94. 2012年12月22日 21:55:32
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すでに周知の人もあろうが、国連憲章の「敵国条項」の該当の2条にはこう書かれている。第53条 1.安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。 2.本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。 第107条 この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。 要するに、第二次大戦中、国連加盟国(中国は原加盟国、つまり創設メンバーとされる)の敵国であった日本とドイツに対して、この「敵国条項」が適用される(イタリアなどは大戦末期に連合国に寝返っているので、適用については論争がある)。 この2国が「再び侵略政策の動きを見せた時」、あるいは「第二次世界大戦で出来上がった国際秩序に対して、それを毀損する行為に出た時」には、国連加盟国は安保理の決議や承認がなくても、自国の判断によって日本やドイツに対しては軍事的制裁を行うことができる、とされているのである。 そして、安保理やアメリカを含むいかなる加盟国も、それに対抗したり阻止したりすることはできない、とわざわざ念が押されているのである。 この「敵国条項」を以て、中国のいう「超限戦」が貫徹されるシナリオはすでに早くから出来上がっていると見るべきだろう(日本とソ連=ロシアとの間では、1991年4月の日ソ首脳会談の共同声明で「敵国条項」を適用しないことを合意しているが、中国との間にはその合意はない)。 恐らく、中国の描くシナリオはこうだ。中国が尖閣に漁民を装った特殊部隊を上陸させる。取り締まりのために日本が海保の巡視船を出すが、衝突が起こり、中国海軍の軍艦が沖合に姿を現す。 これにより、後方から監視していた海上自衛隊も動き、実質、軍事衝突一歩手前までの事態になる。しかし、戦争を意味する「防衛出動」の発令は難しいから、北の工作船を追いかけた時の「海上警備行動」止まりであろう。 アメリカの存在を頼みにしながら、日本政府が海上自衛隊に「海上警備行動」を発令し、動きだした瞬間、中国当局が次のような声明を発表する。 「中国は、国連憲章の定めを破り、再び侵略行動を開始した日本を制裁するため、国連憲章の『敵国条項』に則って軍事行動に入る」 これにアメリカはどう反応するだろうか。上院で「尖閣諸島には日米安保が適用されるべき」と決議されたとはいえ、アメリカといえども国連憲章を無視することはできず、憲章に拘束されて、少なくとも初動が鈍るか、もしくは動きを封じられるだろう。こうなると、日本中はパニックに陥るだろう。 そうでなくても、アメリカは尖閣で日中が揉めることを望んでいない。当然のことだが、他国の領土のためにアメリカ兵士の血が流れることも、アメリカ国民には受け入れ難い。ましてや、敵国条項を突き付けられれば、国際法を重んじるアメリカ世論の風向きは一気に「尖閣に介入するべきでない」との方向に傾く可能性が強い。 しかしそうなれば、日本人の日米安保への信頼は根底から揺らぐかもしれない。そして、これこそが日米分断が一挙に達成される瞬間である。 それは大袈裟に言えば、「戦後日本が終わる時」と言えよう。いずれにせよ、中国によって敵国条項を持ち出された時点で、日本国内も総崩れになりかねない。そしてその瞬間、「尖閣は中国のもの」となる。 ここで分かるのは、中国が尖閣を歴史問題化しようとしていたのは、必ずしも韓国の竹島問題やロシアの北方領土問題と足並みを揃えるだけではなかった、ということだ。日本の尖閣への実行支配の強化を「再侵略」と位置付け、アメリカを国際法的に抑止し、日本を決定的に孤立させる中国の秘密兵器、それが『敵国条項』なのである。 それにしても、なぜ未だに、第二次世界大戦当時の敵国条項が存在しているのか。 実は1995年、国連創設50周年の年に日本とドイツが共同提案国となり、条項を憲章から削除するべしという決議案を国連総会に提出している。そして、総会では賛成多数で採択されたが、批准書を寄託した国は定数に達しなかった。 http://blogs.yahoo.co.jp/koudookan/789870.html ここに国際社会の本音と建前を見る思いがするが、いずれにしても、この敵国条項は時代遅れであり、削除に向けて作業を開始すると謳われていても、総会の決議だけでは何の効力も有しない。