02. 2013年8月30日 02:38:18
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#高齢者の貧困が最大の問題僅かな金額と周囲の関心があれば、多くの高齢犯罪は防げる 【政策ウォッチ編・第37回】 2013年8月30日 みわよしこ [フリーランス・ライター] 片山さつき議員は生活保護当事者の「敵」か それとも「無関心層の代表」か ――政策ウォッチ編・第37回 2013年7月30日、筆者はBSフジ「プライムニュース」に生出演し、生活保護問題について、片山さつき参議院議員をはじめとする3名のゲストと討論した。筆者にとっては、生まれて初めてのTV出演であった。 今回は、このTV出演時の出来事について述べる。「TVに出演する」ことの裏側や、政治家を目の前にするということについて、想像を及ぼしてみる1つの手がかりとしていただければ幸いである。 オンエア6日前にやってきた TV生出演依頼 2013年7月5日、筆者の書籍「生活保護リアル」(日本評論社)が発売された。この書籍は、本連載「生活保護のリアル」シリーズの他、「シノドス」に寄稿した生活保護関連の記事数本、図書館業界人向け雑誌「ライブラリ・リソース・ガイド」Vol.2に寄稿した「知の機会不平等を解消するために−何からはじめればよいのか」をベースとし、大幅な加筆と再編集・章によっては書きおろしを行ったものである。本書は幸いにも好評を博し、発売後2週間で重版が決定した。発売がアナウンスされた直後から「アマゾン」などのネット書店に注文が入り、発売後はアマゾンで一時売り切れになったほどである。いかに多くの方に期待を持たれていたのかと、著者として嬉しくも、身の引き締まる思いである。 7月25日、筆者は、日本評論社の担当編集者を通して、BSフジのプロデューサーからの連絡を受けた。「『プライムニュース』で、片山さつき議員か世耕弘成議員と生討論をしてほしい」というものである。すぐに「応じたい」と考えた。本連載では、筆者は一貫して生活保護制度の重要性と、より拡充される必要性を、根拠のもとに主張しつづけている。しかし、そのためにも、反対する人々の意見に対して耳を塞ぎたくない。だから、自民党や日本維新の会で、特に先鋭に生活保護制度を縮小・削減する必要を訴えている人々に、取材を申し込んできた。しかし、一度も応じていただけたことがなかった。願ったりかなったりの機会ではないか。 それに、筆者は長年、文字によるテキストをベースとした記事を中心に著述活動を行ってきて、限界を感じている。文字ばかりの硬派な記事を読まない人々、文字ばかりの本を手に取る習慣を持っていない人々には、筆者が提供したいと考えている情報やメッセージは伝わらないからだ。なんとか、「ふだん主に接するメディアはTV、新聞は拾い読みする程度」と考えている人々にアクセスできる手段を持ちたい。そう考えていた。 ただ、問題は、筆者がTVというメディアをよく知らないということだ。筆者自身は徹底したTV嫌いで、「TV持っていない歴」が既に30年目に及んでいる。「TVに出演する」ということが引き起こすさまざまな影響を、正直なところ、想像しきれない。しかし、この機会を逃すと、自民党で生活保護制度の縮小をリードする議員たちと対面して話す機会は、二度と得られないかもしれない。 筆者は、近所に住む102歳のコーヒー豆販売店主・アンドウさんが自家焙煎した豆でコーヒーを淹れ、そのコーヒーを飲みながら、「アンドウさんに相談したら、何と答えるだろう?」と考えた。たぶん、「まだ若いんだから、勉強と思って、機会を活かしなさい」という答えが返ってくるだろう。なにしろ102歳のアンドウさんから見ると、80代も70代も50代も30代も、みんな「若者」なのだから。私は、コーヒーを飲み終えるとすぐ、「ぜひ、出演させてください」と返事した。 ただし、そもそも「しゃべり」が得意というわけではない筆者が、「1対多」で、生活保護制度について全く異なる意見を持つ人々と討論を行うのは無理だ。そこで、福祉論者をもう1人ゲストに加えてほしいとお願いした。紆余曲折の末、旧知の長友祐三氏(埼玉県立大学教授)にゲストに加わっていただけることとなった。その間に、他のゲストも決定し、片山さつき氏・大塚耕平氏(参議院議員(民主党))と長友氏・筆者の4名がゲストとなることが決定した。 