http://www.asyura2.com/12/social9/msg/439.html
Tweet |
【第172回】 2013年10月24日 池上正樹 [ジャーナリスト]
毎日のネット放送で当事者たちと交流を続ける
「清水ひきこもり研究所」の新たな取り組み
表面的に見えるもの、威勢のいいもの、声の大きな人ばかりに気を取られていると、つい大事なものを見失いそうになることがある。
「引きこもり」という現象を語るうえでも、私たちが本質的に向き合わなければいけないのは、圧倒的に多くの人たちが姿を見せず、あるいは声を上げることもできずに引きこもり続けているという現実である。
当コラムでも、問い合わせ用のアドレスを載せるようになってから、長年外に出られないような当事者たちとも、メールやソーシャルメディアを使って、ダイレクトでのつながりや関わりが生まれるようになった。
そんな当事者たちの思いや反応を紹介したり、ときには一緒にイベントを開いたりするたびに、それまでずっと声を出さずに傍観していたような読者からも、当コラムのアドレスや問い合わせ窓口などにメールが寄せられるようになった。
それが、どんなに短い一文であっても、勇気を出して紡ぎ出していただいた言葉の1つ1つには、生きてきた証の重みが凝縮されているように思える。
また、同じような状況の当事者たちが、どんな思いで生きているのか。安心できる場であるのなら、「話を聞いてみたい」。あるいは「自分も話をしたい」と、密かに思っている人たちが多いこともわかる。
こうした姿の見えない当事者たちに向かって、毎日、インターネット放送で呼びかけ、引きこもりの人と交流している人がいる。
「最初はお金になるなと思った」
ひきこもり研究所立ち上げのきっかけ
静岡県静岡市にある「清水ひきこもり研究所」の原科佳衛(よしえ)代表(50歳)。通称“よしさん”と呼ばれている。
本業は、大手メーカーの会社員。一旦、会社を早期退職し、2011年1月、相談と講演を行うための同研究所を立ち上げた。
「引きこもりの人が70万人とか155万人とか、かなりの人数がいるという報道を見て、潜在的な需要があるのに、ほとんどが相談に行かない現状を知りまして…。どういう人間かがわかれば、絶対、お金になるなと思ったんですが…」
そんなきっかけを正直に明かしてしまうところが、また好感が持てる。
退職後の1年間は、静岡大学の教育学部で非行や不登校、発達障害などの教育相談を勉強した。
その間、失業保険を受給していたため、無料で「ひきこもり・不登校」相談を開始。たまたまネットで家族とつながり、8年引きこもっていたミネラル君という当事者から教えられ、インターネット放送を始めた。
原科さんが、ニコニコ動画に放送枠を開設したのは、ちょうど2年前。以来、仕事以外の午前3時頃の時間帯を中心に、無償で放送を続けてきた。
その傍ら、50分5000円(電話・スカイプ相談は30分3000円)でカウンセリングを引き受けている。しかし、「(それだけでは)赤字で生活できない」ため、元の職場に契約社員として復職した。
コミュニティ登録者は約1300人
放送中に参加者同士が会話することも
時々、コミュニティ限定で放送する。原科さんのコミュニティの登録者は約1300人。誰でも無料で登録できる。
放送を何時に行っても、視聴者数は100人前後。そのうち、コメントするのは、10分の1くらいだという。
大半の引きこもっている人たちは、家から出られないものの、インターネットをしている人もいる。ネット放送をしていても、ほとんどは見ているだけの傍観者だ。
しかし、ネットに一言、コメントを書き込むだけであれば、社会につながるためのハードルは低い。
コメントが荒れる日もあるが、希望の光のように、じっと見ている人たちもいる。そう思って、放送を毎日続けてきた。
午前3時ごろに放送していたら、身体がもたないのではないか?と聞いてみた。
「そんなことないですよ。たまに放送しながら寝ちゃうときもありますけどね。すると“寝かせといてやれよ”という反応が多い。僕がいないと、放送を通じて、参加者同士が会話をしだすんですよ。番組は30分単位なんですが、“放送を切らないでおいてくれ”という要望も多いですね。すると、集まった人たちでコメントのやりとりすることもあるんです。それは、自分も思いもしませんでした」
そこが“安心できる場”だとわかると、だんだんと時間をかけて、つながりができてくる。
こういう当人同士でやりとりするコミュニティが生まれたのは、つい最近ことだ。とくに、社会とつながりがなく引きこもっている人たちにとっては、とても大切な時間かもしれない。
「よしさん」の放送によって
大きく変化する当事者の気持ち
10月1日の放送では、当連載の『日本初の「町田市保健所方式」でわかった64歳までの「引きこもり」は20世帯に1世帯!?』を取り上げ、「見知らぬ保健所の職員が訪問してきたら会う?」というアンケートを実施。23%が「はい」と答えた。
意外にも多くの人が、保健所の職員に会えるという結果に驚く。
これが「よしさんの放送に出演した保健所の職員が訪問してきたら会うか?」と尋ねると、「はい」は2倍の45.4%に跳ね上がる。
支援者や大学教員などが何度、家庭訪問しても、なかなか当事者に会えない現実を考えると、ネット放送と保健所職員の組み合わせは有効なのではないかと思えてくる。
「何回アンケートとっても、ほぼ同じようなデータが出ます。だから分母は低いかもしれませんが、何度も取り続けていると、精度は高まってくると思います」
同じように、引きこもり本人かどうかを尋ねると、ほぼ50%〜60%の高い割合で「はい」と答えるという。
また「強引に家から引き出してほしいか?」と尋ねると、毎回0%。ところが「よしさんなら引き出してほしいか?」と聞くと、16〜17%で推移するというデータも興味深い。
9月24日には、同世代の「50代のひきこもりですか」という問いも立てた。すると、17.6%が50代という結果に。そして「将来は自殺すると思う」は、45.4%に上った。
「当人たちが僕の放送を観に来てくれる。何かできるはずです」
そう原科さんはコメントで訴える。
思いを口に出すことができれば、何かが変わるかもしれない。
アンケートでは、いじめられた経験を聞くと、毎回ほぼ100%近いという。
「人にコントロールされた経験が多い。逆に、人をコントロールした経験が、あまりないんです。だから、人をコントロールしたら、何か変わるかもしれないじゃないですか。僕の私生活を放送することによって、僕をコントロールできる。それを喜んだり、からかったり、共感したりすることもできる。リスナー同士でも共感できる。共感することでまた、何か変わるかもしれない」
原科さんの挑戦の背景には、こうして引きこもりという人たちが、どういう人なのかを勉強していることがある。
10月14日、当事者の要望に応えて、初めて東京でオフ会を開いたところ、7人が参加。中には飛行機で駆けつけた人や、近くまで来ていながら顔を出さずに帰ってしまった人も2人いたという。
近々、東京で再びオフ会を開く予定だ。
<問い合わせ先>
清水ひきこもり研究所
shimizuhikikomori@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください)
この記事や引きこもり問題に関する情報や感想をお持ちの方は、下記までお寄せください。
teamikegami@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください)
☆―告知―☆
※池上正樹 新刊のご案内※
ひきこもり歴12年の40代男性と向き合ってきた3年間の記録。
『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)
9月19日発売 価格780円(税別)
●「ひきこもり大学」に関するお問い合わせが多いので、フォームをつくりました。
話をしてみたい、話を聞いてみたい、アイデアを提供したい…など、こちらからお願いします。
http://katoyori.blogspot.jp/2013/09/hikikomoridaigakuform.html
http://diamond.jp/articles/print/43446
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。