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[創論]揺らぐ家族観
男女の法律婚が大前提 自民党政調会長 高市早苗氏
昨年9月に最高裁が婚外子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定を違憲と判断したことで、家族や相続のあり方が問い直されている。法律婚でも事実婚でもない契約婚や同性婚を認める国も欧米で増えるなか、日本の家族、結婚はどこへ向かうのか。家族のきずなを重んじる立場の高市早苗氏と、現実を見すえることを求める二宮周平氏に聞いた。
――自民党は家族の役割を強調しています。
「党の憲法改正草案には『家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない』という条文をたてた。党の綱領でも『地域社会と家族の絆・温かさを再生する』ことを政策の基本的考えとして掲げている。自民党は、家族や国への帰属意識を重視している」
「私が日本人として誇らしく思うのは、家族の中でしっかりした規範や生活のために必要な習慣を身につけさせようという意識が伝統的に強いこと。子のしつけや老親の扶養に、まず家族が責任を持つと考えられてきた」
――その家族のかたちが変わってきて、単身世帯がどんどん増えています。
「それは『世帯』であり、単身でお住まいの方も1人で生まれて1人で育ったわけではない。家族はまさに『族』で、夫婦や親子兄弟などの親族関係を基本とする小集団を指すことは変わっていない」
――昨年の最高裁判決にはずいぶん反発が出ましたね。
「私自身はこれまでの民法の規定は一定の合理性があると考えていたので、悔しい判決だった。しかし憲法81条は、最高裁は法律が憲法に適合するかどうかを最終的に決定すると規定している。社会が混乱し法的に不安定になるのを避けるため、党としても民法改正に取り組む旨の政調会長名の文書を発出した」
「私だけでなく党内には一夫一婦制や法律婚主義が危うくなるという懸念があった。たとえば個人事業主が亡くなった場合、事業資産の形成に寄与していなかった婚外子が嫡出子と同等の相続権を持つと、生業の承継が困難になるのではないか。残された配偶者の生活保障を考えると、老親の扶養を担う可能性の高い配偶者の子の相続分が多い方が合理的ではないのか。いろいろな疑問が生じた」
――婚外子として生まれただけで、子が不利益を被る理由があるのでしょうか。
「子に罪がないと言われればグーの音もでない。ただ、不貞行為は理由がどうあれ配偶者の権利を侵害する共同不法行為だ。婚姻によってできた家族が法に守られ、外からも同一性を認められるということが、今でも多くの日本人の価値観だと考える」
――自民党の不満を受け、相続についての検討チームが法務省にできました。
「来年1月には一定の結論をとりまとめるだろう。相続には極めて多様なケースがある。たとえば夫の死後も妻のの住まいを保障することなどを考えると、配偶者の相続分を増やすというのも一つの選択肢だと思う」
――婚外子の相続とあわせて問題になった選択的夫婦別姓制度をどう考えますか。
「姓を家族の呼称と考えるか個人の呼称と考えるかの違いだ。私は、夫婦親子統一のファミリーネームをなくしてしまうことに相当の理由があるとは思わない」
「婚姻に伴う姓の変更で仕事に支障が出るという声もあって、私は過去に法案を書いた。戸籍上の夫婦親子は同姓を維持しつつ、届け出によって証明書類に新姓と旧姓を併記できることとし、事業者などにも旧姓使用への配慮を求める内容だ。今でもパスポートは併記が可能で、私のものは『山本(高市)早苗』になっている。免許証や健康保険証などでも併記可能とする法案だったが、党内で賛否が分かれ提出できなかった」
――世界では同性婚も広がりつつあります。
「憲法24条は『婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し』と規定しており、党の憲法改正草案でも同様だ。両性の親ではないことが子に与える影響も考えねばならない。性同一性障害の方が性別取り扱い変更審判を経て性別を変更した場合の結婚は法律で認められている。それ以外の同性婚について、私は積極的に進めるべきだと思わないし、今は想定しづらい」
――生殖補助医療は現実が法や規範に先行しています。
「党内に、生殖補助医療に関するプロジェクトチーム(PT)をつくった。現に生殖補助医療は行われているので、親子関係、倫理上の問題などあらゆるリスクに備えるべきだと考えたからだ。たとえば、他人の精子で妻が妊娠することに事前に夫が同意すれば、夫と子の間に親子関係を認め、精子提供者に対しては認知請求ができないとか、そういうルールを法的に詰める必要がある」
たかいち・さなえ 神戸大卒。松下政経塾出身。衆院当選6回。元近畿大教授。12年から現職。夫は山本拓衆院議員。53歳。
個人・子どもの幸せ尊重
立命館大教授 二宮周平氏
――昨年の最高裁判決が家族や結婚のありかたを考えるきっかけになりました。
