http://www.asyura2.com/12/senkyo142/msg/906.html
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件名:米国 国家情報会議 「グローバル・トレンド2030:未来の姿」
日時:2012年12月版
出典:http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/016.html
原典:http://www.dni.gov/index.php/about/organization/national-intelligence-council-global-trends
//Memo
*国家情報会議(NIC: National Intelligence Council)とは、情報共同体からの情報に基づき、アメリカ合衆国大統領のために中・長期的予測を行う諮問機関である。15〜20年間に渡る世界の政治情勢の予測の外、同機関は、国家情報評価(NIE: National Intelligence Estimates)と称されるより短期的な評価を大統領のために作成している。NIEは、大統領と政府閣僚が受領する。NIEの作成には、諜報機関だけではなく、例えば大学教授等、民間人も参加している。NICは、最近まで中央情報長官(DCI: Director of Central Intelligence)の機構に含まれていたため、その作成物はCIAがコントロールしていた。http://ja.wikipedia.org/wiki/国家情報会議
*NIC Global Trends 2015 (Published: 2000)
http://www.dni.gov/files/documents/Global%20Trends_2015%20Report.pdf
*NIC Global Trends 2020 (Published: 2004)
http://www.dni.gov/files/documents/Global%20Trends_Mapping%20the%20Global%20Future%202020%20Project.pdf
*NIC Global Trends 2025 (Published: 2008)
http://www.dni.gov/files/documents/Newsroom/Reports%20and%20Pubs/2025_Global_Trends_Final_Report.pdf
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要 旨 (Executive Summary)
グローバルトレンド2030:概要
--大潮流--
■個人のパワーの増大
個人のパワーは、貧困の減少、世界的な中間層の増大、教育の大幅な向上、新たな通信手段や製造技術の浸透、ヘルスケアの進展で助長される。
■力の拡散
覇権国家は存在しないであろう。世界は多極化し、ネットワークや連合に移行していく。
■人口構造
人口の不安定の弧は、狭まる。“高齢化”の進む国では経済成長が低下する。世界の人口の60%が都市部に居住し、移民が増加する。
■食料、水、エネルギーの結びつき
これらの資源の需要は、人口増加によって大きく増大する。1つの生産品の問題はその他の需要と供給に密接につながっている。
--ゲームチェンジャー--
■危機を引き起こしやすい世界経済
経済的な利益が異なるプレーヤー間の不安定さや不均衡さは崩壊を招くのか?あるいは進む多極化が世界経済秩序を回復させるのか?
■ガバナンスギャップ
政府や機関は圧倒されるよりも迅速に変化を利用できるのか?
紛争増大の可能性 急激な変化や権力の移行は、国内紛争及び国家間の紛争を増加させるのか?
■地域的な安定性に関する
より幅広い見通し 中東や南アジアの地域的安定は、十分となるかそれとも地球規模の不安定をもたらすのか?
■新テクノロジーの影響
テクノロジーの著しい進歩は、経済的な生産性を向上させ、人口増加や急速な都市化、気候変動によって引き起こされる問題を解決できるのか?
■米国の役割
米国は新たなパートナーと国際システムを再興させることができるのか?
--考え得る世界--
●立ち往生
考えうる最悪のシナリオであり、国家間の紛争は増加する。米国は内向きの姿勢となり、グローバル化は立ち往生する。
●連携
考えうる最良のシナリオであり、中国と米国が様々な問題の中で協力し、より広範囲の国際的な協力をけん引する。
●格差社会
不平等が爆発的に急増し、勝者と敗者が生まれる。国内の不平等は、社会的緊張をもたらす。完全に解放されることはないが、米国はもはや“世界の警察”ではなくなる。
●非国家の世界
新たなテクノロジーによって非国家アクターが、地球規模の課題へのリーダーシップを発揮する。
●新テクノロジーの影響
テクノロジーの著しい進歩は、経済的な生産性を向上させ、人口増加や急速な都市化、気候変動によって引き起こされる問題を解決できるのか?
2030年の世界は、現在のその姿からは劇的に変化する。2030年までには、いかなる国家も、米国、中国、その他の大国のいずれも覇権国家ではなくなるであろう。個人のパワーの増大、国家の連携、国家的なものから非公式に至るネットワークは、1750年代からの西側諸国の歴史的な繁栄の大転換、世界経済のアジア重視への回帰、国内外での新たな“民主化”の時代の先導といった強い影響を与える。我々は、個人のパワーの増大、国家の連携及びその他2つの大きな潮流が、2030年に向かうこの世界を形作るものと考えている。人口構造、特に急激な高齢化、水や食料資源の需要の増加は食糧難を引き起こすかもしれない。これらの流れはほぼ確実に生起するであろうし、すでに今日存在しているが、今後15―20年間にさらにその傾向は強まる。この大きな潮流を実証するのが“構造変化”であり、つまり世界がいかに“機能”していくかは、グローバル環境の主要な特性の大変化によって、に大きく影響するのである。
大潮流の予測は、2030年までの世界の変化を示すものであるが、世界は別の姿に大きく変わる可能性もある。我々は6つの主要なゲームチェンジャー、つまり世界経済、ガバナンス、紛争、不安定地域、テクノロジー、米国の役割に関する疑問が、2030年に我々が住むこの世界がいかに変化していくのかを決定する要素であると考えている。いくつかの潜在的な“Black Swan(黒鳥)(訳者注:めったに起こらないが大きな影響を与えるような大きな出来事)が大規模な崩壊をもたらすかもしれない。そのうち、中国の民主化の可能性とイランの改革を除けば、その変化はマイナスの影響を与える。
大潮流について我々が知っていること、大潮流とゲームチェンジャーとの考えうる相互作用に基づき、2030年の世界に続く、異なる4つの道筋を示し、将来像を描いた。ただしこれらの“未来の姿”は、不可避ではない。実際に、未来はすべてのシナリオにある要素から構成されているのである。
