有害な業務に就かせることを禁じる労働基準法の適用を検討し、厚生労働省中央労働基準監督署に問い合わせた。
 2012年12月、厚生省がJKリフレの営業形態を、『客に性的な慰安、快楽を与えることを目的とする業務』にあたるとの見解を示したことから警視庁は取り締まりに入った。
 2013年1月、全国で初めて都内のJKリフレ店「ソイネ屋」など17店舗に労基法違反などの疑いで一斉捜査が入り、アルバイトとして働いていた中学3年生2人を含む15〜17歳の少女76人を少年育成課が保護した。


 以降、摘発を逃れるため、「JKお散歩」が増えていったという。名目は「観光案内」。店のホームページには、「18歳未満大歓迎!」「現役女子高生が大勢活躍中!」「髪型、服装、ネイル等完全自由」「完全日払い、完全自由出勤」「面接時に履歴書不要」といった言葉が躍る。大人からすればこれだけで十分すぎるほどに怪しいが、本当に観光案内だと信じて応募してくる少女もいるという。そうして少女たちは制服姿で街に立ち、「客引き」をするのだ。

 そんな少女たちに、さまざまな世代の男たちが声をかける。実際に「お散歩」をしている少女によると、声をかけてくる5割以上の男が「裏オプできる子?」と聞いてくるという。裏オプとは、裏オプションの略で性的なサービスのこと。それに対して「表」のオプションもあるのだが、私にとってはある意味でこちらの方が衝撃だった。

 本書にはあるJKお散歩店のオプション表が掲載されているのだが、その「サービス」は以下のようなもの。

 「ぷりくら1枚 2000円」「頭なでなで 2000円」「にらめっこ 1000円」「髪型ちぇんじ 1000円」「つんでれ 1000円」「手つなぎ(18歳以上)10分 1000円」などなど。

 どれもこれも、風営法に問われないようなものばかりだ。しかし、だからこそ、こうして細分化されて一覧になると、えも言われぬ迫力を持って迫ってくる。一言で言うと、相当に気持ちが悪い。

 さて、それではどんな少女たちがJK産業で働いているかというと、まず目につくのは「貧困」を原因とする層だ。

 父子家庭で、自営業の父にお小遣いをもらえないので遊びに行くお金や洋服代、交通費などを自分で工面するしかないレナ。お散歩は、妹に教えてもらって始めたという。著者にお散歩を始めて「金銭感覚は狂わない?」と聞かれると、彼女は「むしろ、普通になったっていう感覚」と答える。それまでは1000〜2000円台の安い服しか買えなかったものの、お散歩を始めてからは4000〜5000円の服が買えるようになったからだ。やっと「同世代の他の子みたいに、人並みの買い物ができるようになった感じ」。

 また、JKリフレで働くサヤは、稼いだお金の半分を親に渡している。きっかけは、公立高校に落ちて、私立高校に通い始めたこと。会社員の父親は「給料が削減されて金がない。お前のせいで金がかかるんだから稼げ」と言うのだという。最近、お爺ちゃんが老人ホームに入ったことでも家計が厳しくなったようだ。毎朝預金残高を言われて、「金がない、お前の授業料でいくら消える」「銀行に借金しているのはお前のせいだぞ」と言われるというのだから、はっきり言ってたまらない。

 JK産業で働くのは、貧困層だけではない。経済的に困窮しているわけではないが、精神的に不安定な少女も少なくない。一方で、特別な事情があるわけでもなく、「バイト」として参入している層もいる。両親との仲も良く、家庭や学校でも特に問題ない層もリフレやお散歩の現場に入り込んでいるのだ。

 ただ、やはり多くの少女が居場所のなさを感じている。そんな彼女たちにとって、JK産業で働くことが「やりがい」や「求められている実感」を得られる唯一の方法になってしまっているケースのなんと多いことか。

 JK産業を巡る実態からは、様々な問題が浮かび上がる。「子どもの貧困」はもちろんだが、少女たちの自己肯定感の低さも気になるところだ。また、多くの少女が信頼できるような大人に一人も出会えていない。だからこそ、JK産業に巣くう大人たちの「大丈夫?」といった一言や、たった一本の缶ジュースなどに「認められている」と感動さえしてしまう。

 本書の著者は89年生まれ。自らも中学生の頃から「渋谷ギャル」生活を送っていたという。現在は居場所のない少女たちの自立支援に取り組み、「女子高校生サポートセンターColabo」代表理事をつとめている。