また筆者は、「出演者としてTV局に行く」ということ自体に不安を感じた。そこで、旧知の大西連氏(NPOサポートセンターもやい)に同行をお願いすることにした。大西氏は、ラジオ番組で片山さつき氏と対談した経験も持っている。たいへん心強かった。 TV出演までのドタバタと 片山さつき氏との遭遇 それからの数日間は、もともと余裕の少ない日常生活・日常業務に加えて、TV出演の準備に忙殺されることになった。 出演当日の筆者は、文字通り「てんてこまい」だった。本連載の執筆準備に、筆者が執筆し、なおかつ編集を手伝っている理科教育誌のレイアウト作業。もちろん、ヘルパーの助力を受けての自分自身の洗身や洗髪。その間に、いくつもの持病を抱えている16歳の猫への、毎日欠かせない皮下補液などの医療的ケア。衣装は、手持ちの数少ないジャケットやブラウスの中から、少しでもみすぼらしくないものを着ることにした。 入浴後、「せめてシワは取っておかないと」と思い立ち、衣装にアイロンをかけたところ、汗だくになってしまった。「なぜ入浴前にやっておかなかったのだ」と後悔する間もなく、フジテレビが手配した、電動車椅子を積載できる大型タクシーが自宅にやってきた。筆者の方は、自宅からフジテレビまで向かう間も、スマートフォンで理科教育誌のレイアウトに関するやりとりを続けていた。「図版差し替えですって? 私、午前2時過ぎなら対応できますから、それまでに送ってください」という調子だ。目が回りそうだった。 控室で大西連氏と雑談をしながら緊張を和らげていると、片山氏がやってきた。片山氏は「あの有名な、本を出された方ですね」と言いつつ、筆者に近寄り、にこやかに右手を差し出して握手を求めた。握手した私は、片山氏の手が女性の手としても小さく華奢なことに気づいた。片山氏は、小柄で華奢なこの身体で、男女雇用機会均等法の施行直前に大蔵省に入庁し、男性社会を戦い抜いてきたのか。 片山氏より4歳年少の筆者は、「均等法」施行直後に、電機メーカーの研究職として典型的な男性社会の中で職業生活をスタートさせた。片山氏が大蔵省で、どういう努力をし、どういう苦闘を続けて来なくてはならなかったのかは、想像できる気がする。まもなく大塚氏や反町理キャスター・八木亜希子アナウンサーがやってきたので、片山氏とは二言三言しか会話できなかった。片山氏は筆者に関して、「生活保護当事者である」と誤解しているようだった。その誤解は、その場で解くことができた。 まもなく、本番がスタートした。筆者の席から見えるカメラの横には、ずっと、大西連氏がいてくれたのではあるけれども、筆者は最後まで、ガチガチに緊張していた。 「水と油」からはじまり 噛み合い始めた議論 この日の「プライムニュース」で行われた議論の概略をテキスト化したものは、「プライムニュース」のサイトで公開されているので、ぜひご一読いただきたい。TVの討論番組という性格上、あまり掘り下げた議論を行うことはできなかったが、それでも、実のある議論となった。 そのサイトに挙げられている見出しは、以下のとおりである。 ・生活保護費のあり方を考える 8月から減額の背景は ・生活保護の問題点 増え続ける高齢受給者 ・膨張する医療扶助費 ・生活保護費減額と社会保障 ・負い目が原因 伸びぬ利用率 ・生活保護法改正案 厳格化される手続きの是非 ・生活保護費減額と社会保障の今後を考える 片山氏の主張の内容は、「社会保障は削減されるべき」に尽きており、その最たるものが生活保護である。片山市によれば、生活保護は税で100%賄われている社会保障であるにもかかわらず、不正受給や、不公平感、制度への不信感を持たれていることが問題である。片山氏は、 「社会保障の根幹となっているのは信頼と公平感なんですね。どなたでも負担は絶対に嫌ですよ」 という。筆者は「そうかなあ?」と思いながら、「いつ、どういうふうに、反論を切り出せばいいんだろうかと考えながら、片山氏の主張に耳を傾けていた。 かつての一時期、筆者は、Atmel社のマイクロコンピュータ・AVRシリーズに関する記事を書いていた。当時の筆者は、AVRシリーズをめぐる動きを知るために、ノルウェーの社会や政治についても少し調べていた。Atmel社はアメリカの企業だが、AVRシリーズの設計はノルウェーで行われていたからである。 