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2013年01月22日 07:45 BLOGOS編集部
ニコニコ生放送とBLOGOSがタッグを組んでお送りする「ニコ生×BLOGOS」第15回。2012年を締めくくったテーマは「2012年総決算!ネットの声は新政権に届くのか?」。欧州危機、尖閣・竹島の領土問題、ネット党首討論会、東京スカイツリー開業、AKB48選抜総選挙、官邸前デモなど、2012年も様々なニュースが飛び交いました。その中でも、一番大きな話題をさらったのが、2012年12月16日の衆議院選挙です。約3年3ヶ月ぶりに政権奪還を果たした自民党ですが、安倍新政権にネットユーザーの声は届くのでしょうか!?
ゲストに元産経新聞ロンドン支局長で現在もロンドン在住のジャーナリスト・木村正人氏、朝日新聞の林尚行記者を迎え、海外メディアと最前線で活躍する政治記者が見た衆議院選挙の裏側を徹底分析! 2013年の“ネットと政治”はどうなるのか考えました。(2012年12月20日放送)
【出演】
司会:大谷広太(BLOGOS編集長)
アナウンサー:佐々野宏美会 コメンテーター:須田慎一郎(ジャーナリスト)
ゲスト:木村正人(元産経新聞 ロンドン支局長)/林 尚行(朝日新聞 記者)
■ネット党首討論会がメディアに与えた影響
佐々野:2012年も色々なニュースがありましたが、やはり最初は「衆議院選挙」でしょう。報道されている通り、自民党が全480議席中294議席を獲得し、およそ3年3か月に及んだ民主党政治から政権を奪還しました。一方、政権を奪われた民主党はわずか57議席にとどまり、野田総理は惨敗の責任をとって辞任を表明。
第三極では「日本維新の会」が54と大きく議席を伸ばして、民主党に迫る第三党の議席を確保しました。今回の衆院選には様々な争点があると思うんですが、過去の選挙と大きく変わったところといえば、やはりインターネットとの関わり方ではないかと思います。その点についてどんな感想をお持ちでしょうか?
須田:11月29日にニコニコ動画で10人の党首が集まり、党首討論が行われました。これまでは既存メディアが党首討論や選挙報道を仕切ってきたところがあるので、今回、最初の党首討論がネットメディアで行われたのは、非常に大きなインパクトがあったと思います。さらに、選挙戦最終日、安倍総裁と麻生太郎さんが最後に選挙演説をしたのが秋葉原。政治家がネットを意識しないと政治ができない状況になってきたのではないかと思いますが、そのあたりをどう受け止めたらいいんでしょうか?
大谷:ネット党首討論が行われた翌日、日本記者クラブ主催の党首討論があり、ネット党首討論には参加しなかった石原慎太郎さん(日本維新の会代表)も加わった11党の党首で行われました。テレビのゴールデンタイムでも放送されていたのですが、視聴者はどっちが多かったのか興味ありますね。
須田:民主党の安住淳幹事長代行が、最初「ネットで党首討論会をやる」と言ったら「偏ったメディアだ」と敵対心をむき出しにしていましたよね。
大谷:そのあたりが“ネットの声=民衆の声”という話につながるのかなと。ネット党首討論の現場にいて印象的だったのが、党首のみなさんが「インターネットユーザーのみなさん」と、呼びかけをしていたことです。「国民のみなさん」ではなかったのは、もしかすると“ネットユーザー”と“国民像”が、ちょっと違っているのかもしれないですね。初の「ネット党首討論」は、ご覧になっていかがでしたか?
