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【第126回】 2012年11月2日 池上正樹 [ジャーナリスト]
大学までは順調なのに働くことにつまずく
“大卒無業者”になる人の共通点
大学までは問題なく卒業したけれど、社会に出たとたん、人間関係や組織への適応などが上手くいかなくなり、仕事に就けずに無職になる。そんな“大卒無業者”の状況に追い込まれる人たちの存在が、顕在化するようになったという。
大卒でも就職・進学できない若者は
約8万6000人に
「全国の地域若者サポートステーション(厚労省が委託する就労支援事業:通称サポステ)に来る人たちの傾向を見ると、大卒の肩書を持った人たちは、(医療的背景があるケースを除いても)20〜30%くらい。僕らの所に働くことにつまずいた大卒者が来ること自体、予想されていなかったと思うんですね」
そう説明するのは、10月31日に『大卒だって無職になる “はたらく”につまずく若者たち』(エンターブレイン)を上梓した、若者の就労支援団体『NPO法人「育て上げ」ネット』(東京都立川市)の工藤啓理事長。
同ネットに、大卒の肩書きを持った無業者が相談に訪れた数は、1000人を超えるという。当連載にも、以前記事で紹介した1年に300社落ち続けた男性を始め、メールで寄せられた体験談の中には、大卒や大学院を修了したような高学歴の人たちが数多く見受けられた。
「結局、働くというところまで見てもらえないで、面接で落ちるんですよ。名もない大学卒だと、紙の段階でふるいにかけられる。人物本位とうたっていながら、人物に会うまでに戦力になるかどうかのハードルがあって、そこを超えられずに働く場まで行けない人たちが結構いるんです」(工藤さん)
同書によれば、警察庁は、2011年には、大学生ら150人が、就職活動の悩みを理由に自殺したと発表。また、文部科学省の学校基本調査速報は、大卒者で就職も進学も“できなかった”若者は約8万6000人に上ると推計しているという。
国立大卒業後4年間引きこもりながら
接客業の職場に就いた男性
本書では、大卒の学歴を持ちながらも無職の状態となり、何とかしなければならないと、同ネットの活動にアクセスしてきて、再び就職していった6人の事例が紹介されている。
有名国立大学を順調に卒業したHさんは、卒業後、就職することなく、4年間、ほとんどの時間を自宅で引きこもった。親と子の会話も、一言か二言くらいしかない毎日が続く。
そんなアウトリーチを希望する母親からの依頼を受けた同ネットのスタッフは、H君が「家に来てくれるなら、説明は聞いてみたい」と話していると聞いて、自宅を訪問しようとすると、訪問時間の前に、本人のほうから自ら事務所にやって来た。
しかし、スタッフが話しかけても、まったく反応なし。その後も、面接には来るものの、そのたびに遅刻続きだった。
ある日のこと、スタッフが話しかけ続けていると、Hさんはこう口を開いた。
「いまの産業構造のゆがみについて、どう思いますか?」
きょとんと沈黙したスタッフに、Hさんは立場が逆転したかのように、日本の現状を話し続けた。
以来、面接のたびに遅刻はするものの、毎回、“どこにも進まない話”が繰り返された。
そこで、スタッフがこう口をはさむ。
「でも、僕が知っている町工場のおじさんは、こんなことを言ってましたよ」
こうした現場の肉声を語ったことをきっかけに、少しずつ会話が成立するようになったという。
その後、Hさんは、同ネットの集団プログラムに参加するようになった。そして、自ら動きだし、ハローワークに行って、なんと接客業の職場に就職してしまったそうだ。
この間、Hさんは、大学時代からどのような就職活動をしたのか、まったく語らなかった。彼がなぜ引きこもったのか、いまもわからない。
自分たちが“引きこもり”状態になることに、他人が納得できる理由などないし、それは誰にもわからないことだ。
必死でやっても“仕事ができない”
そんな男性も司法書士事務所へ就職
やはり有名国立大を卒業したWさんは、勤めていた外資系医療メーカーの営業職を退職。半年後に、同ネットを訪ねてきた。
「僕は、大学までの勉強も、仕事も、必死でやってきたんです。なのに、どうしてダメなんだろう」
Wさんは、人混みが苦手で、満員電車に乗ると、めまいがした。しかし、一度も遅刻しなかった。お洒落で、受け答えもハッキリできる。それでも「仕事ができない」「怠けている」と評価されて、どうしたらいいのかわかなくなってしまったという。
そこで、Wさんは同ネットの集団プログラムに参加。スタッフは、Wさんが見かけの印象とは随分違うことに気づかされた。
頼まれたことを次々に忘れる。2つ以上のことが同時にできない。自分では優先順位が決められず、思いつきで仕事を進めてしまう。その結果、中途半端なものがどんどん積み残され、その分量と時間を見て、パニックを起こしてしまうのだ。
スタッフの勧めで適性検査を受けてみると、空間認知が苦手なことが客観的にわかった。
やりたいことの見つからなかったWさんは、スタッフと職業選択についての話し合いを始め、得意なところを1つ1つ整理しいった結果、司法書士の事務所で働くことが決まった。
「仕事の向き不向きではなく、個人の特性を把握できさえすれば、仕事のマッチングはできてしまうんです。集団の中で、何回かできないことを確認していかないと、次に進んでいきません」
ガツガツした就活の波に乗れない
真面目で友人の少ない若者が陥りやすい
大卒で無職になる人たちには、どのような共通項があるのか。工藤氏は、大きなパターンとして、こう挙げる。
「1つは、大学時代、就活の波に乗れなかった人たち。よくあるのは、幕張などで5000人くらいが集まる就活フェアです。駅で見た瞬間、皆が黒いスーツ、黒い髪の集団がいて、面接のブースでは、皆が一斉に手を挙げて、ガツガツ自己アピール。そういう異様な空気に乗っかれなくて、もうダメだと思って自ら降りてしまう。あるいは、何十社受けても決まらない人、内定決まっても“第23希望だから行かない”などという人がいます」
接客業に就いたHさんは、やったことがないから自分には向いていないと思い込んでいたタイプだったようだ。やってみたら楽しくて弾けてしまうことは、よくあることだという。
若い人たちの接客などの様子を見ていて、プロとしていかがなものかと思うときでも、この子はそっち系かなという背景がわかると、つい優しく接してしまうことがある。
では、性格的な特徴については、どのような共通項があるのか。
「真面目なタイプで、友人が少ないですね。結果として、情報が少なくなる。だから“皆で一緒に乗り切ろう”感もない。真面目であるがゆえにテクニカルなことを嫌う。就活自体、手段であって目的ではないというように割り切れないので、決まるための方法から、引けちゃうのです」(工藤氏)
親の世代からみれば、何で就職が決まらないのだろうと思えるような、いわゆる“いい子”が多いという。ただ1つ、時代が違うということを除けば…。
「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)のように、他者がいないと自分は見えない。真面目に自分のことを考えて突き詰めていくと、主観になっていく。客観的な助言をもらえるよう、他者に見てもらえる環境をつくることが大事なのではないでしょうか」(工藤氏)
同書は、過去の体験を聞き出すよりも、自分たちの未来がどうすれば社会とつながっていけるのか、皆で一緒になって考えていくことの大切さを改めて教えてくれる。
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