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【コラム】筆洗
東京新聞 2012年12月27日
「総理大臣になると、見えなくなるものが三つある」。二・二六事件で首相官邸を襲撃され、義弟が身代わりとなって、辛うじて難を逃れた岡田啓介首相が語っていた
▼何が首相の目をふさぐのか。一つは「カネ」だ。権力を手にすることで金には不自由をしなくなるという。次に見えなくなるのは「人間」だ。取り入る側近に囲まれ、本当の人材を見失う。「そして最後には国民が見えなくなる」という(アスペクト編『総理の名言』)
▼自民党の安倍晋三内閣がきのう、発足した。首相の再登板は戦後では吉田茂以来二人目。実に六十四年ぶりだ。閣僚には、麻生太郎元首相、谷垣禎一前総裁ら実力者を起用し、挙党態勢への配慮をにじませた
▼来夏の参院選で衆参のねじれを解消するまで、憲法改正などのタカ派色は抑え、デフレ脱却などの経済政策に専念するとみられるが、気になるのは石原伸晃前幹事長を環境・原子力防災担当相で起用したことだ
▼総裁選で国会議員から多くの支持を得ながら相次ぐ失言で失速した。閣僚の失言がどれだけ政権の体力を奪うのか、これまで十分に学んできたのではないか
▼日米開戦後、東条内閣の倒閣を水面下で主導した岡田啓介の「国民が見えなくなる」という述懐は重く響く。再登板する安倍首相は六十五代前の先達の言葉を胸に刻み、国民の声に謙虚に耳を傾けてほしい。
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