木村:イギリスのBBCは日本でいうNHKのようなものですが、そこが先頭を切ってネットに対応していて、パソコンでもスマホでも見られる。2010年の選挙では、60万人のフォロワーを持つローラさんというBBCの若い女性記者がツイートをしたこともありました。単にツールが紙媒体や放送メディアから広がったという感じなので、日本の既存メディアとネットの間に溝ができているのは、ちょっと悲しいことだと思うんですね。「より効率的に世論の声が直接政治に届くような仕組みを作っていこう」という目標は同じなのに、なぜかいがみ合っているように見えます。
林:僕はネット党首討論会をネットで拝見させていただいたんですが、翌日の日本記者クラブの会見と合わせて見ると、視聴者もよくわかったんじゃないかなと。元々、「1対1で党首討論をやる場をどこに作るか」という話から始まったんですよね。それで、安倍さんが設定したのが“ネット党首討論会”という場で。安倍さんはFacebookでよく発言をされている方なので、その場に野田さんを引っ張り出して来て、ネットユーザーが見ている所で戦いたいということだった。ただ党がたくさんありすぎて、1人数分という決められた枠の中で、結果的に深い話をするゾーンが無かったように思います。
■既存メディアとネットメディアに生まれた“溝”
須田:ぜひ、木村さんと林さんに聞いてみたいことがあるんです。それは、ネットメディアの立場からすると、既存メディアは「どうせネット」と上から目線でバカにしているんじゃないのかと。個人的な部分と組織的な部分で、どういう風にとらえているか、お話いただきたいんですが。
木村:僕は既存メディアは巨大で壁があるように思います。今から30年ぐらい前は、社会部と一緒にやっていたので、社会部の方から「アナタたちは、私たちからすごく遠いところにいますね」と言われたことがありません。行けば歓迎されて色々な話を聞くことができ、それを伝えるのが新聞記者の仕事だと思っていました。
それが、今一ブロガーとして個人の立場に立つと、ネット対応にしても課金システムを作って、なんとか取材に充てる財源を確保しようというのが見えちゃって。もうちょっとオープンジャーナリズムに立ち入ってほしいと思います。やっぱり質の高い紙面を作るには質の高い記者を抱えないと。その人たちの給料を払わないといけないから課金して、紙媒体の収入を守りたいというのはわかりますが、そこに距離を感じてしまう。既存メディアとネットの間に“溝”ができるのは、社会の中に“溝”があるということ。それは非常に危険なことだと思うので、そこをうまく誘導できるような双方の働きかけが必要だと思いますね。
須田:外部から見ると、朝日新聞はメディアの中のエリートなんですね。その中でも、林さんのような“野党キャップ”は、スーパーエリート。そのせいか、上から目線で見られているのかなという気持ちもあるんですけど、その点はいかがですか?
林:そういう気は全くないですね。特に政治の現場は、取材対象が政治家や官僚に限られているので、みなさんがどう考えて、どういう反応があるかをすごく怯えながら見ています。そういう意味では、普段、政治を取材している人間として、ネットの世界に対して“恐怖と興味”の両方を持っていますね。
僕は去年、首相官邸の取材班でしたが、政治記者と読者、あるいは読者じゃない取材対象外の人達と意見交換ができたらいいなと思って、去年の1月に「朝日新聞官邸クラブ」というTwitterを立ち上げたんです。最初の1,2週間は3000人ぐらいだったんですが、3.11をきっかけにたくさんの方がフォローしてくださって、今は4万にまでなりました。朝日新聞だから必ず攻撃されるというものでもないし、僕らもそれに対してちゃんと向き合っていこうと思っていますから。
大谷:朝日新聞さんは記者個人でもTwitterをやられていて、官邸担当記者さんのツイートは、その方、個人の生の部分が見えるような、取材の合間のちょっとしたエピソードもありますよね。そういう意味では、今までの新聞記事だけでは伝わらなかった、記者の生身の姿が垣間見えるんじゃないかと思っているんですが、ネットユーザーの反応はいかがですか?
林:“総理番”という記者が2,3人いて、ほとんど24時間体制で総理大臣の動静をずっと追っているのですが、総理がご飯を食べている時は、寒風吹きすさぶ中を店の前で待っているわけです。その待っている間に「とても寒いです」とつぶやく。「そんなことやめろ!」という声もたくさんあるのですが、その一方で「がんばってね!」といった温かいツイートもいただきます。なにより、そうやって取材しているとわかってもらえるだけでも意味がありますよね。駆け出しの政治記者が、“こういう風に仕事をしているんです”というのを見てもらう意味も1つあるのかなと思います。
佐々野:東日本大震災の後、記者会見の場に新聞社など記者クラブの方、ネットメディアの記者、フリーの記者が入ったことで、会見の雰囲気は変わりましたか?
林:一番おもしろかったのはニコニコ動画の七尾さん。震災を機にネットも必要だろうということで、彼がずっと会見に並んでくださった。始めは「どんな質問をするのかな?」と興味深く見ていたんですが、非常に良質な質問をしてくれて、七尾さんの質問で我々が記事を書くこともあった。それからは「今日、七尾さんは何を聞くのかな?」と思ったりもしますし、そういう意味では悪くない関係なのかなと思います。
■公職選挙法は時代遅れ!?
