02. 2014年3月25日 22:11:15
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年間20万人が孤立死。家族難民があふれる日 山田昌弘氏(中央大学文学部教授)に聞く 塚田 紀史:2014年3月2日 このままでは、年間20万人が孤立死するとして、未婚化・シングル(単身)化が進む日本の未来に警鐘を鳴らす。──いずれ市役所に「埋葬課」ができるようになるのですか。 このままでは、2040年ごろには年に20万人が「孤立死」するようになる。この人を最近見掛けなくなったという話から、役所の人が亡くなっていないか訪ね歩く。今、孤立死は3万人とみられ、全体の125万人の死亡数と比べれば、100人に3人いるかどうか。それが、5人亡くなれば1人近くは引き取り手がないとなって、行政の仕事になる。
自治体はホームレスで亡くなった人の数を教えてくれないという。貧困地区を抱えている自治体にはそういった問題もある。根底に経済格差があるので、今後は農村部でも、70〜80代の親と40〜50代の息子との3人で住んでいる家庭が多いだけに増えてくるだろう。 ──引き取り手がいない? 今、平均寿命を迎える世代の未婚率はざっと3%。50歳時点での生涯未婚率は15%だから、この理由だけでも孤立死は5倍に膨らみかねない。しかも、この世代は離婚率も高まっていくし、子どものいない人も多い。今から20〜30年後、私が亡くなる頃には引き取り手のない人たちがいっぱい出てくる。 ──結婚数と絡むのですか。 その頃には、高齢になっても未婚のままで、家族の庇護を受けられない「家族」難民が数百万人という単位で、あふれ返ることになる。自分を必要とし大切にしてくれる存在がいない人たち、つまり「家族がいない」問題の裏返しだ。一人暮らしのシングルの増加は少子化とともに孤立死を招く。 ──シングル化とも絡み合う問題なのですね。 基本的にはシングル化によってもたらされている。つまり、結婚しない人と離婚する人とが両方増えている。今の若い層は結婚している人が5割なので、逆に言えば2人に1人は結婚しないか、離婚しシングルの人だ。もはやシングルは少数派ではない。今の高齢者は離婚率1割といっても、再婚率の水準はまだ高い。さらに兄弟姉妹も多い。70歳では兄弟姉妹数は自分以外に平均3人いる。それはおいやめいがいることにもなる。彼らが手術のサインをしてくれる、骨を引き取りに来る、そういう意味での親しい家族がまだいる。 しかしそれでも孤立死が増えているのが現実だ。 ──パラサイト・シングルたちはどうなっていますか。 年を経て、彼らも持ち上がって中年化している。ボリュームゾーンは30代から40代になり出している。彼らも同居の親が亡くなったら、そのまま孤立してしまう。兄弟姉妹がいても音さたがあるかどうかという具合で、関係は薄くなっているし。 親が「壊れて」、子どもを支え切れない家庭も増えている。それは貧困の連鎖となり、一人親や親自身が非正規雇用である場合、そこでは子どもは豊かな中高年時代を送れなくなる。家族格差がてきめんに響く。 ──家族格差? 従来どおりの家族生活を送る人と、そこから外れる人。それも経済的な強者は家族的な強者にもなる。いろいろな意味で、経済的な弱者は家族的な弱者になる。経済格差によって家族格差にレバレッジがかかるのだ。たとえば、正社員同士の夫婦と非正社員同士の夫婦では、その差は大きいと指摘する人もいる。 正社員は結婚でき、自分を心配してくれる人がいる。非正社員で結婚できなかった人は、高齢になったときも経済的に苦しい。自分を助けてくれる家族もいないとなれば、心理的にも誰も助けてくれない心境に陥りがちになる。 ──性格から見てシングルになりやすい人はいるのですか。 結局、自由化された社会だから、どうなるかは経済的能力とコミュニケーション能力、この二つの組み合わせで決まる。結婚にも就職にも、この二つの能力がかかわっている。たとえシングルでも、経済的な能力やコミュニケーション能力に魅力があれば、頼れる友達づくりは自然とできる。 今、起きているのは、その能力のない人がどんどん生まれているということだ。親と同居し、半分引きこもり。あるいは非正社員で会社でも会話をしないで過ごす。この人たちは親が亡くなると、自分を助けてくれる人をつくる能力がないから苦境に立たされる。 ──パラサイト・シングルという指摘は将来への警鐘だった……。 10年ほど前から、中高年パラサイト・シングルが増えてきているから、その対策をしないといけないと口を酸っぱくして言ってきた。今すぐの問題ではないと軽視されたが、人口学的に言って、20年後にはそういう人たちがはっきりと姿を現し、日本社会を分断して困った状況になる。 今のうちに、むしろ高齢者にでなく、若い層向けに対策を講ずるべきだ。自分を必要とし大切にしてくれる存在づくりの対策だ。婚活予算もとうとう削られてしまった。比較的恵まれている今の日本の高齢者より、次世代を担う若者について考え、施策を打つべきなのだ。 ──日本社会の家族モデルはなかなか変わりません。 「標準的な家族」を前提とした労働の仕組みや社会の制度を全部変えていく必要があるが、なかなか変わる気配はない。人数が多いのは高齢者で、声が大きい人は標準的な家族をつくれている人だ。正社員と非正社員の格差があるのは正社員が組合の代表で、非正社員はどうでもいいと思っているからだ。非正社員の時給を5円、10円上げるより、格差をなくすほうが重要なのだ。組合が自分たち正社員を守っていくのはいいのだが、守っていく人の割合がどんどん減っているという事実をもっと厳粛に受け止めたほうがいい。 非正社員が増えていて、どうにかしなくてはいけないのと同じように、標準的な家族が減っていて、標準的な家族をつくれない人が増えているのだから、社会制度を含めた形で変えていかなければいけない。そうしなければ、標準的な家族をつくれなかった人は、ますます「家族」難民化し貧困化が進む。 ──個人としてはどうすれば。 自分を大切に見てくれる人は、生きていくうえで誰でも必要とする。それは従来どおりの家族であってもいいし、そうでなくてもいい。いろいろな形で、そういう人を増やせるように社会に働きかけることだ。非正規雇用の問題も、人が朝から晩まで働き、安心して生活できるようにすべく皆で努めたいものだ。 『「家族」難民』 朝日新聞出版 1680円 214ページ やまだ・まさひろ 1957年生まれ。東京大学文学部卒業。東大大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。東京学芸大学教授を経る。専門は家族社会学。親と同居して独身生活を続ける若者をパラサイト・シングルと呼び、格差社会という言葉を浸透させた。婚活をキーワードにしたブームの火付け役ともなっている。 http://toyokeizai.net/articles/print/31635
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