 2014年6月に公表された米国務省の年次報告書では、「JKお散歩」が日本の新たな人身売買の例として示されている。

 大人たちの目に触れづらい場所で起きていることに踏み込んだ一冊。興味のある方は、ぜひ読んでみてほしい。


http://www.magazine9.jp/article/amamiya/14157/  

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コメント
 
01. 2014年8月25日 14:59:26 : nJF6kGWndY

JKに限らず、若さと美が、経済的価値を持つのだから、それを使いたがる女が出てくるのは必然だろうな

AKB同様、別に貧困かどうかは、あまり関係はない


02. 2014年9月26日 03:46:40 : 358VeCXh4E
http://diamond.jp/articles/-/59646
生活保護のリアル みわよしこ
【政策ウォッチ編・第78回】 2014年9月26日 みわよしこ [フリーランス・ライター]
冬は極寒、夏は熱中症の恐怖にさらされる!
寒冷地・酷暑地における生活保護の「住」リアル
――政策ウォッチ編・第78回
円安ドル高・株価の上昇で市場が沸く中、その恩恵を全く受けない生活保護利用者たちの住環境は、さらに劣化するかもしれない。2014年11月にも、住宅扶助・冬季加算の引き下げ方針が打ち出される見通しであるからだ。

今、生活保護利用者たちは、どのような住環境で生活しているのだろうか? 現状がさらに引き下げられると、この人々の生活をどのように変える可能性があるのだろうか?

生活保護受給者の「健康」を求める
厚労省の研究会が新たに発足

 今回は、住宅扶助と冬季加算の現状がどうなっているのかについて、特に東北の住宅事情・冬の暖房事情を中心に述べる。住宅扶助・冬季加算をはじめとする加算は、社会保障審議会・生活保護基準部会で2013年秋より見直し(実質的に削減)が進められてきており、2014年11月には結論がまとめられる見通しだ。

 住宅扶助と冬季加算について述べる前に、厚労省の気になる動きを一つ紹介しておきたい。2014年9月8日、厚労省・社会・援護局長の私的勉強会として発足した「生活保護受給者の健康管理の在り方に関する研究会」だ。

 配布資料を見ると、

「生活保護費は伸び続けており、うち約半分は医療扶助である」

 という問題提起がある(3ページ)。8ページには年次推移のグラフがある。2012年度、生活保護費総額(国+自治体負担分)約3兆6000万円のうち、医療扶助は約1兆7000万円、比率にして46.5%であった。

 同年、生活保護世帯のうち43.7%が高齢者世帯、30.8%が障害者・傷病者世帯であった。合わせて74.5%は「医療ニーズが高い」と考えられる世帯であったわけである。また、これらの世帯の人々の中には、精神科病院等への長期入院患者も含まれている。以上を考えたとき、医療扶助は「高すぎるから削減する必要がある」と単純に言えるかどうか、筆者は大きな疑問を感じる。

 このことは厚労省も認めているようだ。資料12ページ〜14ページには、医療扶助が大きな割合を占める理由として、

1. 医療を必要とする60歳以上の高齢者が多い
2. 若年層にも医療を必要とする人々が多い(筆者注:20〜59歳の生活保護世帯のうち37%は、保護開始理由が傷病)
3. 一般的に長期治療が必要とされる者が多い(筆者注:ただし入院患者の少なくとも30%は精神疾患。長期治療が必要でも、長期入院の必要性は疑問)

 が挙げられている。

 この資料では、生活保護受給者の健康意識が「あまり良くない」「良くない」であることが多いとし、ついで、

・生活保護受給者は一般世帯と比較して、適切な食事習慣や運動習慣ができていない。
・また、生活保護受給者は社会活動等について疎遠気味である。

 の2点が、解決すべき問題として挙げられている。そして資料は、健康管理支援施策へと踏み込んでいく(16ページ〜26ページ)。

 筆者は正直なところ、

「生活保護基準が現状でも低すぎるから、適切な食事・運動・社会活動が実現しにくいのでは?」

 と感じるのだが、ともあれ、より「健康で文化的」な生活ができることが望ましいのは事実であろうと思う。それが他者から「義務なんだから!」と押し付けられて然るべきかどうかは別として。

住環境を無視して
「日常生活支援」?

 研究会資料の最後では、今後の課題として、6つの項目が挙げられている。中には、

○日常生活支援の効果的な実施
・薬の管理の支援
・食事の摂取の支援
・身体活動指導

 が含まれている。これらを「お上」が押し付けることの是非は、たいへん気になるところだ。

 憲法第13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」との整合、また日本が過去に批准した条約類との整合も気になる。ともあれ、日常の衣食住と人間関係がある程度「健康で文化的」であることが最低限の前提であることは疑えないであろう。

 ところが、1ページ前の25ページを見ると、

「住宅扶助や冬季加算等の各種扶助・加算措置の基準が当該地域の類似一般世帯との間で並行を保つため、経済実勢を踏まえてきめ細かく検証し、その結果に基づき必要な適正化措置を平成27年度に講じる(原文ママ)」

 とあり、住宅扶助や冬季加算の見直し(実質的に引き下げ)は既定路線とされているのである。

 最低限、「健康で文化的」といえる広さと設備があり、極度の寒さや暑さで健康に悪影響が及ばない程度には空調を確保できる状況でなければ、健康への努力を求めても、土台なしに堅牢な住宅を建てようとするのも同然の虚しい試みになるのではないだろうか?