佐々野:今回話題になったことに“ネットでの選挙活動”があったと思いますが、木村さんはどう思いますか?
木村:何人かの政治家のFacebookを見ていましたが、夏祭りの神輿の上に乗ったり、支援者の方と握手をしている写真を載せたりしていて、「なんなのかな?」と思うんですね。「こういう政策を実現したい」と主張するなら、やっぱりそれに同調してくれる人が出てこないとダメじゃないですか。そのために、ソーシャルメディアで訴えればいいのに。日本は選挙期間中に、「みなさん、私にどうか清き一票を!」と、未だに言っているんでしょ?握手もしますよね。
鈴木宗男さんが昔、“握手の仕方で、この人が自分に票を入れるかわかる”と言っていましたが、6万人と握手をすれば、6万票みたいなことでいいのかなと。
大谷:公示日になると、みなさん「これが最後の更新になります」と、一旦ブログの更新をやめるんです。おもしろいのが選挙が終わるとまたブログの更新を始めるんですけど、第一声は「お礼は禁じられているので言うことはできませんが……」という、実際にお礼を言っているちょっと奇妙な常套句を使うんです。なんだか、不思議な状況になってしまっているなあと思います。
須田:テレビ番組に出るとき、「公示後なので、特定の候補、特定の政党を批判したり、持ち上げたりすることは絶対に控えてください」と言われます。「もし取り上げるなら公平に取り上げてください」と。ニュース番組やワイドショーならまだしも、バラエティ番組で言われることがあって「政治家の話なんてしないよ!」と思いますが、今はそれぐらい慎重になっていることに間違いないんですよ。橋下さんが公示期間中にTwitterを使えないと怒ったけれども、公職選挙法自体が古い時代の遺物になっているんじゃないかと思いますね。
木村:放送法との関係もあるんじゃないでしょうか?極端なものはダメだけど、新聞の場合は「こっちの政党のほうがいいんじゃない?」ということを、きっちり言うのが使命のようなところがあります。ある程度色を出して、中道左派と中道右派の論調がないと、新聞を買う意味が無くなってしまいますよね。
須田:必ずしもアメリカが良いとは言わないですが、例えばアメリカには共和党寄りのFOXテレビと、民主党寄りのCNNがあって、完全に色が別れている。だとすると、公職選挙法や放送法の法律自体が今の時代にそぐわなくなってきていると思います。
大谷:橋下さんなどはTwitterで積極的に発信している方で、新聞記事やテレビの情報源も「橋下さんがTwitterでこう述べた」というのが、記事の情報ソースになっていたりしますよね。
橋下さんは公示期間中もTwitterを続けていましたが、多くの立候補者が更新を止めたことを考えると、有権者はもちろん、取材される新聞記者の方々にしても情報ソースが無くなってしまうと言えます。そのあたりはいかがですか?
林:取材先の政治家たちは、非常に窮屈そうに選挙活動をされていたというのが正直なところです。ただ、公示されると電子媒体が全部止まるので、“清き一票を!”という地元での選挙活動にそれぞれの記者が派遣されて政治家についてまわります。そういうアナログな付き合いの中で、もう1度取材をし直せるという効果もあったのは、確かなんですよね。
よく小沢一郎さんが、川の一番奥まで登って行って、そこにいるおじいちゃん・おばあちゃんに声をかける“川上作戦”というのをやっていたんです。選挙はそこから始まっていくんだよ……と。その小沢さんも早いうちからネットメディアに出演し、実際、ネットメディアへの登場回数も多い。“ドブ板とネット”という2つの顔を持っている政治家の姿が、凝縮されたような方ですよね。そういう政治家は、みなさんの見えないところに結構いるんじゃないかと思います。
須田:今の日本の選挙区事情を考えてみると、これが中選挙区制なら組織を固めれば当選できたんですよ。だから、支援団体や労働組合など、組織をギチギチに固めていこうという方向に動いていた。しかし、今の小選挙区では組織を固めただけでは絶対に当選できなくて、有権者の6割を占める浮動票を取り込んでいかなければいけない。取り込むためには、ネットユーザーに対しては、インターネットがアプローチをする重要なツールだし、おじいちゃん、おばあちゃんだったら、ドブ板を踏んで握手を求めるというのも1つの手段。何か1つをやればいいっていう話じゃない。小選挙区で戦わなければいけない土俵ならば、色々解禁をしていく時期にきていると思いますね。
■自民党政権でどうなるネット選挙
佐々野:自民政権に変わって、ネット選挙って変わると思いますか?
