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[核心]1931年からの警鐘
二大政党の失敗 教訓に 論説委員長 芹川洋一
ついに2012年も、きょう1日を残すだけとなった。さて今年はどんな年だったのだろうか。自分の生きている時代を同時進行でとらえるのは、なかなかむずかしい。それは後世の史家の仕事かもしれない。だが、それでも、歩む方向をまちがえないようにするためには、過去も振りかえりながら、ちょっと考えてみる必要がある。
そんなことを思いながら、本屋をのぞいていたら、20年ぐらい前に読んだ本が文庫本になって平積みされていたので、なつかしくなり手にとった。
経済学者で東大名誉教授の中村隆英著『昭和史』(東洋経済新報社)である。ぱらぱらめくっていたら、はっとするくだりに出くわした(上 225ページ)。
「日本の社会が平面の上に乗っていて、そのなかで、左翼から右翼まで座標軸上に位置づけられているとしたとき、その平面自体が右方に地すべりを起こしたとしよう」
「ある個人のこの平面の原点からの距離は不変であっても、平面が右方に動いたために右よりの考え方になじんでしまう結果になる」
「一九三一(昭和六)年秋からの一、二年の間に、日本社会はなだれを打って右側に移動したのである」
1931年秋とは、9月18日におきた柳条湖事件のことだ。満州事変のはじまりである。
2012年9月11日の尖閣諸島の国有化をきっかけに、中国とのあつれきがつづく今の時代の空気は、どこか満州事変で平面が右側に動いた31年のころに似ているのではないだろうか。
尖閣諸島はもちろん日本固有の領土であり、その後、領海に侵入され、領空を侵犯されているのはわが方である。
ただ、国家主義とも民族主義とも訳されるナショナリズムが刺激されたのは間違いない。その度合いで、より傾いているのを右、そうでないのを左とすれば、日本社会の平面はやはり右に地すべりをおこしているような気がする。
こんどの総選挙をふりかえってみると、よくわかる。日本維新の会の石原慎太郎代表が吹かせた右からの強風は、保守政党である自民党を左に押しやり、まるで中間的な政党であるかのような印象さえ与えた。
安倍晋三総裁が憲法改正や国防軍という言葉を発しても、憲法廃止や核兵器シミュレーションといった相手を刺激する石原話法によって、中和されたところがあった。政治とは相対的なものである。
自民党大勝のひとつの要因として、こうした「慎太郎効果」をあげてもいいだろう。
尖閣国有化に火をつけて、中国の激しい行動を呼びおこし、それが日本国内での嫌中感情につながりナショナリズムの気分を高めているからだ。
総選挙結果をみていると、民主党圧勝の前回と、自民党大勝の今回のように、二大政党で大きく入れかわる相似形の時代が戦前あったことに気づいた。
1931年の柳条湖事件をはさんだ30年2月と32年2月の総選挙がそれだ。
30年、浜口雄幸首相ひきいる民政党が緊縮政策をかかげてたたかい、浜口人気と政友会の不人気もあって273議席を確保し、政友会を100議席近く引き離して大勝した。1
32年、すでに政権が民政党から政友会に移っており、犬養毅首相のもと、政友会は景気一本やりで選挙にのぞみ301議席を獲得して圧勝。民政党は議席を半減させる敗北を喫した。
つい最近、『政友会と民政党』(中公新書)を刊行した日本政治外交史の井上寿一学習院大教授に、この相似形の背景を聞いた。井上氏は31〜32年と現在との間には、3つの共通点があるという。
「第1は景気と雇用への判断だ。有権者は、32年が『犬養景気』、今回がデフレ脱却とインフレ目標を設定する『安倍リフレ』にかけた。満州事変も尖閣も対外危機に有権者はあまり反応していない」
「第2は政党が党利党略で動き、有権者に二大政党制への懐疑の念が強まっていること。第3は格差社会の問題だ。今や一億総中流がくずれ、戦前と同じように格差が拡大している」
政友会は次の36年2月の総選挙で惨敗した。五・一五事件で犬養内閣がおわったあと非政党の挙国一致内閣がつづくが、政友会は単独内閣をめざし天皇機関説で政府をゆさぶり、民政党との政民連携にも距離をおき、有権者に見放された。
そして二・二六事件をへて、二大政党の解党、敗戦への道を突き進んでいく。
国の危機や大きな課題には、政党が協力して向き合い、解決していくのを有権者は求めている。党利党略に走り、その期待を裏切ったとき、何がおこるかは、今も昔も変わらない。
第2次安倍内閣は党内の総力を結集するかたちで発足した。安倍首相はナショナリストのようでいて、実は現実的な判断をするリアリストだ、というのが首相をよく知る人の見立てだ。
保守派をおさえられるのも、また保守派である、という政治の経験知もある。
2012年に平面が右に移動したとして、その中で国を立て直していくのが13年の最大の課題だ。1931年から聞こえてくる鐘の音にも思いをはせながら、今夜の除夜の鐘を聞こう。
[日経新聞12月31日朝刊P.5]
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