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単身世帯の生活と生きがい 低所得高齢者の実態と求められる所得保障制度
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投稿者 MR 日時 2012 年 11 月 20 日 20:42:50: cT5Wxjlo3Xe3.
 

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単身世帯の生活と生きがい 低所得高齢者の実態と求められる所得保障制度

*本稿は、『年金と経済』 Vol.31 No.1 (財団法人年金シニアプラン総合研究機構、2012年4月) に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦
要旨
単身世帯で生きがいをもつ人の割合は、二人以上世帯よりも低い。また、単身世帯では、二人以上世帯に比べて家族を生きがいの対象とする人の比率が低く、生きがいの対象が分散化している。


単身男女で生きがいの対象を比べると、単身男性は「仕事」、単身女性は友人関係など「人との交流」を生きがいの対象とする人の比率が高く、ひとつの特徴である。


仕事面の満足度をみると、単身世帯は二人以上世帯に比べて満足度が低く、特に単身女性の満足度が低い。これは、賃金や業務評価などの面で女性に不利な雇用慣行が一因ではないかと推察される。また生活面の満足度をみると、単身男性では友人・家族・近隣といった人々との交流の面で満足度が低い。


今後、単身世帯が生きがいの対象を広げる一つの方向として、単身男性では「人との交流」を重視し、単身女性で「仕事」を重視することが考えられる。そのためには、単身女性が仕事面で不利に扱われることがないように男女平等の雇用慣行を構築することや、単身男性が他者と交流できる多様な場を社会として考えていくことも必要であろう。
1.はじめに
日本では、1980年代より単身世帯が趨勢的に増加しており、今後もその傾向が続くとみられている。具体的には、1980年の単身世帯数は711万世帯(全人口に占める単身者1の割合6.1%)であったのが、2010年には1,678万世帯(同13.1%)となり、2.36倍増加した2。そして、2030年になると単身世帯数は1,824万世帯(同15.8%)となり、2010年の1.09倍になると予測されている3。
もっとも、今後20年間で1.09倍程度の増加であれば、それほどたいしたことではないと思うかもしれない。しかし今後の単身世帯の増加は、二つの点から社会に大きな影響をもたらすと考えられる。
第一に、今後は20代・30代の単身世帯が減少する一方で、中高年や高齢者で単身世帯が増加していく点だ4。具体的には、20代・30代の単身世帯数は少子化の影響を受けて2005年の570万世帯から2030年には386万世帯へと0.67倍に減少する。一方、50代と60代の単身世帯数は、2005年の385万人から2030年には663万人へと1.72倍になる。特に、中高年男性の単身世帯の増加は著しく、2030年には50代・60代男性の4人に1人弱が単身者になると予測されている5。2030年の50代・60代は、2010年現在の30代・40代にあたる。
第二に、今後は未婚の単身世帯が増加していく点である。中高年男性で単身世帯が増加する最大の要因は未婚化の進展である。男性の生涯未婚率(50歳時点の未婚率)は80年代までは1〜3%台で推移していたが、90年代以降大きく上昇して、2010年には20%となった6。そして2030年には同未婚率は29%になると予測されている。一方、女性の生涯未婚率は男性ほど急激ではないが、2010年の11%から2030年には23%になるとみられている7。未婚者は配偶者がいないという点において単身世帯になりやすく、未婚者の増加は単身世帯の増加につながっていく。
このように単身世帯は量的に増えるだけでなく、年齢階層や配偶関係の点で質的に変化している。こうした中、単身世帯に属する人(以下、単身世帯と省略)の意識面や実態面を考察することは、今後の対応を考える上で意義がある。そこで本稿では、単身世帯の生きがい及び仕事・生活面の満足度を考察する。単身世帯は同居家族がいないので、生きがいなどの点で二人以上世帯とは異なった様相が現れるだろう。
本稿の構成としては、第2節で分析の視点を示し、第3節で「単身世帯の生きがい」について二人以上世帯との比較や、単身男性と単身女性の差異をみる。そして第4節では「単身世帯の仕事面の満足度」、第5節では「単身世帯の生活面の満足度」を取り上げて、前節と同様に二人以上世帯との比較などを考察する。
2.分析の視点と留意点
(1)分析の枠組み
本稿では、単身世帯について、「生きがい」「仕事面の満足度」「生活面の満足度」を個別に分析して、単身世帯の生きがい及び生活面や仕事面で満たされている点や欠けている点などを明らかにしていく。そして上記のテーマについて、主に以下の三つの視点から考察する。
第一に、単身世帯と二人以上世帯の比較である。二人以上世帯には、単身世帯を除く全ての世帯類型が含まれる。ただし、後述する通り、本稿が用いるアンケート調査のサンプルをみると、二人以上世帯の94%が有配偶者となっている。一方、単身世帯のサンプルには有配偶者は一人も含まれていない8。したがって、両世帯の比較は概ね「配偶者のいない単身世帯」と「配偶者のいる二人以上世帯」の比較といえる。
第二に、単身男性と単身女性の比較である。「生きがい」「仕事面の満足度」「生活面の満足度」という点では、同じ単身世帯であっても男女の違いが影響している可能性があるので、単身男女の違いも明らかにしていく。
第三に、「生きがいをもつ単身世帯」と「生きがいをもたない単身世帯」を比較して、同じ単身世帯であるのに、どのような差異があるのか、という点を考察する。また、仕事面や生活面における特定項目についても、それが「満たされている単身世帯」と「欠けている単身世帯」の比較を行って両者の差異を考察する。
(2)サンプルの特徴
本稿では、財団法人年金シニアプラン総合研究機構が2011年に実施したアンケート調査「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」(以下、「アンケート調査」と示す)の個票を用いて分析する。サンプルの特徴として、以下の点に留意する必要がある。
第一に、アンケート調査の対象からは国民年金第1号被保険者が除かれている点である。具体的には、「配偶者のいないパートタイマー(通常の就労者の所定労働時間の4分の3以下の労働者)」が調査対象になっていない。また、今回のサンプルに「有配偶の単身者」がいないことを勘案すると、調査対象からは「パートタイム労働に従事する単身者」が除かれることになる。一般に単身世帯は、二人以上世帯と比較してパートタイマーを含む非正規労働者の比率が高いことが指摘されているので9、本調査で「パートタイム労働に従事する単身者」を扱っていない点には留意が必要である。
なお、配偶者のいない非正規労働者のうちパートタイマーが除かれるだけで、全ての非正規労働者が除かれるわけではない。例えば、週所定労働時間の4分の3以上働く派遣社員は、第2号被保険者となる。また「配偶者のいるパートタイマー」は、配偶者が被用者(国民年金第2号被保険者)であり、かつ本人(パートタイマー)の年収が130万円未満であれば、本人は第3号被保険者となりアンケート調査の対象となる。実際、本調査では、単身世帯に占める非正規労働者の割合は13.3%、二人以上世帯の同割合は12.4%となっている。
第二に、単身世帯と二人以上世帯との比較に関連して、サンプルに以下の特徴があることを留意する必要がある。
1. (1)二人以上世帯と比較して、単身世帯のサンプル数が少ない。具体的には、二人以上世帯のサンプル数が4,693人にのぼるのに対して、単身世帯のサンプル数は452人と10分の1程度の水準となっている。なお、二人以上世帯に属する人は、世帯主に限らない。
2. (2)男女別にみると、単身世帯は二人以上世帯に比べて男性の比率が若干高い。具体的には二人以上世帯に属する男性は53.9%なのに対して、単身世帯は59.5%となっている。
3. (3)年齢階層別にみると、単身世帯では相対的に若い年齢階層の比率が高い。例えば、単身世帯総数に占める35〜44歳の単身者の割合は37.2%なのに対して、二人以上世帯では28.7%となっている(図表1)。
4. (4)配偶関係をみると、二人以上世帯ではほぼ全ての年齢階層で9割以上が有配偶者であるのに対して、単身世帯では35-64歳で未婚者の比率が5〜8割程度の水準になっている(図表2)。また、単身世帯には有配偶者がいない。つまり、単身世帯と二人以上世帯の比較は、概ね「配偶者のいない単身世帯」と「配偶者のいる二人以上世帯」の比較といえる。
第三に、アンケート調査の手法として、インターネット調査が用いられたことである。このためインターネットの利用者層がサンプルになっていて、利用していない人は事実上対象外となっている。


(図表1)単身世帯と二人以上世帯の男女別・年齢階層別のサンプル数
(単位:人)
単身世帯 二人以上世帯
総数 総数
男性 女性 男性 女性
総数 452
(100%) 269
(59.5%) 183
(40.5%) 4,693
(100%) 2,530
(53.9%) 2,163
(46.1%)
年齢階層別割合 (100%) (100%) (100%) (100%) (100%) (100%)
35−44歳 168
(37.2%) 115
(42.8%) 53
(29.0%) 1,345
(28.7%) 695
(27.5%) 650
(30.0%)
45−54歳 119
(26.3%) 69
(25.7%) 50
(27.3%) 1,111
(23.7%) 570
(22.5%) 541
(25.0%)
55−64歳 85
(18.8%) 55
(20.4%) 30
(16.4%) 1,177
(25.1%) 651
(25.7%) 526
(24.3%)
65−74歳 80
(17.7%) 30
(11.2%) 50
(27.3%) 1,060
(22.6%) 614
(24.3%) 446
(20.6%)
1. (注)総数とは、サンプルとなっている「単身世帯に属する人」や「二人以上世帯に属する人」の総人数及び各男女別人数。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」2011年


(図表2)単身世帯と二人以上世帯の配偶関係別・年齢階層別サンプル数
(単位:人)
総数 未婚 離別 死別 有配偶
単身世帯 総数 452
(100%) 270
(59.7%) 141
(31.2%) 41
(9.1%) 0
(0%)
35−44歳 168
(100%) 139
(82.7%) 28
(16.7%) 1
(0.6%) 0
(0%)
45−54歳 119
(100%) 72
(60.5%) 45
(37.8%) 2
(1.7%) 0
(0%)
55−64歳 85
(100%) 41
(48.2%) 36
(42.4%) 8
(9.4%) 0
(0%)
65−74歳 80
(100%) 18
(22.5%) 32
(40.0%) 30
(37.5%) 0
(0%)
二人以上世帯 総数 4,693
(100%) 182
(3.9%) 114
(2.4%) 61
(1.3%) 4,336
(92.4%)
35−44歳 1,345
(100%) 105
(7.8%) 31
(2.3%) 2
(0.1%) 1,207
(89.7%)
45−54歳 1,111
(100%) 52
(4.7%) 36
(3.2%) 4
(0.4%) 1,019
(91.7%)
55−64歳 1,177
(100%) 20
(1.7%) 34
(2.9%) 23
(2.0%) 1,100
(93.5%)
65−74歳 1,060
(100%) 5
(0.5%) 13
(1.2%) 32
(3.0%) 1,010
(95.3%)
1. (注)総数とは、サンプルとなっている「単身世帯に属する人」や「二人以上世帯に属する人」の総人数及び各男女別人数。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」2011年
• 1
23.単身世帯と生きがい
本節では、単身世帯の生きがいについて考察していこう。具体的には、「現在、生きがいをもっているか(生きがいの有無)」「どのようなことに生きがいを感じるか(生きがいの対象)」について、二人以上世帯と比較しながら、単身世帯の特徴を明らかにする10。その上で、「生きがいをもつ単身世帯」と「生きがいをもたない単身世帯」を比較して、各々どのような特徴があるのかを考察する。
(1)単身世帯と二人以上世帯の「生きがい」の有無
単身世帯では、どの程度の人が生きがいをもっているのであろうか。二人以上世帯と比較していこう。
アンケート調査では、「生きがいを表すのに最も適当な表現(生きがいの意味)」を10個の選択肢から2つ選ばせた上で、そこで選んだ「生きがい」について「現在、もっているかどうか」を尋ねている。ちなみに、「生きがいを表すのに最も適当な表現」は、単身世帯と二人以上世帯では大きな違いはみられない11。
単身世帯と二人以上世帯で生きがいをもつ人の割合を比較すると、単身世帯では生きがいをもつ人の割合が低い。具体的には、二人以上世帯では54.4%が生きがいをもつのに対して、単身世帯では42.0%であり、有意な差となっている(図表3)。男女別・年齢階層別にみると、単身男性の「35〜44歳」「45〜54歳」、単身女性の「35〜44歳」では3割強の人しか生きがいをもっていない。

