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『週刊現代 2012年12月22日・29日合併号』(講談社)
新聞社データの横流しに世論操作の疑いも……
自民党圧勝を演出!? 新聞各社の世論調査と「週刊現代」が犯した罪
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2013.01.18 サイゾー
■世論調査が持つ危うさと怪しさ
今回の総選挙では「自民党圧勝」「民主党大敗」を各社が予想。おおよそ、予想通りの結果となったが、こうした世論調査報道は「投票先をまだ決めていない有権者への行動に影響を与える」との指摘は以前からある。調査結果を見て、勝ち馬に乗ろうとしたり、しらけて投票を棄権したりする人もいるというが、果たして実態は……。
自民党の圧勝に終わった昨年暮れの衆院選挙。全議席(480人)の過半数をはるかに超える294もの議席を獲得した自民党の勝ちっぷりもさることながら、民主党が57議席へと激減。この両党の落差に、驚いた読者も多かったに違いない。
勝敗の原因については、今回の選挙戦に関わったある選挙プランナーも語るような、次のような分析をよく耳にしたことだろう。
「小選挙区での自民党の獲得票数は、大敗した2009年の時と比べたって165万票以上も減っているんだから、自民党が信任されたなんていえない。なによりも、野田佳彦首相(当時)の自爆テロ解散による民主党自身の瓦解劇が主因。それに、59パーセント台という史上最低の投票率からもわかるように、乱立してまとまりも主張も欠く政党政治そのものを多くの有権者が否定したことが重大なんだ」
こう喝破する選挙プランナーによると、そこまで政治をしらけさせた一因は、新聞・テレビの大手マスコミにあるという。
「悪名高き世論調査が、選挙の意義を希薄化させ、しかも、そのデータを週刊誌に横流しして、希薄化を拡大させるマネまで犯したんだ」
順を追って、世論調査がもたらした”害悪”について見ていきたい。
MEMO
『自民党圧勝』12月16日に投票開票が行わた衆議院議員選挙では、自民党が改選前の119議席から294議席を確保するまでの大勝。民主党は230議席から57議席まで減らすという大敗を喫した。
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真っ先に問題として挙げられるのが、衆院選告示日の12月4日から5日にかけて行われた選挙情勢調査だった。この結果は、6日朝刊各紙に、こんな見出しで掲載された。
■朝日「自民、単独 過半数の勢い」「民主100議席割れか」
■読売「自民過半数超す勢い」「民主苦戦 維新、第3党うかがう」
■毎日「自民単独過半数の勢い」「民主激減70前後」
中でも、全国の地方紙に配信する共同通信の選挙情勢記事に、政界は度肝を抜かれた。選挙データからストレートに「自公300うかがう」とトップの見出しをとり、続く見出しに「政権奪還の公算」とまるで自民党機関紙みたいに絶賛したのだ。民主党議員秘書が振り返る。
「共同の記事って、新聞掲載日前日の夜には新聞・テレビに流れるんだ。番記者たちを通じて記事の内容は即日届けられたんだが、『自公300議席』と聞いて正直参った。さぁ、これから選挙戦本番という序盤戦で、われわれ民主党陣営は腰砕けになってしまったんだよ」
大手紙の政治部記者も当時の混乱ぶりを語る。
「共同が300議席超えを伝えたものだから、民主党候補たちから『新聞は何を根拠に書いてるんだ!』って、クレーム殺到だったよ。かたや、自民党の石破茂幹事長なんて、この結果を見て自党の候補が手抜きすることを恐れたね。『このままじゃ揺り戻しが激しい。新聞は自民党の勝利を邪魔立てする気か』って殺気立つ始末。両党から邪魔者扱いされるとは思わなかった」
これに追い打ちをかけた選挙情勢報道がある。
「12・16総選挙の最新データをスクープ」「大手新聞社・テレビ局・自民党が調査した50万人の『非公開ナマ数字』をすべて公開する」
こんな大見出しで詳細な選挙区ごとのデータを掲載したのは、「週刊現代」(講談社/12年12月22日・29日合併号)だ。
■「生データ」使用は禁じ手?「週刊現代」のスクープとは
同誌は、大手新聞社2社、テレビ局1社、そして自民党の調査データを入手したとして、そのデータを異例の12ページぶち抜きで一挙に掲載した。発売日は投票日4日前。
