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<インタビュー>ルックイーストはいま マハティール・ビン・モハマドさん
朝日新聞 2013.01.15 東京朝刊 11頁 オピニオン1
マレーシアの首相を22年間務めたマハティール氏は1982年に「日本を見習え」と、ルックイースト(東方)政策を唱えた。それから30年余り。「いまや日本の過ちから教訓を得るときだ」「韓国により多く学ぶ点がある」と苦言を呈する。アジアを代表する知日のリーダーは、停滞が続く日本にいらだちを隠さない。
――ルックイースト政策は成果をあげたのでしょうか。
「マレーシアの発展に寄与したことを疑う余地はない。労働に対する真摯(しんし)な姿勢、戦後復興への熱意と愛国心、独自の経営スタイル、職場での規律を日本から学んだ。貧しかったわれわれは、日本人の価値観や倫理観を見習い、民族(マレー系、中国系、インド系)間の協調を保つことで発展しようと考えた」
――多くの日本企業を誘致し、留学生を日本に送りました。
「日本は素材を輸入し、加工して輸出していた。貿易立国をめざすマレーシアにとって、技術を通して世界市場に打って出るモデルだった」
――当時の日本は経済的に日の出の勢いでしたが、いま長い停滞のなかにいます。
「日本が苦境にあるのは、経済大国への道を切り開いた自らの価値を捨て、欧米に迎合したからだ。例えば終身雇用制などに重きを置かなくなった。政府の指導や民間企業との協力関係はいまや犯罪視される」
――系列、行政指導、日本株式会社といった、欧米から批判されたシステムにあなたは肯定的でした。それらを捨てたことが間違いだと。
「大きな誤りだった」
「われわれが見習ったのは、現在の日本がやっていることではない。いまはあなたたちの犯した過ちを繰り返さないようにと学んでいる」
――しかし90年代以降のグローバリゼーションは、そうした日本のシステムの生き残りを許さなかったようにみえます。
「確かにグローバリゼーションはやってきた。それは欧米のアイデアであり、彼らの利益のために考え出された。新たなシステムを採用すれば、混乱はつきものだ。日本は国内の状況を斟酌(しんしゃく)せずに受け入れた。それまでのやり方とグローバリゼーションを調和させることに失敗した」
――日本の短命政権についても常々批判されています。
「日本の政治状況も悪影響を与えている。中曽根康弘首相や小泉純一郎首相は長くその座にあったが、首相があまりに短期間で交代する。政府は安定せず、政策を立案し、実行する時間的な余裕がない。民主党もその点は同じだった。党内の支持をまとめきれない首相が続き、問題を解決できなかった。日本が危機を乗り越えられない理由だ。ひとたび選んだら団結して応援する。首相個人の弱みは脇に置いて日本の復興に集中させることだ」
――「現時点では、古い社会システムと労働者倫理が残っている韓国のほうが(日本に比べ)学ぶ点が多い」と著書で指摘されています。
「東方政策は当初から日本だけでなく韓国や台湾も視野に入れていた。いまなら中国も。もちろんほとんどは日本から学んだ。文化や倫理、日本を発展させた価値観。だがその多くはもう日本にはない」
――日本と韓国の違いは。
「日本は明治時代から西洋化を始めたが、韓国は戦後のスタートだ。それでも速く発展している。常に日本を目標にし、科学技術とマーケティングを磨いてきた。韓国の大統領は5年間代わらない。私にとって5年は十分ではないが、日本よりはましだ。政治制度の違いは大きい」
■ ■
――中国はいまやルックイーストの対象であり、脅威ではないと発言されています。日本や他の近隣国の指導者とは見方が違うようです。
「過去2千年、中国がマレーシアを侵略したことはない。ベトナムに拡張を試みたが、あきらめた。日本に攻め込もうとしたのは、モンゴル高原に発する『元』だ。われわれを植民地にした西欧に比べれば中国が過去、好戦的だったとは言えない。市場経済の時代に、中国が日本をはじめ、周辺国を侵略する意図を持つとは思えない」
――中国は東シナ海や南シナ海で領有権を強く主張しています。
「中国は豊かになり、さらなる富を得るため海に手を伸ばしている。中国が国内総生産の1%を軍備にあてるだけで巨額だ。かといって中国が戦争を欲しているわけではない。交渉によって解決するほかない」
――対話を通じて解決をめざす意図が中国にあるのでしょうか。
「日本に米軍基地があれば、中国はそれを脅威に感じる。日本から米軍の兵器が発射されたら、と軍備を増強する。相手の立場から状況を考えてみることも時には必要だ」
――日本では自民党が選挙中、自衛隊の国防軍化や尖閣諸島への公務員常駐などの政策を掲げました。
