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【第127回】 2012年11月8日 池上正樹 [ジャーナリスト]
地方の生活保護世帯で深刻な引きこもり問題が!
荒れる息子に悩む母親の孤独
仕事などに就けず、社会から孤立しがちな子どもを抱える親たちが集まって、情報交換したり、勉強し合ったりすることは、とても大事なことだ。
ただ、周囲の視線が厳しい土地柄の地域ではいまでも、家族会などに参加したり、声を上げたりすることを躊躇して、1人で思い悩んでいる人たちは少なくない。
地域的な事情を乗り越えて
秋田で「引きこもり」家族会が設立
11月4日、秋田に「引きこもり」家族会が設立されると聞いて、取材に出かけた。
主催したのは、「引きこもり」家族会の全国組織『NPO法人全国引きこもりKHJ親の会(家族会連合会)』(池田佳世代表)。
同会は、全国39ヵ所に支部があり、生きづらさを抱える青年たちが復活できるよう、親が集まって相談会や学習会を続けてきた。秋田県でも2003年に、同会の支部が設立されていたものの、地域的な事情などもあって、活動が継続されていなかったのだという。
この日、秋田駅近くにある「秋田にぎわい交流館」の小さな会場には、当連載で紹介した「藤里方式」が評判になり(連載第92回、第93回、第109回参照)、『ひきこもり 町おこしに発つ』(秋田魁新報社)という本にまでなった同県藤里町社会福祉協議会の菊池まゆみ事務局長をはじめ、医療機関として全国初の「ひきこもり外来」を開設している新潟県佐潟荘の中垣内正和副院長や、同会の池田代表が、それぞれ身銭を切って駆けつけた。
「親の会につながれれば、切羽詰っていた親たちも、とりあえずはホッとして、子どもも楽になる」からと、池田さんたちは持ち出しで家族会の設立をサポートしている。
「車がないから働けない!」「おまえのせいだ!」
荒れる息子に追い詰められる母親
秋田県の近郊の市から参加した60歳代の母親A子さんは、10年ほど引きこもる息子と一緒に暮らしている。
息子は、大学を卒業後、都会の会社に就職したものの、1年余り経ってから突然、会社を辞め、実家にUターンしてきた。以来、家からまったく出なくなり、文字通りの「引きこもり」状態を続けている。
「誰にも会いたくない」
「人には会いたくない」
そう訴える息子は、誰ともつながっていない。
家にいても、何かにちょっと触っただけで、何度も手を洗った。
症状を見てもらうため、精神科の医療機関にも一緒に同行して行ったことがある。
しかし、診てもらっても「何も異常はない」「入院するほどでもない」と言われた。
A子さんの夫は、病気で入院の末、すでに亡くなっていた。夫が入院したとき、医療費が支払えず、自動車を売却。それでも、貯金が底をつき、自己破産せざるを得なかった。
「車がなければ仕事ができない」
「車を返せ」
息子は、引きこもってから、そのことをずっと恨み続けた。
A子さんは、生活ができず、生活保護を受けた。
しかし、「アパートの家賃に光熱費を入れると、生活保護だけでは足りない」と、毎日、朝と夜、2ヵ所でパートを続けている。
働くと、生活保護が減らされる。それでも、「働けるうちは、働かないといけない」と思っているからだ。
アパートのふた間の間取りの中で、息子はカーテンを閉め切って、電気もつけずに引きこもる。
A子さんが、仕事で疲れて家に帰ってきて寝ていると、昼夜逆転した息子に「おまえのせいだ!」「車返せ!」と言われて起こされる。急に起きて、壁にゲンコツの穴を開けたこともあった。
A子さんは、敷布団をきちんと敷いて、寝たことがない。掛け布団をかけていても、剥ぎ取られて起こされるため、服を着たまま寝ている。
「誰にも当たる人がいない。だから、何でもかんでも、私なんです」
息子は外に出ないため、A子さんが食べるものを買っていく。
時々、本や雑誌を買ってくるように言われる。従わないと、モノが飛んで来たり、暴言を吐かれたりする。
台所の洗面台やガスコンロは占拠されているため、料理を作ることができない。何かを食べようと思って、外で買ってきても、冷蔵庫に入れると、A子さんの分は投げられる。電子レンジも使うことができないため、自分の部屋に持ち帰って、ストーブで温めたりして食べている。
洗濯機も「うるさいから」と言われるため、洗濯は手洗い。掃除機もかけられないため、コロコロを使う。足音も静かに歩かなければいけない。
「死にそうだ」
そうA子さんはぼやく。
行政が行う無料の訪問スタッフが月1回、訪れる。本人も訪問スタッフと会って話をするものの、状況は変わらない。
「1人になりたい。ゆっくりしたい。考えることは、息子のことだけです」
そんなA子さんは、「温泉療養とかに出かけたら」と勧められるが、生活に追われ、旅行に行くような金銭的余裕などまったくないという。
「子どもと、どう向き合ったらいいのか、わからない」
子どもが引きこもるのは
家が裕福だから、個室があるからではない
お金のない親が、自立できずにいる子どもと共依存のようになって思い悩む話は、決して特別ではない。とくに地方の町へ行けば、ありふれた話だ。
「家が裕福だから」とか「個室を与えるから」といった理由で「引きこもりが生まれる」という説を聞くが、取材等で私の知りうる限り、実態とは違っている。
「今日は、皆さんの引きこもりの話を聞きたくて伺いました。ここに来てよかったです。しっかりした親の会の組織ができたら、出てくる人は、たくさんいると思います。私も一生懸命、通おうかなと。一生懸命、勉強して、(息子が)引きこもりから脱出できるようにしてあげたいと思っています」
A子さんは、家族会の設立に、そんな期待を込める。
「我が子の快復を1人の専門家(精神科医やカウンセラーなど)に任せないこと」
2002年から、「親の学習会」で効果を上げる池田代表は、そう説明する。
「限られた家庭の中で、長い間、困っているだけでは解決にはほど遠い。第3者の力を借り、柔軟に行動してみることから始めましょう。親が第3者の力を入れていくことにより、人間関係の幅を広げ、時流をつかみ、世の中へ出ていく。こうして、親に力を与えたほうが、日本全国に早く広まり、“引きこもり”脱出支援の糸口をつかむことになるのです」
改めて設立された同会の秋田支部では今後、定期的に「家族会」が開かれる予定だ。
秋田支部への問い合わせ先は、
TEL 03−5944−5250
FAX 03−5944−5290
NPO法人 全国引きこもりKHJ親の会(池田佳世)まで。
<お知らせ>
筆者の新刊『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)池上正樹/加藤順子・共著が刊行されました。3.11、学校管理下で、なぜ74人もの児童たちが、大津波の犠牲になったのか。なぜ、「山へ逃げよう」という児童たちの懸命な訴えが聞き入れられず、校庭に待機し続けたのか。同書は、十数回に及ぶ情報開示請求や、綿密な遺族や生存者らの取材を基に、これまでひた隠しにされてきた「空白の51分」の悲劇を浮き彫りにしていく。
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http://diamond.jp/articles/print/27574
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