 まず、現状が「健康で文化的」と言えるかどうかを、宮城県・岩手県・沖縄県の事例を通して考えてみたい。

現行の住宅扶助基準では住める住居がない
東日本大震災後、宮城県の過酷な実情


2014年9月15日の集会のようす。約120名の参加者で会場は満杯だった。車椅子の障害者も数名参加していた
Photo by Yoshiko Miwa
 2014年9月15日、東京で集会「“低きに合わせる”のが、この国の生存権保障なのか?〜次に狙われる住宅扶助基準と冬季加算の削減〜」(主催:「STOP!生活保護基準引き下げ」アクション/住まいの貧困に取り組むネットワーク)が開催された。この集会で報告された内容から、まず東日本大震災後の宮城県の住宅事情を紹介する。

 山脇武治氏(宮城県生活と健康を守る会連合会事務局長) は、東日本大震災後、住まいを失った人々の新しい住宅探しを支援してきた。しかし2011年8月以後、転居先探しは困難を極めているという。既存の賃貸住宅の多くが借り上げられて「みなし仮設」となったため、通常の賃貸住宅市場に物件が出てこなくなったからだ。

 また同時に、被害の少ない物件に住み続けている生活保護利用者への転居指導が急速に強められたともいう。いずれにしても、転居先となりうる低廉な物件がないので、転居しようがないということだ。石巻市や女川町など沿岸部の激甚被災地では、「賃貸物件がない」という状況は現在も続いているという。

 仙台市ではその後、多数のアパートが建設された。しかし、住宅扶助基準では新築アパートには入居できないため、生活保護を必要とする低所得世帯のための住居は現在も不足しているそうだ。


山脇武治氏(宮城県生活と健康を守る会連合会事務局長)。東日本大震災後は、深刻な住宅事情に直面しつつ、多くの人々の住の安定のために奔走してきた Photo by Y.M.
 山脇氏はついで、ある60代の夫妻の事例を紹介した。夫は身体が不自由で、血液透析を必要としている。このため夫妻は介護機器を設置することのできる家賃8万円の住居に住んでいた。しかし息子からの仕送りが途絶え、家賃を支払うことができなくなった。生活保護が必要なケースではあったが、夫妻には住むことの可能な住居がなかった。仙台市の住宅扶助上限額4万8000円では、夫妻が暮らせる賃貸住宅を見つけることは不可能だ。

 しかし夫妻は、その家賃8万円の住居を立ち退かざるを得なくなった。妻はやむなく夫をショートステイに託し、自分は友人知人たちの住まいを転々としていた。ショートステイの数回の延長も限度となったころ、山脇氏の知人が偶然、住む人がない離れを夫妻に提供すると申し出た。山脇氏は頼み込んで家賃を4万8000円にしてもらい、夫妻はそこで生活保護を利用して暮らしている。

 山脇氏は「住宅扶助基準が低すぎる」ということと、その基準以下で住める住まいが不便・危険・不健康・不衛生であることを問題にした。さらに、この問題の解決として、良質な公営住宅を多数建設することを挙げた。1978年の宮城県沖地震の後も、各団体が「地震の多い宮城県で、繰り返し起こるであろう大地震に備え、県営住宅の充実を」と申し入れたが、県は応じなかったという。

「おかずを買うか、灯油を買うか悩んだ」
劣悪な住まいで損なわれる高齢者の健康


沼田崇子氏(二戸健康保健福祉環境センター福祉課長)。長年のケースワーカー経験を通して知る生活保護利用者たちの過酷な冬について、極めて具体的に語った Photo by Y.M.
 長年、岩手県でケースワーカーとして勤務してきた沼田崇子氏(二戸健康保健福祉環境センター福祉課長)は、岩手県で生活保護を利用して生活している人々がどのように冬を過ごすかを中心として、報告を行った。

 広い岩手県では、地域によって寒さの質が異なる。豪雪が問題となる地域もあれば、酷寒・強風が問題になる地域もある。いずれにしても、まず冬季加算は期間が不足している。支給されるのは11月から翌年3月までの期間だが、岩手県の場合、高齢者世帯では夏のお盆ごろを除いて「夏も朝晩は暖房が必要」ということだ。高気密高断熱の高性能住宅は、生活保護利用者たちには望めない住環境だ。

 冬季加算がある時期も、十分な暖房を行って暮らせるわけではない。1人世帯の場合、冬季加算額は1万7340円となる。必要な灯油の量は、最低でも週あたり18リットル缶2個、1ヵ月あたりでは8個となる。現在、1缶2000円を超えているため、これだけで冬季加算額をほぼ全部使いきってしまうことになる。さらに条件の悪い住宅では、これ以上の灯油が必要になる。2人以上の世帯では人数に応じた加算があるが、十分というわけではない。生活保護利用者からは「おかずを買うか灯油を買うか悩んだ」という声も聞かれるという。

