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日本でも、厚生労働省の厚生科学審議会生殖補助医療部会が「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」で、「出自を知る権利」を明記している。
「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子または自らが当該生殖補助医療により生まれたかもしれないと考えている者で、15歳以上であれば、精子・卵子・胚の提供者に関する情報のうち、開示を受けたい情報について、氏名、住所等、提供者を特定できる内容を含め、その開示を請求をすることができる」というものだ。
しかし、厚生労働省の人工授精に関する調査によれば、人工授精のために精子を提供した人の多く(調査に回答したのは32名)が、「生まれた子どもが遺伝的な父親を知りたいと考えるのは人情」(67%)としつつも、「会いたいとは思わない」(88%)と思っている。
そして、「子どもが会いにくる可能性があるとしたら提供しなかったか」という質問に67%が「しなかった」と答えているそうである。
数日前のドイツ「ZDFニュース」でも、父親の情報開示を求めて訴訟を起こし、病院に対する開示命令が下りながら、病院が開示に踏み切らないためこじれている問題が報じられていた。
各国とも“財政難”でもあり、ニューズウィークが記事にしている「善意で提供したDNAをたどって放棄したはずの「親の責任」を求められる精子ドナー」が、国家権力の手で探し出されるようになるかもしれない。
『ニューズウィーク日本版2013/2・19』
P.60・61
「精子提供者がはまる養育費地獄
米社会:善意で提供したDNAをたどって放棄したはずの「親の責任」を求められる精子ドナーの困惑と「血のつながり」の重み
「50ドルで精子提供してくれる人を募集」―個人広告サイト、クレイグズ・リストでこの広告を見たウィリアム・マロッタがドナーに名乗りを上げたのは、まったくの善意からだった。彼は自分の情報(金髪で青い瞳、健康状態は良好)を掟示し、精子の無料提供さえ申し出た。
その後、広告を出したカンザス州在住のレズビアン・カップルと会い、「精子提供後に厄介事に巻き込まれることはない」と保証する内容の契約書に署名。採取した精子を渡し、一切の責任を放棄して「はい、さよなら」 − のはずだった。
それから4年近くが経過。生まれた娘の両親は破局し、1人は失業状態にある。そしてマロッタは、カンザス州当局から6000ドル相当の養育費支払いを請求されている。
保守的な風土のカンザス州で2人のレズビアンが司法当局の圧力に負けて、本来なら匿名性を守られるべき精子提供者の素性を明かし、その男にカネをせびるーなんと浅ましい話かと、多くのリベラルなメディアは眉をひそめている。
だが問題の根はもっと深い。今はさまざまな人工的手段で子を持てる時代だが、いかなる契約も自分の精子との、そしてその精子から生まれた子との関係を断ち切ることはできない。この事の法律は、親よりも子供の権利を守るべきだとの精神に基づいているからだ。
アンジエラ・バウアーと当時のパートナーのジェニファー・シュライナーは00年、マロッタに「親としての責任を免除する」契約書を提示したつもりだった。マロッタは弁護士の立ち会いなしで、「子供の後見人としての立場を要求せず、養育権も面会権も要求しない」という同意書に署名。バウアーとシュライナーも「いかなる第三者から養育費の請求があった場合も、マロッタには一切の損害をもたらさない」と約束し、契約にその旨を明記していた。
だが昨年になつて事情が変わった。2人は破局し、バウアーは失業。娘を産んだシュライナーはわが子を医療保険に加入させるために公的支援を申請した。
医師不在の契約は無効
カンザス州の児童家族局は支援に同意したが、父親の名前を明かし、その男に州が養育費を請求できるようにすることを条件とした。シュライナーは仕方なくマロッタの名前を教えた。
3人が署名した契約書は、法的には無効だつた。カンザス州では人工授精の施術に医師が関与していない場合、精子提供者の法的権利を認めていない(ちなみに、当事者間の任意契約はもちろん無効だ)。
バウアーとシュライナーは当初、医師に精子バンクの利用を相談したが、医師から「子育ての資格なし」と却下されてしまつた。そこでやむなく裏ルートを使ったのだ。
マロッタ弁護団のベンオイト・スウィネンは、カンザス州の判断には政治的思惑があると確信している。「今回のケースは新たな家族構成や人工授精の在り方に道を開くもの」だが、保守的なカンザス州の司法当局はそれを法的に認知したくないのだ、と彼は言う。一方、政治的な問題ではなく、当局の判断は適法だ、と指摘する専門家もいる。
第三者の関与する出産について同性愛者などに助言している米生殖協会(ニューヨーク) のコーリー・ウィーランは、「もしも2人の女性が法的に結婚していたとしても事情は変わらないだろう」と言う。ドナーから提供された精子は必ず医師の手に渡すこと、さもないとドナーの権利は守られないのだ。
ドナー法は州によって異なる。同性カップルの出産や人工授精、不妊治療に関連する社会的・科学的問題が浮上する前から、多くの州で「精子提供を必要とする既婚女性」を守るための法律が定められていたと、ウィーランは言う。だが独身女性やレズビアンのカップルもドナーを求めるようになった今、「既婚女性」だけを想定したこれらの法律は時代遅れにみえる。
とはいえ、法律を変えるには手間も時間もかかる。公的機関のサポートを受けたいなら、精子提供を受けた両親は現行の法律に従うしかない。それが精子捷供者、つまり生物学的な父親を困難な立場に追いやることになっても、である。
死んでも請求はやまない
今回の一件はマロッタにとっては「契約違反」 の事態だが、生命倫理学者に言わせれば、しかるべき「予習」によって予想できた事態だという。「子供との遺伝的なつながりは、歴史的にこの国の司法制度と道徳規範において大きな意味を持つ」と、ニューヨーク大学ランゴン医療センターの医療倫理部長であるアーサー・カプランは言う。たとえ親権を放棄していても、支払い能力のある生物学的な親がいる以上、税金でその子の養育費を出すのは筋が通らない、というわけだ。「そこに遺伝子がある限り、州はその遺伝子とつながりのある銀行口座を捜し出すだろう」
多くの精子・卵子掟供者は想像したこともないだろうが、死期が近いのを知って急いで子供をつくるケースや、精子提供後にアフガニスタンに派兵されて戦死する場合もあり得るかもしれない。そんなときも「政府はその人物の遺産を調べ、その人物の残した子供の養育費を徴収するだろう。当人が死んでも銀行口座は生きているのだから」と、カプランは言う。
マロッタのようなケースは、私たちが思うほど珍しいものでもない。ペンシルベニア州最高裁は11年6月、ある精子提供者に毎月1520ドルの養育費支払いを命じる判断を下した。出産した女性が事前に「精子提供者を子供の人生に巻き込むことはしない」と約束していたにもかかわらずだ。「今回のケースの最も興味深いところは、メディアが騒ぎ立ててはいるものの、これが予想外の事態ではないということだ」と、カプランは言う。「こうした問題は20年前からあり、一般に法廷は子供にとって最善の利益になるような判断を下してきた。つまり、養育費を払える人を見つけ出すのだ。どんな形であれ遺伝的なつながりがあれば、それが子供の利益のために使われることになる」
DNAの提供にはくれぐれもご用心を。忘れた頃に、請求書付きで戻ってくるかもしれないのだから。
リジー・クロッカー」
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