--大潮流と構造変化--
■大潮流1:個人のパワーの増大
個人のパワーの増大は、貧困の減少、世界的な中間層の増大、教育の大幅な向上、健康管理の改善に起因して、今後15−20年間に大幅に増加する。世界的な中間層の増大は、初めて、人口の大半が、貧困ではなくなるという構造変化をもたらし、世界中の多くの国々おいて、中間層が、社会や経済に関して重要な地位を占めるようになる。個人のパワーは、大潮流の中で最も重要である。それは世界経済の拡大、発展途上国の著しい成長、広範囲に普及する新たな通信手段や生産技術といった流れを作り、そして大きく影響を与えるものだからである。一方で、今後15−20年間の世界の課題を解決するための主要な事柄として、個々のイニシアティブに重きが置かれる可能性があると我々は見ている。また一方では、構造変化の中で、個人や小規模な団体が、致命的で破壊力のあるテクノロジー(特に精密攻撃能力、サイバー攻撃機器、生物テロ兵器)を入手する機会が増大し、かつては国家のみであった大規模な暴力に訴えることが可能となる。
■大潮流2:力の拡散
国家権力の拡散は、2030年までには大きな影響を与えることになるであろう。アジアは、グローバルパワーの観点で、GDP、人口、軍事支出、テクノロジー投資額等を合わせると北米、ヨーロッパをしのぐであろう。中国は、2030年までに数年を残して、アメリカを超え、おそらく単独で世界最大の経済大国となるであろう。構造変化の中では、世界経済の健全性は、旧西側諸国よりもむしろ、発展途上国がいかに良好な状態であるかによる。中国に加え、インド、ブラジル、その他の地域として、カンボジア、インドネシア、ナイジェリア、南アフリカ、トルコなどは、特に世界経済において重要な地域となる。同時にヨーロッパ、日本、ロシアの経済は相対的に緩やかに低下していくものとみられる。
国家権力の移行は、その特性上主要な部分まで変容させるような影を投げかけるかもしれない。通信技術の発達により、国家は多面化し、無定形のネットワークが国家や国際的な活動に大きな影響を与えるであろう。国家におけるGDPや人口といった主要な要素は、ネットワークや多極化の中でその連携方法について学ぶことなしには、その能力を活かすことができない。
■大潮流3:人口構造
2030年には、成長を続ける世界人口が83億人近くにまで達する(2012年の71億人から)と考えられており、4つの人口傾向が基本的に形成されるものの、多くの国々の経済や政治及び国際関係に決定的な影響を及ぼすものではない。これらの傾向の第1は高齢化、つまり西側諸国及び多くの発展途上国の両方の構造変化である。第2に若年層の著しい人数の減少、第3に国境を越えた移民問題、第4に都市化が進むことによる構造変化であり、それらは、経済成長を促進させる一方で、食料や水資源に関する新たな緊張をもたらす構造変化である。高齢化した国々は、自国の生活水準を維持するための困難な戦いに直面することになる。スキルの有無を問わずして労働力に対する需要が移民に拍車をかける。新興国の急激な都市化により、都市部における住宅、事業所、交通機関の建設は、今後40年間に、世界史上これまでに建設されたすべての建築物に匹敵する規模となる可能性がある。
■大潮流4: 食料、水、エネルギーの結びつき
食料、水、エネルギーの需要は、世界人口の増大や中間層による消費パターンの拡大によってそれぞれ約35%、40%、50%増加する。気候変動は、これら必須の資源確保に更に暗い様相を示している。気候変動分析では、現在の厳しい気候状況により、湿地地帯では、降雨量が増加し、中東、北アフリカ、中央アジア西部、南ヨーロッパ、南アフリカ、アメリカ南西部などの乾燥地帯では、降水量が減少する。
世界は、必ずしも食糧難に向かいつつあるというわけではないが、政治家や企業家は、そのような将来を予測し、予防措置を取らねばならない。多くの国々は、外部からの巨額の支援なしに、食糧難や水不足を回避できないであろう。他の需要と供給に影響を与えることなしに、一つの生産品の問題を解決することはできない。農業は、水源や化学肥料の獲得に大きく依存している。水力は、地域によっては重要なエネルギー源であるが、一方新エネルギー源、例えばバイオ燃料は、食料不足を引き起こすと懸念されている。マイナス面はプラス面を差し引きゼロにする可能性もある。アフリカの農産物の生産性は、食料不足を回避するために、大変革が必要である。1人あたりの生産性が著しく向上したアジアや南米とは異なり、アフリカは、最近1970年代のレベルに戻ってしまった。構造変化を迎えるであろうアメリカは、エネルギー面で自立する可能性がある。米国は、世界第1位の天然ガスの生産国の地位を再び得たが、水圧破砕技術によって可採埋蔵量は、30年分から100年分に延長された。“水圧破砕”による掘削技術を従来は開発困難であった油田に適用することにより、原油生産も増え、米国の貿易収支を改善し、経済全体を上向きにした。しかしながら水圧破砕に伴う、特に水質汚染による環境破壊の議論は、そのような進歩の陰で進んでいない。
--現在と2030年の構造変化--
■世界的な中間層の増大
中間層を主張する人々は、今後15−20年間に、絶対数及び人口当たりの割合でもいずれの新興国においても著しく増加する。
■致命的で破壊力のあるテクノロジーの入手拡大
特に精密攻撃能力、サイバー攻撃機器、バイオテロ兵器といった戦争に使用させる広範囲のテクノロジーの入手がより容易になる。個人や小規模グループが、かつては国家のみが実施していた大規模な暴力や破壊を行う能力を保持しようとする。
■東と南への経済力の明らかな変化
米国、ヨーロッパ、日本で56%を占めていた地球上の収入は、2030年までに半減する。2008年には、中国が米国を最大貯蓄国家として追い越し、2020年までには、新興国の市場の財政黒字が2倍になる。
■空前かつ拡大する高齢化
2012年には、日本とドイツだけが中間年齢が45歳を超えた成熟国家であったが、2030年までにほとんどのヨーロッパ、韓国、台湾がポスト成熟国家に分類される。移民は、よりグローバル化し、裕福な国家及び新興国は労働力不足に悩む。
■都市化
今日おおよそ50%の都市部の人口は、2030年に60%、49億人に達する。アフリカは徐々に都市化が加速し、アジアにとって代わる。都心部の中心は経済成長の80%をもたらすとみられ、近代化したテクノロジーやインフラ、希少資源の有効利用が促進される可能性がある。
■食料、水の圧力
食料の需要は、少なくとも2030年までには35%上昇し、水の需要は、40%上昇すると見積もられる。おおよそ世界の人口の半数が厳しい水事情に悩まされる。非常に脆弱なアフリカや中東の国家は、食料及び水不足の危険に脅かされているが、中国、インドも脆弱である。
■紛争増大の可能性
急激な変化や権力の移行は、国内紛争及び国家間の紛争を増加させるのか?