(図表3)生きがいをもつ人の割合
(単位:%)
単身世帯 二人以上世帯
総数 (n=452) 総数 (n=4,693)
男性
(n=269) 女性
(n=183) 男性
(n=2,530) 女性
(n=2,163)
総数 42.0 37.9 48.1 54.4 56.2 52.4
35−44歳 33.3 34.8 30.2 48.9 51.5 46.2
45−54歳 37.8 31.9 46.0 47.7 49.6 45.7
55−64歳 42.4 40.0 46.7 55.5 55.6 55.3
65−74歳 66.3 60.0 70.0 67.4 68.2 66.1
1. (注)
1. 10個の選択肢から「生きがいを表すのに最も適当な言葉」を二つ選ばせ、選択した「生きがいを表す言葉」について「あなたは現在持っていますか」を尋ねている。回答は、「もっている」「前は持っていたが、今は持っていない」「持っていない」「わからない」の4つの中から一つを選ぶ。上記表は、単身者において「もっている」を選んだ人の割合。
2. 網掛け部分は、生きがいをもつ人の割合が30%台の箇所。
3. 「生きがいをもつ単身世帯(総数)」と、「生きがいをもつ二人以上世帯(総数)」の比率の差を検定すると、P値=0.000 ***<0.01で有意。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」2011年、Q15-2により筆者作成。
(2)生きがいの対象 ―どのようなことに生きがいを感じるか
それでは、単身世帯は、どのような対象に生きがいを感じるのだろうか。二人以上世帯と比較していこう。
単身世帯の「生きがいの対象」について上位3位をあげると、「趣味」(53.8%)、「一人で気ままに過ごすこと」(36.9%)、「仕事」(22.8%)となっている(図表4)。一方、二人以上世帯の上位3位は、「子ども・孫・親などの家族・家庭(以下、「家族・家庭」と省略)」(49.7%)、「趣味」(49.0%)、「配偶者・結婚生活」(29.5%)である。
両世帯とも5割前後の人が「趣味」を生きがいの対象としており、「趣味」については有意な差はない。注目すべきは、二人以上世帯では、「家族・家庭」「配偶者・結婚生活」といった家族関連項目を生きがいの対象とする人の割合が高いことだ。これに対して単身世帯では、同居家族がいないので、家族関連項目を生きがいの対象とする人の比率が相対的に低い。その代わり、単身世帯では「一人で気ままに過ごすこと」「仕事」「友人など家族以外の人との交流」などの比率が高くなっている。
また、単身世帯と二人以上世帯で有意に差のある項目のうち、二人以上世帯の比率が単身世帯を上回るのは、「家族・家庭」と「配偶者・結婚生活」のみである。これ以外の項目では、単身世帯が二人以上世帯の割合を上回っている。この点からすれば、単身世帯の生きがいの対象は分散化しているのに対して、二人以上世帯の生きがいの対象は「家族・家庭」や「配偶者・結婚生活」といった家族関連項目に集中する傾向がみられる。
次に、単身男性と単身女性の間で生きがいの対象を比較すると、「一人で気ままにすごすこと」については、単身男女で有意な差はない。しかし単身男性では、単身女性に比べて、「趣味」(57.6%)、「仕事」(26.8%)、「スポーツ」(17.1%)を生きがいの対象とする人の比率が高い。特に、「仕事」は単身女性との比率の差が大きく、単身女性よりも約10%ポイント高い。
一方、単身女性では、単身男性に比べて、「友人など家族以外の人との交流」(29.5%)、「家族・家庭」(19.7%)、「社会活動」(6.6%)を生きがいの対象とする人の割合が高い。特に、「友人など家族以外の人との交流」は単身男性よりも約14%ポイント高い。
以上のように、単身男性と単身女性を比べると、単身男性は「趣味」「仕事」、単身女性は「友人など家族以外の人との交流」や「家族・家庭」に生きがいの対象とする人の割合が高い点に特徴がある。


(図表4)どのようなことに生きがいを感じるか ―単身世帯と二人以上世帯の比較―
(単位:%)
単身世帯 二人以上世帯
正規近似法による比率差の検定
正規近似法による比率差の検定


総数

(A) (n=452)

総数

(D) (n=4,693)
男性
(269)
(B) 女性
(183)
(C) 男性
(2,530) 女性
(2,163)
趣味 53.8
(1) 57.6
(1) 48.1
(1) 49.0
(2) 54.1
(1) 43.1
(2) 0.055 0.046*
ひとりで気ままに過ごすこと 36.9
(2) 35.3
(2) 39.3
(2) 14.9 13.1 17.1 0.000*** 0.384
仕事 22.8
(2) 26.8
(3) 16.9 18.4 23.5 12.5 0.024** 0.015**
友人など家族以外の人との交流 21.2 15.6 29.5
(3) 15.4 10.5 21.2 0.001** 0.000***
自分自身の内面 17.9 16.4 20.2 13.8 9.9 18.4 0.017** 0.293
子ども・孫・親などの家族・家庭 14.6 11.2 19.7 49.7
(1) 47.9
(2) 51.8
(1) 0.000*** 0.012**
自分自身の健康づくり 14.6 14.1 15.3 11.7 11.5 12.0 0.071* 0.729
スポーツ 14.2 17.1 9.8 12.7 16.6 8.1 0.368 0.030**
自然とのふれあい 13.3 13.0 13.7 13.5 14.2 12.8 0.889 0.842
配偶者・結婚生活 0.0 0.0 0.0 29.5
(3) 31.9
(3) 26.7
(3) 0.000*** -
学習活動 6.9 6.7 7.1 3.3 3.1 3.6 0.001*** 0.865
社会活動 4.2 2.6 6.6 5.7 6.2 5.2 0.177 0.040**
その他 3.5 3.0 4.4 1.9 1.2 2.6 0.016** 0.430
1. (注)
1. 「あなたは現在、どのようなことに生きがいを感じますか」という設問について、項目ごとに回答を求めたもの(複数回答可)。
2. 数字の下にある括弧付き数字は、比率の高い順に上位3位の順位を示す。
3. 「男性」「女性」の下の括弧内の数字は、サンプル数(n)を示す。
4. 網掛け部分は、「単身世帯と二人以上世帯」あるいは「単身男性と単身女性」で、有意な差があって、かつ注目すべき箇所。
5. ***1%水準で有意、**5%水準で有意、*10%水準で有意。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」2011年、Q16により筆者作成。
(3)「生きがいをもつ単身世帯」と「生きがいをもたない単身世帯」の比較
先にみた通り、単身世帯で生きがいをもつ人の割合は42.0%であり、同じ単身世帯でありながら「生きがいをもつ単身世帯」と「生きがいをもたない単身世帯」がある。両者にはどのような差異があるのだろうか。以下では、「生きがいの対象」について、「生きがいをもつ単身世帯」と「生きがいをもたない単身世帯」に分けて考察していこう12。
まず、両世帯の比率の差が有意であった項目のうち、「生きがいをもつ単身世帯」の比率が「生きがいをもたない単身世帯」を上回っていたのは、「趣味」「仕事」「家族・家庭」「スポーツ」「学習活動」「社会活動」である(図表5)。このうち「仕事」は、「生きがいをもつ単身世帯」と「生きがいをもたない単身世帯」の比率の差(14.6%ポイント)が最も大きい項目となっている。単身世帯の生きがいには、「仕事」が一つの大きな役割を果たしていると推察される。
一方、「生きがいをもたない単身世帯」では、「ひとりで気ままに過ごすこと」を生きがいの対象とする人が41.1%いて、「生きがいをもつ単身世帯」の28.9%に比べて12.2%ポイント高い。一概にはいえないが、ひとりの活動よりも他者との交流の方が生きがいをもつことにつながりやすいのかもしれない。
次に生きがいの有無によって単身男性間で比較すると、「生きがいをもつ単身男性」は有意に差のある全項目―「趣味」「仕事」「スポーツ」「学習活動」「社会活動」―で「生きがいをもたない単身世帯」よりも高い比率になっている。
同様に、生きがいの有無によって単身女性間で比べると、「生きがいをもつ単身女性」は「家族・家庭」「学習活動」「社会活動」を生きがいの対象とする人の割合が高い。一方、「仕事」は有意な差がなく、「仕事」は単身女性の生きがいの大きな要素となっていない。また、「ひとりで気ままに過ごすこと」は、「生きがいをもたない単身女性」で5割弱の高い水準にあり、「生きがいをもつ単身女性」を大きく上回っている。
(4)第3節のまとめ
本節をまとめると、下記の点があげられる。
第一に、単身世帯は、二人以上世帯と比べて、生きがいをもつ人の割合が低い。そして、「生きがいの対象」を単身世帯と二人以上世帯で比べると、二人以上世帯では家族関連項目を生きがいの対象とする人の割合が高く、生きがいの対象が集中化する傾向がみられる。一方、単身世帯は「一人で気ままにすごすこと」「仕事」「友人など家族以外の人との交流」といった項目で比率が高く、生きがいの対象が分散化している。
第二に、単身男性と単身女性で比較すると、特徴的なのは、単身男性では「趣味」「仕事」を生きがいの対象とするのに対して、単身女性は「友人など家族以外の人との交流」「家族・家庭」といった「人との交流」を生きがいの対象とする人の割合が高い点があげられる。
第三に、「生きがいをもつ単身世帯」と「生きがいをもたない単身世帯」を比べると、「生きがいをもつ単身世帯」では単身男性を中心に「仕事」が重要な要素となっている。一方、単身女性の生きがいには「仕事」はあまり影響していない。
また、「生きがいをもたない単身世帯」では「ひとりで気ままに過ごすこと」の割合が高い。一概には言えないが、ひとりの活動よりも人との交流の方が、生きがいをもつことにつながりやすいのかもしれない。


(図表5)どのようなことに生きがいを感じるか ―「生きがいをもつ単身世帯」と「生きがいをもたない単身世帯」の比較―
(単位:%)
生きがいをもつ単身世帯 生きがいをもたない単身世帯 <総数>
正規近似法による比率差の検定 <男性>
正規近似法による比率差の検定 <女性>
正規近似法による比率差の検定


総数

(A) (n=190)

