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晩婚・未婚化の流れ 小倉千加子さんに聞く
経済的支え 探り合う 働く環境にゆとりを
単身者が集中する「単塊(たんかい)世代」が形成された
結婚を機に引退し家庭に入った山口百恵と、結婚後も歌手活動を続ける松田聖子。2人のアイドルを比べ、心理学者の小倉千加子さんが「松田聖子論」を著したのは1989年のことだ。女性のライフスタイルの変化を如実に示す現象として注目した。
あれから23年。2人の歌手は若くして結婚したものの、世間一般の男女は晩婚・未婚化の流れに身を任せているようだ。2010年の国勢調査によれば、30〜34歳の未婚率は男性で約47%、女性で同35%。20年前と比較して男性で14ポイント強、女性は21ポイント近く上昇した。結婚を先送りする心の内はどのようなものか。
「未婚女性たちがみんな話すのは『適当な人』がいないから結婚をしない、です。適当な人とはどんな人か、詳しく尋ねると3要素に集約される。第1は経済力がある。年収は自分の2倍、まあ600万円は欲しいと。自分が仕事をやめて専業主婦になっても暮らせるだけの稼ぎのある男性です。第2は価値観が合うこと。例えばカラオケで演歌を歌われては困ってしまうといったことです。第3は家事を進んでやってくれる」
「今の世の中、この3要素を満たす男性は少数派でしょう。小さなパイに多くの女性が殺到する。当然、倍率が高すぎて普通の人の願いはかなわない。ならば高望みせず、他の男性との出会いの場にどんどん顔を出す策に転じればいい。ところが『そこまでして結婚しようとは思わない』とくる。いつか適当な人と自然な出会いがあるだろうと、待ちの姿勢でいる。私に言わせれば妄想に近い」
「こうした傾向を痛感したのは実は厚生白書(98年版)の執筆に関わったからです。その一環で関東・関西の未婚女性数十人に面接調査をした。階層でいえば中流層です。彼女らは現在、30代から40代になる。おそらく大半はまだ結婚していない。まさに思春期・学生時代にバブル経済を体験した世代で、この辺から単身者がぐんと増え、大きなかたまりができた。いわば『単塊の世代』です。職場結婚も減って、一人ひとりが孤立していましたね」
男が女の経済力をあてにする時代へ変わった
バブル崩壊や90年代の「失われた10年」。さらに続く2008年のリーマン・ショック。社会の格差は広がり、定職に就けない若者が増えた。暗さが漂う。結婚観にも反映し、夢よりも現実を直視するようになってきた。
「そうですね。『失われた10年』に思春期を過ごした現在20代の人たちの選択は手堅い。特に女性に顕著で、資格を取って保育士や看護師になり、ずっと働き続ける。結婚にもアワのような夢は抱かない。相手も自分と同程度の年収があればいい。2人で働いて、子育ては保育所に頼む。子育ての社会化が当初から組み込まれた結婚です」
「しかし男性側には不安定さがあります。野心はあっても、就労意欲やスキルがない人が目立つ。初めから就職をあきらめている層もある。大学や専門学校などを出ても、社会に組み込まれるのは嫌だとミュージシャンやアート系の仕事へと夢を追う。だれかがいつか自分を発見してくれるだろうと。成功者はほんの一握りです。他の多数はどうするか。手堅い仕事をしている女性に養ってもらう形で結婚し、生きていく選択をするでしょう」
「私の観察では、男性が望む結婚相手の女性は4Kで表現できます。かわいい、家庭的、賢い、軽いです(軽いは結婚式でお姫様だっこがしやすいから)。今はそれに加えて5つ目のK、経済力が加わります。男性が女性に対して経済力を求めるようになったのが最近の大きな変化です」
「激しい競争社会の中で、能力が追いつかない男性、精神力の弱い男性は淘汰されているのが現状だ。そうした人たちが生きて活躍できる雇用の場、受け皿が今の社会には用意されていない。結局、女性に経済的に支えてもらわざるを得なくなる。結婚できなければ絶望感と怒りは募る。社会の衰退につながります」
働く女性は子育て戦争で疲弊感を募らせている
小倉さんは幼稚園と保育所の機能を併せ持った「こども園」の園長をしている。故郷の大阪に昨春開設した。昔から実家が幼稚園だった。大学で教育心理学を専攻したのも将来、地元に戻る考えがあったからだ。朝から夜の7時まで子どもを預かり、駆けつける親の姿を毎日、見ている。
「結婚しても会社をやめず仕事と家事と子育てを懸命にしている母親は皆、疲れています。銀行に勤めるお母さんは睡眠時間を削っている。毎朝4時に起床。起きたら化粧をしてスーツを着て、それから朝ご飯をつくり、弁当の用意といいます。子どもを起こすのにまた一苦労。幼稚園に送り届けた後、通勤時間が1時間半。戦争みたいです」
「これでは子どもをたくさ産む余裕はない。国の少子化対策は保育所を増やすことに力を入れてきた。意味ある事業だが、少子化の歯止めになったのか、効果に疑問符も付く。最も大事なのは働く母親や父親に時間的なゆとりを与えること、つまり楽をさせることです。長時間勤務と1日12時間に及ぶ長時間保育がセットの社会はおかしい」
「女性は結婚後も仕事を手放さず、家庭生活との両立をと厚生労働省はずっと叫んでいる。でも、苦労して両立させるほどの意味ある仕事なのか、パートなどで働く女性は疑っている。単なる企業の利潤追求ではないかと。人びとの動物的な本能を感じる。行政の見方と一般女性の認識とに大きな開きがあります」
「若い女性に専業主婦願望が強いのも、結婚して働くのはしんどいという意識があるから。働き方を変えないと未婚化も止まりません」
(編集委員 須貝道雄)
おぐら・ちかこ 1952年大阪生まれ。心理学者・評論家。早稲田大学大学院心理学専攻博士課程修了。大阪成蹊女子短大、愛知淑徳大教授、聖心女子大非常勤講師を経て2011年から大阪府で認定こども園の園長。著書に「アイドル時代の神話」「セクシュアリティの心理学」「結婚の条件」「結婚の才能」
[日経新聞10月27日夕刊P.5]
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