■米国のエネルギー依存
シェールガスは、米国の今後数十年間の国内需要と海外輸出を満たす十分な量になった。開発困難な油田からの生産量の増加は、米国の貿易赤字を減少させ、経済成長を加速させることになった。地球上では、800万バレルを超える埋蔵量が見込まれており、OPECは価格操作できなくなり、原油価格が崩壊し、石油輸出貿易にとって大きな悪影響を与える。
--ゲームチェンジャー--
■ゲームチェンジャー1:危機に陥りやすい世界経済
世界経済は、ほぼ確実に、2008年の金融危機で裏付けられたように、異なる国や地域の経済が著しく異なる速さで動くことにより特徴づけられていくであろう。地域によって対照的な経済のスピードは、国際的な不均衡や国家あるいは国際システムの緊張をもたらす。問題は、多極化や不安化の拡大が地球規模の分裂や崩壊をもたらすのか、あるいは複数の中心的成長国家が回復に向かってリードしていくのかどうかである。何人かの専門家らは、米国の相対的な衰退を、19世紀末に、唯一の支配的な経済勢力であった英国が多極化に落ち込んでいった事例と比較している。
2008年以前の経済成長率への回復と以前のような急速なグローバル化は、少なくとも今後10年間は、生起しそうにない。G-7の国家間では、非金融負債が1980年と比較して、GDPの300%の2倍に膨れ上がっている。歴史的な検証では、金融危機を含む不景気は、より深刻化し、また、回復にはその2倍の時間がかかるといわれている。主要な西側諸国は、アメリカ、オーストラリア、韓国を除けば、レバレッジ解消(負債の軽減)を開始したところである。
その他の大きな経済危機も、否定できない。マッキンリー・グローバル・インスティチュートは、手に負えないギリシャのユーロ圏からの撤退に与える影響の大きさが、リーマンブラザーズ倒産時の損害の8倍になると予測している。結果的にいかなる解決策を取ったとしても、あらゆる手段で、ユーロの安定化を推し進めなければならない。そうするためには最低数年、多くの専門家は10年間、回復するまでにかかるとみている。
1930年代の世界恐慌のような過去の経済危機では、多くの西側諸国の人口の年齢構造が比較的若く、戦後の経済ブームの間に人口ボーナスをもたらした。しかしながら、今後西側諸国にそのような人口ボーナスは期待できない。労働人口の減少を埋め合わせるため、生産性の向上によって望みどおりの経済成長をもたらさねばならない。米国は、今後10年間労働人口が増加するものと予測されているため、まだ有利な位置にあるが、ゆっくりながらも進む高齢化を相殺するために生産性を向上させる必要がある。鍵となるのは、テクノロジーが長期間の低迷を防止するような経済の生産性向上をもたらすのかどうかである。
既述のとおり、世界経済予測は、東と南の富に大きく依存することになる。新興国は、既に世界の経済成長率の50%以上及び世界の投資の40%をもたらしている。世界の投資の伸びへの貢献度は70%を超える。中国は現在米国の1.5倍出資している。世界銀行の標準的将来経済多極化モデルにおいて、中国は、経済成長が緩やかになるにもかかわらず、2025年までに世界の経済成長の3分の1を担い、ほかの追随を許さない。インフラ設備、住宅、消費財、新工場や設備といった市場の需要の拡大は、この40年間見られなかった多額の投資を生み出すであろう。貯蓄額は、長期金利上昇のプレッシャーからこのような増加とはならない。
新興国は、このような経済的な成長局面にあっても、その著しい成長を維持する努力を続けなければならないという新たな課題に直面する。中国は過去30年間、実質経済成長率は平均10%であるが、いくつかの民間機関は、2020年までにその経済成長率はたった5%の伸びとなってしまうと予測している。成長率の低下は、1人あたりの所得の伸びが下降する圧力となりうる。中国は中所得国の罠に陥るとの展望であり、1人あたりの所得が先進経済のそれと同レベルにまでは上昇しない。インドは同様に多くの問題を抱え、中国と同じ急成長に伴う罠に落ちる。地方と都市の格差が社会に生まれ、水などの資源が制約され、経済連鎖の中でその成長を維持しようと科学技術に対する投資が増大する。
■ゲームチェンジャー2:ガバナンスギャップ
今後15−20年の間にパワーが今日よりも更に拡散するにつれ、多様な国家や非国家アクター、都市のような準国家アクターの数が増大し、ガバナンスへの重要な役割を果たすようになる。国家を超えた問題を解決するプレーヤーが増加することは、価値観の不一致を生み、その意思決定をより複雑化する。先進国と新興国間のコンセンサスの欠如は、2030年の多国間のガバナンスが、よくて限定的なものであること示している。累積赤字は、分裂へと向かう流れを止めることはできないであろう。しかしながら、様々な発展によって、良し悪しにかかわらず、世界は別の方向に動くであろう。多極化の進行、地域主義の拡大、経済の低迷があっても、進歩は可能である。地球規模の問題への取組みが進展するかは、問題によって様々である。
ガバナンスギャップは、国内レベルで議論され、急激な政治的、社会的変化によって変動し続ける。過去20年間の健康、教育、所得における成長は、今後も持続すると予測されているが、もしこれらが進展しない場合には、新たなガバナンス構造へと動いていく。民主化への移行は、若年層が減少し、所得が増えるならば、安定的かつ長期的に行われる。現在約50か国が独裁政治と民主政治の中間といういびつな状況にあり、その大半がサブサハラアフリカ、東南アジア、中央アジア、中東、北アフリカに集中している。社会科学概念や現代史、例えばカラー革命やアラブの春は、年齢構造の成熟化や所得の向上、政治の自由化や民主化を支え、促進させるであろう。しかしながら、多くの国は、今後15−20年間民主化への複雑な過程をジグザグに進んでいく。独裁政治から民主政治への移行は、不安定さの中にあることが実証されている。