総数

(D) (n=175)
男性
(102)
(B) 女性
(88)
(C) 男性
(119)
(E) 女性
(56)
(F)
趣味 57.9
(1) 65.7
(1) 48.9
(1) 48.6
(1) 51.3
(1) 42.9
(2) 0.074* 0.030** 0.481
ひとりで気ままに過ごすこと 28.9
(2) 28.4
(3) 29.5
(3) 41.1
(2) 37.8
(2) 48.2
(1) 0.015** 0.141 0.024**
仕事 28.9
(2) 38.2
(2) 18.2 14.3 16.0
(3) 10.7 0.001*** 0.000*** 0.225
友人など家族以外の人との交流 24.2 17.6 31.8
(2) 18.9
(3) 16.0 25.0
(3) 0.215 0.739 0.380
家族・家庭 18.9 13.7 25.0 12.0 11.8 12.5 0.068* 0.662 0.068*
スポーツ 17.9 22.5 12.5 10.9 13.4 5.4 0.057* 0.077* 0.158*
自分自身の内面 17.9 14.7 21.6 16.0 16.8 14.3 0.630 0.670 0.274
自然とのふれあい 16.8 14.7 19.3 15.4 16.8 12.5 0.714 0.670 0.285
自分自身の健康づくり 15.8 13.7 18.2 13.1 14.3 10.7 0.473 0.905 0.225
学習活動 11.1 10.8 7.1 4.0 4.2 3.6 0.011** 0.060* 0.099*
社会活動 8.4 4.9 12.5 1.1 0.8 1.8 0.001** 0.064* 0.023**
その他 2.1 2.0 2.3 6.3 5.0 8.9 0.044** 0.222 0.070
1. (注)
1. 「あなたは現在、どのようなことに生きがいを感じますか」という設問について、項目ごとに回答を求めたもの(複数回答可)。
2. 「生きがいをもつ単身世帯」と「生きがいをもたない単身世帯」の区分は、「生きがいを表すのに最も適当な表現」を10個の選択肢から二つ選ばせた上で、選択した「生きがいを表す言葉」について「現在もっているかどうか」を尋ねた設問に基づく(Q15-2)。「生きがいをもつ単身世帯」は「持っている」と回答した単身世帯であり、「生きがいをもたない単身世帯」は「前はもっていたが、今はもっていない」「持っていない」と回答した単身世帯。
3. 数字の下にある括弧付き数字は、比率の高い順に上位3位の順位を示す。
4. ***1%水準で有意、**5%水準で有意、*10%水準で有意。網掛け部分は有意に差のある箇所。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」2011年、Q16により筆者作成。
4.単身世帯の仕事面の満足度
前節でみたように、単身世帯の生きがいにとって「仕事」は一つの重要な要素となっている。それでは単身世帯は、仕事に満足しているのだろうか。また単身世帯は、仕事や職場においてどのような点に満足し、どのような点に不満を感じているのであろうか。
以下では、二人以上世帯などと比較しながら、単身世帯の仕事面の満足度を考察していこう。なお、アンケート調査では無職者も含めて仕事面の満足度を尋ねているが、本節では無職者を除き、有職者のみをサンプルとする。
(1)仕事や職場に対する全体的な満足度
まず単身世帯は、全体として仕事や職場に満足しているのだろうか。図表6は、「全体として、現在の仕事や職場について、どのように感じているか」という設問に対して、「とても満足している(5点)」「やや満足している(4点)」「どちらともいえない(3点)」「やや不満である(2点)」「とても不満である(1点)」という配点をして、単身世帯と二人以上世帯に分けて点数化したものである。
その結果をみると、単身世帯は二人以上世帯と比べて仕事や職場への満足度が低い13。また、単身男性、単身女性、二人以上世帯の男女で点数を比べると、単身女性の点数(3.01点)が最も低い水準になっている。この点、単身女性の点数を就業形態別にみると、単身女性のうち正規社員の点数は3.02点なのに対して、同非正規社員は2.95点となっていて非正規社員の点数が低い。さらに、年齢階層別に「不満」と回答した人の割合をみると、35〜54歳の単身女性の3割以上の人が不満をもち、単身男性や二人以上世帯と比べて高い水準にある。
ちなみに、二人以上世帯に属する女性の仕事の満足度(3.48点)は、単身男女や二人以上世帯の男性を上回り最も高い水準にある(図表6、前掲)。そして二人以上世帯の女性のうち、正規社員の満足度は3.38点なのに対して第3号被保険者は3.56点であり、第3号被保険者の満足度が高い。第3号被保険者の多くは非正規労働者と考えられるので、単身女性とは逆の結果になっている。
この背景には、第3号被保険者は家計補助的に非正規労働に従事することが一因ではないか。つまり、単身女性の多くは「家計の主たる担い手」であるのに対して、第3号被保険者は「家計の補助的」に働く人が多い。このため、単身女性に比べて不満をもちにくい面があるのではないかと推察される。


(図表6)仕事や職場を全体的にみた場合の満足度 ―単身世帯と二人以上の比較―
単身
世帯 (n=362) 二人以上世帯 (n=2,845)
男性
(n=226) 女性
(n=136) 男性
(n=1,903) 女性
(n=942)
平均点数(点) 3.09 3.14 3.01 3.37 3.31 3.48
「不満」と回答した人の割合(%) 25.7 21.7 32.4 18.0 20.2 13.6
(%) 35−44歳 25.6 20.4 37.3 21.2 25.2 13.2
45−54歳 28.6 24.2 34.8 20.7 21.2 19.9
55−64歳 27.0 25.0 29.6 14.6 16.8 9.3
65−74歳 8.7 9.1 8.3 5.5 5.7 5.2
1. (注)
1. 「現在の仕事や職場について全体としてどのように感じているか」という設問に対する回答。点数は、「とても満足している(5点)」「やや満足している(4点)」「どちらともいえない(3点)」「やや不満である(2点)」「とても不満である(1点)」という配点をして、回答者の割合で加重平均したもの。
2. 「 『不満』と回答した人の割合」は、「やや不満」「とても不満」と回答した人の割合の合計。
3. 網掛け部分は、不満をもつ人の割合が30%を超える箇所
4. 上記表は、有職者のみをサンプルにしている。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」(2011年)、Q10-8により筆者作成。
(2)単身世帯は仕事や職場のどのような点に不満を感じているか
では、単身世帯は、仕事や職場のどのような点に不満を感じているのだろうか。アンケート調査では、仕事や職場について7項目に分けて満足度を尋ねている。
その結果をみると、全ての項目において単身世帯は二人以上世帯よりも満足度が低く、「福利厚生」を除いて有意な差がある(図表7)。また、点数の低い項目をあげると、単身世帯も二人以上世帯も「賃金」「業績評価の公平さ」「福利厚生」で満足度が低い。
さらに、単身男性と単身女性を比べると、有意に差のある項目としては「賃金」「業績評価の公平さ」「福利厚生」「職場での地位の高さ」があげられ、いずれも単身女性の満足度が低い。この背景には、賃金や業績評価などの面で女性に不利な雇用慣行が影響しているのではないかと推察される。


(図表7)仕事や職場に関する項目別満足度
(単位:点)


単身世帯
(A) (n=362)

二人以上世帯
(D) (n=2,845)
ウィルコクスンの順位和検定
ウィルコクスンの順位和検定
男性
(226)
(B) 女性
(136)
(C) 男性
(1,903) 女性
(942)
就業形態 3.39 3.46 3.28 3.60 3.59 3.63 0.000*** 0.125
仕事の内容 3.25 3.32 3.15 3.59 3.55 3.68 0.000*** 0.114
職場の人間関係・雰囲気 3.16 3.22 3.07 3.37 3.33 3.44 0.001*** 0.397
職場での地位の高さ 3.11 3.20 2.96 3.37 3.37 3.36 0.000*** 0.022**
福利厚生 2.90
(3) 2.96
(3) 2.80
(3) 2.96
(2) 2.99
(3) 2.90
(1) 0.421 0.346
業績評価の公平さ 2.73
(3) 2.81
(3) 2.59
(2) 2.99
(3) 2.95
(2) 3.06
(3) 0.000*** 0.047**
賃金 2.60
(1) 2.69
(1) 2.46
(1) 2.86
(1) 2.83
(1) 2.92
(2) 0.000*** 0.069*
1. (注)
1. 現在の仕事や職場における各項目の状況を「どのように感じているか」という設問(Q10)に対する回答。点数は、「とても満足している(5点)」「やや満足している(4点)」「どちらともいえない(3点)」「やや不満である(2点)」「とても不満である(1点)という配点をして、回答者の割合で加重平均して求めた。
2. 上記表は、有職者のみをサンプルにしている。
3. 点数の横にある括弧付き数字は、世帯ごとに点数の低い方の順位。
4. 男性、女性の下にある括弧内の数字は、サンプル数(n)。
5. ***1%水準で有意、**5%水準で有意、*10%水準で有意。網掛け部分は有意に差のある箇所。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」2011年、Q10により筆者作成。
(3)「仕事に満足している単身世帯」と「不満をもつ単身世帯」の比較
先にみた通り、単身世帯の25.7%が仕事や職場に不満をもっていた。では、同じ単身世帯でありながら「仕事に満足している単身世帯」と「不満をもつ単身世帯」では何が異なるのであろうか14。
まず、「仕事に満足している単身世帯」と「不満をもつ単身世帯」の男女比率を比べると、「仕事に不満をもつ単身世帯」は女性の比率が高い。具体的には、単身世帯総数に占める女性比率は40.5%となっているが、「仕事に不満をもつ単身世帯」における女性比率は47.3%と高い。
また、男女別・就業形態別に「仕事に不満をもつ単身世帯」の割合をみると、単身女性は単身男性に比べて、正規社員・非正規社員に関わらず仕事に不満をもつ人の割合が高い。具体的には、単身男性で不満をもつ人は正規社員で22.6%、非正規社員で19.0%となっているが、単身女性では正規社員が31.5%、非正規労働者が38.5%となっている15。
では、「仕事に満足する単身世帯」と「仕事に不満をもつ単身世帯」は、どのような項目に満足し、どのような項目に不満をもっているのか。グループごとに点数化して、下位3位をみると「仕事に満足する単身世帯」も「仕事に不満をもつ単身世帯」も、「賃金」「業績評価の公平さ」といった項目で点数が低いのは共通である(図表8)。一方、「仕事に満足している世帯」では「福利厚生」の点数が低いのに、「仕事に不満をもつ単身世帯」では「職場の人間関係・雰囲気」の満足度が低い。単身男性と単身女性について「仕事に満足するグループ」と「不満をもつグループ」に分けた場合にも、同様な結果を指摘できる。「仕事に不満をもつ単身世帯」は、特に「職場の人間関係・雰囲気」への不満が強いことがひとつの特徴といえよう。
(4)第4節のまとめ
本節をまとめると、下記の点があげられる。
まず、仕事や職場に対する満足度をみると、全ての項目で単身世帯は二人以上世帯よりも仕事の満足度が低い。また、単身女性で仕事に不満をもつ人の割合が高い。項目別に単身男女で比べると、単身女性は「賃金」「業績評価の公平さ」「福利厚生」「職場での地位の高さ」で満足度が低くなっている。
また、「仕事に満足する単身世帯」と「仕事に不満をもつ単身世帯」を比べると、「仕事に不満をもつ単身世帯」は正規労働・非正規労働を問わず、女性の比率が高い。
今後、単身女性の仕事への満足度を高めることが重要になる。多くの単身女性は「主たる稼ぎ主」として働くので、賃金や業績評価など女性に不利な雇用慣行を改める必要があろう。