「実行すれば、中国はこれまで以上に軍備を増強し、対抗しようとするだろう。お互いの挑発がエスカレートし、ついには戦闘に至るかもしれない。賢明ではない」
「マレーシアは隣国すべてと争いを抱えているが、タイとは協定を結び、インドネシア、シンガポールとは国際司法裁判所で決着。負けても受け入れた。フィリピン、ブルネイとも交渉し、現状を維持している」
――日本は経済的に自信を喪失し、その反動として右傾化が進んでいるとの指摘があります。
「危険なことだ。日本が自信を取り戻すのは軍事ではなく、経済力を回復させるしかない」
■ ■
――97年のアジア通貨危機でマレーシアは周辺国と違って国際通貨基金(IMF)の支援を求めず、通貨の変動相場を固定相場制にして、しのぎました。
「IMFを頼らなかったのは、自国のことは自国で決めるためだ」
――10年以上たって、リーマン・ショックがあり、続いて欧州危機が起きました。
「欧米では、市場が自律的に需給を調整するといって、政府の規制を嫌う。だが金融市場はシステムを乱用して回復不能に陥った。ヘッジファンドが錬金し、銀行は無理な住宅ローンを貸し付ける。借り手は払えなくなり、銀行は債務超過で危機に陥る。強欲の結末だ。穴埋めに中央銀行が札を刷り、倒産企業を政府が支援している。かつて批判してきたことをそのままやっているのだ」
「戦後、日本や韓国など東洋の国々が安く良質な製品をつくるようになった。欧米は製造業の分野でかなわなくなり、金融市場に活路を求めた。サブプライムローン、レバレッジ……。製品も雇用も生まない。商いとはいえない、ギャンブルだ」
――米国のいいなりになる日本政府に何度も不満を表明しました。米国の意向をくんで、あなたが唱えた東アジア経済会議(EAEC)構想に反対した時やイラク戦争を支持した時です。そんな日本に学べと号令をかけたことを後悔はしませんか。
「われわれが見習ったのは、高い職業倫理で戦後の復興を果たした日本だ。米国の影響下にある日本ではない。米国はEAECに中国を含めたから反対した。環太平洋経済連携協定(TPP)でも中国を除外しようとする。われわれは東洋の人間だ。敵をつくるのでなく、自分たちの問題は自分たちで解決すべきだ」
首都クアラルンプールを象徴するペトロナスツインタワー最上階の執務室=古田大輔撮影
■ ■
――マレーシアの与党は57年の独立以来、政権にとどまっています。
「三つの民族を代表する党で連立を組み、政局より経済発展に力を注いできた結果だ」
――政権交代がないと民主主義とはいえない、という見方もあります。
「与党がうまくやっている時に代える必要はあるのか。変化を望むというだけで? 交代には必ず混乱が伴う。日本は政権交代で何を得たのか。よりよき政府を持てたのか。オバマ米大統領は『チェンジ』と言ったが、4年たっても、グアンタナモさえ閉鎖できないではないか」
――マレーシアの民主主義は、それ以外の国々とは違うのですか。
「民主主義にはいろんな解釈がある。だが基本は選挙を通じて政府を選ぶ権利があるということだ。マレーシアでは国民が与党を選んできたが、08年の選挙では大きく議席を減らした。だから今は弱い政府だ。それはこの国にとって良くない。国民は野党に投票することができる。だがその対価は支払う必要がある」
――あなたは独裁者のように支配し、言論の自由を制限し、メディアを規制したとも批判されます。
「われわれには民族問題があり、対立をあおる報道は、国の安定を損なう。報道の自由は、絶対的なものではない。限界がある。英国さえ報道規制を検討しているではないか」
*
Mahathir bin Mohamad 1925年生まれ。マラヤ大学医学部卒。医学博士。開業医をへて、81年から03年まで首相を務めた。
<取材を終えて>
「日本を見習え」「日本は戦争について繰り返し謝る必要はない」。そんな発言をしてきたマハティール氏だが、米国を頼りに隣国に強硬姿勢で臨もうとする安倍政権の対外政策には批判的だ。「戦後復興を果たした勤勉さや倫理こそが愛国心」。退任後、日本風パン屋を日本人と共同経営する親日家の叱咤(しった)であり激励だ。
(機動特派員・柴田直治)
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<参照>
1485 ・日本の過ちは、自らの価値を捨て欧米に迎合したことだ」と、マレーシアの元首相
http://blog.goo.ne.jp/ikiikimt/e/b1de1b6b341ed5da0b3bd0005ac4b5c8
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