78. 2012年12月24日 11:53:54
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日米の軍事関係者の間で、想定されている基本的なシナリオは中国漁民の尖閣への大量上陸から始まる。2012年8月15日に7人の中国人が不法上陸して逮捕されたが、これは香港の活動家であり香港を出港する時からマスコミに情報が公開されていた。従って沖縄県警は事前に尖閣に上陸して待ち構えていたのである。だが尖閣は普段は無人の島であり、事前情報なしに突然、中国漁民が上陸してしまったら警察が待ち構えているというわけにはいかなくなる。海上保安庁の職員が後追いで上陸して逮捕するしかないが、1000隻もの漁船に取り囲まれて海上保安庁の防護ラインを突破した数十隻の漁船から数百人の漁民が一斉に上陸して石や棍棒などで組織的に抵抗したら、逮捕は困難だ。 おそらく中国の漁業監視船や海洋調査船なども漁民を援護し海上保安庁の活動を妨害するであろうから、逮捕は不可能といってもいい。沖縄県警がそれから逮捕に行くという手順になるが、中国が黙って見過ごす筈がない。 「沖縄県警が逮捕に来るというのなら、漁民保護のため軍隊を出動させる」と言うだろう。かくして中国軍のヘリコプターが尖閣に先着したら、もはや警察による逮捕は不可能だ。尖閣は中国によって軍事占領されたことになる。 ちなみに先頃沖縄に配備された米軍輸送機オスプレイは時速550km、沖縄から尖閣まで440kmを50分以内に移動できる。中国の福建省から尖閣まではおよそ370km。中国軍の最新ヘリZ-9で1時間10分である。つまり中国がヘリを離陸させるのを確認してから米軍が出発しても、尖閣に米軍が先に到着できる計算になる。従ってオスプレイ沖縄配備は尖閣防衛に有効な第1歩なのだが、2歩目、3歩目には問題が山積している。 「尖閣は日米安保の対象」と米国は繰り返し明言している。ならば尖閣を無条件に守ってくれればよさそうなものだが、米軍はそれほどお人好しではない。米軍が出動するのはあくまで自衛隊が出動してからである。つまり尖閣防衛に当たってもまず自衛隊が対処すべきであって、自衛隊が出動もしていない状態で米軍の出動を期待するのは筋違いと言えよう。 http://www.jiji.com/jc/zc?k=201211/2012113000652 従って中国が「軍を出す」と宣言した瞬間に日本の首相は自衛隊に防衛出動を下令しなければならないが、現在の防衛体制ではこうした即時対応は困難だ。もちろん首相が事前に米軍や関係省庁に十分な根回しをしていれば出来ないことはないが、今まで防衛にそれほどの熱意があった首相はいなかったのが実情である。 おそらく現行体制では中国軍のヘリが尖閣に着陸するのを確認してから防衛出動が下令される順序になる。だが一旦敵軍に占領された島を取り戻すのは大変である。自衛隊が出動すると分かれば当然中国軍も尖閣にヘリで次々と物資を運び込み要塞化を図るし、海軍や空軍も尖閣付近まで大軍を派遣するだろう。 2011年11月、自衛隊は尖閣奪還作戦を意図した統合演習を実施した。陸海空3自衛隊で35000人が動員されたという。尖閣のような小さな無人島でも一旦敵に占領を許せば、大軍を動員しなければならなくなるのである。 もしすばやく防衛出動が下令されれば、自衛隊の数機の航空機と僅かな隊員そして米軍機オスプレイと20名の海兵隊員だけですむ。さらに言えば、そもそも尖閣に自衛隊が常駐すれば漁民の不法上陸も、中国軍のヘリの強行着陸も不可能になる。要するに国防体制が確立していないと大戦争を誘発するのである。 現在の国防欠陥体制では自衛隊と中国軍が尖閣を挟んで睨みあう公算が高い。米軍が日本に基地を置いている以上、必然的に日米同盟軍対中国軍の構図となる。ここで日米両政府は中国政府と公式あるいは非公式な交渉を通じて中国軍が撤退するよう促すわけだ。