その他の国々は、国家の発展レベルが、ガバナンスよりも上回り、民主主義の負債に苦しむであろう。湾岸諸国や中国がこれらの部類に入ると思われ、例えば、中国は5年以内に一人あたりの購買力平価が1万5千ドルを超えるとみられており、これが民主化のきっかけになる場合が多いとされている数字である。中国の民主化は巨大な“波”となり、他の権威主義的な国家に影響を与える可能性がある。
新たな通信技術の拡大は、ガバナンスにとって両刃の剣となる。一方では、社会ネットワーキングが中東で我々がすでに見てきたように市民が共同し、政府に挑んでいくことを可能にさせる。その一方では、このような技術が、権威主義及び民主主義双方の政府に自らの市民を監視する計り知れない能力をもたらす。ITが可能とする個人やネットワークの一層の結びつきと伝統的な政治構造とがどのようにバランスをとるのかは未だ不透明である。我々の意思疎通や交流について、技術者と社会科学者は、異なる見解を示している。しかしながら両者ともが合意しているのは、IT使用の特性、つまり複数かつ同時進行であること、ほぼ即時的に反応すること、地理上の境界線を越える大規模組織、技術相互依存、これらが国際システムに頻発かつ断続的な変化をもたらすということである。
現在の国連安保理、世界銀行、IMFといった西側諸国中心の世界構造は、新たな経済プレーヤーのヒエラルキー変化に合わせるように、形を変えていくであろう。多くの二流の新興国は、少なくともその地域におけるリーダーとなることに成功するであろう。G-7やG-8ではなく、2008年の金融危機対処で活躍した拡大G-20のように、おそらくは、危機対応のために他の組織も新たな枠組みが作られるものと予測される。
■ゲームチェンジャー3:紛争増加の可能性
過去20年間の歴史的な傾向は、大規模な軍事衝突がほとんど見られなかったことを示している。さらに紛争が生起しても、民間人や軍人の死傷者数が以前のそれよりも大幅に減少したことである。多くの発展途上国の年齢階層構造の成熟は、国内紛争が継続して減少することを示す。我々は、国家間の紛争に反対し、行動を制御する機能が強く残ると考えているが、期待しすぎてはならない。国内紛争生起の回数減少やその烈度の低下に関する予測があっても、国家間紛争の生起の可能性が残ることに注意しておかねばならない。
国内紛争は、政治的な不調和、若年少数エスニックのグループを含んだ全体的人口が成熟した国々で徐々に増加していく。トルコのクルド人、レバノンのシーア派、タイ南部のパッターニイスラム教徒などがその例である。先を見れば、サブサハラアフリカでも人口は全体的に、エスニックグループや少数民族の数がより若年層に多く存在するものとみられることから、いくつかの国が成熟後も、国内紛争生起の可能性が高い。特にサブサハラ、中国、インドを含む南アジアや東アジアは、水や耕作地といった天然資源が不十分であり、若年男性の数にばらつきがあり、同様に国内紛争生起の可能性がある。アフガニスタン、バングラデシュ、パキスタン、ソマリアも政権が不安定である。
それは不可避ではないが、国際システムの変化に起因する国家間の紛争のリスクが高まっている。冷戦後の均衡の土台となったものがシフトし始めている。今後15−20年間は、米国はある程度まで、世界秩序の、その組織的な守護者にして保証人の役割を果たし続けるであろう。米国の意思が弱まるか、あるいは世界の安全保障を提供する役目を果たすほどの能力がなくなることは、特にアジアや中東の不安定化にとっての鍵となる。現在の協力体制を形作っている国際システムが崩壊し、もはや主要な世界のプレーヤーにとっては利点とみなされなくなれば、競争の激化や国家間戦争のリスクを高める。しかしながらそのよう紛争が生起したとしても、すべての主要国が関係するような世界大戦には、まずならないであろう。
3つの異なる種類のリスクが国家間の紛争を生起させる機会を増大させる。まず、特に中国、インド、ロシアをはじめとする主要なプレーヤーに関する予測の変化、次に、天然資源をめぐる主張の強まり、最後に、戦争に使用する技術や手段の容易化である。核の拡散、核の安全保障に関する懸念の拡大等、南アジアや中東における紛争生起の可能性は、包括的な核抑止を脅かす恐れもある。
現在のイスラム教徒によるテロリズムは、2030年までには終焉するだろう。しかし、テロが完全に無くなることはない。多くの国家は、テロリストグループを安全保障上の不安から利用し続けるが、テロリストを直接支援することにかかるコストは、国際協力体制が増強されることにより高まる。より致命的で破壊的な技術の入手がより容易かつ拡大することによって、サイバーシステムといった特殊分野の専門家が、大量の死傷者を出すというよりは、より広範の経済や金融の混乱を狙ったテロリストといった、より自己のサービスを高額で購入してくれる入札者に提供しようとするであろう。
■ゲームチェンジャー4:より拡大する不安定地域
今後20年間のいくつかの異なるシアター(領域)における域内の原動力は、他の地域への波及効果と世界的な不安定化をもたらす潜在力を秘めている。中東と南アジアは、その可能性が高い2つの地域である。中東では、アラブの春を扇動したような若年層が高齢化の道を歩んでいる。新たなテクノロジーが石油やガスとは別の資源を世界に提供し始め、この地域の経済は一層の多様化が必要とされるだろう。しかし、中東の方向性は政治環境に左右される。一方、もし、イスラム共和国がイランにおいてその権力を維持し、核兵器を開発できるのであれば、中東は極めて不安定になるであろう。また一方、穏和で民主的な政府またはイスラエル、パレスチナの紛争解決の合意という風穴が開けられれば、かなり良好な結果をもたらす。