「驚かないでください! これが国民の選択です」とのタイトルも添えられ、記事中で「これはあくまで、『自分の住む選挙区の状況を知りたい』という、有権者のための情報だ」とも説明し、「自民党282議席、民主党83議席」と、もはやこのデータが選挙結果であるかのように報じた。大手紙の政治部記者が証言する。
「問題は、大手新聞社A社のデータです。小数点第1位までデータが出ています。いわゆる生データなんですね。ごく一部の選挙担当しかアクセスできないデータベースから持ち出されたと疑われ、同社内では犯人探しが続いています」
冒頭に触れたデータの”横流し”とは、この「週刊現代」の記事を指す。その問題点は後述するが、ここで登場する「生データ」について解説しておきたい。
いわゆる電話世論調査【1】は、個人宅の電話番号をランダムに選んで、調査員が1軒1軒電話をかけていく調査手法。その調査結果がちょうど500人分集まったとしよう。候補が5人で、このうち自民党候補が200人の支持を受けたとしたら、40パーセントを占めるので、40ポイントとする。これが生データだ。しかし、このデータは、実はそれほど意味がないという。選挙分析を長年担当した政治部OBが解説する。
「今回の選挙情勢調査は、ある致命的な欠陥があるんです。平日の日中、個人宅に電話をかけています。過去の経験から、平日に電話口に出る人は、50パーセントくらいが60歳以上の女性なんです。若い年代層は携帯しか使いませんから。そこで生データに、過去の世論調査や選挙結果、所属政党、現職か新人か、そして有権者の性別や年齢層といった各種要素をコンピューターに入力して解析をかけ、生データの偏りを直す作業が絶対必要なんです。これを補正といいますが、実際の得票率との間に、一定の傾向があることが立証できています。これは、新聞社に、長年収集した膨大なデータがあるからできる話なんです」
逆にみると、生データというのは、テレビ人気で沸いていたり、スキャンダルで落ち込んでみたりと、瞬間的な雰囲気に左右されてしまい、投票日当日まで生データが実際の投票行動の指標として維持されることは経験則上、ほとんどないらしい。
「生データそのものを、独り歩きさせるのは非常に危うい。しかも、新聞社の調査は公示後、2回行っている。問題の『週刊現代』が発売された12月12日時点では、すでに2回目の調査が進んでいて、石破さんが恐れていた揺り戻しが出始めていた。当初に比べ、自民党に不利な数字が出ていた世論調査も多かったのです。それなのに、『週刊現代』が掲載したデータは、1回目のもの。公示初期段階の、補正もかけない生データを掲載することで、投票日直前に国民に自民党大勝というイメージを再び刷り込んでしまったんだ」(前出の選挙プランナー)
そうでなくても、投票日前に有権者の投票行動を調べる選挙情勢の世論調査なるものは、個人情報収集の最たるものだろう。それを横流しして情報管理を怠り、まともな分析もしないで「自民党大勝」イメージを垂れ流すようでは、「第四の権力」であるマスコミの暴走と取られても仕方がない。こうして作られた「どうせ自民党が勝つ」というシラケムードが史上最低の投票率の一因となった可能性が高いことを考えると、マスコミが選挙情勢報道のあり方を考える時期に来ていることは間違いないだろう。
(編集部)
【1】電話世論調査
大手新聞各社は、今回の衆院選挙の選挙情勢調査で、全国3 00選挙区すべてに「ランダム・デジット・ダイアリング(RDD)法」という手法を使った電話世論調査を行った。これは、コンピューターで無作為に電話番号を発生させ、その番号に電話をかけるもので、電話帳に番号を載せていない有権者も選ばれる。調査対象者数は1選挙区当たり500人ほど。初回の調査は、公示日午後の早い時間帯から夜までの8〜10時間、2日目は午前中から5時間ほど行う。電話の調査員は、電話口で、質問票に沿って尋ねていく。例えば、「小選挙区で投票する人を決めていますか」と尋ね、決めている人だったら、全候補者を読み上げた上で、政党名と候補者を回答してもらう。比例代表についても、同様に政党を順番に挙げて尋ねていく。こうして得たデータに、経験則などから導き出される補正をかけて、各社独自の調査結果を発表している。「週刊現代」では、その取材力を生かし、報道各社からデータを入手、さらに自民党が独自に行った調査結果も入手して、スクープを飛ばした。
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