須田:変えるべきでしょうね。ただ、今回の総選挙は、世代交代が進んだと思うんですよ。例えば、自民党の加藤紘一さんが落ちましたが、これは時代が変わってきたことを象徴していると思います。やっぱり古い体質を持った人達、従来型の選挙を戦ってきた人達は、ネットが恐い。使い慣れていないし、そこでどんな反応がでてくるかがわからない。プラスの反応が出てくればいいけど、マイナスの反応になってしまうんじゃないかと不安なんです。恐いから使うのをやめようという人達が政治の表舞台から退場している状況を見ていると、そういう動きは、これからもっと広まっていくんじゃないかと思います。
木村:加藤紘一さんが落ちたのはビックリしましたが、世代交代はそんなに進んだかなと思います。新聞に出ている写真を見ると、前の安倍内閣とほぼ顔ぶれは同じで、そのまま蘇ってきたという印象も受けるんです。
民主党がもっとしっかりしていて2回目の選挙も勝っていれば、自民党も世代交代がさらに進んだのではないかと。安倍さんが新しい自民党をある程度アピールできたから、勝利につながっている部分もあると思うんですけど、その一方で古い自民党が、ギュッと握っている部分がある。来夏の参院選には、まさに古い自民党の顔が大きく出てくる可能性があります。
今回、選挙で勝った要因の1つである安倍さんによる新しい自民党のアピールを、今後も続けると思います。参院選を勝つのが自民党の至上命題だから、衆議院で勝った勢いを持って行こうと考えると、新しい自民党を、Facebookでアピールしていくことは自民党のためにもなるし、日本の再生にもつながるんじゃないかなと、ちょっとは期待しているんです。
佐々野:林さんにも伺いたいんですけど、記者として政治の現場をずっと見ていらして、前回、政権をとった安倍さんと今回の安倍さんで、変わったところはあるんですか?
林:僕は前の安倍政権について直接は知らないんですが、伝え聞くような雰囲気とは、ちょっと違うんじゃないかという期待感は持っています。
須田:前回の安倍さんは、どちらかというと既存メディアと言われている人達に猛バッシングを受けて、引きずり降ろされてしまった部分があるじゃないですか。恐らく本人はそのことを強く自覚していると思うんですよ。
それに対して、今回は、ニコニコ動画を使って党首討論を仕掛けるなど、ソーシャルメディアを使って、“心ない批判に対してはドンドン反論していこう!”と主張している。インターネットを手にしたことで、安倍さんが変わってきたという感じがあります。
大谷:今、コメントで「自民党はネットの使い方がうまかったよね」というのがあったんですが、確かに自民党さんは、野党時代にニコニコ動画で長時間の番組をやったり、Ustreamで毎週番組を配信したりしていました。
しかし、政権交代した今、そのままネットの利用を続けるのか、それとも変わってしまうのか。その点も気になるところです。今後、ネットでの情報配信はもっと推進されるのか、少し後退してしまうのか。いかがでしょうか?
林:よく「政府与党」という表現を使いますけど、政権を取ると「政府」と「党」という2つの顔を持つことになる。恐らく、自民党の党側としては、この3年3ヶ月、野党時代に突き進んだネット戦略がそのまま生きていると思います。
問題は、政府の中に入ってどう活用するかです。彼らもまだやったことがないですから。ただ、無用の対立をするのではなく、より国民のためになるように我々もやっていきたいし、安倍さんがどうするのかを重要視していきたいと思います。
須田:朝夕のぶら下がり取材をなくすという報道も出ているということは、インターネットを通じて情報発信をする可能性が出てくる。これ、メディアは真っ青じゃないですか?