(図表8)「仕事に満足する単身世帯」と「仕事に不満をもつ単身世帯」の比較
(単位:点)
仕事に満足する単身世帯 仕事に不満をもつ単身世帯
ウィルコクスンの順位和検定
ウィルコクスンの順位和検定
ウィルコクスンの順位和検定


総数

(A) (n=133)

総数

(D) (n=93)
男性
(82)
(B) 女性
(51)
(C) 男性
(49)
(E) 女性
(44)
(F)
就業形態 4.09 4.12 4.04 2.56 2.69 2.41 0.000*** 0.000*** 0.000***
仕事の内容 4.02 4.04 3.98 2.27 2.41 2.11 0.000*** 0.000*** 0.000***
職場の人間関係・雰囲気 4.00 3.94 4.10 2.13
(3) 2.29
(3) 1.95
(3) 0.000*** 0.000*** 0.000***
職場での地位の高さ 3.79 3.90 3.61 2.25 2.43 2.05 0.000*** 0.000*** 0.000***
業績評価の公平さ 3.59
(3) 3.72
(3) 3.37
(2) 1.69
(2) 1.67
(2) 1.70
(2) 0.000*** 0.000*** 0.000***
福利厚生 3.49
(2) 3.51
(1) 3.45
(3) 2.22 2.35 2.07 0.000*** 0.000*** 0.000***
賃金 3.38
(1) 3.52
(2) 3.14
(1) 1.67
(1) 1.65
(1) 1.68
(1) 0.000*** 0.000*** 0.000***
1. (注)
1. 現在の仕事や職場における各項目の状況を「どのように感じているか」という設問(Q10)に対して、5つの選択肢から一つを選択。点数は、5つの選択肢に対して「とても満足している(5点)」「やや満足している(4点)」「どちらともいえない(3点)」「やや不満である(2点)」「とても不満である(1点)」と配点し、回答者の割合で加重平均したもの。
2. 上記表は、有職者のみをサンプルにしている。
3. 点数の横の括弧付き数字は、世帯ごとに下位3位の順番。網掛け部分も下位3位の箇所。
4. 男性、女性の下にある括弧内の数字は、サンプル数(n)を示す。
5. ***1%水準で有意、**5%水準で有意、*10%水準で有意。網掛け部分は有意に差のある箇所。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」(2011年)、Q10-8により筆者作成。

• 3
5.単身世帯の生活面の満足度
次に、単身世帯の生活面の満足度を考察していこう。アンケート調査では、生活面の満足度として、「友人・仲間」「近隣との交流」など13項目について満足度を尋ねている。第2節で考察した通り、友人関係など「人との交流」は、単身世帯の生きがいに影響を与える重要な項目と考えられる。以下では、単身世帯の生活面の満足度について、二人以上世帯と比較していく。
(1)単身世帯と二人以上世帯の比較
まず、生活面の満足度を点数化して単身世帯と二人以上世帯を比べると、二人以上世帯では「家族の理解・愛情」がトップなのに対して、単身世帯では「熱中できる趣味」がトップになっている(図表9)。第2節で指摘したことと同様に、二人以上世帯では家族関連項目の満足度が高く、単身世帯では低い。
また単身世帯は、有意に差のある全項目で二人以上世帯の点数を下回り、生活面の満足度が相対的に低い。そして、単身世帯の点数が低い下位3位は、「近隣との交流」「社会の役に立つこと」「社会的地位」である。これら下位3項目は、多少の順位の違いはあるが、二人以上世帯でも同様である。
興味深いのは、単身世帯の「人との交流」である。単身世帯では、家族関連項目の満足度が低いことから、その分、家族以外の人との交流が重要になる。この点、単身世帯において「友人・仲間」の点数は上位3位に位置づけられている。一方、「近隣との交流」は、上記で示した通り、点数が最も低い。今後単身世帯が人との交流を広げていくには、「近隣との交流」が重要になるかもしれない。
次に、単身男性と単身女性を比較すると、有意に差のある項目としては「友人・仲間」「住まいのこと」「家族の理解・愛情」「近隣との交流」があげられる。これら項目は、全て単身男性の点数が低い。このうち、「友人・仲間」「家族の理解・愛情」「近隣との交流」は人との交流に関する項目になっている。今後単身男性が人との交流で満足度をあげることは、生きがいの点でも重要になるだろう。


(図表9)生活面の満足度
(単位:点)
単身世帯 二人以上世帯
ウィルコクスンの順位和検定
ウィルコクスンの順位和検定


総数

(A) (n=452)

総数

(D) (n=4,693)
男性
(269)
(B) 女性
(183)
(C) 男性
(2,530)
女性
(2,163)

熱中できる趣味 3.50
上位(1) 3.49
上位(1) 3.51
上位(3) 3.52 3.56
上位(2) 3.48 0.649 0.579
時間的ゆとり 3.49
上位(2) 3.45
上位(2) 3.55
上位(2) 3.53
上位(2) 3.50
上位(3) 3.57
上位(3) 0.386 0.211
友人・仲間 3.26
上位(3) 3.05 3.57
上位(1) 3.54
上位(3) 3.46 3.63
上位(2) 0.000*** 0.000***
健康 3.26
上位(3) 3.21
上位(3) 3.32 3.42 3.40 3.44 0.002*** 0.225
住まいのこと 3.06 2.97 3.17 3.44 3.44 3.43 0.000*** 0.032**
家族の理解・愛情 3.02 2.85 3.28 3.78
上位(1) 3.76
上位(1) 3.80
上位(1) 0.000*** 0.000***
自然とのふれあい 2.95 2.98 2.91 3.23 3.24 3.23 0.000*** 0.513
精神的ゆとり 2.90 2.87 2.96 3.19 3.17 3.20 0.000*** 0.368
仕事のはりあい 2.81 2.84 2.75 2.96 3.02 2.89
下位(3) 0.002*** 0.455
経済的ゆとり 2.73 2.77 2.67 3.03 2.98
下位(3) 3.10 0.000*** 0.409
社会的地位 2.69
下位(3) 2.75
下位(3) 2.60
下位(3) 2.92
下位(2) 3.03 2.79
下位(2) 0.000*** 0.156
社会の役に立つこと 2.51
下位(2) 2.49
下位(2) 2.55
下位(2) 2.78
下位(1) 2.81
下位(1) 2.74
下位(1) 0.000*** 0.705
近隣との交流 2.40
下位(1) 2.32
下位(1) 2.53
下位(1) 2.93
下位(3) 2.88
下位(2) 3.00 0.000*** 0.034**
1. (注)
1. 「現在のあなたの生活で、以下のことがどの程度満たされていると思うか」という問いについて、項目ごとに回答を求めたもの(複数回答可)。点数は、「十分に満たされている(5点)」「やや満たされている(4点)」「どちらともいえない(3点)」「やや欠けている(2点)」「まったく欠けている(1点)」という配点をして、回答者の割合で加重平均して求めた。
2. 点数の下にある括弧付き数字は、点数の上位3位あるいは下位3位の順位を示す。
3. ***1%水準で有意、**5%水準で有意、*10%水準で有意。網掛け部分は、有意な差のある箇所。
4. 男性、女性の下の括弧内の数字は、サンプル数(n)を示す。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」2011年、Q13-1〜Q13-13により筆者作成。
(2)「近隣との交流に満たされている単身世帯」と「欠ける単身世帯」の比較
上記でみた通り、単身世帯の生活面の満足度では「近隣との交流」が最も低いが、「人との交流」という点では今後重視すべき項目と考えられる。では、「近隣との交流に満たされている単身世帯」と「近隣との交流に欠ける単身世帯」はどのような差異があるのだろうか。二つのグループの属性を比べていこう。
まず、居住形態をみると、「近隣との交流に満たされている単身世帯」では、持ち家の一戸建てに住む人の割合が高い。具体的には、単身世帯全体の持ち家率が23.5%なのに対して、近隣との交流に満たされる単身世帯では50.8%と高い。一方、「近隣との交流に欠けている単身世帯」では民間の借家・アパート・マンションに住む人が50.4%と高い(図表10)。
持ち家一戸建てに住む単身者が人との交流に満足する傾向が強いのは、持ち家であればその地域に居住する年数が長くなるので、地域で人間関係を形成しやすいことがあげられる。またマンションに比べて、一戸建ての方が人間関係の距離がとりやすいことも考えられる。これに対して、民間の借家は住み替えの頻度が高く、人間関係の形成に難しい面があろう。
次に、配偶関係をみると、単身世帯全体では配偶者と死別した人(死別者)の割合が9.1%なのに、「近隣との交流に満たされる単身世帯」では死別者の割合が23.7%と高い(図表11)。一方、「近隣との交流に欠ける単身世帯」では、死別者の割合が2.5%と低い。男女の平均余命の違いからすると、配偶者と死別して単身世帯となった人の多くは女性であることが推察される。そして生前に夫が被用者であれば、妻は専業主婦やパートタイム労働に従事する人が多いため、地域にいる時間が長く、近隣との人間関係を築きやすいのではないかと推察される。
しかし、今後増加が著しい単身者は、未婚の単身者である。未婚の単身者は、子供がいないことが考えられるので、二人以上世帯に比べて持ち家を取得する契機に乏しく、借家に住み続ける人が多いと考えられる。こうした点からすれば、今後近隣との交流は一層難しくなることが考えられる。


(図表10)「近隣との交流」の有無と住居
(単位:%)
単身世帯
正規近似法による比率差の検定
総数
(n=452) 「近隣との交流」に満たされる単身世帯(n=59)
(A) 「近隣との交流」に欠けている単身世帯(n=242)
(B)
総数 100% 100% 100% −
持ち家
(一戸建て) 23.5 50.8 12.8 0.000***
民間の借家・
アパート・マンション 43.1 22.0 50.4 0.000***
持ち家
(分譲マンション) 23.2 20.3 24.0 0.554
公社・公団・
公営の賃貸住宅 6.0 6.8 6.6 0.963
社宅・会社の寮 4.0 0.0 6.2 0.050**
その他 0.2 0.0 0.0 -
1. (注)
1. 「近隣との交流がどの程度満たされているのか」という設問に対する回答(一つ選択)。「近隣との交流が満たされている世帯」は、「十分に満たされている」「まあ満たされている」の合計。「近隣との交流に欠けている世帯」は、「やや欠けている」「まったく欠けている」の合計。
2. 同設問の選択肢には、「どちらともいえない」があるため、二つのグループを合計しても、単身世帯総数とは一致しない。
3. ***1%水準で有意、**5%水準で有意、*10%水準で有意。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」2011年、Q13-11とQ6より筆者作成。