そのノルウェーで、選挙のたびに候補者の多くが主張することは、「私はこのような福祉充実政策を行いたいので、この程度の増税を行いたい」であった。そしてノルウェーでは、増税を含めて福祉充実を主張する候補者ほど、「実現可能性の高い福祉充実を主張している」として評価され、当選したりするのである。 筆者自身も、増税そのものには特に反対ではない。日本の場合、誰に・どのように増税するか、増加した税収が誰のどのような利益に供されるかが問題なのである。筆者は、 「片山さん、お言葉ですが、『負担は絶対に嫌』ではない人が、ここに約1名いますよ」 と言いたかったが、切り出しそびれた。そして、話題は次に移った。 生活保護問題は高齢化問題 医療扶助の増大はどうしようもない? ついで、高齢化問題としての生活保護問題が主に議論された。近年の生活保護当事者数の増大については、しばしば「働けるのに働かない怠惰な若者のせい」というイメージが喧伝されているけれども、実際には、背景の最大のものは高齢化である。無年金・低年金のため、生活保護以外に生存の手段を持たない高齢者が増えているため、高齢の生活保護当事者が増加しているのだ。高齢であるから、医療を利用する機会も多い。生活保護の医療扶助が増大する理由の1つは、生活保護当事者の高齢化である。 このことについて、大塚氏は、 「高齢者の皆さんの生活をどういうふうに考えていくのかというのは、年金の問題とリンクしているので、そうすると、医療扶助もそうですし、高齢者の皆さんの生活というのをどういうふうに支えていくかは、現在の社会保障の枠組みでは、高齢者人口がピークになる2040年ぐらいでやっていけないかもしれない」 と述べた。おそらくはその認識のもと、厚労省はたとえば後発医薬品の利用を促進しようとしており、特に生活保護当事者に対しては事実上の半強制となりつつある。しかし、それでどの程度の医療費削減が可能なのだろうか。「焼け石に水」ではないか? と筆者は思っている。 筆者は今回の「プライムニュース」出演中に、医療扶助を約25%削減できる可能性について述べた。それは、精神科のいわゆる「社会的入院」をなくすことである。 「社会的入院」とは、認知症患者を含む精神障害者が、退院後の行き先がないために、数年から数十年の長期入院を余儀なくされることである。この人々の多くは、親族とは絶縁状態にあり、当然ながら地域コミュニティとのつながりも持っていない。生存するために利用できる手段は、生活保護しかない。入院費用を生活保護の医療扶助でまかなうため、生活扶助に加えて、多額の医療扶助が長期にわたって必要な状態にある。 この「社会的入院」患者に対する生活保護の医療扶助は、医療扶助全体の約25%を占めている。この人々を退院させ、「個人として地域コミュニティの中で生活を営む」という本来あるべき姿に戻すだけで、医療扶助の約25%は削減できるのである。とはいえ、この人々が生活保護以外に生存の手段を持たない状況は変わらないので、生活扶助・住宅扶助は必要としつづける。それでも、入院中ほど多額の医療扶助は必要なくなる。 もちろん、いきなり医療とのつながりを断って自力で地域生活を営むことは不可能であろうし、さまざまなトラブルも発生するであろう。もしかすると、理解ある管理者のいるグループホームでの生活を経験して生活スキルを積んだのちに、地域生活をはじめるのが適切な場合もあるかもしれない。病院と切り離されることに不安を感じる人もいるだろう。その人達は、数年の間、毎日のように病院のデイケアへ通うことも必要かもしれない。しかし時間が経過すれば、それらの精神医療的支援の必要性は、少しずつ減少していくはずである。 筆者のこの発言は、なぜか「プライムニュース」のサイトには掲載されていないが、生活保護の周辺には、このような、「本来あるべき姿に戻すだけで保護費の大幅削減が可能」なことがらが、いくつかある。筆者は緊張しながらも、「生活保護費を削減すべきではないと思いますが、削減が必要ならば、このようなところから先に手を付けるべきではないでしょうか」というようなことを主張した。 片山氏も失業者支援不足を認め 建設的な方向へ向かった番組終盤 議論は尽きないまま、あっという間に番組終盤となり、まとめの段階となった。長友氏と筆者は、繰り返し、日本の捕捉率(生活困窮者のうち公的扶助を利用している人々の比率)の低さを問題にした。