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2013年01月03日 世相を斬る あいば達也
ローマ法王が、昨年12月20付のフィナンシャル・タイムズ紙に寄稿したのに続き、新年のバチカン、サンピエトロ大聖堂における“新ミサ”を行い、世界に混乱を招いている世界経済の現状を憂い、市場原理に委ねられた世界金融経済が、人として生きる道を見失っている事に関し、強い憂慮の意志を示した。 法王は「クリスマスには聖書を読んで学ぶべきだ。政治や株式市場など俗世のできごとにどう関わるべきかの啓示は、聖書の中に見つけられる」、「貧困と闘わなければならない。資源を公平に分かち合い、弱者を助けなければならない。強欲や搾取には反対すべきだ」、「貧富の格差の拡大、規制のない金融資本主義にみられる利己主義・個人主義的な傾向、さまざまな形態のテロ・犯罪」が世界の緊張と紛争の温床」になっているなど、異例の形で具体的に神を怖れず俗化の一途を辿る、自己利益追求に明け暮れる国家・資本・個人に強く警鐘を鳴らした。
勿論筆者は“八百万の神”な人間なので、キリスト教にも仏教にもイスラム教にも無縁だ。ただ、ローマ法王の地位は欧米において揺るぎ難い権威を保っており、法王の発言はかなりのインパクトを持っているものと想像する。様々な宗教がこの世にはあるわけだが、その宗教が成り立つ土俵には、常に一定の人間達の集団があるわけだ。その土俵を構成する人間達には、自ずと人間である事を求める教義(人間が如何なるもので、如何に生きるべきか)があるわけで、その教義の多くは普遍性を持っていることが多い。その普遍的意味において、ローマ法王の言葉には、他宗教と共通の「人の道」に対する言及がなされたと理解する。
ローマ法王の発言をあざ笑うかのように、総選挙で漁夫の利を得た自民党は、安倍首相の主張する“アベノミックス”と云う20世紀の遺物のような経済政策で景気浮揚を試みようとしている。人工的に需要を提供(公共事業)し、日銀に無制限に量的緩和を強制し、建設国債を日銀に引き受けさせると云う、戦争中のような勢いで太鼓を叩いている。謂わば、偽りの需要を政策的に市場に提供し、景気浮揚のきっかけを作ろうとしている。だいぶ昔の話だが、レーガノミクスの真似事である。ただ真似事であり、虚偽の重要創出であっても、当面市場は反応する。それが年末にかけての円安・株高だ。世界経済全体では、米国の“財政の崖”が議会で回避され、こちらもローマ法王の言葉がなかったように狂乱している。
≪世界の金融市場、円安・株高進む 米「財政の崖」回避で
【琴寄辰男、ニューヨーク=畑中徹】米国の「財政の崖」が回避されたことを受け、2日の世界の金融市場では円安と株高が進んだ。4日に今年最初の取引が始まる東京市場でも、安倍晋三首相の金融緩和強化発言で始まった昨年来の円安・株高の流れが続く可能性が高まっている。
ニューヨーク株式市場は2日、大きく上昇して始まった。大企業で構成するダウ工業株平均は一時、前営業日(昨年12月31日)の終値より270ドル以上、値上がりした。
米議会の交渉が難航した12月下旬には、投資家の不安がピークに達し、ダウ平均は5営業日続けて下落。下げ幅は合計で約380ドルにのぼっていたが、「崖」からの転落が避けられた安心感から再び株式が買われている。
一足早く取引を終えたアジア各国の市場でも軒並み値上がりした。韓国の総合株価指数(KOSPI)は昨年末終値より1.70%上昇し、約9カ月ぶりの高値をつけた。香港のハンセン指数も同2.89%値上がりし、約1年7カ月ぶりに23000台を回復。英国、ドイツなど欧州の株式市場も値上がりして始まった。
一方、外国為替市場では円を売ってドルを買う流れが加速している。2日のシドニー市場では、円相場は一時、1ドル=87円30銭付近まで値下がりし、2010年7月下旬以来、2年5カ月ぶりの円安ドル高水準となった。安倍首相が年頭所感で、大胆な金融緩和などで「強い経済を取り戻す」と改めて強調したことも、円売りにつながった。