「婚外子の相続差別には明治時代にも批判があったし、戦後も何度も改正を求める声はあった。しかし、法律婚を尊重するという立場からの批判が強く、結局司法判断が出るまで立法は動かなかった。これは、自らは何の責任もない婚外子が不利益を被るのは許されないという個人の尊重、子どもの権利の問題であって、法律婚主義の是非という話ではない。現に法律婚主義と婚外子の平等は矛盾なく各国で並び立っている」
――判決には自民党から不満が出ました。
「不倫を助長するという意見があったが、逆だ。婚外子の相続差別は、『俺はおまえ以外の女性と子どもをつくったが、相続分は半分だから心配しなくていい』という言い逃れに使われてきた。夫の死後に見ず知らずの子が突然現れ嫡出子と同じ相続分を求めるのはおかしい、という主張もあった。この意見は、生前に夫が婚外子に対し父としての責任を果たさず、家庭の財産が婚外子に対する差別によって築かれたという点を見逃している」
――婚外子の相続差別撤廃には世論が消極的でした。
「日本の婚外子は2.2%くらいしかいない。世論調査というのは既得権を持つ多数派の意見だから、少数者の人権を守ろうというときにふさわしい手法とはいえない。これは国際的な常識でもある」
――選択的夫婦別姓は実現の見通しが立っていません。
「氏名は個人個人の人格の象徴であって、氏名権は人格権の一部だと考えられる。結婚によって自分の意思にかかわらず一方が変えなけれならないということは許されるのだろうか。変えたい人は変えればいいが、変えたくない人に強要するのは人格権の侵害になる。今は別姓が許されないから婚姻届を出さずに事実婚を選ぶカップルがいる。事実婚でもいいのだが選択肢は狭まる。婚姻の自由が侵害されていると考えられる」
「同じ姓でないと家族の一体感が失われるという反対意見は多い。一組の男女と姓が同じ子を単位とする家族こそが標準であるという根強い意識に支えられている。そこにひびが入ることを心配するわけだが、現実を見てほしい。夫婦が同姓であっても離婚は毎年23万件を超え、婚姻するカップルの26%は少なくともどちらかが再婚だ」
――家族のかたちも変わってきています。
「2010年の国勢調査で、一番多い世帯は単独の世帯で32.4%。夫婦と子どもから成る世帯は1970年には46.1%もあったのに27.9%に減った。もちろん三世代同居やひとり親の家庭もある。家族が多様化する中で求められているのは、個人一人ひとりを大切にする社会のシステムだと思う」
――家族の多様化とは崩壊ともいえないでしょうか。
「だったら、明治民法の家制度の下で人は本当に幸せだったのか。自分たちの合意だけで結婚できるとか、戸主制度・家制度よさらばとか、戦後のそういう解放感を私たちは忘れたのか。結局妻は夫のため、家のために子ども生み育てることが役割とされた昔に戻るのか、と問いたい」
――世界では契約婚や同性婚も認められつつあります。
「家族はこれまで、子どもを育て、労働力を再生産し、性的秩序を守るという制度としてとらえられてきた。しかし、制度ではなく個人が幸福を追求する場になりつつある。欧米はそういう方向にかじを切った。だから、同性であってもいいし事実婚でもいい。離婚も構わない。ただ、子どもを守らないといけないから、離婚には裁判所が関与し、社会的に子どもの成長を支える仕組みをつくるという考え方だ」
――日本にも根づくでしょうか。
「家族法の研究者の間では、同性婚、あるいは同性の契約婚は認めるべきだという考えが多いと思う。同性のカップルが養子縁組や生殖補助医療で子を持つことには賛否両論あるが、私は同性カップルでも子の養育に責任を持つのであれば、よいと思う」
「日本人は宗教意識が低いかわりに、伝統的な価値観に依拠しようという人が多いのではないか。『家族』という言葉に弱い。だが、日本の家族の伝統とは何か。その伝統の下で苦しんできたのは女性であるということを忘れるわけにはいかない」
にのみや・しゅうへい 大阪大院修了。法学博士。専門は家族法。ジェンダー法学会理事長。著書に『家族と法』など。62歳。
〈聞き手から〉家族のあり方は多様に
家族とは夫婦と子を含む共同体であって、夫婦はその維持のために協力し、子も夫婦が協力して育て、子自身がまた家族という共同体に何らかの協力をする――。こうした家族像は今、どの程度の普遍性を持っているのだろう。
高市氏はその家族像にこそ「ストンと腑(ふ)に落ちるものがある」と言い、二宮氏は「結婚や親子同居の価値を振りまわすだけでなく事実を直視すべきだ」と説く。
日本では今後も法的に結婚した男女が家族を築くことが多いだろう。ただ、なぜ結婚は男女間でなければならないのか。夫以外の精子から生まれた子に生物学的な親を知る権利はあるのか……。さまざまな難問が横たわっている。
今後、家族のかたちがより多様化していくことは避けられない。一方で法的、社会的な備えが現実に追いつかない。そんな現状が気になる。
(編集委員 小林省太)
[日経新聞4月13日朝刊P.13]
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