林:困りますよね〜(笑)。僕は政治部に来たのが2001年9月で、当時は小泉総理の時代でした。小泉さんは1日2回ぶら下がりに応じていたんです。僕は総理番で、当時はまだ政治部1年生という右も左もわからない状況で現職の総理に色々質問をしたわけですけど、非常におもしろかった。本当に安倍さんがやらないのかはわかりませんが、仮にぶら下がりが無くなった場合、メディアとの関係がどうなるのかと、感情的な部分も含めて思いますね。
大谷:民主党も大臣会見をオープンにしていましたが、批判の声が大きくなるにしたがってフェードアウトしていった印象があったので、そこは注目して見ていきたいですね。
■ネットで政治はこう変わる!!
佐々野:メディアアクティビストの津田大介さんが「ウェブで政治を動かす」という新書を出しているんですけど、インターネットが政治を動かすことはできると思いますか?
大谷:例えば、今年は官邸前デモが話題になりましたよね。ニコ生×BLGOSでも「首相官邸前デモは日本を変えるのか?」をテーマに放送したことがあるんですけど、あのきっかけになったのは、ネットだったと言われているんです。もしかすると政治が動くんじゃないかという話を津田さんもされていたりするんですけども。
須田:興味深いのは、官邸前デモが恒常的に続いていくのかどうか。自らの目標を達成するまで続けるのかを今問われているところだと思うんですよ。今回の総選挙を総括してみると、官邸前デモ、あるいは反原発の人達は、自らの目的を達成することができず、少数派だということがわかった。その点から考えると今、非常に大きな曲がり角を迎えている。ただ、これでやめてしまってはなんの意味もないと思いますね。
佐々野:今回の選挙を振り返ってみると、投票率が低く、白票が多かったといのが印象的なんですけれど、ネットによって、投票に行く人も増えるということは考えられますか?
木村:韓国の大統領選挙は、ソーシャルメディアを選挙運動に使った初めての選挙だったんですが、前回60%台だった投票率が、今回70%台になっています。日本は、ネットが、世論の雰囲気や政治のデタラメさみたいなものを正確に伝えたから、衆院選の投票率が低くなってしまったと思うんです。白票も投票には行ったけども、いざそこに立つと入れる党がない、入れる人がいないという正直な気持ちが出たんではないかと思うんですね。
ネットが政治を動かすかというと、良い面と悪い面があると思いますが、プラスの面としては、イギリスは今回の連立政権で、「オンラインで10万人の署名を集めたらその物事を審議するかどうかを検討する」という制度を作ったんです。制度を開始してみると10万人に達することが結構多くある。例えば、去年のロンドンでの暴動の際は、暴動を起こした人達が失業保険をもらっていたことがわかり、「それは許してはならない!」という署名が20万人以上集まったので、彼らの社会保障は取り消すべきという議論が国会でできることになりました。直接民主制ではないですが、限りなく直接民主制に近い形のシステムとして、ネットの声を吸い上げていくことがもう制度化されていますね。
大谷:小選挙区だと、政治家は週末地元に帰って、公民館で高齢者の方々の話を聞くから、ネットの意見や動きは気にしなくていいんじゃないかというイメージがあります。林さんにお伺いしたいのは、「ソーシャルメディアやネットの声を、政治家のみなさんが気にするようになってきたのか?それともあまり変わっていないのか」という点なんですが、いかがでしょうか?
林:確実に気にするようになっていると思います。Twitterアカウントを持つ政治家が年々増えているのがその典型ですよね。今回投票率は低かったけれど、だからといって失望する必要は全然ありません。なぜなら、これはまだ始まったばかりだと思うんですよね。
例えば朝日新聞は今回、東大と合同調査を行って政策分析を行い、「憲法改正」や「社会保障改革」というそれぞれの項目ごとにクリックすると、それぞれの小選挙区の立候補者の顔が、右に行ったり、左にいったりするサイトを作りました。ああいう形で、僕らメディアや政治家も一人一人がネットを有効活用して、自分たちが実現したい政治を発信するように、工夫していくきっかけとなったのが今回の選挙だったと思います。
実際、僕らメディアも政治家も法律も追いついていないという現実があるので、少しずつ改善していって、それが投票率をあげる要因になる。川上作戦のおじいさんやおばあさんも投票するけど、ネットで政策を吟味した年配の人達も投票するという風に変わっていくんじゃないかなと。渡辺喜美さんの言葉ではないですけど、政治は諦めなければ、必ずそういう風になっていくんじゃないかという雰囲気は見えたなと僕は思っています。
■イギリスに学ぶ“わかりやすい政治”
須田:原発問題に関して、ピンポイントな質問です。当初、官邸前デモをほとんどのメディアが取り上げ無かったため、ネットを中心にものすごい批判が出てきました。それを受けてなのかはわかりませんが、朝日新聞でも官邸前デモを取り上げるようになってきた。これはやっぱり、デモを報じなかったことに対する批判が、結果として記事を取り上げるきっかけになったんですか?
