01. 2012年12月28日 09:26:39
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当選2回以下が過半数、衆院自民が直面する「政策志向のズレ」「党の将来世代」が安倍首相のアキレス腱 2012年12月28日(金) 磯山 友幸 総選挙で自民党が圧勝し、第2次安倍晋三内閣が発足した。野田佳彦前首相は選挙戦で「時計の針を戻すな」と声を張り上げたが、民主党への期待が大きかった反動もあり、国民は民主党政権を見放した。決してかつての自民党政治に戻すことをよしとしていない事は、比例代表で自民党が議席を伸ばせなかったのを見ても分かる。多くの国民は「古い自民党」への復活を望んでいるわけではないのだ。 だが、自民党が圧倒的な議席を得たことで、「古い自民党」にノスタルジーを抱く自民党のベテラン議員たちの中には大きな勘違いをしてしまった人たちがいる。安倍首相は「まだ自民党に対して厳しい見方が続いていく」と引き締める発言をしているが、さっそく公共事業の地方へのバラマキなどを期待する声が高まっている。 果たして、安倍自民党はどこへ行こうとしているのか。「古い自民党」へと戻っていくのか。それとも改革政党へと生まれ変わるのか。 当選した自民党の衆議院議員294人の内訳を分析すると興味深い事実が分かる。 前職で今回も当選した議員105人のうち、当選4回以下の若手はわずか30人。逆に当選6回以上のベテランは57人と54%を占める。最も多いのが当選6回の20人だ。当選2回、3回の若手はわずか16人しかいない。いかに2009年の総選挙で若手を中心に落選し、比例復活などでベテラン議員が生き残ったかが分かる。 49歳以下が7割占める だから今回は、ベテランで落選していた議員の復活が多かったのではないかという印象がある。だが、現実はそうではない。今回復活した元職議員は70人。このうち当選6回以上のベテランは11人しかいない。回数別で最も多いのは当選2回の33人だ。当選2回の復活組は、2005年の総選挙で初当選をして、2009年の政権交代選挙で落選した人が大半を占める。 2005年の選挙はいわゆる郵政選挙で、初当選した時には「小泉チルドレン」と呼ばれた人たちだ。つまり、元職の中心勢力は小泉チルドレンということになる。 さらに、今回の大量当選で生まれた新人議員は119人。これを年齢別でみると20代、30代、40代が合わせて82人。つまり49歳以下が69%を占めるているのである。 前職、元職、新人を合せた294人のうち、当選1、2回生が過半数を占めている。また、当選4回までの議員で合計201人に達し、3分の2を超える。 自民党 カテゴリ 年代/当選回数 議席数 % 新人 20代 4 1.36 30代 34 11.56 40代 44 14.96 50代 26 8.84 60代 10 3.4 70代 1 0.34 小計 119 40.47 前職 2回 5 1.7 3回 11 3.74 4回 14 4.76 5回 18 6.12 6回 20 6.8 7回以上 37 12.58 小計 105 35.71 元職 2回 33 11.22 3回 12 4.08 4回 7 2.38 5回 7 2.38 6回 5 1.7 7回以上 6 2.04 小計 70 23.8 合計 294 100 民主党 カテゴリ 年代/当選回数 議席数 % 新人 50代 1 1.75 小計 1 1.75 前職 2回 5 8.77 3回 9 15.78 4回 14 24.56 5回 11 19.29 6回 8 14.03 7回以上 9 15.78 小計 56 98.24 合計 57 100 日本維新の会 カテゴリ 年代/当選回数 議席数 % 新人 20代 4 7.4 30代 8 14.81 40代 16 29.62 50代 9 16.66 60代 2 3.7 小計 39 72.22 前職 2回 2 3.7 3回 1 1.85 4回 1 1.85 5回 1 1.85 6回 1 1.85 7回以上 3 5.55 小計 9 16.66 元職 2回 1 1.85 4回 1 1.85 5回 1 1.85 6回 1 1.85 7回以上 2 3.7 小計 6 11.11 合計 54 100 これを見て、選挙前と後では、自民党のカラーが大きく変わっていることに気付く。決して当選回数や年齢がすべてではないが、選挙前は圧倒的にベテラン議員の発言力が強い政党だったが、今や当選回数の少ない議員でしかも年齢も若い層が自民党の多数を占めるようになっているのだ。 では、安倍内閣と自民党執行部の布陣はどったか。かつての自民党のルールでは当選6回ぐらいから要職に就くことが多かった。これは、今回も概ね当てはまる。 第1次安倍内閣の時の「お友だち批判」に配慮して、総裁選での対立候補ベテランの派閥領袖クラスを軒並み閣内に取り込んだ。麻生太郎・元首相を副総理兼財務相兼金融担当相に据えたほか、谷垣禎一・前総裁を法相とし、古賀派(宏池会)を引き継いだ岸田文雄氏は外相に、山崎派を引き継いだ石原伸晃氏は環境相にといった具合だ。いずれも当選回数を重ねたベテランの前職議員が重要ポストを得たわけだ。 ベテラン女性議員配して“斬新さ”アピール また、党人事では政務調査会長に高市早苗氏、総務会長に野田聖子氏、広報本部長に小池百合子氏と女性を配置し、一見“斬新さ”を打ち出したが、現実はいずれも当選6回、7回のベテラン議員。自民党の旧来からのルールにも合致した人事だったと言える。 つまり、今回の自民党執行部の中核が占める面々は、前職議員のベテランという「区分」の中から選ばれている。だがすでに見たように、この層は、新しい自民党の中では決して多数派ではない。