日本は多く見積もっても30%程度で、先進諸国の中で圧倒的に低い。 締めくくりの段階で、片山氏は、 「日本は失業保険の期間が欧米に比べて短いんですよ。恒常失業率が極端に低いんです。その(日本の)社会における現在の生活保護の問題と、5、6年もらえる失業保険があって、そこからもさらに漏れた人を生活扶助的なものがあって、その手前に第2セーフティネットがあるという欧米における捕捉率と同じではないと思うんですよね」 と述べた。つまり、日本では失業者に対する支援が不足しているということ、第2のセーフティネットがほぼないということを、片山氏も認めているわけだ。 ちなみに、ヨーロッパの「5、6年もらえる失業保険」は、事実上の公的扶助に近い面がある。「弱者に厳しい」と喧伝されるアメリカでは、現在、第2のセーフティネットがかなり充実しており、日本の「ワーキングプア」に相当する所得水準の人々が希望と喜びをもって日常を送り、将来に対してチャレンジすることができている。 いつか、今回のゲスト4名で、多面的かつ充分な量のデータや調査結果をもとに、日本の社会保障のあるべき姿に対して、もう一度、徹底して議論や検討を行うことができれば。そういう希望を、筆者は抱いた。もし、片山氏や大塚氏が、「新自由主義的に日本を再構築する」ということを至上命題としているわけではなく、政治家として、個人の社会的生存の持続可能性を含んだ社会の持続可能性の実現を本気で望んでいるのであれば、であるが。 番組に出演した 後での思い 番組が終了し、筆者はふたたび、フジテレビの大型タクシーで自宅に帰宅した。興奮さめやらなかった筆者は、20年来の友人が経営する居酒屋に行き、クールダウンすることにした。友人は、筆者の顔を見るなり、 「みわちゃーん! 無事に帰ってきたんだ! 片山さつきに取って食われるんじゃないかと心配してる人たちがいるから、無事に帰ってきたと電話していい?」 と言った。 片山さつき氏の著書、「正直者にやる気をなくさせる!? 福祉依存のインモラル」。片山氏と直接接する機会を持ったあとの筆者には、どうもこの本に書かれている「福祉は甘え」「生活保護には厳しく」などの意見の数々が、片山氏の本音ではなく、真の狙いである日本の構造改革のために投げ込まれた一石に過ぎないように思えてならない 地域の多くの友人知人が、同じ心配をしていたそうだった。そして、筆者が無事に生出演を終えて帰宅したという情報は、地域のネットワークを通じて、あっという間に拡散した。
その後数日間、筆者は生活している地域の行く先行く先で「片山さつきって、どうだった?」と聞かれた。片山氏のファッションや化粧の趣味は、筆者の趣味とはずいぶん違う。けれども、ピンクのスーツも、髪型も、ステージメイクのような化粧も、よくお似合いだった。知的で、礼儀正しく、立場としては敵対しているはずの筆者に対しても評価すべきところは評価するフェアネスを持つ片山氏に、筆者は、人間として好感を持った。そのことを正直に伝えると、地域の人々は「えーっ!」と驚いていた。 片山さつき氏のそのような面に直接接することができただけでも、今回の出演は、筆者にとって非常に意義あることであったと思う。片山氏の思想信条、伝え聞く言動に対しては、筆者のまったく支持できない部分が多々ある。なんといっても数多くの生活保護当事者が、片山さつき氏の言動に傷つけられてきている。そのことを思うと、引き裂かれるような気持ちにもなってしまう。しかし、片山氏をはじめとする生活保護削減派の政治家たちの言動が過激であればあるほど、私はその過激な言動に対する感情的な反応を可能な限り抑え、対話の糸口となりうる部分を見つけ、対話を可能な限り維持する努力を続けたい、続けなければ、と思う。 次回は、日本の障害者運動をリードする障害者運動家の、生活保護法改正の動きに関する思いや行動を紹介する。たとえば障害者にとって、「親族による扶養義務強化」のダメージは、健常者が想像しているものとは質量ともにまったく異なる。なせ、その差異が生まれるのであろうか? どのように解決されるべきなのであろうか? <お知らせ> 本連載に大幅な加筆を加えて再編集した書籍『生活保護リアル』(日本評論社)が、7月5日より、全国の書店で好評発売中です。
本田由紀氏推薦文 「この本が差し出す様々な『リアル』は、生活保護への憎悪という濃霧を吹き払う一陣の風となるだろう」 |