02. 2012年12月29日 23:53:30
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早速始まったか 【第17回】 2012年12月28日 財部誠一 [経済ジャーナリスト] 安倍政権の成長戦略はどうすれば失敗しないか 12月26日、3年4ヵ月ぶりに自民党が政権復帰を果たし、安倍政権が誕生した。新政権は、民主党政権時代とは比較にならぬ安定感を醸し出している、という印象だ。皇居での親任式後に行われた記者会見で、安倍新総理は内閣のミッションを明確に打ち出した。外交も経済も復興も、課題は山積みだが「強い経済を取り戻す」ことが、安倍政権の1丁目1番地であると言い切った。
“素人政党”との格の違いを見せつけた自民党 政権発足前から日銀に金融緩和圧力をかけ続け、最終的には「日銀法改正」にまで踏み込んで日銀を恫喝した。「御殿女中」などと揶揄される役人集団の日銀は元来、弱腰だ。自民党の勝利と総理就任が確実視されていた安倍氏の「日銀法改正」発言で、日銀は態度を豹変。白川方明日銀総裁は、衆院選前の12月20日に行われた金融政策決定会合後の記者会見で「1月の会合でインフレ目標2%を検討する」と公言した。 衆院解散から年末にかけて、劇的な円安・株高シフトが起こった誘因が安倍発言であったことは間違いない。安倍自民党はやはり政治を知っている。どこをどう押せば日銀や役所が動くのか、日本の統治機構に精通しているのだ。その直前、民主党の前原誠司国家戦略相が日銀に金融緩和圧力をかけるというまったく同じ目的をもって行ったのは、日銀の金融政策決定会合にオブザーバーとして出席することだった。品位はあるかもしれないが、そんなことでは御殿女中にもなめられる。日銀の独立性を担保する金科玉条の日銀法にまで「手を突っ込むぞ」と恫喝することが、一番効くのだ。 日銀を口先ひとつで動かした自民党と、オブザーバー参加で日銀に軽くあしらわれた民主党。プロはプロであるがゆえの問題を引きずるものの、主体的に国家を動かすことのできなかった素人政党との格の違いを見せつけた格好だ。 その安倍政権は自ら使命と掲げる「強い経済を取り戻す」ためにいかなる手段を講じるつもりなのか。強い経済を取り戻すための入り口は「デフレ脱却」だ。20年もの長きにわたってデフレを続けている日本経済は世界に例をみない異常事態に陥っている。ありとあらゆる政策を同時進行で進めていかなければ出口はみえない。安倍政権にはその理解がある。 具体的にはつぎの3点に集約される。 金融政策、財政政策、成長戦略の3つだ。 「安倍発言」で日経平均は1万円台へ 財政政策はバラマキに陥らないか 金融政策とは、日銀による無尽蔵の金融緩和だ。諸説分かれ、行き過ぎた金融緩和の副作用を指摘する声も少なくないが、政府・日銀が一体となり断固たる決意でデフレ脱却を目指すという強いメッセージを市場に発信した意味は小さくない。 言うまでもなく、政治が日銀の懐に手を突っ込むのは危うい行為だ。財政規律を大きくゆがめかねない。だからこそ先進各国は中央銀行の独立性維持のための仕組みを持っている。日本でも97年に戦時立法のままであった日銀法を改正したのは、まさしく政治からの独立性担保を目的としたものであった。その歴史を鑑みれば「日銀法改正」は、総理といえども気軽に口にしていい事柄ではない。 ただ抽象的な議論ではなく、失態続きの日銀に日本経済を委ねるわけにはいかないという現実問題があることも否定できない。深刻なデフレ経済下で、景気が持ち直しそうになるたびに、日銀はインフレ恐怖症から金利引き上げに動き、デフレ脱却の芽を自ら摘んできた経緯がある。だから安倍政権はデフレ脱却の有力手段である金融政策をこれ以上日銀の勝手気ままにはさせない、ということだ。 たしかに安倍発言の効果は絶大だった。超円高は一気に解消へ向かい、為替レートは1ドル85円台まで急落。日経平均も1万円台へと回復した。それがすべて安倍発言によるものとは思わないが、政治が本気になればマーケットは反応するということだ。 もちろん金融政策だけでデフレ脱却ができるわけもなく、安倍政権は10兆円規模と思われる補正予算を組んで思い切った財政政策もあわせ技でやるとしている。26日の記者会見でその財源を尋ねられた安倍総理は「建設国債のみならず、必要とあらば赤字国債を発行する」と答えた。 ここも諸説分かれる。民主党は直接給付でバラマキをしたが、公共投資でのバラマキは自民党の十八番だ。重篤な財政状況のなかで、さしたる乗数効果を期待できない公共投資を景気対策としてやることに対する抵抗感は根強い。 この手の批判に対して安倍総理は「防災、減災のための公共投資であり、従来とは違う」と反論する。どうせ使うカネなら、デフレ脱却のあわせ技として使った方が価値があるというロジックなのだろう。