南アジアは、今後15−20年間、国内外の大きなショックが続く。低い経済成長率、食糧価格の上昇、エネルギー不足は、パキスタンやアフガニスタンにとって政治的に極めて大きな挑戦となる。アフガニスタンとパキスタンの若年層の人数は多く、アフリカ諸国の人数と同じである。これらの若年層が低い経済成長と相まって、不安定化の前兆となる。インドはまだ良い位置にあり、高い経済成長の恩恵を受けているが、多くの若者が就職難である。格差や未整備のインフラ、教育の欠如がインドの弱点である。近隣の国は、常に国内経済の発展に強い影響力を持ち、不安定な状況が増すにつれ、軍事支出を増大させる。紛争が勃発し、拡大するようなシナリオはいくつも存在する。全ての関係国間における戦略的目標の相違、相互不信感の増大、ヘッジ戦略は、強固な地域的安全保障の枠組み構築を困難にさせている。多極化が進むアジアに、調停や緊張緩和という地域安全保障のアンカーとなる地域安全保障の枠組みの欠如が、地球上の最も大きな脅威の一つである。中国からの脅威、中国のナショナリズムの増大の公算の高まり、米国がその地域に関与し続けるかどうかの疑問が不安定な状況を高めることになるであろう。不安定なアジアは、世界経済に大規模な損害をもたらすかもしれない。
その他の地域の変化も、世界の安全保障を危険にさらすだろう。ヨーロッパは安全保障の中心であり、それを保証するものであり、例えば冷戦後に中央ヨーロッパを西側に統合した。国内により目を向ければ、力が十分でないヨーロッパの国々も、近隣の危機に小規模な安定化のための部隊を提供するであろう。一方で、現在のより複雑に絡み合った政治や経済危機は、世界的にその役割を増大させているように見える。ヨーロッパは、急激に成長する近隣の中東、サブサハラアフリカ、中央アジアをグローバル経済、より広範囲の国際システムへと統合する手助けができるだろう。近代化するロシアは、自らをより広範囲な国際社会へと統合させるが、同時に多様性を持った経済やより自由な国内秩序を構築できない場合は、地域的または国際的な脅威をもたらすだろう。
地域的な結束強化が進むラテンアメリカやサブサハラアフリカは、よりその安定性が強まることを約束するものであり、地球規模の安全保障上の脅威を減少させる。それでもサブサハラアフリカ、中央アメリカ、カリブ海地域の国々は脆弱なままであり、2030年までは、国際的な犯罪組織、テロネットワーク、反乱分子の温床となる。
■ゲームチェンジャー5:新たなテクノロジーの影響
4つのテクノロジー分野が、世界経済、社会と軍事的発展、環境問題に起因する国際社会の行動に影響を与える。情報(IT)技術は、大容量データの時代に入った。処理速度とデータの蓄積量はほぼ無料となり、ネットワークとクラウドが世界中へのアクセスを可能とし、サービスを普及させるであろう。ソーシャルメディアやサイバーセキュリティは、新たな巨大市場となる。この分野の成長と広がりは、国家や社会に対し、これらから得られる利点を捉え、今日存在するこれらのIT技術を駆使しつつ、新たな脅威に対抗するという大きな課題を突き付けている。オーウェルが示す一般市民を常時監視するような国家が増大することへの恐怖は、特に先進国において、市民が巨大なデータシステムへのアクセスを制限したり、廃止したりするよう国家に圧力をかけるかもしれない。
IT技術が人々の経済的生産性を最大化させ、生活の質が向上する一方で、資源消費と環境汚染最小限に留めることは、巨大都市の生存能力に大きくかかわる問題である。いくつかの巨大都市は、将来的には全くの無から、インフラを構築、新たな都市技術が最も効果的な形で用いられる。もしそれが効果的でなければ、悪夢を見ることになる。
新たな製造(3D印刷やロボット)技術及び自動化技術は先進国、新興国ともに、働き方を変化させる可能性がある。先進国では、これらの技術によって、その生産性が向上し、労働者の制約が解消され、アウトソーシングの必要性がなくなり、特にサプライチェーンを短くできるのであれば、明白な利点がある。しかしながら、このような技術は、今はまだアウトソーシングの効果と同程度であり、技術力の低い又は能力の十分でない生産労働者が先進国で過剰となり、国内の格差を生み出す可能性もある。新興国、特にアジアでは新たなテクノロジーがメーカー及び部品製造業者の競争を激化させる。
特に、重要資源の安全保障にかかわるようなテクノロジーにおける飛躍的な発展は、世界中の食料、水、エネルギーの需要を満たすために必要である。今後15−20年間にこれらの資源を維持するためのテクノロジーが最も重要となるだろう。主要な技術とは、一般的には、収穫量の改善技術、水の灌漑、太陽光発電、先進バイオ燃料技術、水圧破砕技術による油田や天然ガスの採掘技術などである。開発途上経済の持つ、重要資源供給と価格、気候変動への脆弱性から、主要開発途上国は多くの次世代資源テクノロジーを早期に商品化することで大きな利益が得られることに気付くであろう。価格競争のほかに、今後20年間に既存と次世代の資源テクノロジー両者の拡大や採用が、社会における受容度やその方向性を決め、政治的課題を解決することに影響する。