林:批判がどれだけ影響したのかはわかりませんが、我々も既存メディアとして、縦割りなところがあるんですよね。ああいう官邸前デモは、社会部の分野に近くて、一方、私が所属する政治部は、政治家や官僚などを取材対象にすることが多い。それを融合して「これが今ニュースなんだ」というのを、パッと吸い上げてアウトプットしていくという仕組みができれば、もっと早く反応することができたんじゃないかという気がします。
須田:それは色んな既存メディアの方がおっしゃっていますね。目の前で記事にすべき出来事が起こっているのに、“あれは自分の担当じゃない”と考えて、記事にしなかったっていう。
林:そういう面はないとはいえないと思いますが(笑)
大谷:質問が届いています。大阪府・20代男性。「今回の投票率は、前回より低かったとニュースで見ました。僕の周りにも選挙に行かなかったという人が何人かいます。投票率が低いままなのは、国として問題だと思うんですが、どう思いますか?」
須田:質問に加えてもらいたいんですけど、今回の選挙は白票がものすごく多かったんですよ。投票所に足を運んだけれど、政党名や候補者の名前を書かない白票が爆発的に増えた。投票率の低さと白票の多さを、どのように受け止めるのか?お2人に伺いたいんですが。
木村:日本はイギリスを見習って小選挙区制を導入したけれど、中小政党に配慮して比例と並立制になりました。だから、中途半端な制度なままだと思うんですよね。二大政党の良さの1つは議論のわかりやすさだと思うんです。政府が“こうしたい”というと、野党の党首が“それはこうじゃないか?”と常に言うからわかりやすい。
また、日本でも党首討論が導入されましたが、これは元々イギリスの制度です。これはトニー・ブレア元首相の顧問に聞いた話ですが、イギリスの国会は、政府と野党が対面型になっていて、野党を目の前にしてアレコレ答弁するのは非常に恐い面もあると。そこで、ブレア元首相は、老眼のメガネをかけて、相手の顔をぼやかすことで安心感を得ていたそうなんです。トニー・ブレアという人は1人で何時間でもしゃべり続けるし、議論なんてお手の物というイメージだけど、そんな人でも党首討論の時は一晩かけて練習し、打ち合わせをする。わずか15分程の答弁でも、それだけ真剣勝負をしているんですね。そういう緊張感が有権者に対する政治のわかりやすさを生んでいると思います。
日本の場合も、自公がほぼ一体化しているので、民主党がしっかりさえしていれば、「自公」対「民主」という議論がもう少しきっちり見えたんだと思うんです。今回の選挙はバトルロイヤルのように14人ぐらいでプロレスをした形になっちゃったので、議論を深めて欲しいところが深まらなかった。例えば今、核になっている安倍さんの“リフレーション政策”の落とし穴など、きっちり議論して欲しかったんだけどあまり深まらなかなった。それぞれ数分の持ち時間で、有権者に伝わるのかな……という疑問はありますよね。
それと原発問題については、あんな事故が起きたので地元の方が「原発は無いほうがいい」と思うのは当たり前だと思うんです。それを、今の政権が無視して再稼働をドンドン進めたら、2013年の参院選に勝てるかなという雰囲気になりかねない。自民党の公約に「メタンハイドレートの実用化をできるだけ早くスタートさせるようにがんばる」というのがありましたが、政党の公約の中に、エネルギーの実用化を入れたのは本当に珍しいと思うんですね。原発をこれまで通りにするんだったら、そんなこと書く必要ないはずなんです。だから、自民党が「原発バンザイ!」と言っているかといえばそんなことはなく、やっぱり有権者のあの動きが、自民党の政権にもきっと何らかの形で配慮されていると思います。
■有権者のために新聞が果たすべき役割は?
大谷:有権者が投票に行くにあたり、1つの判断材料として、新聞などの報道が持つ役割が大きいと思います。林さんは新聞記者として今後どういう取り組みをしていこうと考えていますか?