 さらに、灯油代以外の出費もある。水道管の凍結に備えたヒーターの電力、あるいは水を出しっぱなしにしておくための水道料金。水温も低いので、お湯を沸かすにも料理をするにも時間と燃料費が多くかかる。もちろん防寒用具も必要だ。

 さらに、雪かきの不可能な高齢者が他の誰かに雪かきを依頼すれば、人件費がかかる。移動に自転車やバイクを使うことができなくなる上、路線バスも廃止が進んでいるため、通院等にやむなくタクシーを使用することになる。

 沼田氏はさらに、健康への悪影響について語った。

 生活保護利用者たちは冬場、暖房費用を節約するために着ぶくれて過ごすため、動きにくくなる。一冬を過ごして春を迎えると、高齢者では顕著な運動能力低下が見られることも多い。「昨秋は上がれた段差が上がれない」といった事例も多いという。また、肺炎での入院も多い。寒くて台所で作業できないため簡単なものしか食べられず、低栄養状態が引き起こされたりすることもある。「入浴を控える」も多く見られるという。

 沼田氏は、このような実情を紹介しつつ、

「消費税が上がり、生活保護基準が引き下げられる中、冬場を過ごすためのやりくりで、どこか『人らしくない生活』をすることになります」

 と語った。

 数多くの生活保護利用者たちを間近に見てきた筆者も、まったく同感だ。現状の生活保護基準では、どこかで「人間らしさ」を犠牲にしなくてはならない。かくして、多くの生活保護利用者は、自分の譲れない一点を確保して「自分の人生」を守り、反面、犠牲にしてもよい点は削減するというやりくりをする。

 生活保護の経験を持たない筆者にも、生活保護基準以下の生活を送らざるを得なかった時期が何回かある。その時の自分のやりくりを思い起こしてみても、まさにその通りだった。かけがえない家族である2匹の猫、自分がライターでありつづけるための投資、自分の身体の健康を維持するための食と住を守ると、その他はギリギリまでの節約をせざるを得ない。それはやはり、どこか「人らしくない」生活であったと思う。そのような時期、筆者は「猫を処分しろ」「ハローワークで仕事を選ばず就職活動をしろ」と何度も言われた。その時に抱いた感情は、形容しようがない。

 自分の譲れない何かのために、他の面では「人間らしくない」生活を受け入れざるをえない生活保護利用者たちも、その譲れない何かへのこだわりと費用の確保によって、しばしば非難されている。筆者自身、食事はいつも「卵かけごはん」で節約し、衣服と書籍には可能な限り費用を割り当てる生活保護利用者の友人に、「もうちょっとマシなもの食べたら?」と言いたくなることがあった。でも、言わなかった。彼女から衣服と書籍へのこだわりを取り上げることは、彼女から「自分が自分であること」を強制的に奪うも同然だと思ったからだ。

「お金がない」というその一点を理由として、誰かが「自分が自分であること」まで奪われなくてはならない理由はあるだろうか? 筆者は未だ、納得できる理由を聞いたことがない。

幻の「夏季加算」と沖縄県の夏

 かつて民主党政権下で、「夏季加算」が検討されたこともあった。夏の酷暑で、熱中症となる生活保護利用者が相次いでいたからだ。現在、生活保護世帯にエアコンの保有は認められてはいるものの、購入費用や電気料金が給付されるわけではないので、「あっても使わない」という選択をする生活保護利用者が多い。

 沖縄県の生活保護利用者は、ビデオメッセージで、夏の酷暑をどう乗り切っているかを語った。市営住宅に住む高齢女性であるその生活保護利用者は、同じ立場にある他の人々と同様、エアコンはほとんど使わない。窓を網戸にし、ドアにチェーンをかけて少し開けておいて風の通り道を作り、扇風機を使ってしのぐ。しかしこの夏は熱中症にかかり、エアコンを利用しているが、「電気代のことを考えると怖い」という。

 同様にエアコンなしで夏をしのごうとしていた同じ市営住宅の男性が、この夏、熱中症に罹って救急搬送されたそうだ。男性は熱中症に罹ったことに気づき、玄関から外に出て助けを求めようとしたが、玄関で力尽きて倒れてしまった。幸い、近所の人が通りがかって男性に気づき、119番通報を行った。チェーンを切断して男性は救出され、病院に搬送されたが、かなりの重症で長期間の入院をしたという。この男性も生活保護利用者だ。

 沖縄は夏に暑いだけではなく、冬は北風が吹き、それなりに冷える。冬季加算は全国最低額ではあるが、現在もある。この女性は、「夏季加算もあったら」という。熱中症になるような「健康で文化的な最低限度の生活」はありえない。

