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「弁当有料化」で表出した町民の分断と対立 「7000人の復興会議」に賭ける双葉町
http://www.asyura2.com/12/social9/msg/156.html
投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 25 日 04:16:14: cT5Wxjlo3Xe3.
 

「弁当有料化」で表出した町民の分断と対立

「7000人の復興会議」に賭ける双葉町

2012年10月25日(木)  藍原 寛子

 国が被災者に対して応急的な救助を行うことを定めた「災害救助法」二十三条は、救助の内容を定めている。

第二十三条  救助の種類は、次のとおりとする。
一  収容施設(応急仮設住宅を含む。)の供与
二  炊出しその他による食品の給与及び飲料水の供給
三  被服、寝具その他生活必需品の給与又は貸与
四  医療及び助産
五  災害にかかつた者の救出
六  災害にかかつた住宅の応急修理
七  生業に必要な資金、器具又は資料の給与又は貸与
八  学用品の給与
九  埋葬
十  前各号に規定するもののほか、政令で定めるもの

 災害の発生に伴い、避難所で被災者に対して無料で物資の提供や炊き出し、弁当などの配布が行われるのは、この条項が根拠になっている。被災した市町村が県に支給を求め、県が国に対して求償する。

 8月末、避難所での食品の提供について、県を通じて国に自ら打ち切りを申し出た町がある。埼玉県加須市の旧・騎西高校に避難所を開設している双葉町だ。ここは、東日本大震災の被災地の中で、現在も唯一残る避難所になっている。法は避難所の開設はあくまでも一時的なもので、炊き出しなどの食品提供とともに支援期間は原則7日としている(東日本大震災では弾力運用で2カ月に延長)が、その期間をはるかに越えた。それゆえに様々な問題が起きている。

「避難所にいる人ばかり手厚い援助を受けている」

 厚生労働省災害救助・救援対策室によると、避難所と炊き出しなど食事の提供はワンセットになっているが、食事だけ終了した一方で避難所は継続するというのは想定外の状況。ただし、いったん支援を終了した場合、新たな災害などの要因がない限り、食品提供を再開することは原則として難しいという。法律の枠に収まらない現状が続いているのだ。同室は「食品などの支給を終了するのは町長の判断。今後、自立に向けてどのように仮設住宅などに移行していくのかが課題だ」と話している。

 福島県避難者支援課は「有料化は、双葉町の意向が強かった。旧・騎西高校の避難所での生活が長引いており、仮設住宅や借上げ住宅で生活しているほかの町民とのバランスを考えると、有料化にせざるを得ないという申し出があった。県としては、避難所で反対者が多いとしたら、問題も出てくるので、打ち切って大丈夫なのかどうか確認した。避難住民の代表と話し合って、食事の提供の有料化が了承されたと聞いている。このようなことは極めて異例だが、そもそも、発災から1年半以上が過ぎてもまだ避難所が閉鎖できないことも異例だ」という。

 震災後、双葉町民はいったん福島県川俣町に避難。その後、役場と避難者がバスを連ねて県外に出て、埼玉県の「さいたまスーパーアリーナ」に移った。埼玉県との協議のうえ、町役場と1460人の避難住民が一緒に、加須市の旧・騎西高校に“集団避難”した。約7000人の町民の避難先は10月15日現在で福島県内に3658人、県外に3312人と、県内と県外にほぼ半分ずつが避難している。

 避難生活が長引くにつれて、避難所を出て民間の借り上げ住宅(みなし仮設)や仮設住宅に移る人が現れた。災害救助法では、避難所を出れば物資や食品、水などの支援は打ち切られる。町に対して、避難所を出た人などから「自分たちは避難所を出て、自力でアパートを探して避難生活を送っているのに、避難所にいる人ばかり手厚い援助を受けている。不公平だ」という苦情が寄せられるようになった。「福島県内だけでなく、全国に避難している町民からお叱りを受けた」(双葉町・大住宗重秘書広報課長)。

 そこで町は避難者の代表らと話をし、了解を得たうえで有料化に踏み切った。当然ながら、避難所内で生活する人は「有料化は困る」と強く反発した。

 福島県外の避難所、旧・騎西高校で暮らす町民と、福島県内で避難生活を送る町民の分断と対立。混迷する町行政。その厳しい一断面が「弁当問題」に現れた。

「バッシングは見るに堪えない」と避難所自治会長

 「本当にいろいろなことがありました。それでも少しずつ、前に進んでいかなければならない」。避難所の自治会長をしている堀川光男さん(56)は、今回の「弁当問題」について重い口を開いた。