我々の常識では「中国軍に勝ち目はなく、従って中国軍は撤退する他ない」のだが、あくまで我々の常識での話であって、中国の常識は我々と同じではない。そもそも同じ常識を有していれば尖閣に漁民を不法上陸させる訳はない。 もちろん中国軍が素直にここで撤退してくれれば、「めでたし、めでたし」で一件落着だが、違った常識を有している以上、我々の期待と異なる行動に出る可能性は絶えずある。基本的なシナリオとしても、その場合をなぞっておく必要があろう。 自衛隊のシナリオとしては、日中が尖閣を巡って戦争となれば、日本が圧勝する。これは兵器の性能の比較から導き出された結論である。 中国は原子力潜水艦を保有している。日本は保有していないが、だからと言って、中国の方が進んでいるとは単純には言い切れない。というのも潜水艦は海の忍者とも言われるように、どこにいるのか分からないのが利点なのだ。 従って潜水艦の命は静粛性にある。敵艦に探知されないように如何に音を立てずに潜航できるかが潜水艦の性能の決め手となる。ところが原子力潜水艦は原子炉で生じた蒸気でタービンを回すので、どうしても音が出る。この音を如何に消すかについて米海軍はやはり長い技術的蓄積があるが、中国にはそれがない。 一方、日本の海上自衛隊の対潜水艦能力は世界一と言われており、中国の原潜はもとより通常型潜水艦を探知するのは得意中の得意である。具体的に言えば対潜哨戒機P3Cを約100機保有しているのは世界で日本だけであり、護衛艦約50隻も世界水準で言えば最高の駆逐艦とフリゲート艦だし、潜水艦16隻も通常型としては世界最高の性能を誇る。 もし日中開戦となれば、海上自衛隊は中国の潜水艦を瞬く間に見つけ出し撃破する能力があることを疑う軍事専門家はいないだろう。 中国海軍はイージス艦、駆逐艦を充実させつつあるが、もともとイージス艦は空母を守るための船だから、空母が実用段階にない現状でイージス艦の用途は限られるし、駆逐艦は潜水艦を探知・撃破することを重要な任務とするが、現在までのところ中国の駆逐艦が日本の潜水艦を発見・追尾したとの情報はなく、静粛性に優れる海自の潜水艦を探知する技術はまだないと見られる。 技術的未熟さはイージス艦についても言えることで、敵ミサイルを撃墜するのがイージス艦の主要な任務だが、レーダー能力にしてもコンピュータシステムにしても、まだその域に達していないとする見方が大勢を占めている。 中国海軍と海上自衛隊の兵器だけを比較する限り、海自が圧倒的に有利なのは間違いない。だがこの分析には航空戦が含まれていない。もはや日清戦争の時代ではないし、中国空軍は日本本土を攻撃できる航続距離を持つ軍用機を有している以上、航空戦は不可避であろう。 中国空軍は作戦機を2000機以上保有している。日本は420機であるから5倍近いが実はその大半は旧式であり現代戦の役に立ちそうにない。現在の空軍の主流は第4世代型の戦闘機である。中国は第4世代型と言われる戦闘機をSu27、Su30、J10併せて600機近く有している。日本の航空自衛隊はF15、F2計約300機であるから、倍近く有している。 日本が劣勢であり、しかも中国は軍拡路線、日本は軍縮路線であるから今後この差はますます開いていくものと見られている。 ただし、航空戦においてはまだパイロットの練度が戦局を左右する。パイロットの技量が劣っていては、どんな戦闘機も宝の持ち腐れとなる。日本は戦前の航空隊からの伝統があり戦後に限っても半世紀以上の歴史がある。第1世代型ジェット戦闘機から米空軍と連携しながら着々と代を重ねてパイロットの養成法も確立しており、その技量は米軍パイロットを凌ぐとさえ言われている。 中国空軍は冷戦初期はソ連軍の協力を得ていたが、中ソ対立で中断した。再開したのはソ連崩壊後であり、しかも当時はロシアも混乱期でパイロットの養成法も確立していなかった。従って中国空軍がまともに機能し始めて15年も経っていない。養成法もようやく確立したといったところだろう。 またパイロットの技量に劣らず重要なのが整備能力である。現代のハイテク戦闘機は1回飛行するだけでも整備し部品を適切に交換してやらないと使えなくなってしまう。従って整備能力の優劣は稼働率を左右する。稼働率が50%なら、100機の戦闘機も実質50機である。 ところがハイテク機の稼働率を50%以上に保つのはどこの国でもかなり困難だと言われている。おそらく中国は50%を割っていると見られるのに対し、日本は50%をはるかに上回ると言われている。 また航空管制や指揮統制能力にも日本に一日の長があり、それらを勘案すると日中の航空戦力は6対4で日本が優位だと言い得る。だがこの優位は時間とともに失われつつある。日本が今後軍拡路線に転換しない限り中国の優位に傾いていくのは確実な情勢である。
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