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2013年1月10日 植草一秀の『知られざる真実』
安倍政権が発足し、メディアがはしゃいでいる。
私は『金利・為替・株価特報2012年10月29日号』に、現在の金融市場動向を予測して書いた。
http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html
為替市場の基調が円高から円安に変化し、これに連動して日本の株価が上昇に転じる可能性が高いことを記述した。
為替市場の基調が円高から円安に転じる可能性が高まったと判断した最大の理由は、日本政治が変化して、日銀に対する追加金融緩和政策圧力が一段と強まる可能性が高いと洞察したことにある。
その後に野田佳彦氏の解散決定があった。
金融市場は安倍政権誕生を予測して、金利低下=円安=株価上昇の反応を生み出してきた。
現在の市場変動は予測通りのものである。
株価は経済活動の先行指標的な動きを示すから株価上昇は悪い話でない。
長期低迷を続けている日本経済が改善傾向を示すことは望ましいことである。
しかし、現在の市場変動の改善がもたらされている背景、その最終的な帰結を考慮すると単なる楽観論にひたることはできない。
株価が上昇した契機は衆議院解散の決定だった。
11月14日の党首討論で野田佳彦氏が11月16日の解散を宣言した。
この瞬間から市場は安倍晋三政権の誕生を予測し始めた。
安倍氏は日銀の金融緩和政策の強化を打ち出した。
日銀法を改正する、あるいは国債の日銀引受けを認めさせる方針まで示唆した。
金融市場は追加金融緩和策が強制されることを予測し、そこから一種の連想ゲームを展開した。
日本の金融緩和政策は円安要因である。
2008年以来、日本の株式市場では、円高=株安、円安=株高の反応を繰り返してきた。
安倍政権誕生=金融緩和強制=円安進行=株高進行の連想が広がった。
金融市場の変動は、予想の先取りという面がある。また、連想の結果を金融市場の参加者がどう予測するかを予測するという、市場参加者の行動に関する予想に基づいて市場参加者が金融変動を予測し、その予測に従って行動するという側面を持つ。
実際に経済がどのように変動するのかというよりも、経済変動や金融市場変動を人々がどのように予想するのかを予想して実際に市場変動が生じるという側面がある。
かくして円安が進行し、株高が進行している。
また、財政再建と大増税を主張してきた自民党だが、選挙になると大型補正予算の話が急浮上した。
「公共事業による景気対策はオールドファッション、時代遅れ、オールドケインジアンの政策だ」と主張してきた事実をどこかに置き忘れたかのような、話が浮上した。
10年で200兆円の公共事業など、時代の針が一気に逆戻しされたかのような政策が提示された。
この大型補正予算編成のニュースも株価を押し上げる働きを示している。
問題は以下の三点に所在する。
第一は、いま論議されている大型補正予算の真の目的が日本経済の浮上にはないと考えられることだ。
第二は、安倍晋三氏が推進しようとしている「インフレ誘導政策」が主権者国民の利益にはならないと考えられることだ。
第三は、日本の予算構造、政府活動の利権的性格が強化されることだ。
第一の点について言えば、政府の本当の目的は景気回復にはない。
政府の狙いは消費税大増税の強行にある。
参院選が終了した後、政府は消費税大増税にいよいよ突き進むことになる。
国民に景気回復策という「ごちそう」が振る舞われるというよりも、政府が国民をごちそうとして食べてしまうために、国民にエサを与えるというのに近い。
国民は振る舞われるのではなく、肥えて太らされる「食用の家畜」として捉えられているのだ。
インフレは主権者国民に利益をもたらすものではなく、大資本と政府に利益をもたらすもので、利益を受けることのない国民が騙されてはならない。
そして、予算資金配分は国民に対する直接給付から、公共事業などのような利権事業者への間接給付に回帰しようとしている。
時計の針は確実に逆戻しされ始めいている。
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