 なお現在、女性は高齢であればこその冠婚葬祭の「付き合い」に必要な費用を確保するため、野菜はタマネギばかりにして節約しているそうだ。やりくりが苦しくて、心療内科に通うほどの精神状態にもなったという。

 当然、「いや、もっと劣悪な生活を経験したことがある」というご意見はあるだろう。しかし、そのように劣悪な生活は、日本には存在してはならない「最低生活以下の生活」だったのだ。

 2012年以来、生活保護基準部会は非常に不思議な比較を行いつづけている。最低生活以下が存在するという、あってはならない前提のもと、その「最低生活以下」を含んだ低所得層の消費実態と生活保護世帯の消費実態を比較している。当然、生活保護世帯の方が高くなるのだが、その当然の「高すぎる」という結果によって生活保護基準を引き下げているのだ。

 そもそも、生活保護制度でいう「最低生活」は、それ以下の生活を、せめて「最低生活」のラインまで引き上げるためにある。だから、そういう比較を行うこと自体に問題がある。しかし、この方法は、2013年に生活扶助引き下げで導入され、現在は住宅扶助・冬季加算等の引き下げへと応用されつつある。部会委員会の一部は激しく反対し続けているが、厚労省も財務省も、この動きを止めようとはしていない。

 次回は住宅扶助について、これまでの日本の住宅政策も含め、どのような問題があるのかをレポートする予定だ。「生活保護の住は劣悪でよい」と考えていると、いずれはその「生活保護の住」によって「日本の住」が引き下げられ、多くの人々の「住」が劣化していくことになるであろう。


<お知らせ>
本連載に大幅な加筆を加えて再編集した書籍『生活保護リアル』(日本評論社)が、2013年7月5日より、全国の書店で好評発売中です。

本田由紀氏推薦文
「この本が差し出す様々な『リアル』は、生活保護への憎悪という濃霧を吹き払う一陣の風となるだろう」


03. 2014年11月21日 06:37:11 : jXbiWWJBCA

生活保護のリアル みわよしこ
【政策ウォッチ編・第86回】 2014年11月21日 みわよしこ [フリーランス・ライター]
生活保護世帯の冬の暖房費、本当に3000円多い?
「ざっくり」すぎる冬季加算見直しの議論
――政策ウォッチ編・第86回
社保審・生活保護基準部会は、12月にも議論の取りまとめを行い、結果を2015年度予算編成に反映すると見られている。現在は、住宅扶助と生活保護費のうち冬の暖房費として支給されている「冬季加算」をめぐる議論が佳境だ。冬季加算については「現状でも3000円高すぎる」とする報道もあるが、実際にはどのような議論が行われているのだろうか?

これで「取りまとめ」?
まだ議論の入り口にも立っていないのに?


第20回生活保護基準部会は、前回と異なり、省議室ではなく会議室で開催された
Photo by Yoshiko Miwa
 2014年11月18日、厚労省において、社会保障審議会・第二十回生活保護基準部会が開催された。2014年10月21日に開催された第十九回(当連載政策ウォッチ編・第82回参照)から、約1ヵ月後である。

 取材に来ていたマスメディアは、筆者が気づいた限りではNHKのみであった。そのNHKは、今回の基準部会の様子を下記のように報じている。

生活保護費の冬季加算で厚労省が試算 11月18日 22時42分

生活保護費のうち冬の暖房費として支給されている「冬季加算」について、厚生労働省は所得の低い世帯の暖房費より1か月当たりの平均で3000円余り上回っているという試算をまとめました。厚生労働省は、今回の試算を基に冬季加算の水準を見直すかどうか年内に結論を出すことにしています。
(略)
冬季加算が所得の低い世帯の暖房費を上回ったことについて、厚生労働省は、生活保護の受給世帯は木造住宅に住んでいたり、病気などで働くことができず家にいる時間が長かったりして、暖房費がより多くかかるケースもあるとしています。
(略)
 この報道に接した人の多くは、

「生活保護世帯の冬季加算は、1ヵ月あたり3000円も『もらいすぎ』だったのか、やっぱり」

 という納得をしてしまったのではないだろうか? よく読むと、「3000円余り上回っている」という厚労省のまとめは未だ「試算」の段階である。また、冬季加算引き下げについても、「冬季加算の水準を見直すかどうか年内に結論を出すことにしています」とある。「見直すかどうか」に関する結論も、年内に「出る」と決まったわけではなさそうだ。


第20回生活保護基準部会、開会前のようす。放送局ではNHKのみが取材を行っていた
Photo by Y.M.
 一連の議論を傍聴し続けている筆者は、

「今の段階で、どういう結論が出せるというのだろう?」

 と思う。生活保護利用者たちの「住」の実態に関する調査は、住宅扶助の見直しに関する検討に伴って、本年8月に初めて行われ、生活保護基準部会委員の一部をメンバーとする作業班によって集計が行われつつある。現在の生活保護基準部会での検討は、その結果を踏まえてのものだ。現在の段階では、住宅扶助の上限額に関する何らかの提言を行うどころか、「上げるべきか」「下げるべきか」という議論が可能になる段階にさえ立っていないのではないか? 生活保護の「住」、すなわち「健康で文化的な最低限度の住」の具体的内容についてのコンセンサスが、たとえば、

