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精神科医の福井裕輝(ひろき)さん(44)は2013年、ストーカーについてのトラブルに対処する「男女問題解決支援センター」を東京都千代田区に開設し、代表理事として加害者の治療にあたっている。共通する傾向を「ストーカー病」と名付け、診察した「患者」は100人を超える。警察庁から依頼を受け、被害者の相談内容から加害者の危険度を判断するチェック票を開発し、全国の警察署で利用が始まった。悲惨な事件を防ぐための取り組みについて聞いた。【林奈緒美】
◇「病」向き合い治療を…精神科医の福井裕輝さん
問(林)…ストーカーには共通の特徴があるのですか。
答(福井医師)…治療に来る加害者たちの多くは、失恋直後の状態がずっと続いているようなものでとても苦しんでいます。普通は失恋しても、気持ちを整理し、立ち直るものですが、それができない。「つきまとうのは彼女(彼)が気持ちを理解してくれないからだ」「本当は、まだ自分のことが好きなはずだ」などと思い込んでいる場合が多く、自分こそが被害者だと主張します。これを「ストーカー妄想」と呼んでいます。
問…加害者のそうした状態を病気と捉えているのですね。
答…特有の考え方ともいうべき特徴が二つあります。
一つは「他人の不幸は蜜の味」の心境にあること。相手に拒絶されることで加害者は苦しみます。恨みが深くなったストーカーは、相手が不幸に陥り、苦しむ姿を見ることで自分の苦しみが和らぎ、快楽のように感じるのです。逆に、相手が生き生きと輝いている姿を見ると、裏切られたように感じ、許せないと考えます。
もう一つは感情の整理ができないこと。人は悲しい出来事が起きると悲しみに浸り、やがて立ち直ります。でも彼らはそれができない。なぜ悲しいのか、怒っているのか、混乱しながらもずっと苦しみの中にいて、5年も10年もつきまといを続けてしまうのです。
問…相手のことが好きなのに、どうして嫌がることをするのでしょうか。
答…彼らにとって最も辛いのは、相手から拒絶され、無視されることです。大人の反応を見るために、怒られるとわかっていても子供がいたずらをするのと同じような感覚です。ストーカーは嫌がられても怖がられても、相手の反応があれば喜ぶし、その際に「本当は相手も自分のことを好きなのだ」と思い込みも広がります。
問…ストーカー行為は犯罪です。病気として捉える必要はあるのでしょうか。
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答…警察が警告を出せば、約8割の人はストーカー行為をやめます。それ以上続けるのは、頭では違法だと理解していても恨みの感情を制御できない人たち。言わば「恨みの中毒」に陥っているケースです。これまでに同様の殺人事件が何度も起きてきたことからもわかるように、自暴自棄に陥っている人には何の抑止力も働きません。警告で抑止力にならないのであれば、別の方法が必要だと思います。
彼らを悪人、変人として社会から切り捨てても根本的な解決にはなりません。病人として向き合い、適切な治療をすることが、新たな被害者を生み出さないことにつながると考えています。
問…加害者にはどんな治療を行っているのですか。
答…彼らの思い込みがどんなに間違っていても、それを正そうと指摘するだけでは反発を招き逆効果です。かと言って肯定すれば思い込みを助長させることになります。まずは相手の話をじっくり聞き、症状の重さや被害者との関係性などを整理して、治療の方針を立てます。加害者自身も苦しい状況を変えたいと思っています。思い込みを正すよりも、まずは法律に違反する行為をやめさせることが当面の目標です。
問…治療のイメージを教えてください。
答…例えば、駅で待ち伏せをしてしまうという人には、「本を読む」「コンサートに行く」など、自分にとって効果的な方法を試してもらい、待ちぶせに行くことを1回でも2回でも良いからやめさせます。そして、待ちぶせに至った経緯、感情を書き出してもらいます。すると「直前に上司から怒られた」「朝からむしゃくしゃしていた」などとさまざまな要因が出てきます。そこで私が「上司はあなたを育てようと注意しただけ」と助言したとします。次に上司から注意された際には、私の言葉が頭をよぎり、待ちぶせしなかった−−。そうしたことを一つ一つ積み重ね、歯止めになるような経験や行動パターンを増やし、少しずつ依存の対象から離れさせていきます。