不要不急なハコモノ作りに精を出すのなら、防災、減災目的の公共投資の方がましだろう。わからなくもないが、投資先には徹底的にこだわってもらいたい。防災、減災を金科玉条とせず、デフレ脱却という目的にかなった公共投資にこだわってもらいたい。ほんのわずかでも民間投資を誘発する公共投資に執着してほしいものだ。 本当に「環境」「福祉」「医療」は成長産業か 日本で第2のホンダが生まれない理由 だが、金融政策と財政政策だけではとうてい不十分である。 最大のポイントはいかなる成長戦略を打ち出せるかだ。 成長戦略というと、猫も杓子も「環境」「福祉」「医療」だという。それは本当だろうか。たとえば太陽光パネルメーカーは中国、韓国、台湾の安売りメーカーを前にすでに立ち行かなくなっている。リチウムイオン電池も瀕死だ。国民の電気料金で発電した電気を買い取ってもらうメガソーラー企業は乱立したが、彼らが調達したパネルの大半は中国産か韓国産である。「環境」を単純に成長分野などと呼ぶのは実態を知らない絵空事である。激しいグローバル競争にさらされている「医療」分野にも同じことが言える。ポイントはどの成長分野であるかを明示することではない。新しい起業家が続々と生まれてくることだ。 日本経済が他の先進国と比べて異様なのは、“リスクマネー”の消失だ。年金も郵貯も民間銀行も、余ったカネの運用先はみな国債だ。メガバンクを見ても、預金と貸出の比率である預貸率は70%を切っている。つまり100の預金のうち、貸出に回っているのは預金額の7割以下ということだ。貸出に回らなかったお金の大半は国債で運用されている。年金も株式運用は6%以下と規制され、ほとんどの年金資金は国債で運用されている。郵貯もしかり。日本には1500兆円という世界一の個人金融資産があるのに、まったくといっていいほどリスクマネーに回っていない。これではベンチャー企業など生まれるわけがない。 2000年代初め、日本にはベンチャー支援ムードが高まり、ベンチャーが企業としての体をなさないアーリーステージから資本を提供するベンチャーキャピタルファンドが多数生まれた。だが、ファンドの満期とともに資金が引き揚げられ、運用資金が枯渇し廃業に追い込まれるベンチャーキャピタルが続出している。 そもそもベンチャー企業などというものは、海のものとも山のものとも知れぬ、怪しい会社が少なくない。しかし、その怪しさの中から煌めく世界を魅了する企業が生まれてくるのだ。今をときめくアマゾンだって起業当初の10年間、ほとんど赤字だった。それでもアマゾンに投資をし続けた投資家の存在がいたからこそ、今のアマゾンがある。銀行融資だけではアマゾンもアップルも存在していなかっただろう。大企業への補助金や銀行融資によって新しい成長戦略が描けるなどと思ったら大間違いだ。 人口減少社会に陥った日本が、それでも力強い経済成長を実現できる可能性があるとしたら、第2のソニー、第2のホンダが続々と生まれてくることである。もちろんそれは製造業に限定されるものではない。どんな分野でもかまわない。魅力的な製品、サービス、コンテンツを提供するベンチャー企業に潤沢なリスクマネーが供給されるという環境整備こそが最大の成長戦略だ。 そのために年金資金の株式運用の上限を現在の6%から20%程度へと引き上げる政策も実現してほしい。年金で株を売ったり買ったりしろといっているわけではない。長期資金である年金が日本企業の株を長期保有するということだ。 株価上昇、ベンチャー活性化のため リスクマネーの供給を リーマンショックの後、欧米諸国の株価はとうの昔にリーマンショック前の高値水準まで回復したというのに、日本株だけが独歩安だ。日本株は12年末に1万円台を回復したが、リーマンショック前の高値が1万8000円であったと知れば、日本株がいかに安値で放置されてきたがわかるはずだ。理由はいくつもあるだろうが、一番のポイントは日本には日本株を購入する投資家が存在しないことだ。 デフレ脱却の必要十分条件は株が上がることだ。株が上がればすべての株主がハッピーになる。大企業のサラリーマンは自社株の持ち株会を通じて株を所有し、大きな含み損をかかえている。大企業の役員のなかには、役員就任時に銀行ローンで自社株を購入、返済できずに役員定年を迎えている者もいる。中小企業の経営者は取引先企業の株を持ち、これまた大きな含み損を抱えたままだ。そして、日本でもっとも消費力を備えた団塊の世代も株持ちだ。今の日本は、株価が値上がりしただけで、消費意欲が爆発する構造になっている。 株価を上昇させるためにも、またベンチャー企業を豊かに育んでいくためにも、市場へのリスクマネーの供給が不可欠であり、それこそが最も効果的な成長戦略でもある。そうした認識を安倍政権にはぜひとも持ってほしい。 |