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社説
政治を問う 憲法論議 平和主義壊すのは危うい(11月29日)
衆院選に向けた各党の論戦で、憲法改正を前提に保守的政策を競い合う傾向が強まっている。
自民党の安倍晋三総裁は「憲法を改正して自衛隊を『国防軍』にする」と主張している。日本維新の会の石原慎太郎代表は「憲法破棄」を訴え、「日本が核兵器に関するシミュレーションをやった方がいい」とも語った。
民主党政権下で混乱を招いた外交・安全保障政策の立て直しを理由にしているが、以前は広く支持されなかった主張を、勢いに乗じて実現してしまおうという意図が透けて見える。
震災復興や経済再生が急がれるいま、憲法改正は選挙の重要な争点なのか。アジア諸国との関係悪化も心配だ。各党の狙いを十分吟味して投票する姿勢が欠かせない。
*国是の変更は乱暴だ
「国防軍」構想は自民党が政権公約に盛り込んだ。その原型は4月にまとめた「憲法改正草案」である。
草案は、憲法の根幹である平和主義を規定した9条を変更。戦争放棄の理念は残しつつ、「自衛権の発動を妨げるものではない」としている。内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍の保持も明記した。
安倍氏は「国防軍」創設によって自衛隊を「軍隊」と位置づける必要性を説く。敵の攻撃や緊急事態に許容される武器使用の限度などを示した交戦規定も整備する考えだ。
自民党は集団的自衛権の行使も公約に掲げた。「保持しているが行使できない」が従来の解釈である。安全保障政策において専守防衛を原則とし、自衛隊の海外派遣に歯止めをかけるぎりぎりの一線だった。
「国防軍」と集団的自衛権の行使が結びつけば、日本の「軍隊」が海外で戦闘に参加する道を開くことになる。
日本維新の会の主張も先鋭的だ。代表代行の橋下徹大阪市長は「核兵器を持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則について、持ち込ませずを外した「非核二原則でも十分」と主張した。唯一の戦争被爆国であり、平和国家を掲げる日本の国是は、なし崩しだ。
橋下氏は改憲を基本政策の柱に掲げ、首相公選制の導入、参院廃止による一院制も主張してきた。
改憲成立には衆参それぞれの総議員の3分の2の賛成を得た上で、国民投票で有効投票の過半数の賛成を得なければならない。それが可能なほど国民的議論が成熟したとは言えない。
自民、維新とも実現への道筋まで示しているわけではない。耳目を引く主張で選挙の票を得たいだけなら大衆迎合だ。
安倍氏は首相当時「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げた。石原氏は「シナになめられ、アメリカの妾(めかけ)に甘んじてきた日本」と表現した。戦後日本の民主主義の歴史を否定するかのような態度には懸念を抱かざるを得ない。
*民主の態度あいまい
政権与党の民主党も安保・防衛政策を大きく変えてきた。
野田佳彦首相は就任後、武器や関連技術の輸出を原則禁止する武器輸出三原則を緩和し、戦闘機などの国際共同開発・生産への参加や人道目的での装備品供与が可能となった。
平和目的に限るはずの原子力基本法に「わが国の安全保障に資すること」も目的とする項目が民自公3党によって追加された。北海道の離島では「防災」を絡めながら武器を持ち込んだ有事訓練が行われた。
衆院選マニフェストでは「憲法を活(い)かし、『国民主権・基本的人権の尊重・平和主義』を徹底」するとした。だが2005年には憲法9条に「制約した自衛権」を明記するなどの「憲法提言」をまとめ、改憲を検討した経緯がある。
どういう議論を経て何が変わったのか、説明が必要だ。他党がタカ派に振れたのを見て、自らの軸足をずらしたにすぎないのであれば、再び態度が変わることが心配される。
公明党は「国防軍」に否定的だ。にもかかわらず自民党との連携を維持する姿勢は理解に苦しむ。共産党や社民党は護憲勢力としての訴えを議席増に結びつけられないでいる。
*他国の信頼保ちたい
日本の平和主義は国際社会で一定の評価を得てきた。政治の保守色が強まって日本への信頼感が損なわれる事態は避けなければならない。
自民党は公約の中で教科書検定基準にアジア諸国への配慮を求める「近隣諸国条項」の見直しも掲げた。日本の「右傾化」に敏感なアジア諸国が疑問を抱くのではないか。
尖閣諸島や竹島をめぐる問題で、国民の間に安全保障への懸念が高まっている状況はある。だからといって強硬姿勢で臨んでは、中国や韓国との関係改善は望めない。
有権者に衆院選での争点を聞くと社会保障や雇用対策などが上位に挙がる。その中で自民や維新が政権を担ったとしても、国民は改憲まで白紙委任したとは認めないだろう。そのことを両党とも自覚すべきだ。
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