(図表11)「近隣との交流」の有無と配偶関係
(単位:%)
単身世帯 正規近似法による比率差の検定
総数
(n=452) 「近隣との交流」に満たされる単身世帯
(n=59) 「近隣との交流」に欠けている単身世帯
(n=242)
総数 100% 100% 100% −
未婚者 59.7 47.5 68.6 0.002***
離別者 31.2 28.8 28.9 0.986
死別者 9.1 23.7 2.5 0.000***
有配偶者 0.0 0.0 0.0 −
1. (注)
1. 「近隣との交流がどの程度満たされているのか」という設問に対する回答(一つ選択)。「近隣との交流が満たされている世帯」は、「十分に満たされている」「まあ満たされている」の合計。「近隣との交流に欠けている世帯」は、「やや欠けている」「まったく欠けている」の合計。
2. 同設問の選択肢には、「どちらともいえない」があるため、二つのグループを合計しても、単身世帯総数とは一致しない。
3. ***1%水準で有意、**5%水準で有意、*10%水準で有意。
2. (資料)財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第5回サラリーマンの生活と生きがいに関する調査」2011年、Q13-11とQ6より筆者作成。
(3)第5節のまとめ
本節をまとめると、下記の点があげられる。
第一に、生活の満足度を単身世帯と二人以上世帯で比べると、単身世帯は二人以上世帯よりも生活の満足度が低い。また単身世帯は、二人以上世帯に比べて「家族の理解・愛情」「近隣との交流」といった「人との交流」に関連する項目の点数が低く、また点数差も大きい。特に、「近隣との交流」は満足度が最も低く、改善の余地があろう。
そこで、「近隣との交流が満たされている単身世帯」と「近隣との交流が欠けている単身世帯」を比べると、「近隣との交流が満たされている単身世帯」では、持ち家の一戸建てに住む人の割合が高く、また、死別者の割合も高い。
しかし今後増加が著しい単身者は、未婚の単身者である。単身世帯が近隣との交流を活発にしていくには工夫が必要であり、今後の課題といえよう。
6.おわりに
以上のように、単身世帯の生きがい、仕事の満足度、生活の満足度を考察してきた。最後に、本稿で考察したポイントを概観する。
第一に、単身世帯と二人以上世帯で生きがいをもつ人の割合を比較すると、単身世帯では生きがいをもつ人の割合が低い。特に、単身男性の「35−44歳」「45−54歳」、単身女性の「35−44歳」では3割強の人しか生きがいをもっていない。
第二に、単身世帯と二人以上世帯の生きがいの対象の違いである。二人以上世帯では、家族関連項目を生きがいの対象とする人の比率が高く、同居家族のいない単身世帯とは大きな違いがある。そして、単身世帯では家族関連項目を生きがいの対象とする人の比率が低い分、生きがいの対象が分散化する傾向がみられた。
第三に、単身男性と単身女性で生きがいの対象を比較すると、単身男性では「仕事」、単身女性は友人関係など「人との交流」を生きがいの対象とする人の比率が高く、ひとつの特徴と考えられる。換言すれば、今後単身世帯が生きがいの対象を広げる一つの方向として、単身男性では「人との交流」を重視し、単身女性で「仕事」を重視することが考えられる。
第四に、仕事や職場に対する満足度をみると、単身女性では正規社員・非正規社員を問わず仕事の満足度が低くなっている。この背景には、賃金や業績評価などの面で女性に不利な雇用慣行が影響しているのではないかと推察される。単身女性の多くは「主たる稼ぎ主」として働くので、賃金や業績評価などを含め男女を平等に扱う雇用慣行になるように是正していく必要がある。
第五に、単身男性は、友人・家族・近隣といった人々との交流の面で満足度が低い。「仕事」と並んで、「人との交流」は単身世帯の生きがいにとって重要な要素と考えられる。難しい課題ではあるが、社会全体で、単身男性が他者と交流できる多様な場を考えていくことも必要になるのではないか。
最後に、生きがいや仕事・生活面において単身世帯に重要な要素は、二人以上世帯にとっても重要な要素になりうることを指摘したい。というのも、現在二人以上世帯に属している人も、配偶者との死別などによって単身世帯になる可能性がある。その意味では、二人以上世帯が、家族関連項目のみを生きがいの対象とすることはリスクがある。例えば、家族を超えた「人との交流」は二人以上世帯にとっても重要になるだろう。このような視点を含めて単身世帯の状況を考察していくことが大切だと思われる。
<注>
1. 単身世帯の世帯人員は一人なので、個人の側面からみれば「単身者」となる。本稿では、世帯でみる場合には「単身世帯」、個人としてみる場合には「単身者」という用語を使うが、両者は同一の対象を示す。
2. 総務省『国勢調査』各年版。
3. 2030年の単身世帯数は、総務省『平成17年国勢調査』をベースにした国立社会保障・人口問題研究所による推計(国立社会保障・人口問題研究所編『日本の世帯数の将来推計(全国推計)―2008年3 月推計』)。なお、2005年の国勢調査をベースにした上記推計によれば、2010年の単身世帯数は1,571万世帯、全人口に占める割合は12.4%とみられていたが、2010年の実績値では、単身世帯数1,679万世帯、全人口に占める割合は13.1%となっている。2010年の実績値は、2015年の推計(単身世帯数1,656万世帯、全人口に占める単身者の割合13.2%)とほぼ同程度であり、いわば5年分単身世帯化が速く進んでいるとみることができる。
4. 詳しくは、藤森克彦『単身急増社会の衝撃』日本経済新聞出版社、2010年、pp.53-57参照。
5. 国立社会保障・人口問題研究所編『日本の世帯数の将来推計(全国推計)―2008年3月推計』
6. 総務省『平成22年国勢調査』
7. 国立社会保障・人口問題研究所編『日本の世帯数の将来推計(全国推計)―2008年3月推計』
8. 有配偶の単身世帯とは、単身赴任や別居などによって一人暮らしをする人が考えられる。アンケート調査のサンプルには、有配偶の単身世帯は含まれていない。
9. 二人以上世帯と比べて、単身世帯に非正規労働者の比率が高いことは、藤森克彦『単身急増社会の衝撃』日本経済新聞出版社、2010年、p.112参照。なお、夫婦で自営業を営む人も第1 号被保険者になるので、アンケートの対象から除かれている。
10. 「生きがいの場」についての設問もあるが(Q17-1〜Q17-9)、「選択肢から2つまで選ぶ」という内容になっている。単身世帯と二人以上世帯の比率の比較が困難なため、本稿の調査項目からは除いた。
11. 単身世帯と二人以上世帯の上位5位は同じ項目であり、両世帯が選んだ項目の割合も大きな差はない。具体的には、(1)「生きる喜びや満足感」(単身世帯42.7%、二人以上世帯44.9%)、 (2)「心の安らぎや気晴らし」( 同29.9%、30.2%)、 (3)「生活の活力やはりあい」( 同26.8%、28.1%)、(4)「生きる目標や目的」(23.5%、18.1%)、(5)「自分の可能性の実現や何かをやりとげたと感じること」(18.4%、17.0%)となっている(Q15-1)。
12. アンケート調査では「現在、生きがいをもっていない」と回答した人々にも「生きがいの対象」を尋ねている。
13. ウィルコクスンの順位和検定では、単身世帯総数と二人以上世帯総数の満足度には有意な差がある(有意確率=0.000***)。一方、単身男性総数と単身女性総数の満足度は、有意な差があるとはいえない(有意確率=0.319>0.1)。
14. 現在の仕事や職場について「全体としてどのように感じているか」を尋ね(Q10-8)、「とても満足している」「やや満足している」という単身世帯を「満足している単身世帯」とし、「やや不満である」「とても不満である」という単身世帯を「不満をもつ単身世帯」とした。
15. なお、非正規労働に従事する単身男性で「不満」と回答する人の割合が相対的に低い水準になっている。これは、非正規の単身男性のサンプル数が21人と少ないこととに加えて、サンプルとなった非正規労働に従事する単身男性には50歳以上の年齢階層が多いことが影響していると思われる。というのも、男女共に年齢階層が高まるにつれて、仕事に不満をもつ人の割合は減少する傾向がみられるからである。
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低所得高齢者の実態と求められる所得保障制度(1/3)
• *本稿は、『年金と経済』 Vol.30 No.4 (財団法人年金シニアプラン総合研究機構、2012年1月) に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
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みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦
要旨
日本の高齢者の貧困率は、主要先進国の中でも高い水準にある。高齢者の貧困率を世帯類型別・配偶関係別に考察すると、単身世帯と未婚者・離別者で貧困率が高い。今後、高齢者の中で単身世帯や未婚者・離別者の増加が予測されており、高齢者の貧困率が一層高まることが懸念される。


政府は、低所得高齢者対策として、低所得者への基礎年金の加算や受給資格期間の短縮などを検討している。しかし、社会保険方式を採用する公的年金制度のもとで低所得者に加算することは、保険料納付実績が反映されず公平性を失する恐れがある。また、受給資格期間の短縮は、給付額の減少を伴うので最低保障機能の強化につながらない可能性が高い。


主要先進国の低所得高齢者の救済策を参考にすると、日本に求められるのは、高齢者を対象とした特別な公的扶助制度の創設だと考えられる。現行の生活保護制度よりも資力調査を緩和することや、免除申請者の優遇の仕組みなどを組み込む必要があろう。英国の年金クレジットなどはその参考になると考えられる。
はじめに
日本の高齢者は「豊かな高齢者」と呼ばれることが多いが、高齢者の貧困率をみると先進国の中で高い水準にある。また、現役世代と比べても高齢者の貧困率は高い。特に、高齢者の中でも単身世帯(単身者)や未婚者で貧困率が高くなっている。
今後を考えると、高齢の単身者や未婚者が増加していくことが予想される。また、90年代以降、低所得で雇用の安定しない非正規労働者も増加してきた。こうした変化に伴って、高齢期の貧困問題が一層深刻になっていくことが懸念される。これらの点から、貧困に陥った高齢者の救済は重要な課題になっている。
そこで本稿では、まず低所得高齢者の実態をみた上で、公的年金との関係から低所得高齢者が生じる制度的要因を考察する。次に、政府が提言する低所得高齢者対策を概観して、その問題点を指摘する。そして最後に、主要先進国との比較から高齢者向けの特別な公的扶助制度の創設が必要であることを指摘する。
1.低所得高齢者の実態
(1)高齢者の貧困率
低所得高齢者の実態をみる前に、「低所得者」の定義を示す。本稿で「低所得者」とは、世帯の合計可処分所得を世帯人員数で調整した一人当たり可処分所得(等価可処分所得)中央値の50%以下で生活する人々を指すこととする(*1)。厚生労働省『平成19年度国民生活基礎調査』(2007年度)では、年間の等価可処分所得の中央値が248.49万円なので、「低所得」の基準となる貧困ラインは124.25万円となる。つまり、年間の等価可処分所得が124.25万円以下で生活する人を「低所得者」あるいは「貧困者」と定義する。
上記定義に基づくと、65歳以上の高齢者に占める低所得者の割合(貧困率)は22.0%になる。男女別では、高齢男性の貧困率は18.4%、高齢女性では24.8%となり、高齢女性の貧困率は高齢男性よりも6.4%ポイント高い。また、20〜64歳の現役世代の貧困率は、男性が12.7%、女性が14.0%なので、高齢者の貧困率は現役世代よりも6〜10%ポイントほど高くなっている(*2)。さらに、日本の高齢者の貧困率(22.0%)は、OECD30カ国の平均値である13%を大きく上回り、30カ国の中で7番目に高い水準である(*3)。「豊かな高齢者」といわれて久しいが、日本の高齢者の貧困率は、現役世代との比較においても、国際的にみても高い水準にある。
(2)世帯類型別・配偶関係別にみた低所得高齢者
では、どのような高齢者が貧困に陥りやすいのだろうか。ここでは世帯類型と配偶関係に着目して、属性ごとの貧困率と、低所得高齢者に占める各構成比をみていこう。
A.世帯類型別にみた低所得高齢者
まず、世帯類型別に高齢者の貧困率をみると、男女ともに貧困率が最も高いのは、「単身世帯」であり、単身男性の38.3%、単身女性では52.3%が低所得者となっている(図表1)。一方、低所得高齢者の構成比をみると、男性では「夫婦のみ世帯」に属する人の比率が44.5%と最も高く、単身世帯の19.8%を大きく上回っている。単身世帯の貧困率は夫婦のみ世帯よりも高いのに、低所得高齢男性の構成比では夫婦のみ世帯よりも低い。これは、高齢男性総数に占める単身男性の比率が小さいためである。具体的には、高齢男性総数に占める単身男性の比率は9.7%であり、夫婦のみ世帯の46.1%を大きく下回る。
他方、低所得高齢女性の構成比率をみると、単身世帯に属する人が42.6%を占め最も高い。これは、単身女性の貧困率が高いことに加えて、高齢女性総数に占める単身女性の比率が20.4%となっていて、夫婦のみ世帯(29.3%)との差が小さいためである。
なお「一人親と未婚子からなる世帯」の貧困率も、高齢男女ともに3割前後と単身世帯に次いで高い水準にある。しかし、高齢者総数に占める同世帯に属する人々の割合が男性1.9%、女性6.7%と低いので、低所得高齢者に占める同世帯の構成比は10%以下となっている。
B.配偶関係別にみた低所得高齢者
配偶関係別にみると、男女ともに貧困率が高いのは「未婚者」と「離別者」である(前掲、図表1)。未婚者、離別者の約4割が低所得者となっており、特に未婚の高齢女性では47.4%と高い。しかし、高齢者総数に占める未婚者や離別者の割合が2〜5%と低いため、低所得高齢者に占める未婚者と離別者の割合は男女ともに5〜9%弱の低い比率に留まっている。
一方、「死別者」の貧困率は、男女ともに未婚者や離別者よりも低いが、有配偶者よりは高い水準にある。また、低所得高齢者に占める死別者の構成比をみると、男性は13.5%、女性は47.3%となる。特に、低所得高齢女性における死別者の構成比は、有配偶者を上回り最も高い。

