http://www.asyura2.com/12/senkyo139/msg/852.html
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日経新聞の経済教室の欄で「総選挙 混迷政治の打破なるか」というシリーズが始まり、第一弾として政治学者(元国連次席大使)北岡伸一氏が論考を寄せている。彼の政治的な立場についてあれこれ文句を言う気はない。
問題視したいのは、総選挙後の混沌のなかではなく、未だ総選挙公示前という時点で、総選挙が終わったら大連立を!と、恥ずかしげもなく日経新聞の紙面で叫んでいることである。
政治学者で国連次席大使まで務めた人ならば、総選挙公示前に大連立を唆す(煽る)からには、まずもって、自民党・公明党・民主党に対し、政策協議を行い「統一政権公約」と統一首相候補(比較第一党党首という表現でも可)を提示するよう求めるのがスジであろう。
北岡氏は、「各種の予測によると、自民党が第1党になる可能性が高いという。しかし自民・公明両党で過半数を取るかどうかはわからない。仮に自公で過半数を取ったとしても、参議院では過半数に満たない。日本維新の会は参議院にほとんど議席はないから、民主党の協力が必要だ」と、まっとうな分析を示している。
(維新の会も、自公にくっつくと見ているところは“さすが”)
私ごときでも同じような分析をしているのだから、民主党・自民党・公明党そして維新の会の幹部たちも、当然のこととして、同じように考えている。はっきり言えば、総選挙後の“大連立”は既定方針なのである。
北岡氏が提起している「多くの大胆な政策が必要だ。第一に消費税増税の着実な実施、第二に経済の再活性化、第三に社会福祉の圧縮と効率化」という政策も、消費税増税絡みの“三党合意”の範囲内だから、既に“隠れ連立”が成立しているのである。
※ 参照投稿
「維新、選挙後に民自と連携も 石原氏「第二極つくる」:自民党に限らず、民主党も連携対象に含めているところがミソ」
http://www.asyura2.com/12/senkyo139/msg/725.html
そうでありながら、あたかも政権取りを競って対立しているかのように見せることで、政局の耳目を一手に集めているのが自民党であり民主党である。そして、それがあたかも“現実”であるかのように、電波と紙面を大量に消費し盛んに伝えているのが主要メディアなのである。
民主党や自民党の選挙戦術は、ご都合主義的なばらばらの政策で票と議席を掠め取り、総選挙後はそのようにして手に入れた議席をベースにさっさと連立するというものである。それは、盗っ人猛々しいというか、詐欺師の所業と言う他ない。
自民党は、農家や農業団体に向けTPPに慎重なそぶりを見せ(いくつかのJAが推薦を表明)、中小事業者向けに消費税凍結の可能性を語り、領土に絡む中国や韓国の所業に怒っている人たちに向け武張った発言と政策を掲げている。
民主党は、グローバル企業及びその“傘下”の組合のために、税制変更やTPP参加を政策化し、脱原発を志向している有権者の票を拾い集めようと脱原発を語っている。
自民党と民主党は、世襲の自民党がイヤなら民主党、軟弱な民主党が嫌いなら自民党と、両党合わせて“八方美人”の政策になるよう、連携しながら動いている。対抗する政治勢力に票が流れないようにするための策である。さらにご丁寧なことに、票が流れても、その多くを維新にすくい取らせるという目論見まで持っている。
主要メディアは、自民党・民主党・公明党そして維新の会のそのような策謀を必死になって後押ししている。
好き勝手に政策を掲げているのは、どのみち連立するのだから、選挙で掲げた政策は、「維新の会」と「太陽の党」が合流したときと同じように消えてしまうと考えているからである。票を一票でも多く取れるのなら今は“言い得”という感じで、選挙向けに好き勝手な公約を掲げている。
北岡氏は、いやしくも、政治学の研究者であり、東京大学法学部で教育にも当たってきた人である。そのような立場であれば、そのような蛮行を諫めなければならないはずである。
北岡氏はどう考えているかわからないが、「日本未来の党」が結成されたことに対し、「選挙互助会」や「野合」などと、根拠のない口汚い批判を行う政党やメディアが数多く見られる。
しかし、「日本未来の党」への合流を決めた政党はどこも、脱原発・消費税増税凍結・TPP不参加ということでは政策を共有していた。この点で、「野合」という批判は、用語法的にも誤りで、品性のない政治的誹謗と言える。
「日本維新の会」と「太陽の党」のように、原発政策・消費税政策・TPP問題のどれも政策が異なっていながら合流し、お互いの政策を細かく刻んでムリヤリつなぎ合わせたような政策を公約として掲げることが「野合」なのである。
「選挙互助会」は、多数派形成のためには当然の戦術であり、あれこれ言われるような話ではない。どのような政治勢力も、旗印を明確にして、「選挙互助会」をつくればいいのである。
民主党に残留するのも、ある種の選挙互助会(資金や連合などの組織票など)に加わったことなのである。
