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なぜ家族にすべての責任を負わせるのか。八月に名古屋地裁で出た賠償命令は、認知症の人の介護にかかわる家族や事業者に、大きな衝撃を与えたに違いない。
判決はこうだ。二〇〇七年十二月、愛知県内に住む認知症の男性(91)が線路内に立ち入り、電車にひかれて亡くなった。JR東海は遺族に「監督責任を怠った」として列車遅延に対する七百二十万円の損害賠償を要求。同地裁は認め、妻と長男に全額支払いを命じた。
男性は八年前から認知症状が出始めて、事故当時は「要介護度4」。徘徊(はいかい)もあるため、介護は週六日のデイサービスと、八十五歳の妻と県外から引っ越した長男夫婦が協力していた。事故は妻がまどろんでいた間に男性が外出して起きた。
判決は医師の診断書などから事故を予見できたとし、「安全対策や注意義務を怠った」と断じた。線路への侵入防止策を十分にとっていなかったJR側の責任は問わなかった。
遺族は怒りでいっぱいだろう。認知症の男性を部屋に閉じ込めておけばよかったのか? 自宅でも、施設でも、ヘルパーに頼んでも、一瞬の隙もなく見守るなんてできないはずだ。
認知症の人が人生最期までよりよく生きるために、家族や事業者たちは日々、悩んでいる。老老介護。介護のあり方。みんなで考える時代に逆行しない、もっと温かな視点を込めてほしかった。 (佐藤直子)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2013090202000124.html
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