問…治療すればストーカー病は完治するのでしょうか。
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答…「新しく資格の勉強を始めた」など、未来について話し始める場合は、大きな変化の兆しです。ただ、残念ながら私の経験ではこれまでに完治に至ったと言い切れるケースはありません。ストーカー行為をやめて、最も苦しい状態から抜け出せると、治療に来なくなります。「忙しくなった」などと前向きな理由で来なくなるのですが、突然、また相手への気持ちが抑えられなくなる可能性はゼロではありません。再発の危険は常にはらんでいます。
病の根を絶つには、その人の根幹となるパーソナリティーを変えなければならず、容易なことではありません。加害者の多くは、相手との関係以前に不安や孤独、家族との関係など根本的な問題を抱えていることが多いものです。
神奈川県逗子市で起きたストーカー殺人事件の場合、被害女性を殺害して自殺した加害者は非常勤職員で、不安定な状況にありました。契約の更新時期が迫ると気持ちが不安定になり、被害者に何百通もメールを送っていたようです。こうした不安がストーカー行為の土壌になっていた部分はあるでしょう。格差や孤立など、社会がはらんでいる問題がストーカーの背後にあります。
問…被害に遭わないために注意すべきことは何ですか。
答…特に重要なのは別れ方です。突然、携帯電話を着信拒否にしたりすれば、失恋から気持ちを癒やす作業が中断されてしまう。悲しみに浸り、立ち直るという段階を踏むことができず、ただ恨みの感情ばかりを募らせることになります。別れ話をするときは、直接会って、冷静に、毅然(きぜん)とした態度で意思を伝えることが肝心です。
問…別れの意思を伝えてからは、どうするべきですか。
答…ストーカーの場合、状況は刻一刻と変化しています。きちんと別れる意思を伝えて、それでもつきまとわれるようなら、相手との接触を断ってください。友人や親など第三者の仲介で収まることもありますが、相手の恨みがエスカレートしている段階では逆効果となります。フェイスブックやツイッターで自身の情報を発信することも控えるべきです。加害者は、少しでも相手の情報に触れると飢餓感が強まり、制御できない状態に陥ってしまうのです。
問…ストーカー事件が多発する背景に、インターネットの存在は関係しますか。
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答…ネットで知り合った相手がストーカー化したという事案は非常に多いです。ネット上では自分を偽り、いくらでも良く見せることが可能です。ストーカーになる人の中には、「自分は特別な人間だ」と考えるような自己愛の強い人間が多いのですが、そういう自己愛を肥大化させる部分がネットにはあります。
ネットの登場は、人間関係を短期間に縮めることを可能にしました。知り合った相手と1日に何通もメールをして、心理的な距離を縮め、相手のことをよく知らないうちに交際が始まります。ストーカーが生まれる根っこには社会的な不安があり、ネットの存在がそれを助長させるという感じがしますね。
問…ストーカー相談で危険度を判定するチェック票の導入が全国の警察で始まりました。どんな運用を期待しますか。
答…被害者の申告をもとに加害者の危険度を測るものです。逗子の事件で殺害された女性の相談に乗っていたカウンセラーに、被害女性になりきってもらって票に当てはめてみたら、加害者は最も危険度が高いという結果が出ました。ただ、チェック票だけに頼ると、冤罪(えんざい)や見落としを招く可能性があります。開発した者としては、使わずに放置するよりは意味があると思っていますが、しゃくし定規でなく参考にしてもらいたいですね。
問…警視庁は三鷹のストーカー殺人事件以降、積極的に事件化を進め加害者の身柄を確保する方針に転換しました。
答…多くの加害者は逮捕されたことのショックでストーカー行為をやめるでしょう。ただ、問題なのは凶悪な一部のストーカー。逮捕されたことで、かえって恨みを募らせる可能性があり、釈放後や出所後の被害者への報復が心配です。警察だけでなく、加害者治療も含めて社会全体で長期的に取り組む必要性を痛感しています。
http://mainichi.jp/select/news/20140405k0000e040204000c.html
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