林:白票の多さについて我々が取材をして思ったのは、制度と実態がかなり乖離しているということです。小選挙区なのに、多党化しちゃった。とにかく政党が多く、それぞれが公約を出している。各々を分析すると微妙に違うけれど、全体としてどこに入れたらいいのかわからない。
新聞の役割は、有権者が候補者を選ぶために、どういう助けができるのかということだと思うんですね。一番いいのは、やっぱり新聞が「選挙制度を、もう1度考え直そう」と、ドンドン発信していくこと。そんな中で、僕ら現場の記者ができることは、あらゆるツールを使ってなるべく多くの情報をドンドン出すしかないのかなと思います。
今回も選挙が始まる前までは各記者を地方に派遣し、Twitterを使って、安倍さんなら安倍さんの演説の中から1つのフレーズを切り出して、“発言録”という形で出しました。我々が取材した情報は「隠すんじゃなくて開こうよ」というカタチで出し、それを加工する。そして、加工したものを選挙期間中に読者の方に出して、「みなさんはどういう基準で1票入れますか?」というところまで、提示できるような工夫をしていかなくちゃいけないと思っています。
大谷:各社が世論調査の形で選挙の情勢を出しますが、今回もかなり早い段階で「自民党事実上の勝利」みたいな報道がありました。これがあったからみんな諦めちゃって、こんなに自民が圧倒的に優勢だったら……という意見がBLOGOSにも寄せられていました。もしかすると、投票当日までメディアは一切情勢を報じずに、蓋を開けてみるまでわからないとしたほうがいいのでは?という意見もありますけど、その点についてはどう思いますか?
木村:僕は全くの正反対の意見です。マーケットと選挙は、非常によく似たところがあると思います。状況があまりわからないで、突然予想もしない結果が出ると、マーケットが異常に反応したりするじゃないですか?僕は民主主義も同じだと思うんですね。
また、僕は日本の世論調査の数が少なすぎると思います。イギリスは、メディアの数が多いから、毎日世論調査をしているんです。ほぼ365日、世論調査を発表していて、ネットでアンケートの項目と分類まで全部見られる。こうすることで、政治の流れがもっと的確に読めて、新聞で報道されているより、国民は世論の動向を詳しくわかっている。例えば、NHKがやっている25万世論調査。25万人も使ってやっているなら、もうちょっと情報を出してほしいなって思うんですよね。
大谷:新聞社の調査方法が「固定電話のある家庭のみ」という中で、若い世代は携帯電話しか持っていない。そう考えると、日本の世論調査には、若い世代の声は反映されていないのかもしれないというコメントがありました。ネットでも世論調査をやったほうがいいんじゃないかという意見もあります。世論調査の在り方として、ネットの声をどのぐらい取り入れていくべきだと思いますか?
須田:もう1つ加えるならば、調べているのに発信していない世論調査がある。出口調査をやって、どの人が当選して落選するのかをメディアは事前に掴んでいるんです。しかし、それについては報道していないですよね?
林:「世論調査の結果、こういう情勢です……」というのは総合的にやっていますよね。
須田:結局、それに近い結果にはなったけれど、そもそも情報を取捨選択してしまうのが、果たしていいのか、悪いのか。メディアが情報を出す、出さないをコントロールするのは、ちょっとおかしな話じゃないかと思うんですけど、林さんはどう思われます?
林:コントロールしようと思ってやっているかどうかはわかりませんが、出口調査などは、選挙の当打ちをするための材料なんですよね。
須田:使う目的が違うと?
林:そうじゃないのかなと思いますけどね。
大谷:もしかすると、固定電話の世論調査だけでなく、これからはネットも組み合わせた意見を世論調査として反映させていく方法もありかもしれませんね。
林:そのほうが、より民意を正確に反映できるのであれば、そのほうがいいんですかね。
須田:有権者も情報がドンドン出てくる状況になると、政治に対しても、情報に対しても、もっともっと感度を磨かないとという部分が出てくるように思います。
■夏の参院選に向けてネットをどう活用する?
―― 番組の最後に「2012年、ネットと政治の距離は近づいたのか?」というアンケートを取ったところ、結果は「1:かなり近づいた(19.4%)」「2:少し近づいた(45.9%)」「3:あまり変わらなかった(20.4%)」「4:全然変わらなかった(10.2%)」となりました。これを受けて、スタジオではこんな話が飛び出しました。
佐々野:「少し近づいた」がほぼ半数という結果でしたが、この“少し”っていうのは、どういう風に近づいたと思っているんでしょうか?