しかも、小選挙区制と、3年にわたる野党暮らしの結果、派閥の領袖の存在感は大きく薄れた。かつてのように、派閥の領袖がカネとポストで若手議員を黙らせることができた時代はとうの昔に終焉している。ベテランが中心の執行部は、圧倒的多数を占める中堅若手の議員の声を無視することはできないだろう。 この自民党の議員構成の変化は、おそらく政策にも影響を与えていくと思われる。 政権公約のいの一番に「経済再生」を掲げた安倍首相が目指す経済政策の方向性は、組閣によってある程度見えたと言っていい。麻生財務・金融相に最も近いエコノミストは野村証券のチーフエコノミストであるリチャード・クー氏であることは大方の人が認めている。クー氏は言うまでもなく積極財政派だ。 かつての公共事業バラマキを彷彿とさせる「国土強靭化」というキャッチフレーズはもともと安倍氏の主張ではなく、谷垣執行部時代にまとめられたものだったが、今回の内閣に谷垣氏や幹事長だった石原氏が加わったことで、結果的に、その積極財政政策を追認した格好になった。 安倍氏が日銀に「大胆な金融緩和」を求める姿勢を強めていた背景には、元財務官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授の影響が大きかった。その金融緩和の政策に、すっぽりと積極財政が接木された格好になった。 安倍氏が総裁選に勝利したあたりから、竹中平蔵・元総務相が安倍氏に急接近していた。もともと第1次安倍内閣時代は、小泉純一郎首相の構造改革路線を引き継いでいたため、第2次安倍内閣も同様に構造改革路線に傾斜するという見方が広がっていたためだ。だが結果は、麻生氏を登用した事で、構造改革路線は当面封印され、積極財政路線へと突き進むことになったと見ていいだろう。 蠢くゼネコンや不動産 こうした流れにゼネコンや不動産業界は動意づき、こうした業界の株価は大きく上昇している。金融緩和と財政出動によるミニバブル期待が高まっているわけだ。 また、経済再生担当相に甘利明・元経済産業相、経済産業相に茂木敏光・元政調会長を据えた。この2人は経産省に近いことで知られており、当面の経済運営が「経産省主導」になることがはっきりした。 しかも首相の政務秘書官に経産省の前資源エネルギー庁次長だった今井尚哉氏が就任。さらに事務の秘書官にも経産省から柳瀬唯夫・経済産業政策局審議官の起用が内定した。柳瀬氏は麻生太郎元首相の秘書官を務めた経歴を持ち、麻生氏とのパイプも太い。麻生氏が財務省ににらみを効かせることで、財政再建路線はしばし棚上げさせ、積極財政路線に打って出ることが可能な布陣だと見ていい。 冷え切った経済を暖めるには「大胆な金融緩和」は効果があるだろう。さらに経済に火を付ける意味では思いきった財政出動も必要と言えるかもしれない。1段ロケットに火を付けるまでは、金融緩和と財政出動というリフレ政策が効果を発揮するに違いない。問題はロケットの2段目である。「国土強靭化」を掲げ、バラマキ型の公共事業拡大を2段ロケットの推進剤とした場合、かつての古い自民党政治が復活し始めることになりかねない。象徴的には、公共事業の配分への政治家の関与や、談合の復活である。 1段ロケットに火が点いた後の2段ロケットは、本来、構造改革が推進剤になるべきだろう。だが、今の内閣のメンバーを見ていると、構造改革路線にカジを切ることは難しいように思える。そもそも、ベテランの前職議員には「小泉構造改革」こそが自民党下野の最大の理由だと考えている人が少なくない。 自民党の「将来世代」を巻き込めるか では、自民党はそのまま「古い自民党」へと戻ってしまうのか。そこで大きな役割を担うのが、すでに見たような若手議員が過半を握る議員構成の変化である。 執行部のベテラン議員の中からは、「何、若手と言っても2世議員も含まれているので、皆が改革派というわけではない」という声も聞こえる。だが、新人議員の中には、公募によって候補者になった官僚や企業出身者も多く含まれる。彼らの志向は間違いなく構造改革だ。 古い自民党に戻ったら、国民の厳しい審判によって、次は当選できないと思っている若手議員が少なからずいる。国民の間に漂う「自民党を勝たせ過ぎた」というムードを敏感に感じ取っている議員が少なくないからだ。 さらに前述の通り、復活議員には多くの「小泉チルドレン」が含まれる。彼らは疑うまでもなく構造改革派だ。 安倍自民党の最大の難題は、執行部と若手議員との政策志向のズレだろう。これはいずれ表面化してくるに違いない。安倍内閣が若手のムードを読めずに過度な保守化や、古い自民党への回帰路線を進んだ場合、猛烈な反発を食らう可能性があるように思う。安倍氏がつまづけば、もともと地方組織などからの支持が厚い石破茂幹事長の周囲に若手議員が集結する事態もあり得る。 大勝して党内が分裂した民主党の轍を踏まずに長期政権を築けるか。安倍氏の党運営の手腕が問われることになりそうだ。 磯山 友幸(いそやま・ともゆき) ジャーナリスト。経済政策を中心に政・財・官を幅広く取材中。1962年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末で退社、独立。熊本学園大学招聘教授、早稲田大学客員上級研究員、上智大学非常勤講師。静岡県アドバイザーも務める。著書に『国際会計基準戦争完結編』『ブランド王国スイスの秘密』(いずれも日経BP社)など。共著に『オリンパス症候群』(平凡社)、『株主の反乱』(日本経済新聞社)。 磯山友幸の「政策ウラ読み」
重要な政策を担う政治家や政策人に登場いただき、政策の焦点やポイントに切り込みます。政局にばかり目が行きがちな政治ニュース、日々の動きに振り回されがちな経済ニュースの真ん中で抜け落ちている「政治経済」の本質に迫ります。(隔週掲載) |