「設備も含め、閣議決定された国交省の最低居住面積水準に従う」

 と明確にされているわけではないからだ。それが明確にならない限り、「いくら必要なのか」「現状はいくら足りないのか(多すぎるのか)」を明らかにすることはできないはずだ。

 そう考えているのは、おそらく、筆者だけではない。11月18日の部会では、厚労省の事務局が提出した資料に対し、委員たちから数多くの疑問や疑念が発せられた。その資料の中では作業班の集計結果も使用されているのであるが、「何のために何と何を比べているのか」さえ明確でない比較が多いのだ。

 それでも、議論が取りまとめに向かうことは間違いなさそうだ。今回の基準部会の終わりに、部会長の駒村康平氏(慶応義塾大学教授・経済学)が、

「(委員たちからの重要な指摘や必要な議論を踏まえて)取りまとめの議論へ」

 と述べたからだ(以下とも、委員発言は筆者のメモによる。議事録は未公開)。

 筆者は「マジぃ!?」と絶叫しそうになった。「何らかの結論を出すにはアレとコレとソレが足りないので、今回は具体的な金額の見直しにつながる結論までは出せない」という取りまとめなら、まだ納得できるのであるが……。

冬季加算は本当に
必要なはずの光熱費より「3000円高い」のか?

 今回の基準部会では、最初に住宅扶助に関する事務局からの資料説明と委員たちによる議論が行われ、ついで冬季加算について同様の進行となった。しかし現在は冬季加算が焦点となっているため、今回は冬季加算を中心として資料・議論の内容を紹介したい。

 まず、NHKが

「所得の低い世帯の暖房費より1か月当たりの平均で3000円余り上回っている」

 と報道した内容は、厚労省作成の資料にはどのように記載されているだろうか?

 この内容は、厚労省社会・援護局保護課が作成した資料「生活保護基準部会検討作業班における作業について(冬季加算関係)」の12ページに、「検証(7)(地区別の冬季加算の水準の妥当性について)」としてまとめられている。この上部に、「現行の冬季加算地区区分」としてまとめられた表がある。ここで最下部の「合計」を見ると、2人以上世帯において、12月〜4月の光熱費支出と5月〜11月の光熱費支出額の差は、1ヵ月平均で

年間収入第1・十分位(下位10%・生活保護世帯を含む) 5783円
年間収入第1・五分位(下位20%・生活保護世帯を含む) 6040円
年間収入第1〜3・五分位(下位60%・生活保護世帯を含む) 6539円

 となっている。対して冬季加算は、

冬季加算額 9067円

 である。もしもこの比較が妥当なものであれば、現行の冬季加算額は必要と考えられる額に比べて3000円程度高いことになる。


「生活保護基準部会検討作業班における作業について(冬季加算関係)」の12ページに記された「現行の冬季加算地域区分」の表
拡大画像表示
 しかし筆者の頭の中は、この表を見た時点で「?」だらけだ。冬季の光熱費需要が、寒冷地と温暖な地域で、これほど「違わない」ということがあるだろうか? たとえば年間収入第1・五分位を見ると、VI区(概ね南関東以南の比較的温暖な地域)で5117円であるのに対し、I区(北海道・青森県・秋田県)で1万0436円、II区(岩手県・山形県・新潟県)で9657円。I区にあたる地域で冬を生き延びるに必要な光熱費が約1万円? 現在の価格であれば概ね灯油90リットル? 「それで足りるわけがないのでは?」というのが正直なところだ。それに、冷え込んでもせいぜい最低気温はマイナス2℃程度の東京都と、冷え込めば最低気温がマイナス20℃以下にもなる北海道との差が、1ヵ月あたりたった5000円? 灯油で、たった45リットル程度の違い? これは納得しがたい。

 さらに見ていくと、他にも不思議な点がいろいろと目に入る。

 たとえば第1・十分位では、「I区(9991円)よりII区(1万0673円)の方が光熱費が高い」という傾向がある。他の所得層では見られない傾向だ。もしかすると、II区に在住している低所得層特有の居住環境があり、その影響で光熱費を多く必要としているのかもしれない。「北海道の住宅は寒冷に対する配慮を行って建設されているが、東北にはそうではない住宅が多いため屋内は北海道よりも寒い」という話はよく耳にする。

 またII区では、第1・五分位(9657円)が、より世帯収入の少ない第1・十分位(1万0673円)よりも、より世帯収入の多い第1〜3・五分位(1万0836円)も低い。同様の傾向はIV区(石川県・福井県)でも見られる。