 堀川さんは震災前、隣町・富岡町に本社があるタクシー会社で運転手をしていた。被災とともに会社が解散。87歳の高齢の母は妹夫婦が面倒を見てくれており、この春に息子2人が就職できたことから、いずれ借り上げ住宅で生活しようと検討している。そんな中で起きた、県内・県外避難住民の対立。

 「同じ町民同士、バッシングし合うのは、もう見るに堪えない、聞くに堪えない。県内の町民から『タダ飯食ってんだろう』って言われた人もいる。これから、埼玉で避難していた町民が福島に戻って、一緒に町の将来について考える時が来るはず。その時に、『お前はただ飯食ってきた』と、言葉のやり取りで傷つけ合うようなことはしたくない」と堀川さんは話す。

 町民が避難所の弁当の有料化を受け入れ、お互いの対立が少しは緩和されたとしても、避難所での生活は依然、厳しい状況が続いている。旧・騎西高校の校舎は5階建て。下層階に足の不自由な高齢者が住み、居住スペースは3階まで。現在でも教室を複数の世帯で共有している。衛生面にも問題が残る。避難者が一番気をつけているのがインフルエンザや食中毒などの集団感染。幼い子どもを持つ家庭は、借上げ住宅(みなし仮設)や仮設住宅などに移っていった。

 避難所でのトラブルもある。お互いの意見の違い、習慣の違いからの言い合いも起きる。先日は居住スペースでホットプレートを使って焼き肉をして、においが充満したことで摩擦が起きた。校舎内にある調理室で簡単な調理はできるようになったが、調理室があるのは4階。足の不自由なお年寄りは、上層階に足を運ぶのが難しく、結局弁当を自費で購入している。学校の周辺にはスーパーはなく、最も近いコンビニに行くにも歩いて10分ほど。足の不自由な高齢者はもっと時間がかかるだろう。

 有料になった弁当は1日3食で1100円。避難所の中からは「6人家族でまともに1日3食頼んだら、月20万円近くになる。毎回は頼まない」という声や、「基礎年金のお年寄りには大きな負担」「弁当やパンばかりでは栄養が偏る」などの声も。

 町によると避難しているのは70歳以上が大半。ボランティアや社会福祉協議会による体操や歌の会も頻繁に開かれており、多くの高齢者が参加している。いざという時、すぐ隣に役場があり、同じ高齢者と見守りあって過ごせる安心感。それは高齢者であるがゆえに、出られない、出たくないという状況もある。高齢者の中には、戦後の食糧難を体験している人などもいて、我慢の時代を生き抜いてきた強さや、「クヨクヨしない。憂えない」というような辛抱強さを感じさせる人もいる。

 「まるで高齢者のデイサービス施設のようになってしまったなあ」。そう話す人もいた。

「行くところがない人が仮設に来た感じ」

 「ここに来たのは昨年の10月1日。少しは落ち着くかなと思ったけれど、全然落ち着かない。正直、こんな環境とは思わなかった」。そう話すのは郡山市日和田地区に建設された双葉町の仮設住宅で暮らす舘林敏正さん(59)。舘林さんは妻が病気のため、仮設住宅に早期入居を希望し、実現したが、この地区の仮設住宅の生活環境は予想外に悪かったという。

 「春から夏になると、隣接する浄化センターから異臭がする。一度見学させてもらったが、放射性物質に汚染されているということで運び出せない汚泥が積まれたままになっていた。放射性物質と悪臭。それだけでなく、一番近い商店まで2・5キロで、歩いて買い物には行けない。高齢者や子どものいる家庭が入居を敬遠するのも当然だ」。不法侵入者が空き部屋に入っているのが発見され、逮捕される事件も起きた。

 この地区には122戸の仮設住宅が建設されているが、住宅周辺はがらんとして人気がない。入居しているのはわずか1割の12戸。仮設住宅はガラガラに空いているのに、旧・騎西高校から転入してくる見込みはない。舘林さんは「町は避難所から出たい人にアンケートを取って仮設住宅を建設したというが、実際には行くところがない人が来たという感じ。私自身、自力で借り上げ住宅を探したが、なかなか見つからず、それで仮設に決めた。仮設に居ても、避難所生活の延長のようだ」と舘林さん。

 入居者が安心した生活を迎えられるのはいつのことだろうか。

 井戸川克隆・双葉町長は10月5日、福島県いわき市役所で渡辺敬夫市長と会談し、役場機能をいわき市に移転する方針が了解されたことを発表した。長引く避難生活に伴い、被災した近隣の町村が、すぐには本来の町に戻らずに、いったんは別の自治体に移る「仮の町」や「セカンドタウン」といった構想について議論し始めている。双葉町はまだそういった議論は始まっていないが、いわき市には1377人の双葉町住民が避難し、福島県内で最多になっている。
 