(図表1)世帯類型別・配偶関係別にみた高齢者の貧困率と構成比(2007年)
(単位:%)
高齢男性 高齢女性
貧困率
(注1) 構成比 貧困率
(注1) 構成比
低所得
高齢男性 高齢男性
総数 低所得
高齢女性 高齢女性
総数
高齢者総数 18.4 100.0 100.0 24.8 100.0 100.0
世帯類型 単身世帯 38.3(1) 19.8(2) 9.7 52.3(1) 42.6(1) 20.4(2)
一人親と未婚子
からなる世帯 27.7(2) 2.8 1.9 31.3(2) 8.3 6.7
夫婦のみ世帯 18.1(3) 44.5(1) 46.1(1) 19.2 22.5(2) 29.3(1)
夫婦と未婚子
からなる世帯 17.0 16.0(3) 17.7(2) 17.6 6.5 9.3
三世代世帯 10.3 8.3 15.0(3) 10.8 8.7(3) 20.2(3)
その他の世帯 16.8 8.6 9.6 20.2(3) 11.4 14.1
配偶関係 未婚者 40.0(1) 5.1 2.4 47.4(1) 8.0 4.2
離別者 39.6(2) 6.1(3) 2.9(3) 44.0(2) 8.7(3) 5.0(3)
死別者 24.6(3) 13.5(2) 10.2(2) 30.3(3) 47.2(1) 39.2(2)
有配偶者 16.6 75.3(1) 84.6(1) 17.5 36.1(2) 51.6(1)
(注)
1.「貧困率」とは、世帯の合計可処分所得を世帯人員数で調整した一人当たり可処分所得(等価可処分所得)中央値の50%(貧困ライン)以下で生活する人々の割合。
2.男女の「低所得高齢者の構成比」は、上記貧困ラインを下回る高齢男女を100%とした時の世帯類型別、配偶関係別の構成比。
3.「貧困率」の網掛け部分は、高齢者総数の貧困率よりも高いところを示す。
4.( )付き数字は、上位3位を示す。
(資料)
男女別の「高齢者総数の構成比」は、厚生労働省『平成19年国民生活基礎調査』に基づき筆者作成。「貧困率」は、阿部彩氏が厚生労働省『平成19年国民生活基礎調査』の個票に基づき集計した結果の引用(内閣府男女共同参画局『生活困難を抱える男女に関する検討会報告書』2010年3月、113〜123頁)。「低所得高齢者の構成比」は、「高齢者総数の構成比」と「貧困率」に基づき、筆者推計。

C.世帯類型・配偶関係の変化からみた今後の低所得高齢者
以上のように、世帯類型別にみると「単身世帯」の貧困率が高い。また、配偶関係別にみると、「未婚者」「離別者」で貧困率が高くなっている。未婚者、離別者は配偶者がいないという点において単身世帯になりやすいので、高齢の単身者と未婚者・離別者は互いに関係している。
今後をみると、高齢者人口に占める単身世帯(単身者)や未婚者の比率が男性を中心に大きく高まっていくと予測されている(図表2)。仮に単身世帯や未婚者の貧困率が今後も高水準で推移していくとすれば、高齢者人口に占める単身者や未婚者の比率の上昇に伴って高齢者の貧困率が高まっていく可能性が高い。

(図表2)高齢者人口に占める単身世帯・未婚者・死離別者の比率の将来予測
―2005年(実績値)と2030年(推計値)の比較―
(単位:万人)
高齢男性 高齢女性
2005年 2030年 差 2005年 2030年 差
単身世帯
比率 9.7%
(105万人) 17.8%
(278万人) +8.1%
(2.6倍) 19.0%
(281万人) 20.9%
(439万人) +1.9%
(1.6倍)
未婚者
比率 2.4%
(26万人) 10.8%
(168万人) +8.4%
(6.5倍) 3.5%
(52万人) 5.7%
(120万人) +2.2%
(2.3倍)
死・離別者
比率 13.8%
(151万人) 17.2%
(268万人) +3.4%
(1.8倍) 47.8%
(731万人) 48.0%
(1,009万人) +0.2%
(1.4倍)
(注)各比率は、65歳以上の男女別人口に占める比率。括弧内の数値は、該当者数。
(資料)2005年(実績値)は、総務省『平成17年国勢調査』。2030年の「65歳以上人口」「単身者数」「未婚者数」「死・離別者数」は、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計に基づく。
• 1
22. 低所得高齢者が生じる制度的要因 ―公的年金との関係―
それでは、高齢期を迎えた際に、どのような要因から「低所得者」となるのだろうか。この点、「高齢者世帯」の世帯所得を5分位に分けて基礎的所得の構成比をみると、所得最下位20%(第1分位)に属する世帯では、基礎的所得の87%を「公的年金・恩給」に依存しており、公的年金の影響が大きい(*4)。
そこで以下では、公的年金との関係から低所得高齢者が生じる制度的要因を考察していこう。具体的には、(1)公的年金を受給できないこと(無年金者)、(2)公的年金の二階部分を受給できないこと、(3)基礎年金を満額受給できないこと、といった3点をみていく。
(1)公的年金を受給できないこと(無年金者)
まず、無年金者は公的年金を受給できないために、貧困に陥る可能性が高いと考えられる。公的年金を受給するには、受給資格期間として「保険料納付済み期間」と「保険料免除期間」を合算して25年以上を満たすことが必要である。この期間を満たさないと無年金者となり、公的年金を受給できない。
では、無年金者はどの程度いるのであろうか。旧社会保険庁の推計によれば、65歳以上の高齢者(2,744万人)のうち、無年金者は最大で42万人存在し(2007年現在)(*5)、65歳以上高齢者の1.5%を占めている。先述の通り、高齢者の貧困率は22.0%なので、無年金者の割合はそれよりもかなり小さい。
また、厚生労働省『平成19年国民生活基礎調査』(2007年)において、「65歳以上の者のいる世帯」のうち「公的年金・恩給受給者のいない世帯」の割合をみると3.3%となっている。特に、単身男性の11.3%、単身女性の3.9%が「公的年金・恩給受給者のいない世帯」である(*6)。単身男性における無年金者の割合は、他の世帯類型と比較して著しく高い。
(2)公的年金の二階部分を受給できないこと
第二に、老齢基礎年金(あるいは旧国民年金)のみを受給し、厚生年金や共済年金といったいわゆる「公的年金の二階部分」を受給しない高齢者が貧困に陥りやすい。具体的には、基礎年金のみを受給する単身世帯において年収100万円未満の世帯割合は、単身男性53.3%、単身女性63.3%と高い比率である。一方、厚生年金/共済年金を受給する単身世帯では、年収100万円未満の世帯の割合は、単身男性9.7%、単身女性16.9%と大きく低下する。夫婦世帯でも、基礎年金のみの受給者では年収150万円未満(*7)の世帯割合が34.1%なのに対して、厚生年金・共済年金をもつ世帯ではわずか4.4%である(*8)。
それでは、二階部分をもたない「基礎年金のみの受給者」はどの程度いるのか。厚生労働省『平成21年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によれば、老齢基礎年金の受給者総数2,501万人のうち34.4%(855万人)は厚生年金・共済年金の受給権をもたない「基礎年金のみの受給者」である(2009年度末)。男女別の内訳をみると、男性8.2%(204万人)、女性26.0%(651万人)となっている。
このうち、民間被用者や公務員と結婚をしていれば、非正規労働に従事していたとしても(国民年金第3号被保険者)、結婚相手が厚生年金や共済年金を受給できるので世帯全体で考えれば貧困に陥りにくい。また、これらの人々が配偶者と死別した場合であっても、自らの基礎年金に加えて、遺族厚生年金として配偶者が得てきた厚生年金の4分の3を受給できる。
これに対して、現役時代に非正規労働に従事していた未婚者など(国民年金第1号被保険者)は、公的年金としては基礎年金のみを受給することになる(*9)。また、自営業や家族従業者(同)も、高齢になって働けなくなれば、勤労所得を失って各自の基礎年金で生活していくことになる。さらに、自営業を営んでいた者が死亡した場合には、遺された配偶者は18歳未満の子供がいない限り遺族基礎年金を受けることができない(*10)。つまり、一人分の基礎年金のみで生活することになり、貧困に陥りやすい。
実際、65歳以上の老齢年金受給者について、現役時代の主たる経歴別に年収100万円未満の高齢者の割合をみると、男女ともに、(1)現役時代に無職の期間が中心であった人、(2)パートやアルバイトなどの非正規労働の期間が中心であった人、(3)自営業が中心であった人、(4)いずれの職業も20年未満の中間的な経歴の人において、年収100万円未満の人の割合が高くなっている(図表3)。換言すれば、現役時代に「正社員中心」であれば、年収100万円未満に陥る人の割合は、男性3.5%、女性14.2%ときわめて低い水準である。