 これらを除くと、概ね

「温暖な地域ほど冬季の光熱費の増大は少ない」
「収入が増えるほど冬季の光熱費支出も増える」

 という傾向が見られる。だから「納得」して、「現在の冬季加算は高すぎるんだな」と考えてしまう方も多いだろう。

 でも、この比較は何かがおかしい。寒冷地と温暖な地域の比較で差がなさすぎることといい、容易に理由が思い当たらない謎の傾向が見られることといい。意図的に結果をねじ曲げた統計でなかったとしても、データの偏り・不足などの問題が隠れているのではないだろうか? この点については、委員たちからも「サンプルサイズは十分か」「根拠付けを行えるだけの信頼性は出せるか」という懸念が表明された。部会長である駒村氏も、事務局に対して、冬季加算を都道府県単位ではなく市町村単位で見直す可能性について尋ねた。事務局は「都道府県に限定するものではない」と答えた。

 少なくとも

「生活保護世帯および漏給層のデータを収集し、市町村単位で月別に見る」
「生活保護基準以下の生活をしていると考えられる層の影響を除外した比較を行う」

 といった検討が行われなければ、現在の「冬季の光熱費の増加」を評価することは不可能であろう。冬季加算が実際に高すぎるのかどうかは、それらが判明してからはじめて検討可能になるはずである。

 なお、厚労省はこの資料で、「省エネ基準(「エネルギーの使用の合理化に関する建築主及び特定建築物の所有者の判断の基準(平成25年経済産業省・国土交通省告示第1号))」を援用し、省エネ基準による8つの地域区分ごとに冬季の光熱費増加と冬季加算の関係も検証した。省エネ基準では、九州南部や沖縄県のように夏季の冷房に関する需要が高い地域の需要も考慮することが可能ではある。しかし、この基準を用いた検討については、部会委員の園田眞理子氏(明治大学教授・建築学)より

「省エネ基準とは、『この地域ではこの程度の省エネをしてほしい』と、経産省と国交省が出した基準です」

 という指摘があった。冬季加算に関する議論では「必要性をどのように見積もるか」が焦点となっている。必要性をむしろ抑えることを目的とした省エネ基準を持ち込むこと自体が不適切であろう。壁に大きな穴のあいた、省エネ基準どころではない劣悪な住居に住んでいる人に対して、もしも「省エネ基準に基づいた分の燃料しか使ってはいけません」ということになったら、その人はどうなるだろうか? 寒冷地ならば本当に凍死してしまいかねない。

建物が劣悪ならば光熱費もたくさん必要
厚労省も明らかにした当然の傾向

 では、生活保護の「住」によって、冬の光熱費はどの程度増加するのであろうか?

 同資料の11ページには「検証(6)(住宅の状況等による冬季増加支出額の違い)について(原文ママ)」として、住宅の構造・住宅の所有関係・築年数・就業/非就業別に、冬季にどれだけ光熱費が増加するかを確認している。このページからは

「築年数による違いは大きくはないものの、新しい住宅ほど光熱費がかかりにくいようだ」といった傾向(同ページ右上)や、

「家族全員が就業・就学しているとしても、家族全員が就業・就学していない世帯の75%程度の光熱費はかかるようだ、『昼間は家にいない作戦』で光熱費を節約しようとしても25%程度しか節約出来ないらしい」

といった興味深い結果(同ページ右下)を読み取ることも可能なのだが、住宅の「出来」そのものによる違いを見てみよう。対象となっているのは、誰の目にも明らかな寒冷地であるI区〜III区(北海道・東北・新潟県・富山県・長野県)である。

 11ページ左上の図には、木造(防火木造を含む)家屋では、鉄骨・鉄筋コンクリート造りの家屋の約1.7倍の光熱費が必要となることが示されている。これらの家屋には、生活保護世帯の約86%が居住している。また、比率は「0.5%」と少ないものの、ブロック造りの住宅では、鉄骨・鉄筋コンクリート造りの家屋の約2.7倍の光熱費が必要となることが示されている。


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 11ページ左下には、持ち家か賃貸か、公営賃貸かによる違いが示されている。光熱費は、持ち家(一戸建て)・民間賃貸住宅(設備専用)・借間で高くなる傾向がある。一戸建ての持ち家で光熱費が高くなるのは、生活保護受給にあたって保有を認められた住宅であることによっているのではないだろうか? それは「資産価値が低い」、すなわち「古く老朽化している可能性が高い」ということである。


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 また光熱費は、民営賃貸住宅(設備共用)では低くなる傾向がある。しかし総数が少ない(0.2%)上に、寮のような特殊な住宅を含んでいる可能性もある。ここから「共用住宅なら安くなる」と考えることは行わないほうがよいと思われる。公営賃貸住宅・UR・後者等の賃貸住宅に関しては、サンプル数は十分と思われる。これらの住宅では、概して光熱費が安くつく傾向があり、民間賃貸住宅の概ね半分程度である。