円はユーロに対しても売りが優勢で、円相場は一時、1ユーロ=115円90銭台まで値下がりし、11年7月以来、約1年半ぶりの円安ユーロ高水準となった。
東京株式市場は4日に年明けの取引が始まる。一段の円安進行もあって、日経平均株価が昨年11月中旬から年末までに約2割上昇した勢いは当面、維持されそうだ。≫(朝日新聞デジタル)
まぁ首相の言葉に励まされ、低迷したままの株式相場が上向きに転じた事は悪いことではない。ボロ株と化していたゼネコン株が上昇する事は個人的に嬉しい限りだが、旧態依然とした業態の株が上がりだすような相場は、国家的に見たら、良いことではないだろう。株式などに端から縁のない人々にとっても、可笑しくも嬉しくもない話である。株高が此の儘続くとは思えないが、ミニバブルをアベノミックスが狙っているのは確実だ。しかし、金融資本が主体の今日の市場では、政府や日銀だけの政策調整能力だけで、簡単に消火可能なバブルで済むかどうかも怪しい。
市場経済から考えると、資産バブルが生じるが、持つべき者が潤うわけで、そもそも資産など持たざる者のメリットはゼロである。ゼロなら、それは不幸中の幸いで、実際はインフレが加速するわけだから、物が値上がりする。不動産と云う資産も上がるかもしれない。本当の需要が提供されない虚構のバブルでも、経済的影響は大きい。持つ者と待たざる者の格差は一段と酷くなる。貯蓄だけが頼り(貯金の価値下がる)の高齢者層には、インフレは死活問題になる。円安で歓ぶのは旧態依然の輸出産業だが、円安の流れだけで大企業が救われるかどうか疑問点が多い。また、彼らの多くは優遇税制により、当面大儲けしても、税金を払う事はないだろう。
ところで、円安と株高で好決算続出の大企業群が生まれたからといって、サラリーマンの給料は上がるだろうか?上がらない。これはグローバル経済下における企業の株主優先哲学が頑強に否定する。また円安は、生活者の家計を圧迫するような値上がりラッシュを演じるだろう。必ずガソリンや電力料は上がる。食料品も結構燃料費云々が関係ないようで関係が深く値上がりする。勿論、小麦や油脂関連商品にも値上げが波及する。生活者にはアベノミックスは過酷を強いているわけで、生活者にとって自民党の“景気浮揚”は敵なのである。
まぁマスメディアが喧伝した「景気浮揚の是非を問う」みたいな嘘八百に乗った有権者が悪いと云うか、投票に行かなかった事が悪いと云うか、自分の首を自分で絞めているわけで、同情の余地はない。昔に比べれば、すべての情報が隠蔽されているわけでもない。民主党の唯一の功績でもある情報公開により、一定の範囲で、審議会の過程であるとか、大臣の記者会見とか、議会TVによる予算審議中継とか、得ようと思えば情報は公開されていた。しかし、多くの日本人は、解説を聞かないと、何が何やら判らないと云う人々が殆どだ。そして、その解説を、自らの考えとして鸚鵡のように繰り返す。
本来、民主主義国家における国民有権者は、一個人としての利益損得と、国家の意志決定の主権者であると云う、一個人が持つ二つの属性を棲み分け、それぞれに思考を加えるべきものである。つまり、生活者としては電気料が安い方が良い。停電の心配など起きない方が良い。しかし、主権者として考える時、まったく信用に値しない政府や電力会社に危険極まりない原発の運営を委ねることは出来ないと考える如し。或いは、株式も保有しているし、アパート経営もしているから、資産インフレは非常に助かる。しかし、国民の多くが給与生活者だ。彼らの給料も上がれば良いが、上がらないとなると、生活を圧迫するだけになる。貧すれば鈍する、人心が乱れて国が良くなるか?筆者は切実に思う、日本人には生活者視点が強過ぎる。主権者視点に気づかないと、おそらくこのまま米国の属領だけの国家になるのだろう。
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