 「国が住民の意思に関係なく避難指示を出しておきながら、戻るのは町が判断しろというのだが、放射能とか健康影響が分からないなかで判断はできない」と双葉町の大住秘書広報課長。被災している双葉郡8町村では、帰還した自治体もあれば、仮の町を想定して5年は戻らないという自治体もあるなど、対応が分かれている。

 長引く避難生活で、住民の間にも住まいの点でまた新たな問題が起きている。それは県外避難者が民間借上げ住宅(みなし仮設)を借り換えすると、法による支援(自治体による家賃の支払い)が打ち切られる問題だ。

 具体的には、発災直後は家族が複数の家に分かれて避難していたが、その後広い家を借りて同居しようということになると、借り換えた新たな広い家は災害救助法でいうみなし仮設から外れ、自治体による家賃が支給されない。同法ではみなし仮設は原則1回のみとしているためだ。福島県は次のように説明する。

 「会津若松などから、地元に近い浜通りに戻るときや、県外から県内に戻るときは特例として認めているが、それ以外は難しい。国に対しては柔軟対応を認めてくれと要望しているが、それに対して国は、『東京電力からの賠償金で個別に対応してくれ』と言っており、見通しは厳しい」

県内避難者のクレームの背景


いわき市で開かれた「7000人の復興会議」(10月14日)
 10月14日の午後、いわき市で双葉町民が今後のまちづくりについて意見交換するワークショップ「双葉町民参加の7000人の復興会議」が開かれた。同会議は福島市、東京都、埼玉県加須市騎西、新潟県柏崎市など、町民が避難している地域で開催してきた。町民であれば誰でも参加できる会議だが、この日参加したのは約30人。準備された席の約半分が空席になった。

 その席上でも、参加者から現在の仮設住宅や借上げ住宅での避難生活の課題や不満が噴出した。

「仮設と借り上げの人で差が大きい。支援物資がこない」
「避難生活の平等化を早くやるべきだ」
「いつまでこの生活を続けなければならないのか」

 その意見の内容は「双葉町・町民参加の復興まちづくり計画策定『7000人の復興会議』」のウェブサイトにもアップされている。

 出席した町民からは「私たちだって自分で借上げ住宅を探して引っ越したり、慣れない生活でも頑張っている。避難所にいる人が『支給された弁当がまずい』なんてぜいたくだ」という意見があがると、「やめましょうよ、そんなことをいうと自分がみじめになる」といさめる人も。避難所の弁当有料化に対するクレームは、住民の不公平感に現れている。

 会議の中では、「町長と話をしたかった」「町長がなぜ来ないのか」「町長の意見を聞きたい」など、井戸川町長に対する不満も寄せられた。県外に役場機能を移転した双葉町。一部で取り残された気持ちを抱く県内の避難町民。今年に入り、6月町議会と9月町議会で2度にわたり町長の不信任決議案が提出された。町役場の機能の県内移転が進まないことなどが提出の理由だ。結果はいずれも否決された。町が役場機能をいわき市に移転すること、いわき市からも了解が得られたことを発表したのは、その後の10月5日だ。

 弁当問題を巡る町民の苦情の背景には、行政の対応を巡る不満や、長引く避難生活で現実的に起きている問題の解決が進まないことも背景にあると考えられる。

 この日の議論では、「双葉町の良さ」について意見交換する場も設けられた。それまで厳しい意見が続いていたグループでも、震災前の様子について「事件がなくて平和な町だった。家にカギを掛けなくても良かった」「毎日グランドゴルフができ、コミュニケーション、ストレス解消、運動不足解消になっていてよかった」という声も。会議の終盤には、双葉町を懐かしむ声とともに、笑い声も起きる和やかさが漂った。

対立と分断を超えるボトムアップ型復興の試み

 9月から町民の避難先で開かれている「7000人の復興会議」は、町民7000人がお互いの課題を共有し、検討しながら、復興まちづくり計画を策定していくというユニークな取り組みを進めている。町民相互の対立や分断を超えて、それぞれのコミュニティーや多様性を認め合える地域づくりという町の挑戦でもある。

 復興会議は3つの方法で意見を集約している。1つは、この日のような地域会場へ参加して、自分の意見を述べる方法。もう1つは町民が個人でソーシャルネットワークシステムに登録し、小さなグループに分かれて専用のウェブサイトに意見や提案を投稿する方法。そして最後は、全町民に「みんなでまちづくり マイノート」を配布し、そこに意見を書き込む方法(12月下旬に回収)。町民の直接参加を通じて、ボトムアップ型の復興計画を目指している。会議の中では、小グループでじっくり双葉町の将来像なども話し合える場を設けている。