最後に重要なことであるが、身体的、精神的衰えを改善し、全体的な福祉を改善する新たな健康テクノロジーは、世界中の平均年齢を押し上げ続けるであろう。健常者の寿命は、中間層の拡大と同じくして成長を遂げていく。これらの国々のヘルスケアシステムは、未だ充実しているとは言えないが、2030年までには、新興国の寿命は著しく伸び、疾病管理技術の中心となり、医療部門のイノベーションをけん引していくであろう。
■ゲームチェンジャー6:米国の役割
今後15−20年の間、米国はいかに国際的な役割を果たしていくのか、それは大きな不確実要素であり、米国が新たなパートナーと国際システムを再生していくために、協力していけるかどうかが、将来の世界秩序を形成する上で最も重要な変化となる。しかしながら、米国(西側諸国)の衰退は、台頭する国家と比較した時に不可避である。将来的に米国が国際システムにおける役割を担うのは、極めて困難であり、どの程度国際システムを支配し続けるかに大きく左右される。
米国は、様々なパワーにおいて傑出していること、歴史的にリーダーシップを執ってきたことなどから、2030年においても、他の国家の中での“同輩の中の筆頭”としてとどまる可能性が高い。単なる経済的なウエイト以上に重要なのは、米国の国際政治におけるリーダー的な卓越した役割が、ハードパワー、ソフトパワーの両面において優位にあることから得ていることである。しかしながら、他国の著しい台頭によってその“単極時代”は終わりを告げ、パックスアメリカーナ、つまり1945年に始まった国際政治におけるアメリカ優位の時代は、急速に終焉したのである。
米国がグローバルパワーを運用する状況は大きく変化している。米国と歴史的にパートナーであった西側諸国も相対的に経済の落ち込みに苦しんでいる。ポスト第2次世界大戦の時代はG-7の国々が経済、政治の両面で牽引力であると特徴づけられていた。米国のパワープロジェクションは、強力な同盟関係によって拡大された。今後15−20年間に問題の多様性を反映して、国力はさらに多面的となり、そして相互関係性がより深まり、特定のアクターや国家の特定の問題へのかかわりに影響されるようになるであろう。
米国の技術的なアセット、例えばソーシャルネットワーキングや高速通信における先進性は利点となるが、同時にインターネットは非国家アクターの力も増大させる。多くの場合、米国の力は関係する外部ネットワーク、友好国、それに付随するものを通じて強化する必要があり、特定の課題において、強力に結びつくか、共同しなくてはならない。リーダーシップは、立場やかかわり方や、外交力や建設的な行動の相関関係となる。
世界における米国の立場は、国際的な危機に対処するかによっても決定される。それは大国の典型的な役割であり、1945年以降国際社会から米国への期待であった。アジアが過去の19世紀や20世紀初頭のヨーロッパの時代を繰り返すならば、米国は地域の安定を確実なものとするためにバランサーとなることが求められるであろう。一方で、世界の準備通貨の地位からドルが脱落し、他の通貨にとってかわられるようであれば、世界経済における米国の地位を失わせる一つの強い兆しとなり、ワシントンの政治的影響が大きく衰退する一つの表れとなるであろう。
この期間に米国が他のグローバルパワーにとってかわられることや新たな世界秩序が構築される可能性は低いとみられる。この期間中に生起しうるいかなるシナリオにおいても、米国と同等のパワーを達成する国家が出現することはありそうにない。新興国は国連やIMF、世界銀行といった多国間で構成される機関でトップの地位を得ようとするだろうが、彼らはどれも米国と並べられるようなビジョンを持っていない。米国主導の国際秩序にあいまいな態度や反対の立場をとっていても、新興国はそこから利益を得ており、米国のリーダーシップに異議を唱えるよりも自国の経済的利益や政治体制の強化により大きな利益を見出している。加えて、新興国はブロック(政治経済上の特殊利益助長の目的で提携した国家)ではなく、何ら統一したビジョンも持っていない。彼らの考え方は、中国でさえも地域的な枠組みを形成することを最重要視している。米国の崩壊や突然の衰退は、世界的な無政府状態の期間を長引かせるだけである。
--確率は極めて低いが大崩壊をもたらすような大きな影響を与える事態--
▼猛烈なパンデミック
誰も将来いかなる病原菌が人類に拡散していくのか、いつどこでそれが発生するのかは予測できない。死亡や機能不全による犠牲者が1%以上を超えるような感染力の強い呼吸器細菌が発生すれば、壊滅的な事態が生起する。大発生によって、世界中のあらゆる場所で6カ月以内に人々は死を迎える。
▼更なる急激な気候変動
予想以上に速いスピードで、見通しのつかない大変動が生起している。 科学者らは、インドをはじめとするアジアのモンスーンのような降雨の急激な変化によって、地域の食料供給の大崩壊が起こる可能性を確信している。
▼ユーロ/EUの崩壊
手に負えないギリシャのユーロからの脱退は、リーマンブラザーズ倒産時の8倍もの付随的な損害を与え、EUの将来を左右する大きな危機を引き起こす。
民主化あるいは崩壊する
▼中国
中国は今後5年ほどで、1人当たりの購買力平価が、1万5千ドルを超えるものとみられ、それが民主化のきっかけとなり得る。中国の“ソフト”パワーは劇的に増大し、民主化の波を引き起こす可能性がある。あるいは多くの専門家は、民主化した中国はより愛国主義になる可能性もあると見ている。経済的に崩壊した中国は政治的不安定の引き金となり、世界経済にショックを与える。
▼イランの再建
世論の高まりを受けたよりリベラルな政権が国際的な制裁の終結とイランの孤立が終焉するよう協議する可能性がある。イランが核兵器への野心を捨て、経済的な近代化を目指すのならば、より安定的な中東となる機会が増大する。