(図表3)老齢年金受給者(65歳以上)の現役時代の主な経歴と老後の年収(2007年)
(単位:%)
高齢男性 高齢女性
年収100万円未満の割合(注1) 構成比 年収100万円未満の割合(注1) 構成比
年収100万円未満 総数 年収100万円未満 総数
総数 13.3 100.0 100.0 51.9 100.0 100.0
収入を伴う仕事をしていない期間中心 50.0(1) 0.5 0.1 71.0(1) 24.2(2) 17.7(2)
アルバイト中心 41.0(2) 5.7(3) 1.8 59.7 4.2 3.67
自営業中心 36.6(3) 55.4(1) 20.1(2) 60.3(3) 26.5(1) 22.8(1)
中間的な経歴 30.3 5.5 2.4(3) 62.3(2) 16.7(3) 13.9
常勤パート中心 26.9 1.2 0.6 55.6 5.9 5.5
正社員中心 3.5 18.0(2) 68.5(1) 14.2 4.7 17.1(3)
不明 29.4 14.2 6.4 48.0 17.8 19.3
(注)
1.「年収」は本人の収入(個人単位)であり、世帯単位の収入ではない。また、等価可処分所得ではないので、貧困率を示すものではない点に注意。
2.「正社員中心」とは、20歳〜60歳までの40年間のうち、20年を超えて正社員等であった者。他の項目も同様。「中間的な経歴」とは、いずれの職業も20年以下の者である。
3.調査対象は、2007年11月1日現在の厚生年金および国民年金の老齢年金受給者。回収率は49.5%。上記設問の回答者数は、10,006人(男性4,499人。女性は5,507人)。このうち、年収100万円未満は、男性599人、女性2858人。
(資料)
厚生労働省『平成19年老齢年金受給者実態調査』第19表(65歳以上)より、筆者作成。

(3) 基礎年金を満額受給できないこと
さらに、基礎年金のみの受給者の中には、基礎年金を満額受給(月額6.6万円)していない人の割合が高い。基礎年金のみの受給者の平均年金月額は4.9万円であり、その分布をみると、69.5%は年金月額が5万円台以下である。特に月額3万円台が26.2%と最も高い(*11)。
基礎年金を満額受給できない要因としては、満額年金を受給するために必要な「保険料納付済期間(40年間)」の不足があげられている(*12)。この背景には、(1)未納・未加入期間を有すること、(2)免除を受けた期間を有すること、(3)制度上、国民年金に「任意加入」とされた期間に加入しなかったこと、といった三点が指摘されている。もうひとつの要因としては、65歳前から老齢基礎年金等の繰上げ受給を行っているために、減額された老齢基礎年金等を受給していること、といった点もあげられる。
3. 政府による公的年金の最低保障機能の強化の提案とその問題点
政府は、2011年6月末に決定した「社会保障・税一体改革成案」の中で、低所得高齢者への対策として、年金制度の枠内での最低保障機能の強化を提案している。具体的には、(1)低所得者への加算、(2)基礎年金の受給資格期間の短縮、が提案されている。そこで以下では、政府による上記提案を概観した上で、その問題点を指摘したい。
(1)低所得者への加算」の内容と問題点
政府は、低所得の老齢年金受給者に対して、基礎年金額の加算を提案している。例えば、年収65万円(月額5.4万円、老齢基礎年金等の受給権者の平均年金額)未満の単身者であれば、一律に月額1.6万円を定額加算する(*13)。加算額の1.6万円の根拠は、7万円と老齢基礎年金の平均金額5.4万円との差額であるという(*14)。
しかし、低所得者への加算には下記のような問題がある。第一に、保険料納付実績が反映されず公平性を損なう恐れがある。具体的には、年収65万円未満の単身者に1.6万円を加算すれば、保険料を32年間拠出した人も、40年間拠出した人も、同じ年金額を受け取ることになる。納付期間に8年間の差があるのに同一の基礎年金額を受給することは不公平である。
そこで、保険料拠出実績に応じて加算額を設定するという方法(定率加算)も考えられる。しかし、この場合、保険料拠出期間の短い人にはわずかな加算額しか付与されず、最低保障機能の強化という目的自体が実現できない。
先述の通り、基礎年金の満額受給に至らない背景には、支払うべき保険料を払っていないことや免除期間を有することなどがある。しかし、こうした要因による低年金は、「保険料拠出を要件に給付する」という社会保険の枠内ではやむを得ないことであろう。また、老齢年金の繰上げ受給による減額は、早期に年金を受け取り始めた本人の選択の結果である。こうした点からすれば、年金制度の枠内で加算することの妥当性が疑問である。
第二に、フローの所得は低くても、資産を保有している高齢者もいるので、年収のみを基準に加算することの妥当性が問題となる。例えば、主な収入が公的年金・恩給となっている年収200万円未満の「高齢者のいる二人以上世帯」について貯蓄現在高をみると、貯蓄現在高300万円未満が31.6%いる一方で、1,500万円以上の貯蓄をもつ世帯が18.7%もいる(*15)。
第三に、多くの老齢年金受給者に対して、実務上「所得調査」や「資産調査」を実施することが可能なのかという点である。また仮に可能だとしても、こうした資力調査に基づく給付は「保険料拠出を要件に給付を受ける」という社会保険の枠を超えていると言わざるを得ない。
したがって、低所得高齢者を救済する必要性はあっても、公的年金制度の枠内で低所得者に加算することには無理があるといえよう。
(2)基礎年金の受給資格期間25年間の短縮と問題点
最低保障機能の強化に向けて提案されているもう一つの点は、現在25年間となっている基礎年金の受給資格期間の短縮である。受給資格期間を短縮すれば無年金者の減少につながる。そこで、受給資格期間を10年に短縮することなどが提案されている。
確かに、受給資格期間を短縮すれば、長期的にみて無年金者が減少する可能性がある。2007年現在、65歳以上高齢者のうち無年金者が42万人いるが、このうち保険料の納付済み期間が10年以上25年未満の人は40%(16.8万人)にのぼる(*16)。受給資格期間を10年に短縮すれば、こうした人々が年金を受給できるようになる。また、受給資格期間の短縮によって、納付した保険料に応じて給付がなされる方向が強化されること自体には意義がある。
しかし、受給資格期間の短縮が「最低保障機能の強化」という目的に資するかというと、難しいと言わざるをえない。なぜなら、受給資格期間を短縮して納付期間が短くなれば、それに応じて基礎年金の受給額が減少するからである。例えば、受給資格期間を10年間とした場合に、10年間だけ保険料を納付してその他の期間は免除を受けた場合の年金月額は1.6万円強にすぎない。また、10年間全額免除を受けた場合には、年金月額0.8万円強となる(*17)。これでは、最低保障機能の強化という目的を達成することにはならない。

• 3
4. 高齢者向けの特別な公的扶助制度の必要性
以上のように、社会保険方式を採用する公的年金の枠内で、低所得者への加算をすることには限界がある。また、受給資格期間の短縮が最低保障機能の強化につながるとも考えにくい。
では、どうすればよいか。低所得高齢者問題は、多くの先進国が抱える共通の課題になっている。そこで、海外における低所得高齢者への対応策を概観し、日本の対策を考えていこう。結論としては、日本では「高齢者向けの特別な公的扶助制度」の創設を検討すべきと考える(*18)。
(1)主要先進国の低所得高齢者への対応策
まず、先進7カ国の高齢者の貧困率をみると、日本は米国に次いで高い水準にある(図表4)。この中で、日本と同様に2階建ての公的年金をもつ国は英国とカナダである。興味深いことに、日本の基礎年金の給付水準は、英国やカナダを若干上回っているにもかかわらず、カナダの貧困率は主要先進国の中で最も低く、また英国の貧困率は日本の半分程度となっている。この背景には、以下の二つの要因が考えられる。
第一に、英国とカナダでは、資力調査を実施した上で低所得高齢者に一定の所得を保障する「高齢者向けの公的扶助制度(資力調査付き給付)」があり、利用率が高いことがあげられる。具体的には、カナダでは、一定所得に満たない低所得高齢者世帯に、支給される「補足所得保障(Guaranteed Income Supplement:GIS)」が導入されている(*19)。高齢者の受給率も34%と高い。また英国でも、後述するように「年金クレジット」と呼ばれる高齢者向けの特別な資力調査付き給付があり、受給率は23%にのぼる(前掲、図表4)。
日本でも、受給者を高齢者に限定していないものの包括的な生活保護制度(資力調査付き給付)があり、図表4に示されている通り、その給付水準は英国やカナダとほとんど差はない。しかし実際の受給状況をみると、日本では、高齢者に占める生活保護受給者の割合はわずか2%にすぎない。これが、日本における高齢者の貧困率を高めている大きな要因ではないかと考えられる(*20)。
第二に、英国では、公的年金の二階部分(国家第二年金)において、低年金者に手厚い給付がなされる設計になっている。社会保険方式でありながらこうした設計ができるのは、英国では一定要件を満たす私的年金に加入すれば、公的年金の二階部分に加入しなくてもよいとする「適用除外制度」が影響していると推察される。つまり、低所得者加算に不満をもつ人には、私的年金に加入して公的年金の二階部分に加入しないという選択が認められている(*21)。日本では適用除外制度は認められていない。
以上の点から、日本において低所得高齢者対策として検討すべきは、「高齢者向けの特別な公的扶助制度」と考えられる。そして、「高齢者向けの公的扶助制度」は、米国、ドイツ、フランスなどの主要先進国でも設置されている(*22)。各国ごとに制度内容は異なるが、一般の公的扶助制度に比べて資力調査が緩和されていることや、給付水準が高めに設定されていることなどの特徴がみられる。以下では、その一例として英国の「年金クレジット」を考察していく。