 「直接支援が必要であったり、苦情が寄せられたりしても、行政がそういった情報を集約できず、また意見を解析できないまま、時間が過ぎて現在に至っている。避難が広域にわたるため、東京などの大都市に避難した人は隣近所の人がどこに避難したのか分からない状態だった。何よりも自分の意見を言えるような場が大切で、町民が集まって双葉町を語り、これからの復興に向けて意見を出し合うことで、コミュニティーの復活も目指したい」。事務局の「みんなでまちづくりサポート本部」の善養寺幸子本部長(エコエナジーラボ代表取締役)は、意見集約の目的をこう説明する。

 会議には主に高齢者が参加し、インターネットのウェブサイトには若年層を中心に意見投稿があるという。会議での発言内容も、直接の書き込みも、すべての意見を即時にウェブサイトにアップする。意見に対して町民がさらに意見を述べる。意見の内容を解析して復興委員会が計画に反映することになっている。

 10月14日のいわき市の会議では冒頭、「コンサルタントにいくら払っているんだ。どこから予算が出ているんだ」という意見が町民から出た。避難住民への支援が実感されないなか、これも偽らざる住民の意見の1つである。

 「今の大きな課題は、政策システムと復興をどうデザインしていくか。復興計画を作っても、実行の仕方が分からないという問題にはまってしまう危険性もある。住民参加がボトムアップで意見を集約していくことで、やりたい人、実行できる人をクローズアップさせ、人々を情報でつないでいくことができる。だから予定よりも人数が少なくても大丈夫。単に『何をやってくれるんだ』『やってくれないから不満だ』と苦情を言うだけでは問題は解決しない。小さいコミュニティーでも、何が足りないか、何がほしいかを明確にして、自分たちが望む復興のあり方を模索し、そしてその結果として実現した町には、幸せな地域環境があるはず」と、善養寺本部長は話す。

双葉町ならではの「ものがたり」を描けるか

 住民の希望を積み上げ、ボトムアップ型の復興として実現していった例は、1989年のアメリカ西海岸のサンフランシスコ大地震後の復興事業「ものがたり復興」が有名だ。サンタクルーズ市が復興に向けて市を挙げて取り組んだ「ビジョン・サンタクルーズ(=ものがたり復興)」。300回以上のワークショップを公開で開催し、人々のつながりを復活させ、復興までのものがたりを描き、担い手を見つけ出して実現した。日本でも室崎益輝・日本災害復興学会長(関西学院大災害復興制度研究所所長)を委員長とする研究グループの同事業の研究などを参考にして、新潟県柏崎市の柏崎えんま通りが取り組んだ例がある。

 埼玉県の騎西高校を訪ね、そして、いわき市で開かれた「7000人の復興会議」を傍聴してみて、避難している町民が心の底から双葉町を懐かしみ、復興を求めているのを感じた。長引く避難生活の中で、町民が対話し、コミュニティーを復活させていく取り組みとなるのだろうか。分断と対立を超えて双葉町民が意見を出し合い、双葉町ならではの「ものがたり」を描いていけるかどうかが、今後の双葉町の未来のカギを握っている。


藍原 寛子(あいはら・ひろこ)

フリーランスの医療ジャーナリスト。福島県福島市生まれ。福島民友新聞社で取材記者兼デスクをした後、国会議員公設秘書を経て、現在、取材活動をしている。米国マイアミ大学メディカルスクール客員研究員として米国の移植医療を学んだ後、フィリピン大学哲学科客員研究員、アテネオ・デ・マニラ大学フィリピン文化研究所客員研究員として、フィリピンの臓器売買のブローケージシステムを調査した。現在は福島を拠点に、東日本大震災を取材、報道している。フルブライター、東京大学医療政策人材養成講座4期生、日本医学ジャーナリスト協会員。


フクシマの視点

東日本大震災は、多数の人命を奪い、社会資本、自然環境を破壊したが、同時に市民社会、環境、教育、経済、政治や行政など、各分野に巨大なパラダイム・シフトを起こしている。我が国はどのような社会を志向していこうとしているのか。また志向していくべきなのか。「原発震災」で、社会の姿が大きく変わりつつある福島、震災のフロントラインで生きる人々の姿から、私たちの社会のありようをグローカル(グローバル+ローカル)な視点で考える。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20121022/238431/?ST=print  

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