http://www.asyura2.com/12/social9/msg/348.html
Tweet |
http://green.ap.teacup.com/pekepon/1103.html
■ これはタダモノでは無い ■
先日本屋の漫画コーナーに行ったら、「漫画大賞2013」の受賞作品が並んでいました。
大賞を吉田秋生の『海街diary』が受賞した事は知っていましたが、
その下に『式の前日』という作品が並んでいました。
・・・もう、いくっきぁ無いでしょう、この表紙は!!
作者の穂積さんは新人らしいのですが
一言・・・「この人、タダモノじゃない」
■ たった16ページで、姉と弟の10年を想起させる ■
表題作の「式の前日」は、「月刊flowers」の新人賞で2位になった作品の様です。
姉の結婚式の前日の姉弟の日常をスケッチした作品ですが、
小津安二郎が現代に生きていて、絵コンテを切ったらこうなっただろう的な作品。
状況説明は一切無し。
ただ、断片的な日常シーンの繋ぎで、姉と弟の10年間を描き切ります。
16ページで、何が表現出来るのか、
短編作品の魅力に溢れる作品です。
■ どんなミステリーよりも素晴しい「あずさ2号で再開」 ■
2話目の「あずさ2号で再開」はもう涙腺決壊。
弱いんです、こういう作品には・・・・ズルイ・・・。
内容は書かないけれど、イカニモというお父さんを描いた時点で、
読者は全員騙されてしまいます。
どんなミステリーよるも、素晴しいミステリーとして感服いたしました。
■ 省略の美学としての短編 ■
「式の前日」の魅力は、「省略の美学」です。
日本の芸術の特徴は「描かない事」です。
俳諧は、制限された文字数の中で、省略の極致の表現を試みます。
日本画も余白によって表現の深みが増します。
音楽においても、「つづみ」などは、無音にこそ意味があります。
そんな日本人独特の美意識は、短編向きとも言えます。
小説においても、世界観がガッチリ固まった長編よりも、
ほんの日常の一瞬をさらりとスケッチした様な短編に良作が多い様に思います。
一方、手塚治が発展させた漫画は、長編に人気が偏る傾向があります。
これは、漫画雑誌に連載される事でマンガ家の生計が成り立つので、
多くの作家が、どれだけ話しを引っ張るかに腐心する事とは無関係ではありません。
短編漫画は、デビューしてまもない作家の作品が多い様です。
「お試し」として、雑誌に何篇かの短編を掲載してキャリアを積み、
そして、人気が出れば、長編の連載を担当するシステム故とも言えます。
あるいは、大御所と呼ばれるマンガ家が、
長編連載の合間に、短編で生き抜きする様な作品もあります。
■ 「ささいなどんでん返し」の効果を最大化する短編というフォーマット ■
穂積の「式の前日」は前者に当たりますが、
彼女の作風は、圧倒的に短編に向いています。
彼女の最大の魅力が「ささいなどんでん返し」にあるからかも知れません。
淡々とした展開から、最後に思わぬ結末が訪れるのは短編の定石ですが、
彼女の場合は、淡々と結末が訪れ、そしてそれが結構「ささいなどんでん返し」だったりします。
長編にありがちな盛り上がりが無い分、
「ささいなどんでん返し」がジンと読者の胸に染み入ります。
2部構成の「夢見るかかし」にも「ささいなどんでん返し」はありますが、
少し長めの話では、それに関係しないエピソードが邪魔をして、
「ささいなどんでん返し」の効果が薄まってしまっています。
これが、もっと短い作品であれば、読者はもっと静かな感動を味わう事でしょう。
■ 多くの大人に、今一番お薦めしたい作品 ■
『式の前日』の評価は、ネットを中心にかなり高い様です。
Twitterなどでも、評判が評判を呼んでいます。
近年の大人向けの漫画には上野顕太郎の『さよならもいわずに』や、
少し前の作品になりますが、豊田 徹也の『アンダーカレント』の様な良作があります。
しかし、これらの作品は、少し重たく、スタイリッシュではありません。
そおういった意味においては『式の前日』は
絵柄も表現様式も、充分に現代的でスタイリッシュです。
普通の若い女の子が読んでも充分に感動し、
マニアが読んでも満足する作品です。
ゴールデンウィークの一冊に加える事をお薦めします。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。