--核戦争あるいは大量破壊--
▼兵器/サイバー攻撃
ロシアやパキスタンのような核保有国、イランや北朝鮮のように政治的、安全保障が脆弱でその補完のために核を保有する国の核兵器の使用のリスクは高まる。非国家アクターがサイバー攻撃を実施したり、大量破壊兵器を使用する機会も増大する。
▼太陽磁気嵐
太陽磁気嵐は、衛星、配電網、精密電子機器等を使用不能にする。現在、太陽磁気嵐による障害発生間隔は100年以下であるが、世界の電気への依存度から、その脅威は大きくなっている。
▼米国の離脱
米国のパワーが崩壊あるいは突如として退却するならば世界の無政府状態が長期化し、世界秩序の保証人である米国の地位にとって代わるようなリーダーシップを発揮する国はないであろう。
--未来の姿--
現在において回想する過去の転換点とは、1815年、1919年、1945年、1989年であり、当時は、その先に続く道筋が明確でなく、世界はその未来を描くことができなかった。しかし、現在我々は、過去20年間の著しい変化にもかかわらず、今後、その変化のスピードが加速されていくという情報を十分すぎるほど得ることができている。それゆえ、我々は4つのシナリオを描き、2030年に世界が向かう道筋をそれぞれ示した。「立ち往生」、「連携」、「格差社会」、そして「非国家の世界」である。過去に発表した報告書において、我々は、事態の仮想シナリオを示し、将来について皆がより創造的に考察することに力を尽くしてきた。我々が、意図的にまとまりのない異なった考えうるシナリオを描いたのは、既知の流れを直接的ではなく、大きな影響を与えるものを映し出すためである。我々は、変化や転換点、不測の事態についてより理解することが、意思決定権者である政治家がトラップを回避し、前向きに発展する機会を増やすことを望んでいるからである。
■立ち往生
国家間の紛争が生起するリスクを示すシナリオとは、アジアの新たな“グレート・ゲーム”によるものであり、我々は両極にある一つの極端として、蓋然性が最も高い“最悪の事態”を描いたものである。第1次世界大戦や第2次世界大戦クラスの大規模紛争によってグローバル化が後退するか、完全に崩壊するようなよりひどいシナリオを描くことは可能であるが、そのような事態が生起するとは考えられない。大国が紛争に巻き込まれるかもしれないが、そのような緊張あるいは2国間紛争が、大規模な事態に至るとは見ていない。それよりも可能性が高いのは、周辺国がそのような紛争を止めるよう介入してくることである。まさに我々が強調してきたように、主要国は、大きな紛争にかかわることによって、経済的、政治的損失をもたらすことを懸念しており、さらには戦間期とは違い、経済的な相互依存やグローバル化を完全に無にするということはユビキタスなテクノロジーの進んだ社会においては困難である。
しかしながら、立ち往生のシナリオは、荒涼たる未来の姿である。そのような事態をもたらすその背景には、米国やヨーロッパが内向きで、もはや主導権を握ることに興味を失った状況である。このようなシナリオのもとでは、ユーロ圏は急速に破たんし、ヨーロッパの景気後退が泥沼化する要因となる。米国のエネルギー改革が実現に失敗し、景気回復の見込みが薄くなる。我々がマッキンリーカンパニーに依頼したこのシナリオモデルにおいては、世界経済が衰退し、全てのプレーヤーが相対的に貧しくなる。
■連携
連携はもう一方の極端、蓋然性の高い“最も良好な状況”の予測事態である。南アジアで勃発した紛争拡大の兆しがきっかけとなって、米国、ヨーロッパ、中国が干渉し、火消しの努力をする世界の様相である。中国、米国、ヨーロッパは、そのほかにも協同して取り組む課題があるが、2国間関係の中で状況を好転させる場合と、より広範囲で、地球規模の課題に取り組むため、協同する場合がある。このシナリオにおいては、パートナーシップを構築するため、両者が世論をコントロールする必要がある。時間が経つにつれ、中国が、政治改革の過程を歩み始め、信頼関係が構築され、国際システムにおけるその役割の重要度が増すことによって、より促進される。主要国の中での協同体制が促進されるに伴い、世界的な多国間機関が改革され、より包括的となる。
このシナリオにおいて、全ての国家は大幅に成長する。新興国経済はより速いスピードで伸び続けるが、先進経済のGDPもまた立ち直る。2030年までには、世界経済は現在の価値で2倍となり、今のドルの価値にして132兆ドルとなる。アメリカンドリームが復活し、10年間で所得が一人当たり1万ドルも跳ね上がる。一人当たりの中国の所得も急激に上昇し、“中所得国の罠“を回避することが確実となる。交流拡大や国際社会の協同した取り組みといったことに基づく技術革新は、経済発展をもたらす財政的、資源的制約がある世界にとって重要な事項である。
■格差社会
世界は、著しい差がある。多くの国は、不平等が支配していて、政治的、社会的な緊張を高めている。国家には明らかな勝者と敗者がいる。例えば、世界的な競争力のあり、業績の良いユーロ圏の中心がある一方で、EUからの撤退を迫られる周辺国がある。EU単一市場はかろうじて機能している。米国は、エネルギー自立性は高まってもその力は依然として傑出して存在する。完全には関係を断つことはしないが、米国はもはやあらゆる安全保障に関する脅威に対して“世界の警察官“としての役割を果たそうとはしなくなる。多くのエネルギー供給者は、エネルギー価格の下落に苦しみ、この時期までに経済を多角化することができず、国内紛争の脅威にさらされる。中国沿岸部の都市は引き続き繁栄するが、格差は拡大し党を分裂させる。中間層の現状に対する社会不満は、“強く結び付いている場合”を除き、急増する。北京の中央政府は、統治が困難となり、再び愛国主義(熱)に回帰するようになる。