(図表4)主要先進国の高齢者貧困率と基礎年金と資力調査付き給付
(単位:%)
65歳以上高齢者の貧困率(注1) 平均所得と比較した給付水準 受給率
基礎年金 資力調査付き給付(注2) 最低年金(注3) 資力調査付き給付(注2) 最低年金(注3)
米国 22.4 19.0 7
日本 22.0 15.8 19.4 2
イタリア 13.0 20.2 19.9 5 32
英国 10.3 14.0 19.2 10.5 23 n.a.
フランス 8.8 23.1 23.3 5 36
ドイツ 8.4 20.3 2
スウェーデン 6.2 16.3 24.8 1 55
カナダ 5.9 14.2 17.9 34
(注)
1.「貧困率」の定義は、図表1注1参照。
2.「資力調査付き給付(resource-tested or targeted)」とは、資力調査(所得調査あるいは所得・資産調査)を行った上で低所得者を対象に支払われる給付。日本では生活保護制度が該当。主要先進国の多くは、高齢者を対象にした特別な資力調査付き給付が設定されていることが多い。
3.「最低年金(minimum pension)」とは、年金額だけを基準として、低年金の高齢者を対象に支給される給付。英国では、公的年金の二階部分にあたる国家第二年金が最低年金の機能をもつ。
(資料)
「貧困率」はOECD(2008), Growing Unequal? : Income Distribution and Poverty in OECD Countries, p.140。「平均所得と比較した給付水準」と「受給率」は、OECD(2011), Pension at A Glance,2011, pp.106‐109により作成。
(2)英国の「年金クレジット」
英国では、2003年に低所得高齢者を救済するために「年金クレジット」が導入された。これは税金を財源にし、資力調査を実施した上で受給が認められる高齢者向けの「資力調査付き給付」である。給付の内容としては、「保証クレジット」と「貯蓄クレジット」の二種類がある(*23)。
まず「保証クレジット」は、高齢世帯の総所得が政府の定める最低所得基準額に満たない場合に、その差額が支給される。対象となる高齢者の年齢は、概ね60歳以上であり、現在、女性の公的年金の支給開始年齢の引き上げに伴って上昇している。標準的な最低所得基準額は、高齢単身世帯は週137.35ポンド(月額約7万4千円、1ポンド=125円で換算、以下同じ)、高齢夫婦世帯は週209.70ポンド(月額約11万2千円)である(2011年度現在)。重度の障害者や介護者、住宅費を要する者であれば、上記の最低所得基準額が引き上げられる。
この基準額は、一般の公的扶助制度(所得扶助:Income Support)の水準――単身世帯(25歳以上)週67.50ポンド、夫婦世帯(共に18歳以上)105.95ポンド――に比べて高めに設定されている(*24)。また、同基準額は、基礎年金の受給額(単身世帯:週102.15ポンド、夫婦世帯:週163.35ポンド)と比べても高い水準にある。
資産については、1万ポンドを超える資産――居住している住宅を除く――について、500ポンド毎に1ポンドが週所得に加算される。例えば、1万1千ポンドの貯蓄がある高齢者は、週所得に2ポンドが加算されることになり、その分、保証クレジットの給付額が減額される。なお、一般の所得扶助の受給には、保有する資産額が1万6千ポンド以下であることが要件になっているが、年金クレジットにはこうした制限がない。ただし、先述の通り、資産は所得に換算されるのでその点からの制限を受けることになる。
上記の保証クレジットの課題としては、年金生活者の収入が増えるとその分だけ受給額が減少する仕組みのため、人々が私的年金などに加入しなくなる点である。これを防ぐために、「貯蓄クレジット」が組み込まれている。
貯蓄クレジットは、私的年金などに加入して一定以上の所得をもつ高齢者に給付を加算する制度である。収入が高まるのに応じて、一定限度額まで貯蓄クレジットの給付額が増加し、一定限度を超えると給付額が逓減していく仕組みになっている(図表5)。貯蓄クレジットの最高給付額は、単身世帯であれば週20.52ポンド(月額約1万1千円)、夫婦世帯であれば週27.09ポンド(月額約1万5千円)である。貯蓄クレジットを受給できる世帯の所得は、単身世帯であれば週103.15〜188.00ポンド(月額約5万5千円〜10万円)、夫婦世帯であれば週164.55〜277.00ポンド(月額約8万8千円〜14万8千円)の収入を得ている世帯に限られる。
年金クレジットを導入したことが大きな要因となって、英国では高齢者の貧困率が低下した(*25)。具体的には、97年度の年金生活者の相対的貧困率は13%であったが、2009年度には8%に低下した(*26)。
一方、寛容な制度設計だからといって、全ての低所得高齢者が年金クレジットを受給しているわけではない。年金クレジットの受給資格世帯のうち受給しているのは62〜73%と推計されており、受給資格をもつ世帯の3分の1程度は申請していない(*27)。これは、年金クレジットの受給には、スティグマ(恥辱)というハードルを超えなくてはならないためだと推測される。

(図表5) 年金クレジットの概念図 ―単身世帯の場合(2011年度)―

(注)年金クレジットの数値は、2011年度の値。
(資料)Explanatory Notes to State Pension Credit Act 2002, Chapter16
(http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2002/16/notes/contents)を参考に筆者作成。
おわりに
以上のように、低所得高齢者の救済に向けて日本が取り組むべきは、緩やかな資力調査に基づく「高齢者を対象にした特別な公的扶制度」の創設であろう。そして英国の貯蓄クレジットのような仕組みを用いれば、私的年金への加入を奨励することや、免除申請を行なった者に給付を加算する措置などを組み込むことも可能になろう。また日本では、欧米諸国に比べて扶養義務者の範囲が広いために生活保護の受給を困難にしている面がある。上記制度の新設にあたっては、こうした点も併せて見直す必要がある。
なお、本稿では検討していないが、短時間労働者への厚生年金の適用拡大は、高齢者の貧困を予防するという点で、重要な施策である。現行のままでは、非正規労働者が高齢期を迎えた場合に基礎年金だけで生活することが予想される。そもそも国民年金は、主として定年がなく高齢期にも収入を得られる自営業者や農業従事者の老後の所得保障を念頭に創設された制度である。非正規労働者は被用者であるのだから、厚生年金に加入して高齢期の貧困を防げるようにすべきであろう。
<注>
1. (*1)「等価可処分所得」は、世帯所得を世帯人数の平方根で除して求めている。なお、現在政府が年金制度の枠内で低所得高齢者への対応を検討している。そこでの「低所得」の定義は、老齢基礎年金の平均受給額に相当する年収65万円未満で生活する高齢者(単身の場合)を想定している(社会保障審議会年金部会議事録、2011年12月1日)。本稿の「低所得者」の定義よりも低い水準になっている点に注意を要する。
2. (*2)内閣府男女共同参画局(2010)、p.113。なお、同報告書の付表は、阿部彩氏が、厚生労働省『平成19年国民生活基礎調査』の個票に基づき推計したものである。
3. (*3)OECD(2008), p.140
4. (*4)厚生労働省『平成19年国民生活基礎調査』第1巻、p.405。なお、「高齢者世帯」とは、65歳以上の者のみで構成するか、あるいは、これに18歳未満の未婚者が加わった世帯をいう。また、同調査では、世帯人員数による所得調整が行われていない点に注意。
5. (*5)社会保障審議会年金部会「受給期間の短縮について」(資料2、2011年9月13日、p.1)。
6. (*6)厚生労働省『平成19年国民生活基礎調査』第1巻、第103表、p315。
7. (*7)夫婦世帯の150万円を世帯人数の平方根(√2)で調整すると約106万円になる。
8. (*8)厚生労働省『平成19年老齢年金受給者実態調査』第23表、第36表より筆者計算。
9. (*9)国民年金の第1号被保険者の39.4%を「被用者」が占めており、主に非正規労働者と考えられる(社会保障審議会年金部会「報告事項」資料1、2011年11月11日、p5)。
10. (*10)20歳未満の障害のある子供がいれば、遺族基礎年金を受給できる。
11. (*11)社会保障審議会年金部会「低所得者等への加算について」2011年9月13日、p.1(原データは、「平成21年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」)。
12. (*12)同上、p.3。
13. (*13)二人以上世帯の場合には年収基準を2倍にすることを検討(社会保障審議会年金部会「低所得加算について」2011年12月1日)。
14. (*14)年収65万円未満の高齢者(単身の場合)に対して同額1.6万円を一律加算することが、最低保障機能になりうるのか疑問に思う。なお、低所得者への加算、障害基礎年金への加算、受給資格期間の短縮といった最低保障機能の強化には、0.6兆円程度の財源が必要となる(同上)。
15. (*15)調査対象は、60歳以上の高齢者がいる二人以上の世帯で、かつ家計を賄う主な収入の種類が公的年金・恩給となっている世帯(総務省『平成21年全国消費実態調査(全国、高齢者世帯編、報告書非掲載表)』 第31表)。
16. (*16)社会保障審議会年金部会「受給資格期間の短縮について」(資料2、2011年9月13日、p.2)
17. (*17)同上、p9。
18. (*18)社会保障国民議会・所得確保・保障(雇用・年金)分科会(2008年4月30日)の議事要旨における権丈善一氏、山田篤裕氏の発言等を参照。
19. (*19)OECD(2011),p.205、金子(2010),pp.173-174、社会保障審議会年金部会「高所得者の年金額の調整について」2011年9月13日、p4参照。
20. (*20)高齢者の被保護人員は68万8千人であり(2009年)、65歳以上高齢者人口(2,899万人、2009年)に占める生活保護受給者の割合(保護率)は2.4%である(国立社会保障・人口問題研究所HP,http://www.ipss.go.jp/s-info/j/seiho/seihoH23/H23-21.xls(xls/32KB))。
21. (*21)このような制度設計に対しては、保険原理を曖昧にするという批判も出されている。拙稿(2006)参照。
22. (*22)社会保障審議会年金部会「参考資料集」(2011年9月13日)、pp.25-26参照。
23. (*23)The Pension Service, Pension Credit, August 2011,参照。
24. (*24)英国の「所得扶助(income support)」は、個人手当、プレミアム、住宅費補助の三つの要素から構成されている。本文で示した所得扶助の金額は、2011年度の個人手当の支給額。
25. (*25)Department for Work and Pensions(2006), p.5.
26. (*26)住宅費控除後の所得でみた等価所得の中央値50%以下の年金生活者の割合(Department for Work and Pensions, Households Below Average Income – Analysis of the income distribution 1994/95-2009/10, May 2011, p.170.)。
27. (*27)Department for Work and Pensions, Income Related Benefits Estimates of Take-Up in 2008-09, 10 June 2010. 及び、House of Commons( 2011), p.16.
<参考文献>
• 阿部彩(2010)「日本の貧困の動向と社会経済階層による健康格差の状況」(内閣府男女共同参画局『生活困難を抱える男女に関する検討会報告書―就業構造基本調査・国民生活基礎調査 特別集計―』2010年3月)
• 阿部彩(2009)「女性と年金:高齢女性の最低生活保障」(『年金と経済』第28巻第3号、2009年10月号)
• 有森美木(2011)『世界の年金改革』第一法規、2011年
• 江口隆裕(2008)『変貌する世界と日本の年金』法律文化社、2008年
• 金子能宏(2010)「カナダの年金制度」(『年金と経済』第28巻第4号、2010年1月号)
• 菊池馨実(2011)「菊池馨実委員提出資料」(社会保障審議会年金部会、2011年9月29日)
• 権丈善一(2009)『社会保障の政策転換』慶應義塾大学出版会、2009年
• 四方理人(2010)「高齢者の最低所得保障」(駒村康平編『最低所得保障』岩波書店、2010年)
• 社会保障審議会年金部会(2008a)「低年金・低所得者に対する年金給付の見直しについて」2008年9月29日
• 社会保障審議会年金部会(2008b)「社会保障審議会年金部会における議論の中間的な整理―年金制度の将来的な見直しに向けて」2008年11月27日
• 田中敏(2006)「無年金・低所得者と高齢者の所得保障」(『調査と情報』第528号、2006年3月30日)
• 内閣府男女共同参画局(2010)『生活困難を抱える男女に関する検討会報告書―就業構造基本調査・国民生活基礎調査 特別集計―』2010年3月
• 西沢和彦(2009)「『社会保障審議会年金部会における議論の中間的整理』における低年金・低所得者に対する年金給付見直し案の論点」(『年金と経済』第28巻3号、2009年10月)
• 藤森克彦(2006)「イギリスにおける市民年金構想」(『海外社会保障研究』第157号、2006年12月)
• 堀勝洋(2009)「低年金者・低所得者に対する年金給付の見直し―社会保障審議会年金部会における議論の中間的な整理」(『共済新報』2009年1月号)
• 山田篤裕(2011)「高まる高齢期の貧困リスク」『週刊エコノミスト』2011年7月5日
• 山田篤裕(2010)「高齢期の新たな相対的貧困リスク」『季刊・社会保障研究』第46巻2号、2010年秋号
• Department for Work and Pensions(2006), Security in retirement towards a new pensions system, May 2006
• House of Commons(2011), State pension reform, 29 July 2011
• OECD(2011), Pension at Glance 2011.
• OECD(2008), Growing Unequal: Income Distribution and Poverty in OECD Countries.
http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2012/nenkintokeizai01_03.html
 

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