北岡氏は、「日本が直面する課題は深刻である。日本の経済力は、過去数年にわたって縮小している。累積政府債務は巨額に達しており、遠からず破綻する可能性がある。国際環境もほとんど八方ふさがりである」という現状認識を示し、「多くの大胆な政策が必要だ。第一に消費税増税の着実な実施、第二に経済の再活性化、第三に社会福祉の圧縮と効率化、第四に統治機構の改革、第五に安全保障の強化が少なくとも必要であろう」という政策を提起している。
これまで何度も書いているので論証は省くが、「日本の経済力は、過去数年にわたって縮小」と捉え、「経済の再活性化」が必要と言いながら、提起した政策の筆頭が「消費税増税の着実な実施」なのだから、支離滅裂で倒錯しているとしか言えない。
北岡氏は、「経済の再活性化では、デフレを止め、円高を抑え、環太平洋経済連携協定(TPP)と自由貿易協定(FTA)に参加し、規制緩和を進めなければならない」と主張しているが、97年の消費税増税こそが、日本をデフレスパイラルに陥れた元凶であることを失念している。
購買力を殺ぐ消費税増税が、デフレを止める政策にはならないことは自明である。円高も、基本はデフレによる輸出価格の下落に起因するものである。外国為替レートは長期的には両国間のインフレ率の差で調整されるからである。
「累積政府債務は巨額に達しており、遠からず破綻する可能性」としたり顔で書いている。しかし、政府債務の増大と破綻の問題は80年代初頭から言われ続けているが、破綻する兆しはまったくない。国際的にも、破綻の危惧が持たれていないからこそ、日本国債に大規模な買いが入るのである。
インフレの亢進(金利の上昇でもある)により、保有する国債の価値が低下する問題はあっても、円建て国債の債務が履行できなくなること(破綻)はないのである。
※ 参照投稿
「米倉会長が安倍氏に噛みつくワケは、日銀(国立印刷局)の輪転機でOKなら、「消費税増税だって不要」論の出現が予測できるから」
http://www.asyura2.com/12/senkyo139/msg/828.html
北岡氏は、大連立の必要性や正当性についてあれこれ述べているが、自民党・民主党・公明党・維新の会がそれぞれ掲げている政策は、とてもじゃないが、総選挙後の連立を正当化できるような類似性や親和性を示していない。
大連立を呼びかけるのなら、まずは、大連立に向けた政策協議とそれに基づく「統一政権公約」をまとめ上げるよう訴えるべきである。
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「総選挙 混迷政治の打破なるか」
(上)衰退回避、一刻の猶予なし
北岡伸一 国際大学学長
意思決定・実行 迅速に 非常時、大連立ためらうな
<ポイント>
○重要なのはスピード感でなく真のスピード
○参院改革へ両院協議会の人員構成を見直せ
○大連立は大政翼賛会だとの批判は当たらず
福沢諭吉は主著「文明論之概略」を、「議論の本位を定る事」という章で始めている。大小、長短、軽重などはすべて相対的なものである。城は守る者には便利だが、攻める者には不便である。何が望ましいかは状況による。課題を明確に把握しなければ、望ましい方向は打ち出せない。
今回の総選挙とその後の政治についても、議論の本位を定める必要がある。望ましい政治にはいろいろある。民意の反映、公正、透明性などである。しかし今、日本の政治に必要なのは、何よりも日本が抱えている課題を処理する能力である。
日本が直面する課題は深刻である。日本の経済力は、過去数年にわたって縮小している。累積政府債務は巨額に達しており、遠からず破綻する可能性がある。国際環境もほとんど八方ふさがりである。
多くの大胆な政策が必要だ。第一に消費税増税の着実な実施、第二に経済の再活性化、第三に社会福祉の圧縮と効率化、第四に統治機構の改革、第五に安全保障の強化が少なくとも必要であろう。
まず、8月に社会保障と税の一体改革法が成立したが、2014年4月に消費税を上げるまでには、ある程度の景気回復が条件となっている。これは簡単ではない。軽減税率の導入の範囲と程度を巡っても混乱する可能性がある。
次に、経済の再活性化では、デフレを止め、円高を抑え、環太平洋経済連携協定(TPP)と自由貿易協定(FTA)に参加し、規制緩和を進めなければならない。しかしその具体化に当たり、安倍晋三自民党総裁の日銀の国債引き受けに関する発言を巡って、早くも対立が激化している。
さらに、消費税率が8%になり、10%になっても、社会保障の給付の圧縮や効率化がなければ焼け石に水である。しかし政党にとって、国民負担を増やしたり、国民への給付を減らしたりする案を受け入れるのはかなり難しい。
統治機構改革では、まず政府が痛みを伴う改革をすべきだという議論がある。公務員の給与・退職金の引き下げ、衆議院の定数削減が提唱されている。しかし統治機構改革の要点は、無駄を省き、簡素で機動的な制度に変えていくことである。世界に比べ、日本政治の動きは著しく遅い。意思決定と実行を簡素化して迅速にしなければならない。
