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推計500万人、ネット依存の「治療」 リアル人間関係が鍵
毎日新聞 2012年11月13日 東京夕刊
◇うつや不眠症と混同しがち 投薬よりカウンセリング
オンラインゲームやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でのやりとりに没頭し、やめられなくなる「ネット依存」で、医療機関にかかる人が増えている。背後には「インターネットが悪い」では済まない、別の問題が潜んでいるらしい。治療現場を訪ねてみた。【小国綾子】
「『新型うつ』で休職中です」。九州地方の精神科クリニックにやってきた30代女性は初診時にこう言った。入退院を繰り返し、大量の処方薬を服用していた。しかし精神科医(45)は話を聞くうち別の問題に突き当たった。
「ネット依存」だ。スマートフォンを使ったオンラインゲームで、自分のキャラクターを強くしようと有料アイテムを購入。借金は150万円に膨らんでいたが、ゲームをやめられずにいたのだ。
このクリニックには、不登校の高校生の親からの相談も増えている。「うつ病か睡眠障害では」と親は言うが、オンラインゲームにはまって昼夜逆転したり、友人のメールやSNSのコメントにすぐに反応しなきゃ、と夜中まで起きたりしているうち、学校に通えなくなるケースが多い。無理にネット接続を切ると、人が変わったように親に暴力を振るう子も少なくない。
最近はスマートフォンの普及でさらに、ネットから片時も離れられない人が増えてきた。厚生労働省の科学研究費で行われた成人対象の抽出調査(08年)で、ネット依存の恐れがあるとされたのは全国で推計271万人。子供の数を加えると500万人を超えるといわれる。
この調査では米国研究者のキンバリー・ヤング氏の診断テストが使われた。「ネットをする時間を減らそうとしてもできないことがあるか」など20項目を尋ねた=別表。「ネット依存」という診断名は、アメリカ精神医学会が定めた世界的な診断指針「DSM」にはないが、来年から使われる改定版には「今後検討すべき診断名」として盛り込まれる予定だ。
より深刻なのは韓国。02年には約80時間不眠不休でオンラインゲームをしていた男性がネットカフェで急死。10年にはゲームに熱中し、生後3カ月の娘を餓死させた夫婦が逮捕された。
韓国政府が11年に、小学4年生〜高校1年生の約180万人を対象にした調査では、約5%にネット依存が見られた。政府は昨年11月、16歳未満は午前0時から6時までインターネットに接続できないシャットダウン制度を実施。24時間相談できるホットライン設置や、「断ネット」してスポーツや芸術活動をする11泊12日の合宿が効果を上げているという。
日本では国立病院機構「久里浜医療センター」(神奈川県横須賀市)が昨年7月、「ネット依存外来」を新設した。電話相談は10月末までに約160件、外来には100人を超える患者が訪れた。7割が中高生の親、2割が大学生や20代の本人からの相談で、オンラインゲーム依存が圧倒的に多い。
「仲間とチームを組んで戦うタイプのゲームでは『僕が抜けると周囲に迷惑をかける』と責任感からやめられなくなる子がいる。ゲーム依存というより人間関係依存のようなケースは少なくない」とセンターの臨床心理士、三原聡子さん。「部活で挫折したり、いじめに悩んでいたり、成績が落ちて学校や家庭で居場所を失っていたり、現実の暮らしで問題を抱えていた子が多い」と指摘する。
九州のクリニックで治療を受けた女性も、本当の原因は対人関係。医師は「友達からメールの返信が来るまで夜中も携帯電話が手放せない。メール不安から来るストレスへの対処行動がオンラインゲームだった」と分析する。
どうすれば回復できるのか。同センターの治療は、偏った思考パターンを修正する認知行動療法が主で、薬は処方しない。ネットに費やした時間を記録させ、将来の夢や目標を話し合い、規則正しい生活リズムにつなげていく。家族会や入院治療、デイケアサービスも開始した。
「回復した事例では、友達ができて将来の目標が定まったり、バイト先で評価されたりするなど、人間関係の変化がきっかけになっている」と三原さん。ただ「アルコール依存者の断酒と違い、『断ネット』は現実には不可能。適度に使う『節ネット』が目標だが、10代の子には難しい」と話す。
九州のクリニックもカウンセリングが中心。先の女性の場合、「定期的にカウンセリングを受け、好きな歌手のコンサートでストレスを解消。徐々に薬を減らし、約1年後に無事復職した」という。
オンラインゲーム依存のケースでは、家族会議を勧める。「子供はいじめの標的が次々変わる学校の人間関係に疲れきっている。親は親で子供が仲間外れにされ、いじめられたら、と不安だから『ネットから離れろ』と言えない。まず、ネットの使い方を話し合える家族関係を構築することが大切です」。生活リズムを整えたり、早朝に日光を浴び、軽い有酸素運動をするなど具体的な指導をする。
沖縄の精神科医でネット依存や回復支援に詳しい西村直之医師はいう。「『ネット依存』を一つの病理のように言うと全体像が見えなくなる。同じゲームへの依存でも、レベルを上げる達成感や興奮を求める子、他人からの称賛がほしい子、学校のいじめや家庭内の虐待などからネットに逃げ込んでいる子がいれば、発達障害や精神病性障害などの病理を抱える子もいる。個々に応じた回復支援が必要です」
「日本の『ネット依存』は、『インターネット依存』というより『ネットワーク依存』ではないか。インターネットは『つながっていたい』という人々の強烈な願望を満たす格好のツールとなっている」と西村医師は分析する。
だから、ゲーム依存の子供からゲームを取り上げても、問題は解決しない。「自分を承認してほしいと切望している子にとって、オンラインゲームは数少ないコミュニケーションツール」だからだ。
私たちに何ができるのか。西村医師は「ネット依存は『薬で治る病気』ではありません。医療の領域だけではなく、対人コミュニケーションの習得など教育的サポートも必要です。家庭や学校で豊かなコミュニケーションに囲まれて育った子供は一時的にネットにはまっても、ちゃんと戻ってきます」。
今夜はゲームに夢中の子供に声を掛けてみようか。
■ネット依存の主なチェック項目■
1、気がつくと思っていたより長い時間インターネットをしていることがあるか。
2、配偶者や友人と過ごすよりも、ネットを選ぶことがあるか。
3、ネット使用時間が長くて、学校の成績や学業に支障をきたすことがあるか。
4、他にやらなければならないことがあっても、まず先に電子メールをチェックすることがあるか。
5、ネットのために、仕事の能率や成果が下がったことがあるか。
6、日々の生活の心配事から心をそらすためにネットで心を静めることがあるか。
7、ネットをしている最中に誰かに邪魔をされると、いらいらしたり、怒ったり、大声を出したりすることがあるか。
8、睡眠時間を削って深夜までネットをすることがあるか。
9、ネットをする時間を減らそうとしても、できないことがあるか。
10、ネットをしていないと憂鬱になったり、いらいらしたりしても、再開すると嫌な気持ちが消えることがあるか。
(全20項目のヤング氏の「インターネット依存度テスト」の抜粋。久里浜医療センターのホームページから)
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