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http://diamond.jp/articles/-/19104
放射能被害の陰で深刻化する
被災地のアスベスト飛散問題
東日本大震災の発生から1年余りが経過し、被災地では復旧作業が進められている。現地では、放射能被害ばかりがクローズアップされているが、その陰で深刻な問題が急浮上している。被災した建物に吹き付けられているアスベストが解体工事に伴って飛散。人体に甚大な影響を及ぼしかねないというのである。
2011年11月28日午後、仙台市環境対策課に1本の電話が入った。電話の主は市の衛生研究所だ。
「明らかに高い濃度が出ている。不適正な作業をしているはず」
これが仙台市を揺るがしたアスベスト飛散事故の始まりだった。
事故が起きたのは、東日本大震災で被災した旧ホテルサンルート仙台の解体工事に伴うアスベスト除去工事だ。
ビルは9階建てで、すべての階の鉄骨にアスベストが吹き付けてあった。市が立ち入り検査した際に濃度を測定したところ、異常な濃度のアスベストを検出した。電話はその一報を伝えるものだ。
市の発表によれば、発がん性の高いアモサイト(茶石綿)が建物の敷地境界で1リットル当たり最大360本(電子顕微鏡で測定)という異常な濃度で検出された。住宅地におけるアスベスト濃度の全国平均が10年度、1リットル当たり0.08本だから、実に4500倍に達する異常値である。
現場は仙台駅近くのオフィス街で、ひっきりなしに歩行者が行き交う。そんな場所で「聞いたこともない高濃度」と市の担当者でさえ認めるとんでもないアスベスト飛散事故が起きたのだ。しかも飛散は、2週間以上も続いていた可能性があるという。
アスベストの調査や分析に詳しいNPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏はこう語る。
「敷地境界では聞いたことがないほどの濃度。長い時間その場にいたら悪性中皮腫(アスベストの吸入によって起こる特殊ながん)の発症リスクが明らかに上昇する」
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外山氏の試算によれば、昼間だけ(1日8時間)1ヵ月間、暴露したとすると、100万人に25人が中皮腫を発症するとの結果だった。現場では半月以上にわたって高濃度だった可能性があるため、少なくとも100万人に12.5人の発症リスクとなる。
もともと中皮腫は100万人に1人発症するかどうかの珍しい病気。つまり、この現場の暴露だけで中皮腫の発症リスクが12.5倍に増える可能性があるのだ。
工事を担当した東洋環境開発(仙台市)は「市に説明した。市に聞いてくれ」と言うばかりだが、難しい工事のため起こったやむを得ない事故などでは決してない。
市は、「問題だったのは(アスベストが飛散しないよう)密閉養生している以外の場所で、9階から1階まで床に穴を開けて、そこから廃棄物を落としていたこと。床の穴は鉄骨に沿って開けられており、廃棄物が鉄骨に吹き付けられたアスベストに触れて飛散した」と説明する。
アスベスト除去の専門業者はこう解説する。
「アスベストを吹き付けた鉄骨があるところに物を投げ落としたら、飛散するなんて当たり前。飛散を承知でやった手抜き工事としか思えません」
それほどずさんな工事だった。
外山氏は、「専門家による委員会を設置し、住民の暴露状況について検証すべき」と訴える。
仙台市が発注した工事でも
12日間にわたり飛散し放題
震災がれきを広域処理するとの政府方針によって、被災地の放射能の問題ばかりが注目されている。だが、実はこうした被災建物の解体工事に伴うアスベスト問題が深刻な状況に陥っている。
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やはり震災で被災した協同組合仙台軽印刷センターの解体工事で起きたアスベスト飛散事故は、「ある意味もっと深刻」と前出の除去業者は言う。仙台市が発注した工事だったからだ。
1月25日、仙台市内のがれき置き場で測定をしていた環境省の委託業者から、「鉄骨に吹き付けがある」と連絡が入ったのが発端。翌日にはアスベストと判明し、出所を調べたところ印刷センターだった。工事を停止させた時点で、建物の半分以上が解体済みだった。
あらためて市環境対策課が調べたところ、3階建ての建物のうち、1階部分にはアスベストが含有していなかったが、2〜3階の吹き付けには茶石綿が使用されていた。
分析業者や除去業者の間では、階層ごとに吹き付け材が違うことなど基本の“キ”で、「各階の調査をすることは常識」だ。
ところが、発注者である震災復興対策室は「階ごとに吹き付けが異なる場合があることを知らなかった」と明かす。そのため、「事前調査はしたが、1階の吹き付けの分析だけでアスベストなしと判断」(環境対策課)、分析業者にも階ごとの調査を求めていなかった。
その結果、アスベストが飛散し放題の状態が12日間続いたのだ。
予算規模も人員の充実度も突出している東北最大の都市、仙台市ですらこんなありさまなのだから、「被災地の他の地域では、吹き付けアスベストでさえきちんと除去されないケースが無数にあるはず」と前出の除去業者は指摘する。
にもかかわらず、「監視する行政には、解体工事すべてを見るような人員はない」(関係者)ような状況で、違法な工事が野放しということも少なくない。
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「特にひどいのはスレートなど(労働安全衛生法の石綿則で)レベル3の石綿含有成形板の扱いです。破砕しないよう手ばらしすることが決まっていますが、現実には守られていないことが多い。解体では手ばらししても、自治体の仮置き場で袋に入れて持ってくるよう言われ、わざわざ後で(袋に入るよう)破砕してしまうこともある」(外山氏)
環境省なども問題を放置
「すでに手遅れ」の声も
石綿含有成形板の扱いの悪さについては、環境省と厚生労働省の合同パトロールでも一部確認されており、パトロール後に被災県の担当者が「レベル3建材の解体状況があまりにもひどい。現実にどこまで、どう対応すべきヵ国で明確にしてほしい」と要望した。
ところが、両省とも形式的な回答しかせず、その直後に開催された被災地のアスベスト対策を検討する両省の合同会議では、そうした要望があったという報告すらされなかった。
県の担当者はこう明かす。
「はっきり言って今回被災地のアスベスト対策は完全に失敗しました。すでに手遅れの状況ですが、これから先の災害に備えるためにはいまから対応を始めなくてはまた同じことが起こります。そういう気持ちで言ったのですが、検討もされず残念です」
現在、環境省はアスベストの飛散防止を義務づけた大気汚染防止法の改正に向けた専門部会を設置する方針。ところが、NPO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」事務局長の永倉冬史氏は、検討前の現時点ですでに批判の声を上げている。
「今回検討する法改正は、すでに実施されているアスベスト測定の義務化や性能に問題のある測定器の導入など、本質からはずれていたり、利権づくりとしか思えないものばかり。本当に必要なのは監視強化と厳罰化、きちんとした業者を育成・認定する制度です」
もはや国は、被災地を見捨てたのではないか。被災県の切実な声を無視して、本質からはずれた法改正に狂奔する姿からはそうとしか思えない。
(ジャーナリスト・井部正之)
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