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[真相深層]法科大学院 理念倒れ
予備試験の人気過熱、志願者数が逆転
法科大学院に行かずに司法試験に挑戦できる「予備試験」の人気が過熱している。今春の志願者は法科大学院を初めて逆転。「近道」を求める学生の勢いは止まらず、法科大学院教育が中核になるはずだった司法制度改革の理念は風前のともしびだ。
「制度自体が壊れる恐れがある」「切迫した状況だ」。6月12日、政府の「法曹養成制度改革顧問会議」の会合で、予備試験人気の高まりを問題視する発言が相次いだ。東大や京大など主要法科大学院6校は連名で「教育の場そのものが失われかねない」とする緊急提言を出した。
中央大法科大学院の大貫裕之教授は「現状が放置されるなら撤退も辞さない」と語気を強める。
時間と費用節約
多彩な人材の確保と法曹人口拡大の要請に応えるため2004年に導入された法科大学院。11年に始まった予備試験は本来、経済的な理由で法科大学院に通えない人などにも法曹への道を開くための「例外措置」だ。
平均合格率は3%という旧司法試験並みの難関で、合格すると司法試験を受験できるが、1年目の司法試験合格率が68%、2年目も71%という好成績を出したことで状況が一変。平均20%台の法科大学院組をよそに、受験生が殺到している。
「予備試験が優先。法科大学院は保険」。法曹を目指す東大2年の男子学生(22)は言いきる。修了に2〜3年かかる法科大学院はそのまま司法試験に合格したとしても法曹になれるのは20代半ば。数百万円の学費も割に合わないと感じる。「法科大学院は研究者志望のために残すくらいでいい」と突き放す。
大手司法試験予備校「伊藤塾」の今年5月の調査では、学習目的の1位に予備試験を挙げた人は69%だったのに対し、法科大学院の合格は13%どまり。「早く実務に就きたい」「学費工面が困難」などが理由という。
優秀な人材を確保したい弁護士事務所も予備試験組に注目。ある大手弁護士事務所は今年12月、予備試験組限定の就職説明会を実施する。
「法科大学院中退」「法学部卒」……。別の大手弁護士事務所のホームページの若手紹介欄では最近、こんな学歴が目立つ。キモは「法科大学院を修了していない」こと。予備試験経由で司法試験に合格した「優秀メンバー」だと、顧客らに暗に分かる仕掛けだ。
予備試験の合格者の中には、「本番」の司法試験の合否判明前に弁護士事務所から内定が出るケースもある。
ベテラン弁護士は「予備試験がブランド化した。事務所の囲い込みもヒートアップしている」。予備校関係者も「難関を突破した予備試験組を採用側が好むのは当たり前。予備試験は司法試験の『1次試験』化していくだろう」と予想する。大学院側からは「法科大学院は予備試験に落ちたら行く場所という印象だ」と悲鳴が上がる。
受験制限に異論
司法制度改革はもともと、旧司法試験が「点による選抜」と批判された反省から、法科大学院での実務教育に基づく「プロセスによる法曹養成」を標榜した。
ところが文部科学省主導に反発する法務系議員らの間で「法科大学院を特別扱いすべきでない」との声が上がり、「大学院経営に悪影響が出る」との懸念を押し切る形で予備試験が設けられた経緯がある。現状は制度設計段階から予想された展開ともいえる。
政府は予備試験の受験制限を検討中だが、異論もあり先行きは不透明だ。ある法務省幹部は「制限しようとすれば駆け込みでさらに学生が殺到し、司法試験制度が瓦解するかもしれない。だが、もはや一度壊さないとどうにもならないのではないか。迷宮入りだ」と打ち明ける。
司法修習生の就職難の影響で法曹志願者は減少傾向にある。今年の司法試験出願者は9255人で、5年ぶりに1万人を割った。「法曹の仕事は本来地味で、お金持ちになるためのものでもないが、夢を若者に伝えたい」。顧問会議座長の納谷広美・明治大元学長はこう話すが、法曹養成を巡る最近の迷走は、むしろ若者を遠ざけつつある。
国民生活の身近な「医師」として働く、層の厚い法律家――。司法制度改革がうたった理想を実現するはずの養成制度は今、正念場を迎えている。
(山本有洋、伊藤大樹)
[日経新聞6月17日朝刊P.2]
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