つまり、17年が経過した現在でも、この条項は未だに効力を保っているのである。 2005年、国連創設60周年にあたって、日本の外務省は「常任理事国入り」を目指して熱心に運動し、そのために何百億円もバラまいたが、中国の強烈な反対もあり、結局、全てムダに終わった。 同年4月の反日デモを、日本のメディアは小泉首相の國参拝に反対するものだと報じたが、実際にはあのデモも官製で、中国政府によって「中国人民は日本の常任理事国入りに強く反対している」ことも世界に示そうとするものだったのである。 当時、私は「常任理事国入りなど中国が賛成するわけがないから、動くだけ無駄である。その余力を、一刻も早い敵国条項の撤廃に向けるべきだ。そうしないと、この条項の放置は安全保障にとって大きな脅威となるから」と多くの論文に書き、幾つかの論壇誌でも発表したのだが、外務省関係者は「知らないんですか、この敵国条項はもう完全に死文化しているんですよ」と安易至極な態度であった。 こうした姿勢は、戦後の外務省の体質に深く根ざしている。外務省出身で国連大使にまでなった小和田恆氏が「ハンディキャップ国家論」を説いたが、そのよって立つ思想は憲法前文、9条であるとともに、敵国条項の放置もこの思想と共鳴し合うものだったのである。なぜなら、「諸国民の公正と信義に信頼して」日本の安全保障を委ねるのだから、あの侵略戦争をした日本は敵国条項の非を訴えるべきではない、というわけである。 この思想の流れが、現在も日本の外務省に通底しているのではないか。「常任理事国入り」にはあれほど熱心に取り組みながら、敵国条項の問題は外務省内では未だに「タブー」扱いされているからである。しかし、この条項を放置しての「国連中心主義」の外交など、もともと成り立ち得ないものだったのである。何と愚かな日本外交であったことか。 「中国が敵国条項を使って日本を陥れようとしている」−実は、このことを活字にすることにはこの数カ月、大いに悩んだ。 第1に、中国に逆利用されはしないか、と危惧したためである。 第2に、中国だけでなく、かねてより「尖閣は日本固有の領土ではない」「アメリカは尖閣問題では決して動かない」と言い続けてきた孫崎享氏ら、親中派に論拠の補強材料を与えることにもなりかねないからだ。 だが、2012年11月以降、ここまであからさまに中国が動いてきた以上、もはや一刻の猶予もない。事ここに至っては、日本の新政権誕生の直後にも我が国の存立を脅かしかねないこの懸念を明るみに出し、予め警鐘を鳴らす必要があると考えるに至った。 外交は機先を制さなければならない。外務省、政府、そして官邸が一体となって、早急に敵国条項の実質的空文化を再確認する決議を国連の場で強力に推進し、あわせてアメリカ政府や国際社会に対し、「敵国条項を中国が持ち出す可能性がある。総会で、撤廃に向けたより強い執行決議に賛成してもらいたい」と働き掛け、「このままでは中国に国連憲章を悪用されることになり、アジアの平和は瓦解する」と広く、そして大きな声で国際世論に訴えるべきだ。多くの欧米紙に一面広告を出してもいい。「常任理事国入り」などという幻想を追うのではなく、この条項の削除にこそ、何百億円をつぎ込んでも無駄にはならないはずだ。繰り返すが、それは日々、日本の存立を脅かし続けているのだから。 中国の監視船は連日、尖閣周辺の接続水域に出没している。限られた人員と装備で日々、警戒に当たる海上保安官や、そのさらに後方から中国の出方を見ている海上自衛官の勇気と労苦が、「敵国条項」という一点で水泡に帰す可能性がある。 事態は一刻を争う。経団連会長のように、経済活動の停滞だけを心配して中国のご機嫌伺いをしている場合ではさらさらないのである。急がなければ、戦後日本が「平和の理想」と崇め奉ってきた国連憲章によって、日本が武力による攻撃を受け、しかも同盟国のアメリカも手が出せないという絶体絶命の危機に追い込まれかねないのである。 「国連」の名の下で中国の「軍事制裁」を受け、多くの日本人が血を流し、領土も奪われることになれば、日本にとってそれは何という悲劇であろうか。「戦後日本」という虚妄を、これほど劇的に示す例はないだろう。
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