「スピード感を持って○○する」という言葉がよく使われる。これは、日本の政治の歩みが遅いことを実感してのことだろうが、「スピード感」ではなく、本当のスピードが重要である。地方分権もこの観点から考えるべきだ。現場に近い地方に権限を与え、中央との権限の重複を避ける意味は大きい。
統治機構改革で最も重要なのは、参議院改革である。07年以来、政治の混乱をもたらした最大の問題は「ねじれ」であり、その根本は参議院が強すぎることである。国会同意人事や、問責決議案がどれほど政治を混乱させ、停滞させたことか。強すぎる参議院の力を抑えるには、参議院の廃止や、衆議院の再議決要件を緩和して3分の2から2分の1にするなどの案がある。これは憲法改正が必要なので、容易ではないが、ある程度視野に置くべきである。
憲法改正を必要としない改革ならば、両院協議会の改革がある。現在、両院協議会は衆参両院から10人ずつ出すことになっているが(国会法89条)、これを例えば衆議院20人、参議院10人と変えれば、かなり衆議院の優位につながる。問題は、自民党も民主党もそうした案を出さないことである。いずれも仲間の参議院議員をかばってのことだろうが、はなはだ物足りない。
最後に、安全保障の強化には、日本の能力の強化、日米関係の強化、他の関係国との関係の強化、そして中国との関係の安定化が含まれる。中国は今、特別に難しい国である。細心の注意を持って接触し、いたずらに挑発せず、しかし確固として譲らない態度が必要である。
以上、いずれの課題をみても、政治的に極めて難しいものばかりである。
近年、ポピュリズムを批判する声が高い。ポピュリズムとは大衆迎合である。こうすれば国民は支持してくれるだろう、ああすれば批判は少ないだろう、という観点から打ち出されるのがポピュリズムである。しかし、この言葉は多用されすぎている。例えば、小泉純一郎首相はポピュリズムではなかったと筆者は考える。靖国参拝にせよ、郵政改革にせよ、必ずしも国民が強く求めていたものではない。
小泉氏に対する国民の支持は、むしろ大胆なリーダーシップとみえるものそれ自体に対するものであった。これはポピュリズムではなく、デマゴーグというべきだ。ただ、必ずしも悪い意味でいっているのではない。ドイツの社会学者マックス・ウェーバーは、史上最初にデマゴーグといわれたのは古代アテネの指導者ペリクレスだと指摘している。つまり、大胆な変革をしようとする指導者は、既成の秩序や既得権益を打破しようとして、国民に直接訴えかけようとする。
それは、危ういこともある。ただ、この現代に危うくない政策などあるだろうか。堅実な政策は、行き詰まることが確実である。国民に必要なのは、デマゴーグ的なスタイルを危険だとして退けることではなく、中身の優れたものかどうかを見極めることだ。
この選挙で、以上述べた課題群に関して、筆者にとってすべて満足できる政党はない。有権者は、そのうちどれを重視するか、また誰が信頼できる候補者かという選択を迫られるだろう。
各種の予測によると、自民党が第1党になる可能性が高いという。しかし自民・公明両党で過半数を取るかどうかはわからない。仮に自公で過半数を取ったとしても、参議院では過半数に満たない。日本維新の会は参議院にほとんど議席はないから、民主党の協力が必要だ。従って、次の数カ月の課題は、自公と民主が迅速に適切な妥協をして、必要な政策を実現していけるかどうかにかかっている。
維新の橋下徹氏はテレビで、とにかく政策で賛成できるものはどんどん進めると述べていた。そうあるべきものである。
しかし、難しいのは党内の結束である。この半年間、谷垣禎一前自民党総裁は参議院の協力が得られず苦しんだ。野田佳彦首相も、党内の離反を抑えるために苦慮した。
そう考えると、やはり大連立が必要ではないだろうか。
大連立に対しては、大政翼賛会だという批判がなされた。しかし、大政翼賛会はすべての政党を一つにしようとしたのに対し、連立は複数の政党が存在することを前提としている。全然違う。
大連立になると、選択肢がなくなるという批判もなされた。大連立に参加しない政党もあるし、次の選挙では両党も争うことになる。また、大連立は小選挙区制度とはなじまないとの批判があったが、本場の英国でも第1次大戦、大恐慌、第2次大戦と3度にわたって大連立を経験している。むしろ、非常時には大連立が常識である。
大連立については「みんなで渡れば怖くない」だとやゆされた。しかし現状は「みんな怖くて渡れない」のである。社会保障の圧縮・効率化を進めるにあたり、それでは困る。
二大政党のいずれが野党になるにせよ、選挙後、重要政策推進のために政府の政策に協力してほしい。そしてできれば大連立に進んでほしい。それができずに、政治がまた停滞することになれば、日本の信用はさらに傷つく。それのみならず、次の参議院選挙では維新が躍進して、自民、民主のどちらかに取って代わる可能性がある。それはそれでよいかもしれないが、維新の外交安保政策には、特に太陽の党との合同以後、不安がある。二大政党にとって、踏ん張り時である。
きたおか・しんいち 48年生まれ。東京大法卒。専門は日本政治外交史
[日経新聞11月26日朝刊P.19]
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