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「ニューズウィーク日本版2012・12・12」P.36〜37
間違いだらけの「日本衰退論」
主張:日本がどれだけ衰退したかを論じる暇があるなら
国の強さと弱さを見詰め直し、本当の問題に目を向けるべきだ
ジェラルド・カーチス(コロンビア大学政治学教授)
日本は衰退への道を歩んでいるのか、いないのか。
はっきり言って、そんな議論に長々と時間を割くのは無駄だと思う。日本はある意味では衰退しているし、別の重要な面に目を向ければまったく衰退していない。
よく知られるように、経済面での日本の相対的地位は低下した。世界2位の経済大国だった日本は3位に順位を落とした。
だが2位の中国と3位の日本を比べたら、どちらに住みたいだろう。生活水準、大気や水や食品の安全、医療をはじめとする公共サービス、平均寿命……。これらの指標を考えれば答えは明らかだ。上り調子の中国より、下り坂の日本に住みたくなる。
そもそも日本の経済大国としての地位の低下は、本当に日本が衰退した証しなのか。それとも、他の国々が成長したために相対的な地位が低下しただけか。
アメリカと日本の経済力が世界に占める割合は、極貧にあえぐ国が減ったことから小さくなった。これは貧困を脱した国だけでなく、アメリカと日本にとっても喜ばしいことだ。アメリカと日本は経済力を付けた国々から安価な製品を輸入することができるし、逆に製品を輸出することもできる。
日本衰退論を唱える人たちは、衰退の程度を誇張している。日本の人口が減っているという事実を考慮に入れていないからだ。
この20年間、日本経済は他の先進諸国に比べて著しく不振だったろうか。答えはノーだ。とりわけ国民1人当たり、または労働力人口1人当たりのGDPで比べたとき、この答えは間違っていない。
「失われた」といわれる20年の問にも、日本経済は成長し、生清水準は向上を続け、失業率もそれほど高くなっていない。格差は拡大したが、まだまだアメリカとは比べものにならない。
内向き志向の嘘とホント
今より国が豊かになるような経済の舵取りも、あるいは可能だったのかもしれない。しかし先進諸国がいずれも高い失業率や巨額の財政赤字にあえぎ、福祉サービス削減への圧力とデフレリスクに怯える今、日本の状況が飛び抜けて悪いとはいえない。もし日本が衰退しているなら、衰退しているのは日本だけではない。
いわゆる社会の健全性はどうか。市民の団結力や一体感、民度の高さといったものは、昨年の東日本大震災でも証明された。確かに震災に対する政府のまずい対応から、政治的な問題は数多く露呈した。しかし日本人が示した節度や自制心、善意、助け合いの精神を目の当たりにすれば、政治的な課題でさえ小さなものにみえてくる。
地域の結び付きが強いのは、被災した東北のような地方に限ったことではない。日本では都市も清潔で、犯罪発生率は低く、人々は基本的なマナーをわきまえている。だから東京のような大都市でさえ、住みやすさと洗練度では世界でも指折りの場所になっている。
一部には日本人の「内向き志向」を指摘する声もある。とりわけ若い世代が内向きになっており、世界と付き合えなくなっているといわれる。
こうした見方は、私のように日本と長く関わっている者にはおかしなものに聞こえる。英語を操れる日本人は減っているのか。むしろ実情はまったく逆で、日本語のない環境でも不自由なくやっていける日本人はこれまでにないほど増えている。
若者は内向きになっているのか。この見方を支持する根拠はほとんどない。海外に留学する若者が実数では減っているとしても、若い世代の中で留学生が占める割合は減っていない。
それでも内向きになったという印象が生まれている理由は、日本の人口、とりわけ若い世代の人口が減り始めていることと、アメリカへの留学生が減っていることにある。以前に比べると、中国や韓国への留学生が増えてきた。英語圏へ留学するにしても、アメリカより学費や生活費が安く、大学にも入りやすい国へ行く日本人が増えている。
日本が抱える本当の問題は、もっと上の年齢層に内向きな人が多いことだ。彼らは、若い世代が自らリスクを取って新しいことに挑もうとする気持ちをそいでしまう。
疲れているのは当たり前
日本の国際的な役割はどうか。日本衰退論はこの点にほとんど目を向けていない。自国と地域の安全保障に対応する日本の能力は低下しているのか。確かに防衛予算は02年度をピークに減り続けているが、自衛隊の役割や実際の活動はさらに重要なものになっているし、任務を遂行する能力も高まっている。
経済に日を向ければ、日本は今も世界有数の貿易・投資大国だ。グローバル化と円高の影響から、日本企業が生産拠点を国外に移したり、外国人を幹部に起用したりするケースがますます増えている。
日本経済に問題はないのか。もちろんある。一例を挙げれば、かつては無敵にみえた家電・電子産業が今はピンチを迎えている。ソニーやシャープ、パナソニックの苦境を見ればいい。
日本の産業界と政府に大胆な方針転換が必要なことは確かだ。しかし、大胆な方針転換が必要ない国などどこにあるのか。
人口ピラミッドの変化は、日本から活力を奪っているかもしれない。日本が疲れているようにみえても、驚くことではない。人口は高齢化する一方だし、あいにく高齢者は大抵疲れている。
だが、これも日本だけの問題とはいえない。アメリカは移民から活力を得ているが、多くのヨーロッパ諸国や韓国、中国などは日本と同様の問題を抱えている。
だから日本衰退論にさしたる意味はない。日本が、あるいはアメリカが衰退しているかどうかを見極めたとして、そこからどんな結論を引き出せるのか。
アメリカが衰退していないと結論付けられるとしたら、アメリカはやりたいことが何でもできるということになるのか。もちろん、そんなことはない。世界でもずばぬけた国力を持っていた時代でさえ、アメリカは朝鮮戦争にもベトナム戟争にも勝てなかった。ソ連が崩壊した後にも、一極支配による新世界秩序を打ち立てられなかった。
議論すべき問題が山積している国は日本だけではない。やるべきなのは、本当の問題を見極め、解決策を模索し、そのために社会がどのような力を備えればいいかを考えることだ。
そのとき、日本衰退論などというものは忘れていい。
(本稿は米外交問題評議会のプログAsia Unboundに掲載された)
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