 この点については、委員の園田眞理子氏が

「最初の住宅の質が保障されており、断熱性が高いと、あとでランニング(コスト)でかかる部分はそれほどでもなくなります」

「初期値の状態が良い状態をキープされていないのを、月々のお金で辻褄を合わせる構造になっています。『そもそも』が良くないと、月々の追い銭、フローが大きくなります。そういう関係にあることを前提において、どうするか議論する必要があるのでは?」

 という指摘を行った。園田氏は住宅扶助においても、

「(公営受託とURでは)一定の質のところに安い家賃で入居できます。住宅扶助はフローです。でも公営住宅は、別の形で税が投入されています。建設補助によって(住宅の)質が保障され、しかも税なので見える形の(月々の)住宅コストが減ります」

 と、結局は税の投入なくして「最低限」の保障はできないことを指摘している。さらに民間賃貸住宅との本質的な違いについて、

「公営住宅に入れている保護世帯は15%です。残りの85%は、民間賃貸住宅に住んでいます。(民間賃貸住宅は)建てられたときに税が入っていません。だから、フローで高い家賃を払わないと、大家さんが納得する家賃になりません」

 と、「生活保護の『住』はゼイタク」と流れがちな世論に釘を刺した。また、建築学者である自らが生活保護基準部会に参加していることについて、

「『何らかの形で困窮している人に対して、ボトムを保障するということであれば、お金がかかるんだ』ということを共有すべきだと思います。私としては、『厚労省の』住宅扶助(の検討)に参加しているつもりはありません。一国民として困窮した時に何が保障されているのかを議論したいです」

 と述べた。住宅政策や建築の実際を熟知し、公共のプロジェクトでも実績を上げてきた園田氏の発言には、今後も注目していきたい。


開会前、配布資料に熱心に目を通す岩田正美氏(部会長代理) Photo by Y.M.
 また、一連の集計に対して、部会長代理の岩田正美氏(日本女子大学教授・社会福祉学)からは、「エンゲル係数が高すぎるのでは?」という疑義が表明された。岩田氏は、厚労省側の事務局に対して丁寧に労をねぎらいつつ発言したのであるが、即座に筆者の脳内で「何かやらかしてない? 何かデータいじってない?」と変換された。いずれ、この集計内容も詳細に検討されるであろう。生活保護基準の成り行きに関心を持っている専門家は、生活保護基準部会の委員たちだけではない。

冬季加算に現物給付の可能性はないか?

 正直なところ、

「ここまでのデータと議論で冬季加算の『上げる』『下げる』が検討されて何らかの結論が出されたら、凍死者が出るのでは?」

 というのが筆者の印象である。

 そもそも、生活保護利用者の住環境にはバリエーションがありすぎる。比較的良好な公営住宅に在住している人もいれば、掘っ立て小屋のような劣悪な民間賃貸住宅に在住している人もいる。その両者が「同一地域だから」という理由で同一の冬季加算、というのが最大の問題であろう。

 いずれは「住」の最低ラインとして、すべての人が国交省の最低居住面積水準以上の住居に住めることが目指されるとしても、「来年度からすぐに」というわけにはいかない。すべての人に、居住する地域を選択する自由がある。劣悪な民間賃貸住宅であっても、家主自身の生活設計への影響も考えないわけにはいかない。

 であれば、冬季加算については現物支給も検討されてよいところではないだろうか? 「屋内の気候を一定以上に保つために必要な電力・灯油等については、現物または実費を支給する」ということである。ときどき指摘される「冬季加算は現金なので他用途に転用されることがある」という問題は、これで解決する。「電力や灯油を転売する」ということは、全く考えられないわけではないけれども、現金の他用途への転用・あるいは処方薬の転売に比べれば、はるかに可能性が低いであろう。もちろん、性能の劣る住宅に居住している世帯に対しては多く、性能の優れた住宅に居住している世帯に対しては少なく支給されることになる。もしかすると、全体では若干の節約が可能になるかもしれない。また、

「ある年に住宅補修によって断熱性能を高めておいたら、あるいは家賃は高めだが良質な住居への転居を指導したら、その後10年間にわたって光熱費が節約できて十分にペイするのかもしれない」

 という検討も、実際にその住居に暮らす生活保護利用者とともに行えるようになる。

 地域を限定してでも、試してみる価値のある社会実験ではないだろうか?

 現在求められているのは、言葉本来の意味での「合理化」であろう。「合理化という名の削減」ではなく、信頼できる根拠に基づく、多くの人が納得しうる合理的判断に基づく「合理化」である。しかし2012年以後、財務省に主導されて厚労省が推進してきた社会保障削減、特に生活保護の削減は、貧困状態に陥った人に対し、さらに貧困という刑罰を与えているも同然である。筆者は、そこにどういう合理性も見出すことができない。

 次回は引き続き、この基準部会で行われた住宅扶助に関する議論を紹介する予定である。
http://diamond.jp/articles/-/62539


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