須田:ネットって、制約だとか制限になじまないものじゃないですか。それなのに公示日以降という制約・制限が加わってしまったことを考えると、近づいたとは言えないんじゃないかなと僕は思いますね。
佐々野:「ネットと政治」もそうですけど、ネットを使っているネットユーザー同士の戦いも激しかったと思うんですよね。何派と何派がガッツリ戦ったということもあったんですけど、それもうまく活用していかなくてはいけないんですかね?
木村:僕はできたらネットでも実名でやったほうがいいと思うんです。議論のぶつかり合いの中で、いい意見のほうが残るという風にしないといけないし、それが言論の力であり、民主主義の源泉になる。だから、ネットの果たしている役割は、非常に大きなものがあるんじゃないかと思います。
アンケートで「少し近づいた」がほぼ半数を占めたということは、これから可能性があることをみなさんよくわかっている。それを「どういう風に伸ばしていくのか」が、今、僕たちに突きつけられているように思いますね。
須田:2013年は参議院選という政治的に大きなイベントがあります。ですから、2013年も“政治の年”なんだと思いますよ。自公連立政権は3分の2以上取ったけれども、3位以下は過半数が割れているわけですよね。政治的な安定という点では到達していないので、参議院選挙まで、自民党と公明党はどこと組むのか?1つ1つ駒を進めて行く上で大きく影響してくると思います。
佐々野:参議院選でねじれが解消されたら、急加速的に政治が動くこともありえますか?
須田:どうでしょうね。“揺り戻し”があるから「3分の2は勝たせ過ぎちゃった」と考えている人もいるんじゃないでしょうか?
林:須田さんがおっしゃったように、夏の参議院選挙に向けてネットをどういう風に有効活用して、政治ニュースを良質なコンテンツにするか。そして、どうやってみなさんに届けるのかを考えながらやっていかなくてはいけないんだなと改めて思いました。
木村:今、アメリカの財政は“財政の崖”と言われていますが、日本の財政の崖のほうが大変なことになっている。自民党と公明党が選挙で3分の2を取って、参議院選挙でどうなるか。これは日本国民全員の生活に直撃するぐらい大きな分岐点になると思います。だから、僕も出来る限りつぶやこうと思っていて、もしみんながつぶやけば、日本も結構頑張れるんじゃないかと思っています。
佐々野:須田さんから今日の総括をお願いします。
須田:2013年も政治の年になるでしょう。加えて、もう1つ大きなポイントをあげると、おそらく日米首脳会談が行われます。私が聞いているところによれば、主要テーマは「中国問題」と「北朝鮮問題」。これは明らかに、安全保障上の問題です。もう少し細かく言えば集団的自衛権の問題に踏みこみ、その延長線上には憲法改正の問題が出てくる。これについて、2013年には喧々諤々な議論が交わされるんだろうなと。
「アメリカとの関係をどうするのか?その中で、憲法の問題をどう捉えていくのか?こういったことも大きなテーマになってくるので、やっぱり2013年は政治の年だと思いますね。
大谷:コメントで「参院選でネットの本当の力がわかる」とありましたが、今回ネット党首討論が初めて開催されたこと自体が話題になってしまって、内容やネットの選挙活動も含めて、どういうことをするべきだったみたいなこともあまり取り上げられなかったと思います。
ですから、次は2回目として、具体的にどういう使い方がいいのかや、ネットの声がどのぐらい民衆の声なのか、色々分かってくるところも出てくるんじゃないかなという風に思いますね。
ネット党首討論会、官邸前デモ、TwitterやFacebookを使った政治活動など、2012年は、ネットの声が社会に影響を与え始めた1年でした。しかし、まだまだ蒔いた種が少し芽を出した程度。今後、ネットの声と国民の声がイコールになり、本来あるべき姿である国民主体の民主政治を、実感できた時こそが、ネットの声が新政権に届いた瞬間ではないでしょうか。番組で須田さんが話していたように、2013年は政治の年。政権奪還を果たした自民党に、夏の参院選でどのような採点が下されるのか?それは決めるのは、有権者が持つ1票です。
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