このシナリオでは、新興国と先進国がけん引する世界経済が、いまひとつぱっとしないものとなるため、「立ち往生」シナリオほど悪い状況ではないが、「連携」シナリオには程遠いものとなる。国内の社会的結びつきの欠如は、国際的なレベルに反映される。主要国同士は不和で、紛争の可能性は高まる。国際的な協力支援や発展の立ち遅れから多くの国が破たんする。要するに、世界はそれなりに豊かであるが、グローバル化の暗黒面が、今以上に国内外の課題を突き付けることから、安全保障面では不安定となる。
■非国家の世界
この世界は、非政府組織や、多国籍企業、学術機関や富裕層の個人などの非国家アクター、準国家的な単位(例えば巨大都市)が繁栄し、地球上の課題に立ち向かってリーダーシップを発揮している。エリートの人々の間や増大する中間層から沸き起こる貧困や環境や腐敗への反発、法の支配、平和といった地球規模の課題に対する世論のコンセンサスの高まりがそれらの支援の基盤となる。国家は、消滅することはないが、問題によって変化する国家と非国家のアクターが“ハイブリッド”に連携して調和し、組織化されていく。
権威主義的な政治体制がこの世界において機能することは最も困難であり、国内の政治的な優先事項に気を取られ、また、ますます“完全民主化”世界の増加を尊重することになる。民主主義国家においてさえ、国家主権の概念と独立が密接にかかわっており、この複雑かつ多様化した世界においてそれを成功裏に運営していくことが、困難となる。エリート層がより一体化している小規模で活発な国家は、社会的、政治的結びつきが欠如している大きな国家よりも成功する傾向にある。権力の多様化や広範囲への拡散を導入していない、因襲的な政府機関は成功しそうにない。多国籍企業、IT通信企業、国際科学者、NGOなど国境を越えて協力しあい、この超グローバル化した世界の繁栄をもたらすような更なる専門性や影響力、敏捷性を持ち合わせているネットワークが“負担”や“役職”よりも重要視される。
しかしながら、これでは、“つぎはぎの”とても不均衡な世界である。いくつかの国際問題は、ネットワークが繋がり、国家や非国家を超えて協力がなされたことにより解決している。その他の非国家アクターが課題に取り組もうとしている場合には、国家権力の反対によって解決困難となっていることもある。安全保障上の脅威は増大し、致命的で破壊的なテクノロジーへのアクセスが拡大し、個人や小規模グループによる暴力や大規模な破壊が増加する。経済的には、世界が主要な課題に対してより一層協力するため、「格差社会」シナリオよりも少しは良い状況であり、成長する。やはり世界はより安定的で社会と密接に繋がっているのである。
翻訳者:幹部学校国際計画班 五十嵐 尚美
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米国のインテリジェンスが中長期の世界潮流をどのように考えているのかというのは、正誤を別にしても一見に値するのではないかという思いに至り、こんな長い投稿をしました。以下は私の小さな素描的感想です。
この阿修羅掲示板においても、米中の協調的な接近を論じておられる方がいらっしゃって、その明晰な分析に目を開かれるような思いがします。しかし、この論文で指摘されている楽観論とは反対の現状がアジアにおいて、そして日本・中国のマスメディア、特にテレビ(一部雑誌・ラジオ・Web)にて著しくなってきており、戦前戦中の戦意扇情報道なみのものも散見されます。それはそれで日本独自の主体性が発揮されているということでもあるのでしょうが、意図的な世論誘導は許されるはずもなく、現在もそして今後も、マスメディアの責任追及と共に、その構造の解明がなされていかなければなりません。
■私たちは日中韓の報道合戦に決して振り回されてはならない
現状の日本の政権政府は、マスメディアと相互補完的な関係に陥っており、このままでは恐らく"行き着くところまで行く"のではないかという危惧は、すでに広く共有された現実になってきていると思います。一方で最近の中国国内における腐敗追及の報道姿勢は目を見張るものがあり、中国の閉鎖性と不透明性を私たちに教示してくれています。それこそ命を賭したジャーナリズムが中国国内にはあるということにも、もう少し目を向けていきたい。そしてその閉鎖性と不透明性は、貴方たちにとって鏡のようなものであると、強烈に投げかけられているような気がします。
私は311以降、現在の日本において危急の際には政府行政、あるいは権威権力機関の情報が信頼に値しないということについては、大衆の間で共有された"新しい"価値観であると考えています。ここは特に強調したいのですが、これはとても大事なことであり、2011年が1945以降の日本の大きな分岐点であると同時に、いわば私的ネットワーク元年でもあったのではないかというような思いがします。それはWebを通じて日々再認識していますし、論文に指摘されているように、今後もこの流れはもう止まらないであろうと考えています。
最後に、論文の指摘する中国の「民主化リスク」については、かなり重要な指摘であると思いますので、また違う投稿にて諸兄諸姉とともに考え、また、ご教示を受け賜りたいと思います。
以上、このような長い投稿にお付き合いくださいましてありがとうございました。
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